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館最上階、一番奥の扉を開くと豪華な椅子に座った小柄な女が一人。
そしてその隣に、髪をオールバックにした長身イケメンが一人、飲み物の入ったグラスを持って窓の外を見ながら佇んでいた。
「テメェがファシミかァ?」
開口一番、三下さんがそう言った。
ゆっくりと俺たちの方を振り返って、その女は言葉を返す。
「それがどうかしたの?」
「なんだァ……随分と余裕だなァ? テメェら」
本陣に入られた、この時点でもっと慌てふためいてもいいはずだ。
まさか俺たちが三人で来るってわかった上での返答なのか。
そう考えていたが、隣にいる男がプレイヤーなので、個別連絡可能だったな。
「こっちは三人です、おとなしく傘下に下ることですね」
コーサーが前に出て、一応直接交渉に出る。
だが返答は独裁女ではなく、隣にいた長身の男からだった。
「三人? たった三人くらいどうとでもなるだろ?」
そして身体強化系のスキルをどんどんその身に施して行く。
なるほど、トモガラとおんなじ様なタイプなのか。
だが、身体強化系の中でも、ハードスキンの様なガツントがもっていた防御よりのスキルまでかけるところを見ると、バリバリの力押しではないと言うことが垣間見えた。
「もともと、館に襲撃できる人数程度なら、俺一人で十分なんだぜ──」
大跳躍とともに、天井を蹴り一番前にいた三下さんの脳天に殴りかかる。
「テメェッ! ──カウンタァッ!」
「不意を衝くこの技に合わせるなんて、やるじゃん! だが……」
上からの攻撃を、見事に弾かれ、再び中に舞うナガセは、そんなことを言いながら再びスキルを使う。
「ヘビースキン。んで、ボディプレス」
「うがッ!」
三下さんも無防備に落ちて来るナガセ目掛けて、左手に携えた片手剣で突き刺そうとしたのだが、どう言う訳か腕で片手剣をへし折られ、そのままナガセの全身で押しつぶされた。
床が大きく凹むほどの衝撃が撒き散らされる。
カウンターは決まったはず、空中で怯んでしまえばあとは三下さんの得意分野な訳だが、いったいどういうことだ。
「ぐっ……ぐはっ!」
押しつぶされた三下さんはアイテムボックスから回復ポーションを取り出すが、そのまま跳躍の踏み台にされてしまう。
「まだ死なないのか、いい装備身につけてんな」
「くそっ……なんで怯まねェんだよ……」
「俺がタフネス持ってるからだな」
そう言ってナガセは飛び上がり空中で前転。
勢いをつけながらフライングエルボードロップを繰り出す。
「コ、コンシリエーレ!」
「そうだな」
三下さんのカウンターが通用しないとなると、彼は負けが確定したようなものなので、六尺棒を片手に割り込んだ。
そしてアポートでストレージに保管していた上級ポーションを手元に引き寄せると、三下さんに投げつける。
ガラスの割れた音ともに、三下さんのHPが回復。
少々手荒だが、状況は差し迫っていたし仕方がないだろう。
「ちっ!」
舌打ちするナガセは身を翻して俺の六尺棒を躱す。
「俺が相手だ」
「……てめぇが、ローレントか」
「そうだ」
「魔法職だが、でたらめな強さだって話だが……所詮魔法職だろ!」
ナガセはそう言いながら、前傾姿勢をとると真っ向から突っ込んできた。
ヘビースキン、その名から分かる通り、ハードスキンの上位スキルだろうか。
三下さんの被害状況を見るに、かなりの質量を持った攻撃と硬さを誇るようだ。
挑発には真っ向から相手取りたいところだが、それは少しばかりまずい。
そして打撃に対して大きく耐久を持っていることを念頭におくと、刀に持ち替えておく必要がある。
「マナバースト」
「ぐっ」
驚いた、強制的にはじき返し、そして転移抜刀の居合斬りで蹴りをつける気だったのだが、ナガセはマナバーストの強制ぶっ飛ばし効果にも耐えきっていた。
「無駄だって言ってるだろ! チャージ!」
「うおっ!」
スキルによる超加速。
俺の持っているスティングのような強制力で、3メートルの距離を詰めて突進して来るナガセ。
「コンシリエーレエエエエ!!」
「ローレントォッ!!」
スキルの効果か知らんが、チャージは弾かれるというより、ナガセの体に吸い付くようにして行動を奪われ、そして壁を突き破って隣の部屋までぶちかまされた。
「ぐっ……」
「まだ生きてんのか……まじでいい装備してんな……って、ん?」
HPが一気にレッドゾーンに入る。
そして何故か、体が動かせない。
瓦礫が身体を固定していたからだった。
怯みの状態異常も発生している今、このピンチをどう脱出す──、
ガラガラガラ!!
「勝手に死んだか? まあ生きてても圧死だろ、一生埋もれてろ」
そう言って踵を返すナガセの足音がする。
運が悪いな、上から降って来る瓦礫に埋め尽くされてしまった。
「……ふぅ、タフネスとっといてよかったぜ。やっぱりあれだな、こういう隙を突いて来る手合いには滅法強いことが証明されたぜ」
「何よ、早かったわね……もっと苦戦すると思ってた」
「大丈夫だ。俺はファシミを守るって決めたんだからな」
「ふふ、ありがとう」
……くそったれ。
久しぶりに痛い思いをしたと思ったら、建材が肩や背中に刺さっていた。
血を流したのは魔人の時以来だな。
チャージをかまされた瞬間、迎撃困難だと思ったので投げ技を行おうと思ったのだが、吸い付くなんて聞いてない。
本質は、壁にぶつけてダメージを与える技なのだろうか。
っていうか長身で筋肉質だが、俺やトモガラと変わらんくらいの体つきのくせにやってることはプロレスラーってどういうことだ。
そういうロールプレイなのか、だったら雑魚PK達が武器を持たない拳にこだわったのがよく分かる。
「……ナガセさんっ! 大丈夫っスか!?」
「……館の方ですっげぇ音がしたから戻ってきたんスけど!」
声が聞こえる。
どうやら館の外に出ていたナガセの側近のようなプレイヤー達が全員戻ってきたみたいだった。
確かあのバーにたむろしていたやつが数人の幹部がいるって言ってたな。
「おう、なんてことはない。雑魚だ雑魚」
「チッ……面倒なことに敵が増えやがったか……」
残された三下さんは、身構えながら距離を測る。
コーサーは俺が一撃でやられたことにショックを受けているようだった。
「おいコーサー、俺はこのナガセって野郎とは相性が悪い。だから適当に雑魚ぶっ殺してる間だけ、なんとか間を持たせることはできるか?」
「……コ、コンシリエーレ……」
「おいィッ! 聞いてんのかって言ってんだよ!」
三下さんのその叫びと共に、コーサーが剣を抜いてナガセに斬りかかっていく。
「よくも!! コンシリエーレを!!!!」
「……って、気合十分じゃねェかよ。やればできんじゃねェか。……まあこの場合、ピンチってことにはかわんねェけどなァ」
「……ああん? 誰が雑魚だって?」
「そこらへんのPKと比べてくれんじゃねぇぞ、おら」
隙間から見てる限り、状況は悪いな。
ローヴォがコーサーと共にナガセの相手をしているが、コーサーとの連携が取りきれていない。
というか、コーサー……烈火のような勢いで攻めているが……空回りしている。
実力の差がありすぎるのだろうか。
そんなことより、やばい、どうにかして抜け出さないといけないのに!
死ななかっただけでもありがたいのだが、圧迫されて、ガリガリHPを削られている。
マナバーストは?
クールタイムまだ終わってない。
……虎の子のテレポートをしたいのだが、まだ怯んでる。
お、終わったか?
完全に油断したとか舐めプとかそんなんじゃなくて、敗因は速攻をかけられた際の対処不足だな。
マナバースト……完全に過信していた俺が悪い。
そして、ヒットポイントはゼロとなった。
が。
ローレント「今回は舐めプしてない」
ツクヨイ「が。ってなんですか?」
セレク「ただの伏線回収よ?」
三下「俺を噛ませにしてんじゃねェ」
がっ。
そうです、ただのぬるぽです。