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土曜スペシャルツー
寝て起きてログインしたら後四時間程で夜明けの時間。
今日の時間軸は日曜日だから。
月曜日は夜が長いのか?
もうちょっと上手い具合に改善しろよな。
さて、流石にスティーブンも寝てる時間帯だと思われる。
ローヴォは起きだしてのそのそと歩いてくる。
行動自体は俺と同じなのかな。
「がう」
ひと撫でするとカンテラに灯りをともして外に出よう。
そう言えば夜中の町ってあんまり出歩いたことがなかった。
大体フィールドだしな。
夜中でも公園は人がいる。
この廃人共めが!
人に言えたことじゃないけどね。
俺も。
さて、どこへ向かう?
東の川から南下しようかと。
幾つかの支流から山に繋がってそのままゴブリンのシークレットエリアに繋がっているんだろうな。
それを川沿いにずっと辿って行けば、なんかあるかもしれん。
ってことで東の門から出ると、南東に向かって進んで行く。
流れは北に向かってる、南が上流みたいだ。
川幅は変わらない。
そのまま藪の中へ。
背が高い夜の藪にはこんな敵が居た。
【ジャイアントホッパー】Lv7
昼夜問わず活動する。
後ろ足の蹴りには注意が必要。
鶏ほどの巨大なバッタ。
後脚のトゲが凄い。
それ以外の感想は?
単純にバッタが大きくなりましたって感じ。
それ以上の表現が無い。
あまり言いたくもないし。
どうしたかって?
飛んで来たのを六尺棒で叩き落としてあっさり踏み殺した。
ジャイアントと書かれていても、虫の中では大きい程度。
何ら道中に問題はない。
【飛蝗の触覚】
錬金術に用いられる。
【飛蝗の翅】
飛蝗の成虫の羽。
軽くて丈夫。
そこそこの柔軟性を持つ。
飛蝗の翅を月夜にすかしてみる。
なかなかの透明度で柔軟性もあるようだ。
ぐーっと曲げてみた、二つ折りくらいになった所でポッキリ二つに割れてしまった。
勿体無いが、所詮虫レベルの強度と言った所。
丈夫では無いんじゃない?
夜の茂みは前が見えない。
ローヴォの索敵を頼りに進んで行く。
一応獣道のような場所を進んで行く。
すると、背が低い一帯へ出た。
沼だった。
マップを確認するが、この沼に名称なんて書いてない。
テンバータウンが第一の町と呼ばれている件に関して。
全面的にこのマップの仕様が悪いと思う。
背丈くらいの藪が腰丈くらいになったので。
見晴らしが良くなった。
ブブブと羽音が耳を霞める。
月の光を怪しく反射するトンボが居た。
【ギンヤンマ】Lv4
月夜の水辺に姿を表す魔物。
羽音が唸り声の様に聞こえるので、水目に現れる謎の魔物として恐れられている。
【ヨイイブシ】Lv8
月夜の水辺に姿を表す魔物。
紫色の模様が身体を月夜に溶かす。
鶏サイズの飛蝗もそうだけど。
虫の機動力でサイズがデカいって脅威だよね。
例によって、ヨイイブシも飛蝗と同じ位大きい。
そしてギンヤンマは、もっと大きかった。
フォルムがメタリックなのが悔しい程カッコイイ。
ヨイイブシを複数連れ添っているのを見ると、クラスチェンジ先っぽい。
何気にレベルもそこそこ高いので、詠唱をセットしておく。
「ブースト!」
得物は?
何となく歩き辛そうだったので六尺棒。
あとは腰にレイピアをさげていたが、ヌンチャクに変えておこう。
トンボの魔物は飛蝗よりも素早そうだ。
「ローヴォ、奇襲に備えて」
「がうっ」
俺達、通じ合ってます。
茂みの中に潜ませる。
いつでも迎撃できるようにヌンチャクを軽く回しておく。
トンボって確か昆虫界最速だったよな?
急旋回、急停止に長けていると聞く。
いつのまにか囲まれてました。
ホバリングする羽音が響く。
小刻みに前後してくるので、迂闊に攻撃しかけれない。
厄介です。ええ。
均衡を壊したのは?
ローヴォです。
ナイス!
茂みの中から飛び上がって一体のヨイイブシに食らい付いた。
反射的に退いたヨイイブシにヌンチャクを投げる。
当たらないのは織り込み済み。
すぐに六尺棒でヌンチャクを絡めて避けた先に振るう。
上手く命中した。
一体のヨイイブシの翅を捥いだローヴォ。
一先ず放置して、墜落したヨイイブシに飛びかかる。
「フィジカルベール! メディテーション・ナート! エンチャント・ナート!」
そしてもう一つ詠唱。
攻撃魔法、何と【エナジーボール】です。
詠唱しながらギンヤンマへと迫る。
横腹にヨイイブシの突進が襲う。
早過ぎ。
突撃してから掴む暇もなく後退するヨイイブシ。
そして目の前にはギンヤンマが牙を向く。
ちょ、早。
モロ顔面に受けました。
ボクサーに顔面ストレートを受けた以上の衝撃が。
一瞬意識が飛びかけた。
詠唱もキャンセルされた。
ヌンチャクを【アポート】で引き寄せると腰に。
六尺棒は両手で扱おう。
大きく回転させて盾代わり、牽制しておく。
HPは?
顔面直撃だったので四割減。
【フィジカルベール】かかってるのに。
両手が塞がっているのでポーションが出せない。
こういう時こそストレージからの呼びよせなのだが……。
迂闊だった。
◇ストレージ
[貸し倉庫]
セットアイテム↓
※残りスロット数:10
資材運ぶ時に空にして、そのままだった。
至極残念なり。
目の前で悠長にホバリングしてるトンボがムカつく。
視界の端でローヴォの様子を確認する。
うむ、茂みに潜んでいるな。
多分奇襲のタイミングを計っているんだろう。
前後に距離を測りながらのホバリングが厄介だな。
制空権はモロ向こう。
残りギンヤンマ一体とヨイイブシ二体なのに。
単純に突進をあと二回受けるとやられるので。
迂闊に攻めきれない。
焦れたローヴォがヨイイブシに飛びかかった。
キュっと宙返りして避けられる。
十分過ぎる働きです。
六尺棒で叩き落とす。
「ローヴォ!」
奇襲ではなく俺の援護に回らせる。
ギンヤンマの突撃だけは牽制してほしい。
六尺棒を手の中で滑らせて素早く後ろを払う。
ギンヤンマは来てない。
ナイスローヴォ!
今度サンドイッチたらふく食わしてやる!
流石にローヴォのレベル的に。
ギンヤンマの相手は厳しい。
唸って牽制するローヴォと位置を変える。
これで二対二だ。
ギンヤンマの攻撃がメタリックな身体を活かした突進だけなので得物を変えましょう。
ヌンチャクからレイピアです。
六尺棒で距離を測りながらレイピアを抜いて構える。
「は!」
ギンヤンマが突進するタイミング。
俺もレイピアで刺突。
フェイントでした。
僅かに、距離が足りなかった。
「スティング!」
スキル発動。
伸びきった身体が強制的にさらに前へ。
流石に油断してたのか、顔の中心から胸、腹の部分にまで。
レイピアが突き刺さった。
トンボソードみたいになってるよ。
フォルムがメタリックだし。
ローヴォは?
奇襲以外では中々攻撃が当たらないみたいで。
加勢して撃ち落として倒しました。
【月夜蜻蛉の翅】
かなり薄くしなやか。
【銀蜻蛉の翅】
銀で覆われている。
薄く丈夫でしなやか。
特殊加工で銀が取れる。
【銀インゴット】
銀を精錬したもの。
魔力伝導を増幅する力を持つ鉱石。
ふぁっ?
銀?
説明を読む限り、魔力が上がるんですか?
……わからん。
今度ガストンの所へ持って行くことにしよう。
素材アイテムくそフィールドかと思ったが。
意外なことに実入りは大きいと見た。
MPが許す限り沼での狩りを行う。
良いかねローヴォ!
「がう!」
うむ、いい返事だ。
それじゃ行ってみよう。
【ヨイイブシ】Lv7
月夜の水辺に姿を表す魔物。
紫色の模様が身体を月夜に溶かす。
【ヨイイブシ】Lv7
月夜の水辺に姿を表す魔物。
紫色の模様が身体を月夜に溶かす。
【ヨイイブシ】Lv8
月夜の水辺に姿を表す魔物。
紫色の模様が身体を月夜に溶かす。
【ヨイイブシ】Lv6
月夜の水辺に姿を表す魔物。
紫色の模様が身体を月夜に溶かす。
ぐるっと沼の周りと回っているとトンボ集団が飛来。
ギンヤンマはいない。チッ。
ギンヤンマが引き連れる集団と違って。
動きに統率が無かった。
フェイントも全くなかったので、
突撃してくるトンボをヌンチャクを振り回して叩き落として終了した。
ドロップは?
相変わらず翅のみ。
他に使える所は無いのかと。
と思ったら最後に解体した奴からこんなんでた。
【月夜蜻蛉の複眼】
錬金術に用いられる。
俺は何ともないが、女性陣に見せたら。
悲鳴が起こるだろう。
ってか錬金素材多し。
俺も錬金取ろうかなと一瞬思ったが。
ツクヨイの仕事を奪ってしまう気がするので辞めとこう。
再びヨイイブシが現れるまで、沼の外周をグルグル。
すると、手前の草が一直線に切られて行く。
スパスパと。
新手のモンスターか?
と思ったが、人でした。
「うわっ、プレイヤーだ!」
失礼な。
ローヴォと共に切られた草薮から顔をのぞかせると。
三人のパーティが驚いているのが見えた。
「ほら、エアリル、やたらめったら魔法連発するなって……、下手したらプレイヤーキラーになる所だぞ」
「だって草がウザいんだもん! 虫ばっかりだし、草刈りついでに虫も狩ってるのよ!」
「本当に申し訳ない」
丁寧にお辞儀して謝る男性プレイヤー。
謝ってくれているのであればこちらとしても声を荒げる必要は無い。
ただ、気になったのは。
あれは一体何の魔法なんだろうか?
「いえいえ、ちなみに何の魔法なんですか?」
「ウィンドカッターよ、風属性の派生魔法スキルね」
エアリルという女性プレイヤーは教えてくれた。
風属性は、斬撃属性も併せ持っているらしい。
硬い鎧には歯が立たないが、その分魔法の速度と範囲に長けているんだとか。
鎧なんて身体の全てを覆ってるわけないから、使い方次第じゃかなり使い勝手が良い魔法スキルだと言える。
「この藪、面倒だから。草刈りして進んでるのよ」
「はあ」
ほんと、俺が後数歩先に歩いていたら。
斬撃の餌食になっていたんじゃないか?
流石にまっ二つにはならないけど。
相応のダメージは受けそうな気がした。
「そっちこそ、一人で何やってるのよ?」
「ソロですか?」
「そんなところです」
一人と一匹だから、厳密にはソロではない。
テイムモンスターはもちろん数に含めますよ。
経験値も等分されるわけだし。
ローヴォが草むらから顔を出す。
「お、狼!?」
「でも、首輪着いてる?」
「あ、私のテイムモンスターなもので」
「えええ、いいなぁ……、触っても良い?」
返事よりも先にローヴォをもふもふしだすエアリル。
気持ち良さそうに目を細めるローヴォ。
駄犬モードだ。
好きにせい。
「あ、自己紹介を忘れていました。ブラウです」
「……アルジャーノ」
人当たりが良さそうなのがブラウ。
革鎧という軽装に剣を挿している。
ひと呼吸おいて無愛想に自己紹介したのは、ローブを身に纏った女の子。
さっきから一言も口を開くことが無かったのだが。
アルジャーノって名前なの。
ご、ゴツい。
名前負けというか名前勝ちというか。
「他にもあと二人、弓を使う人と盾を使う人が仲間に居るんですが、今日は都合が合わなかったので三人で散策している所でした」
【ブラウ】職業:剣士Lv10
・拳闘門下生
【エアリル】職業:風属性魔法使いLv11
・見習い宝石研磨師
【アルジャーノ】職業:光属性魔法使いLv10
・見習い司書
全員が生産スキルを取得している様だった。
ブラウだけ、なんだか違うスキルの様だが……?
これは一体どういうこと?
そしてエアリルが宝石研磨師だと言う事実。
これは、長らくアイテムボックスに残っている翡翠を装備にしてくれそうな予感がしたが……、流石に開口一番頼むのはマナー違反というか。
図々しいだろう。
イシマルも伝手を当たってみると言っていたようで。
職業絡みで関わることがあれば頼んでみたいな。
「私はトンボ狩りです」
「トンボ狩り?」
ローヴォに夢中になっているエアリルは放っといて。
パーティを代表してブラウが受け答えしてくれる。
「ここの沼の近くには、トンボのモンスターがいて、結構経験値稼ぎになるので」
「おお、もしかしたら穴場って奴ですか?」
「初めてきたのでわかりません」
南東の藪へやって来ているプレイヤーはいないことは無いと思うけど。
この時間帯だと人が少なくて狩りやすい。
ポップするモンスターの取り合いになんてならないからね。
「掲示板でもドロップメインで狩場考察されてる見たいですし、人気なのは食材が手に入る北と南の森と、西の草原ですね。最近だと東の川にも人がちょくちょく集まってるみたいですが、色々と問題が多そうなので私達は敬遠しています」
「そうなんですね」
問題ごとって……。
掲示板か。
何やらレイラの生産チームが狩場を独占しているだとか。
俺が卑怯な真似をしているだとか。
根も葉もない噂が立ちまくっているよう。
「……ローレント。東のエリアクエストを発見した人?」
「ああ、自己紹介遅れました。ローレントです」
もしかして鑑定されてたっぽい?
アルジャーノがボソッと呟いて、ブラウが少し驚いた声を上げていた。
プレイヤーネーム:ローレント
職業:無属性魔法使いLv15
信用度:80
残存スキルポイント:0
生産スキルポイント:4
◇スキルツリー
【スラッシュ】※変化無し
【スティング】※変化無し
【ブースト(最適化・補正Lv2)】※変化無し
【息吹(最適化)】※変化無し
【エナジーボール】※変化無し
【フィジカルベール】※変化無し
【メディテーション・ナート】※変化無し
【エンチャント・ナート】※変化無し
【アポート】※変化無し
【投擲】※変化無し
【掴み】※変化無し
【調教】※変化無し
【鑑定】※変化無し
◇生産スキルツリー
【漁師】※変化無し
【採取】※変化無し
【工作】※変化無し
【解体】※変化無し
◇装備アイテム
武器
【大剣・羆刀】
【鋭い黒鉄のレイピア】
【魔樫の六尺棒】
【黒鉄の双手棍】
装備
【革レザーシャツ】
【革レザーパンツ】
【河津の漁師合羽】
【軽兎フロッギーローブ】
【軽兎フロッギーブーツ】
【黒帯(二段)】
◇称号
【とある魔法使いの弟子】
【道場二段】
◇ストレージ
[貸し倉庫]
セットアイテム↓
※残りスロット数:10
◇テイムモンスター
テイムネーム:ローヴォ
【グレイウルフ】灰色狼:Lv2
人なつこい犬種の狼。
魔物にしては珍しく、人と同じ物を食べ、同じ様な生活を営む。
群れというより社会に溶け込む能力を持っている。狩りが得意。
[噛みつき][引っ掻き][追跡]
[誘導][夜目][嗅覚][索敵]
[持久力][強襲]
※躾けるには【調教】スキルが必要。
ーーー
次回、他属性魔法使いのスキルとか。




