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「さて、コーサー、三下さん」
「ん?」
「なんですかコンシリエーレ?」
仕入れた情報をコーサーが持ってきたアナログの地図に書き込みながら、現在地点をミニマップと照合し敵の位置を掴んでいく。
「プレイヤーっていいのですね、絶対に迷わないでしょうし」
「……そうか?」
最初頃はミニマップの見方すらわからなかったから、対して使ってなかった気がする。
それでも森や山の歩き方は慣れていたし、ローヴォも案内役としていてくれたから必要なかった。
「グォン」
最近ローヴォがちょくちょく会話に入ってきてくれる。
寂しかったのだろう、テイムクリスタルに入るのも嫌がるしな。
素で嫌いなルビーとは違って、聞き分けのいいローヴォが嫌がるなんて、正直すまないと思っているんだが、いてくれるだけで心強いのだ。
話が逸れた、ローヴォをひと撫でしつつ話を進める。
「このルートを通れば……見ろ、うまい具合にサーチアンドデストロイできる」
「……最短突破もいいと思うのですがコンシリエーレ」
「ダメだ。どれほど強くなったのか見ておく、俺が預けたのもあるが、そろそろトンスキオーネとともにマフィアの運営に携われ」
心が脆いから、アンジェリックのところへ出した俺がいうのもなんだが、適材適所を間違えたかもしれないな。
コーサーは厚顔無恥ができるようなやつではない。
できるやつが裏の世界では驚異的な速さでのし上がっていける。
「……トンスキオーネさんみたいに非情にはなりきれませんよ……」
厳しく言いつけると、思わずそんな本音がコーサーの口から出てきた。
「誰も非情になれとは言ってない」
「いや、言ってますよ」
「うーん、あれでいて、トンスキオーネは部下に手厚い福利厚生を与えるのは知ってるか?」
「福利厚生……一体なんですかそれ?」
わからんか。
まあ前線に立ってないから仕方ないとも言える。
「トンスキオーネのところに努めるマフィアたちは、裏も表も揃って衣食住完備の上に、トンスキオーネ商会の利用に関しては七割引されたり、その他怪我を折った時の教会代負担とか、復帰が厳しくなった奴やその家族には手厚い退職金やら年金諸々完備だぞ」
「マジかよォ」
これには三下さんが驚いていた。
おそらく、ゲームの世界なのにそこまでリアルに構築しちゃってすげぇって思ってるのだろう。
「ゲームの世界でそこまでやるゥ?」
ほらな。
「もともとニシトモの案で、商会を大企業と呼べる位置にしたいそうだ。その折に、働くNPCを大切にする働きかけてをしているとかなんとか。俺も詳しい話は知らないが、トンスキオーネとニシトモはそんなやり方をしている」
っていうかNPCも日々の生活があるんだなって、俺も初めてそこで知らされた。
ほら、アウトローとかただの敵ポップだと思ってたんだよね。
色々と調べていくうちに、狩れば狩るほど減っていくことに気づいた。
減っちゃ狩場無くなっちゃうって思ったんだが、聞くところによると、アウトローどもはどっからともなく放浪してスラムや裏社会に流入してくるらしい。
不思議。
まあメカニズムとか、ぶっちゃけどうでもいい。
そうして時間経過とともに数が補充されるらしいから。
「で、コーサー」
「はい」
コーサーはいつのまにか正座していた。
……アンジェリックに仕込まれたのか?
「なんで正座してんの」
「あ、いえ、姐さんが説教するときよくこうして座らせられてたので、染み付いてて」
「哀れすぎィ……思わず擁護したくなっちまったぜェ……」
三下さんが涙をこらえていた。
「ぜひ擁護して欲しいところなんですが……」
「でもやっぱやめとくわ。俺の管轄じゃないし、どうでもいい」
「酷い! やっぱりコンシリエーレの知り合いは酷い人達ばっかりだ! 鬼畜! 鬼!」
……コーサー、しつけられてその内面が犬に近くなっているな。
アンジェリック、もしかして雑用とか結構押し付けてたりしたんじゃないか?
そんな不安が過ぎった。
さて、話を戻す。
「トンスキオーネは根本を作り変える予定だ。力での支配から金での支配にな」
「私にはあんまりピンときませんね。何しろアウトロー出身のものですから」
「まあ、それはいい。誰だってスタートは赤ちゃんからだし」
「ついに赤子扱いですかコンシリエーレ……とほほ」
「………………いいかよく聞け」
ごちゃごちゃうるさいので殺気を込めて言葉を紡ぐと、コーサーはビクッと背筋を伸ばした。
「トンスキオーネも戦えないこともないが、他と比べるとそのリソースは全て頭に振ってる状態だ」
「それと贅肉なだなァ!」
脂肪を蓄積してるのは常に考える栄養素を溜め込んでるってことで俺は勝手に納得している。
余計な贅肉は削り落とせば逃げるときに有利なのに、奴は食うことをやめない。
「コーサーいいか? お前が下を引っ張れ。面倒なことは全てトンに任せて、圧倒的な力と存在感を持って下をまとめろと、俺は言ってる」
「……私にできますかね。と、言うよりも何をすればいいんですか?」
「誰よりも最初に敵陣に突っ込んで、勝利を導く」
「死ぬじゃないですか!」
「大丈夫だ、俺と契約してる限りお前は不死身。デスペナルティで動きが鈍くなることがあるが、別にそうなったらそうなったでしつこく生き返って食らいついて最後は食い殺せばいい」
「ひえええ……」
「ってことで、少しばっかり俺と実践稽古するか、このままサーチアンドデストロイをして敵マフィア相手に稽古するか選べ」
選択肢は二つに一つ……ではない。
特別に俺と戦って、そっからマフィアと戦ってもいい。
俺と戦って、マフィアと戦って、おかわりで俺と戦うのもあり。
もしくは俺と戦って、マフィアと戦って、俺と戦って、ボスと戦って、俺と戦うのもあり。
「デッドオアデッドじゃねェか! ぷくくく、俺としては潔く首をつるに一票ォ!」
「わ、わかりました! マフィアと戦って戦って戦ってコンシリエーレは黙って見ててください! ああもう、どっちに転んでも地獄だなんて、アウトローやってた頃の方がまだ平和だったああああああ!!!」
コーサーの叫びは地下水道に響き渡り、そして女マフィアとPKの集団を呼び寄せることになった。
哀れ、コーサー。
昨日は更新できずに申し訳ありませんでした。
月末近くなるんでしゃーないっちゃーしゃーないってこともありますが、引き続き更新頑張ります。
あ、あとGSOとはまだ全く違う雰囲気の二作目でます。
それのことでも色々と忙しかったってのも一つ、七月ごろはありました。
7月半ばから8月半ばまで1日二回更新頑張ったんで許してください。
お願いしますorz
ふ、ふふふ、フリじゃないですよ????