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「ローレント」
「ん?」
装備の点検やら何やらしていると、後ろから声がかかった。
色々と荷物を抱えた女性プレイヤー。
第一拠点で呉服屋を構えて居た縫製職人のセレク。
俺の装備を全て作ってくれている人。
「セレクか、久しぶりだな」
「うん、まぁね……あなたが顔を出さないからこっちから来たのよ」
「すまんな」
セレクは倉庫の片隅で作業している俺の隣の小箱にちょこんと腰掛ける。
「あのねローレント」
「ん?」
「そろそろ装備も新調した方がいいと思わない?」
「……思う」
一瞬迷ったが、軍服もいいが魔人相手にボロボロになるレベルでもあるしな。
セレクほどの縫製師が言うのなら、やっておこうかね。
「ふふ、そうだ。水筒に紅茶入れて来たんだけど、飲む?」
「茶菓子はある?」
「もちろん、クッキーの瓶は常に持参よ」
「なら食べる」
セレクは適当な箱をそこらへんから取って来ると、小洒落た布を敷いてティーカップとクッキーを並べていく。
「……なんだか懐かしいな(わね)」
セリフが被ってしまった。
無理やりセレクの間借りする呉服屋に呼ばれて居た頃がすごく懐かしく感じた。
「ローレントってば、なんだか一人で先に進んじゃって無い? 前はみんなで頑張ってたのに」
「そうか……?」
右も左もわからなかったし、それもさもありなんってところかな。
リアルにより近いゲーム性を追求っていうGSOの放り投げ運営スタイルがなかったら根をあげていたかもしれん。
対人専用のゲームなんかはちょっと物足りなくなるだろうし、人智を超えた不確定要素が目白押しっぽいこのゲームはやはり楽しい。
「離れて居ても仲間だと俺は思ってるけど」
それに友達もできた。
「そうね、と、友達ね」
腑に落ちないような声色。
何が不満なんだろうか。
「仇は取る。誰に手を出したか、身を以て味あわせてやろうじゃないか」
「でもあんまり危険なことは……ってゲームの世界で言っても意味ないか。とにかく、縫製師である私にできることは、あなたが死なない装備を作ることだから、任せてちょうだい」
そう言いながらセレクは床に風呂敷を広げ、畳まれた衣類を並べていく。
その中にはこんなものまであった。
「六尺棒?」
「あなた、結局素材を収集したはいいけど、生産職のレベルが追いつかずに第一生産組に流したアイテムがあったわよね? 確か魔戒樹の丸太とか言われるレア品なんだけど、あなたの六尺棒とおんなじサイズのもので予備品合わせて10本ほどのものが作られ、そしてちょうどいいタイミングで私が届けることになったの」
「ああ、そういえばそんなのあったな」
魔戒樹の丸太というのを魔銀の首環をゲットした時に手に入れていた。
ペンファルシオファミリーを叩き潰した時に時計塔の宝物庫みたいなところで手に入れたアイテムだ。
空いてる時間で六尺棒を作ろうとしたのだが、結局四分の一くらい素材を使用してもできなくて、困窮した俺は適当に木工的なスキルレベルを中級上位クラスまで上げている奴がいないか頼んでおいたんだった。
第一生産組に。
彼らのコネクションはかなり広いからな、俺なんかよりも数十倍位以上だ。
早速鑑定する。
【戒人の六尺棒】製作者:ブランチ
賢人の木と呼ばれる魔戒樹で作られたただの六尺棒。
魔力との親和性が高く、そして増幅する効果を持つ。
魔力を込めると粘りと強度も増す。賢人の杖ではない。
・攻撃???
・魔力増幅
・耐久Lv???
・耐久1000/1000
うむ……?
あんまり強さが実感できないんだが……?
と、思って持ってみると普通に魔樫よりも攻撃力が上がっていた。
魔力増幅というものが効いているのかもしれない。
「名前的にもぴったりね……とにかく近接魔法職であるあなたにはぴったりよ」
「近接魔法職?」
「あら? 効いたことない? 魔法スキルとって無理やり近接で戦う人たちよ?」
話を聞いてみると、どうやら俺や十八豪のフォロワーみたいなものらしい。
他は回避魔法職と呼ばれ、光属性を取って二次職から協会でもらえるスキル祈りや杖を用いて相手の攻撃を避けながら攻撃とヘイト管理のサポートとともに、近接職を押し上げる役目。
みたいなスタイルが構築されつつあるらしい。
なんじゃそりゃぁー!
「まあいいや。それより戒人か……PK相手に補正があるといいんだけどな。戒めって字が書かれてるんだから」
「それはこの後の制作次第かも。丸太の四分の三を全て使っても成功が十本分しかないんだから。製作者のブランチは一番スキルが高くて丁寧に作ってくれるガストン、ミツバシつながりの職人よ?」
「聞いたことない名前だな」
「あんまり人前に出たがらないプレイヤーらしいからね、それは」
ゲームなのに?
と、聞こうとして。
そう言えば俺も視線が面倒だからとフードを常に被っていたことがあるので、下手に目立って面倒になるよりはよし。
ゲームの世界は開放的だ。
割り切って人に迷惑をかけるやつが多いからな。
「さてと、次は装備を見せてもらおう」
そろそろ時間が迫っているので話を進める。
「今回、戦闘用の装備をいくつか種類分けして持ってきたの」
と、並べられた装備を説明してくれるセレクである。
「まず、オーソドックスな戦闘服。あなたが以前狩ってきたサイクロプスはまだ扱えないから、コンバットエイプの上位種であるレギオンコングの素材を使ったものよ。基本的な耐久性は上位互換ね」
【軍服(下)】製作者:セレク
強靭で柔軟な軍猿の革を使った服。
軽くは無いが、衝撃を吸収し防刃性にも優れる。
熱家守と川蛙の革も要所に施されている。
・衝撃吸収Lv10
・防御Lv30
・耐熱Lv10
・防水Lv10
・防刃Lv20
・耐久Lv30
・耐久100/100
【軍服(上)】製作者:セレク
強靭で柔軟な軍猿の革を使った服。
軽くは無いが、衝撃を吸収し防刃性にも優れる。
熱家守と川蛙の革も要所に施されている。
・衝撃吸収Lv10
・防御Lv30
・耐熱Lv10
・防水Lv10
・防刃Lv20
・耐久Lv30
・耐久100/100
【軍帽】製作者:セレク
強靭で柔軟な軍猿の革を使った帽子。
軽くは無いが、衝撃を吸収し防刃性にも優れる。
熱家守と川蛙の革も要所に施されている。
・衝撃吸収Lv10
・防御Lv10
・耐熱Lv10
・防水Lv10
・防刃Lv10
・耐久Lv10
・耐久100/100
【軍靴】製作者:セレク
甲部分に鉄ではなく魔甲虫の甲殻を仕込んだ靴。
強靭で柔軟な軍猿の革を使用している。
軽くは無いが、衝撃を吸収し防刃性にも優れる。
熱家守と川蛙の革も要所に施されている。
・衝撃吸収Lv10
・防御Lv10
・耐熱Lv10
・防水Lv10
・防刃Lv10
・耐久Lv10
・耐久100/100
「全部二桁か……強いな」
「そうね。布地でこれだけの性能を出せるのは私しかいないわよ?」
戦闘服の時も旧日本軍の軍服見たいな形に収まっていたが、今回もなかなかどうして俺好みするデザインである。
性能と動きやすさを重視しながらも、デザイン性も揺るがない。
「さすが、それでこそ俺の認めるセレクだ」
「え、認めるって……もう何言ってんのよ!!」
「え、いや……は?」
「んっ、ごほんごほんっ、今回のデザインは軍服を継承して黒を基調としたナ○スド○ツの物よ。完全に私の趣味だけど、見てちょうだいこの左胸の部分」
「なんだ?」
何も書いてない。
「あ、まず身につけてもらえる?」
「わかった」
そして身につけると、俺の左胸のポケットのあたりに大小の飾りが四つ。
こ、これは一体?
「持っている称号の数が表されれる仕組みなんだけど……合計称号12個って幾ら何でも多すぎるでしょ!」
久しぶりのセレク!
最近快調です!
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