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「キマチさぁん……」


 プレイヤーキラーの人がすがるような目を向ける。

 カリスマ然としたキマチとやらは、堂々と胸を張ってご来店。

 そして戦う格好とは思えないようなジャケットを脱いでシャツ姿になると、髪をかきあげて首の骨をコキコキと鳴らした。


「舎弟達が随分とお世話になったようだな」


 そう言いながら葉巻に火をつける。

 殴りかかって来るパターンかと思ったら、一服とかなんじゃそりゃ。


「さあ、やろうぜ」


「ええ……」


 葉巻口にくわえながらやるの?

 シャツの腕をまくって、まるで素手でやるみたいじゃん。

 トンスキオーネも葉巻くわえながらをよくやるけど。

 あいつは銃と爆発物だしな。


 困惑する俺に、キマチは言った。


「なんだ? 今更ビビってんのか? この有様じゃ、随分と強いやつだと思ったんだがな……?」


 すると、後ろに集まっていたPK集団が小声で、


「キ、キマチさん気づいてねぇ……」


「しょうがねぇだろ……喧嘩は強くても頭はねぇんだから……」


「そうか確か、顔を傷つけられたくなくて強くなったんだっけ?」


「そうだ、顔はいいけど学はねぇ、それが無傷の特攻隊長キマチタクトだぜ」


「……すげぇ、キマチさんやっぱすげぇよ……」


 あの、ちょっといいかなPK諸君。

 キマチさんとやらは俺と君らの間にいるんだ。

 つまるところ、俺に聞こえるってことは……丸聞こえじゃないのかな?


「へへ、おまえら、ちょ、待てよ。褒めても何もでないぜ?」


 キマチは顔を少し赤く染めてはにかんだ。

 三下さんのため息が聞こえる。

 彼はいつのまにかバーカウンターに座っていっぱい頼んでいた。


「で、でもキマチさん。あいつはあのローレントだぜ?」


「何? あのローレント? だったら話は早いだろ、おまえら情けない顔して突っ立ってないて少しは根性見せろってんだ」


 キマチは吸いかけの葉巻を切り上げて、ぽとりと足元に落とすと、残った火を足でふみ消しながら言った。


「PKのプライドはどうした? 誰であろうと最後はキルを取る。それがPKの一分いちぶんだろうが……それじゃやろうぜローレント。グッドラック、いやてめぇにはバッドラックかな──ゴバァッ!」


「キ、キマチさぁん!!!!!」


 やろうぜって言われたから先制攻撃した。


 グッドラックとかバッドラックとかよくわからんことを言いながらやれやれって顔をするもんだから、後ろ回し蹴りが顔面にまともに入ってしまった。


 たったそれだけなのに、残ったPK達がなんかすっごい剣幕で罵ってくる。


「てめぇえええええええ!!!」


「よくもキマチさんおおおお!!!」


「ええ……」


「ええ……っじゃねぇ! 普通お互い一発一発交互に殴り合うもんだろうが!」


 ええ……困惑なんだが。

 一発一発って、思いっきり近接職のやつにそれやって勝てる保証がないんだが、わざともらうってんなアホな。

 もっとも、一応受け流す術は心得てるから、俺に限っては万に一つもない。

 だがPKよ、魔法使いに戦士が素手の殴り合いを挑むのは些かどうかと思うぞ。

 男気的に考えて。


 でもまあ、それを考えればだけど。

 俺がくっちゃべってるこいつを先制攻撃したのもさもありなん。


「ほら、俺、魔法使いだから?」


「だ、だからって喋ってるやつの顔面を蹴るやつがいるかっ!」


「いるなァ、そこにィ」


 三下さんもカウンター席で気だるそうにそう笑っていた。

 そしてキマチは歯の欠損ペナルティでアホらしくなった自分の顔面を、なぜか持っていた手鏡で確認すると、ふっと白目をむいて気を失った。


「キ、キマチさん!!!」


 駆け寄る男達。

 なんとまあ、情けない姿ではあるが、唯一褒めるべき点はPKらしからぬ友情か?

 だが、敵前でそんな悠長に介抱しちゃいられないぞ。

 女子かよ。


「とりあえずナガセの情報を吐くまで一人づつ殺す」


「──ふぇ?」


 PKの男の首をはねた。

 ここにいるのは雑魚だ雑魚。

 半端なナルシストは放っておいて、もっと骨のあるやつをよこせ。


 色々と鬱憤もたまっていたし、晴らすならばこのあたりだな。

 罪悪感?

 生鮮食品を見たら人は美味しそうだと思う。

 同じだ。


 暴力を振りかざす奴には身を持って味わってもらう。

 フルコースだ。


「て、てめぇ──ぶっとば──!!」


 二人。

 素手で喧嘩するのがポリシーみたいな感じだった彼らはこちらを向くと素早くナイフやら片手剣を思い思いに鞘から抜いていた。


 生ぬるい。

 これだけ人数が揃っているなら、誰かをデコイに確実に始末しに来ればいい。

 ナイフを抜く前に密集してその隙にぶすっとな。


 盗賊ギルドの連中なら、そうしてただろうな。

 そこまで来ると厄介だ。

 人を自然に殺す、そんな価値観で生まれてきたどこぞの密教集団みたいに。




「──ひぃい、か、勘弁してくれ! お、俺はこいつらの仲間じゃない!」


 そうして最後の一人になったところで、ようやく口を割る奴が出てきた。


「だったらなんだ」


「ただつるんでただけだよ! アウトロープレイができるって聞いたから!」


 なんともミーハーなPKがいるもんだな。

 だが、勘弁はしない。


「結局ナガセとかいう奴の居所は掴めなかったな」


「そりゃローレントが喋る前に叩き斬ってるからだろォに」


 そんなことを三下さんと喋りながら足で踏みつけた男の背中にとどめを刺そうとすると。


「──喋る! 喋るから、勘弁してくれ!」


「最初からそうしておけばいいのに」


 口を割った男は、自分が知る限りの情報を教えてくれた。


 ナガセという男は、あるマフィアNPCとつるんでゲームをプレイしている。

 そして、近々大きな抗争イベントがあるからと自分がもっとも信頼を置ける仲間達を連れてこの溜まり場からホームを移していた。


「あるマフィアNPC?」


「そ、そうだ! 背は低いが美人な女だった! ナガセさんはそいつに首ったけでなんとか落とせないかどうかって話をここでよく話してくれた!」


 踏まれた男は必死に叫ぶ。


「その他にも、全員美人な女で揃えられて、俺らの間じゃ幹部に上がればそいつらを侍らせていい思いができるって噂だったんだ! キマチさんがそんな感じのことを言ってた気がする!」


「ふむ」


「NPCを彼女って、なんかかわいそうになっちまうくらいバカなことだよなァ……でもまあ、ゲームだからそういうのもありなのかァ? 確かに、それを味わいたくて美少女ゲーやって見たことあるけどよォ」


「美少女ゲー? なんだそれは?」


「……いや、なんでもない」


 意味深な三下さんはさておき、女のマフィアNPCは聞き覚えがあった。

 バンドーレファミリーに色々と急な話を迫っていたファシミストロ。

 確か女ボスだと言われていたな、独裁女ファシミ。


「なるほど、色々とわかって来たぞ」


「ん? なにがだ?」


 首をかしげる三下さんに言っておく。


「ナイトタイムまで休憩でいい、マフィアマップに行くから準備しといて」


「ん? おお、あの特殊マップとかいうところか、おっけ」


「──は、話が終わったんだったら解放してくれ! い、今イベント中で俺たち強制痛覚100%なんだから! 痛いのは嫌なんだよ! 頼む、頼むから!」


「……わかった」


「ぐえ」


 解放するが、トドメを刺さないとは言ってない。

 死に戻りにて解放させてやろう。


「こええ、俺も容赦ない攻撃を一回味わってるから恐怖の気持ちはわかるぜぇ……」


 三下さんがなぜかPKに同情していた。

 ああ、確かに三下さんにも五感潰しとか腕と首をへし折る攻撃とかしたことあるしなあ。

 すまんかった、三下さん。

 でもスキル戦では俺は完敗だった。





三下さんの話は第一回闘技大会前後。

たしか、100〜130話くらいのどこかにあったと思います。

ローレントが意表を突かれ場外負けになりかけて、最後に目と鼻を潰して腕か足をへし折ってそのまま首も圧し折って瞬殺しました。

そこから友情芽生えました????


ブクマ、評価いつもありがとうございます。

感想でも色々と楽しい意見をいただけで、感無量です。

書籍版とウェブ連載、共々よろしくお願いいたします。

諸々ガラッと違ってますけど、意外なことに共通点もたくさん。

ダブルで楽しめるようにしてます。


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