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ナガセと呼ばれるプレイヤーが、雑多なアウトローにも満たないプレイヤーキラーを取りまとめている。
名もなきプレイヤーキラー君はそんな情報をボロボロを喋り、そして無残に散った。
「おーこわっ、ちゃっかりさすんやな、とどめ」
「当たり前だ」
用済みで、これから先も用途がないのはダストシュートに決まっている。
「すっげぇやつで、とにかくすっごくて、そんでもって、スゲェってどういうこっちゃ」
三下さんがため息をつきながら、吐かせた情報を整理している。
だが、整理する必要あるのかが疑問だ。
ナガセさんはマジすげぇから、ここで喋っても意味ないけどな。
ナガセさんはテージの裏をまとめるマジすげぇプレイヤーだ。
ナガセさんは秘密主義だからすげぇこと以外秘密だ。
ナガセさんはマジですげぇからこれ以上聞いてもすげぇしか出てこねぇよ。
くそったれ。
ある意味、下に情報をにぎらせない。
カリスマのみでそれを実行したナガセと言われるプレイヤーはすごい。
「ほな、わいはそろそろおいとまするで?」
「ん? なんだ、こねェのか?」
リンゴをかじりながら三下さんがカイトーにそう尋ねた。
カイトーはしゅばばっと貴族っぽい格好からただの町人NPCを模倣した格好に早変わりすると、そのまま裏路地から表通りへと足取りを取りながら言葉を返す。
「責任はしっかりとるのが男っちゅーもんやろ? プレイヤーキラーの居心地が悪くなるよう、突発的な対PKイベントに前向きなプレイヤー達に見分け方とかそう言うスキルを広めてくるわ」
「ふゥん……まあ、いいんでねーの?」
「なんや、聞いたわりには冷たい返答やな」
「いや、まあ頑張れよ。テメェのケツをテメェで拭ける男はなかなかいねェからな」
「三下はん……色々と相談乗ってくれてありがとな、ほなっ」
そう言いながらカイトーはこの場を後にした。
なんだ、まさか俺とトモガラのような友情でも芽生えたのか?
いつのまに?
「見習いたいコミュニケーション能力だ」
「ハァ? 意味わかんねェこと言ってんじゃねーぞ、とりあえず行くぞ。長引かせるとめんどくせェし」
そう言いながら先導して歩き出す三下さん。
さて、そうなれば一体そのプレイヤーキラーナガセさんはどこにいるのか。
「くそっ、闇雲に探すのは本当だったらしたくねェんだけどなあ」
悪態をつく三下さん。
「事前情報があれだったから仕方がないが、とにかく不良が行きそうな場所、集まりそうな場所には心得がある」
「そりゃマジか?」
「ああ」
そう言いながら方向転換して表通りに出る。
「……おいおい、自由に戦闘していいエリアは裏路地エリアか夜間のマフィアエリアくらいだろ?」
「ついてきてくれ」
「んなこと言ったってなあ、いつもどおりお前が狂ってるとしか思えん」
疑問を感じる三下さん。
安心してくれ、情報が得られなかった場合の対処法として、一つ考えていたことがあった。
捕まえたPKに案内させようにも、実際あの感じじゃロクに居場所すら知らないだろう。
だから──、
「トンスキオーネ商会の裏っかわにそれっぽい溜まり場を作っておいた」
トンスキオーネ商会の裏手は裏路地に面している。
その境界線ギリギリに作られて、その裏路地エリアにかぶるようにいかにも荒くれ者達が好きそうな風貌の遊技場。
もちろん未成年は飲めないようなドリンク系統も出すし、葉巻っぽいものも売っている。
「さぞ居心地が良さそうな場所をコンセプトにした」
「ヘェ……まあ、確かにそうだな」
外観を見ながら、三下さんは苦い顔をしている。
こう言う場所が苦手なのだろうか。
「得意じゃねェのは確かだってか一ついいか?」
「なんだ?」
「あくまでそう言うキャラってロールプレイで一日中ゲームしてる野郎だぞ俺は」
「ああ、俺もだな」
「リアル武術家とくらべんな。まァ、腕立て腹筋くらいはしてるけど、普通に勉強やってる大学生だよ」
「……武術経験はないことは察していたが、運動が得意そうな感じはしていた。ほら、カウンターとか合わせる能力は運動神経良くないと」
「ああ、昔っから体内時計は正確で、そんで目もいいからなァ……でもかけっこはビリだった」
意外な事実に驚いた。
俺なんか……いや、まあ止そう。
100m走は小学生の頃から11秒フラットで10年間守ってきた。
筋調節という鍛錬だな、どこにどれだけ力をかけるか、それが重要になってくる。
「まあ、とにかく。後の先を取るタイプならば、速さは必要ない」
そう言いながら溜まり場のドアを開ける。
さて、獲物は罠にかかっているだろうか?
コンビニの明かりに群がるガキどものように、ここにも群がってるといいのだが──。
「……みんなこっち向いてんぜ、動くものを見つけたカエルみてェに……」
心配は杞憂に終わった。
獲れ高は十分。
入れ食いほどではないが、目つきの鋭い野郎が多いこと多いこと。
「おいおいこりゃたまげた」
みんな真っ赤に光る名前を隠そうともしない。
そして、その内一人が俺たちを嘲笑しながら近づいてきた。
「怖くないのか? 俺たちがよぉ」
周りから笑い声が聞こえてくる。
どうやらレッドネームの溜まり場に、ブルーネームの俺たちが入ったことがおかしいようだ。
「おい店員、酒を二杯頼めるか?」
そう言ってカウンターに出された二杯のグラスを取ってくると、ニヤニヤとした顔つきで俺らの前に立った。
「今回は奢りにしとくが、次来たら奢らされるだけじゃすまねぇからなぁ。おらとっとと回れ右だ」
と、コップの水を俺と三下さんの顔面にぶちまけた。
「ブハッハッハ!! おいおい随分と優しいなあサワキタよぉ!」
「ったく今時いんだな、PKイベント時期にここに立ち寄るなんて、殺されても文句言えねぇだろ!!」
「なんだサワキタ! 今日はクソつまんねーいつものギャグが冴えわたってんじゃねぇか!」
サワキタと呼ばれる男は爆笑している仲間達に向かって踏ん反り返る。
「ま、今日はナガセさんから狩り連れてってもらえる約束取り付けたからなあ! 機嫌がいいに決まってんだろ、ついに俺も狩場デビューだぜ? クックック!」
「ナガセ……?」
ふむ、ここへ来て一発目でその名前が聞けるとは、ついてる。
呟いた俺に、サワキタは視線を向けると、
「んだぁてめぇらまだいたのか? おらとっとと消えろ、ってか誰だよてめぇら、ここはてめぇらの来ていい場所じゃねーんだよ、帰れ! シッシッ!」
三下さんに目配せすると、今にも一発ぶん殴りそうなほど、指がピクピク動いていた。
こういった、いわゆる不良の溜まり場みたいな場所とは縁がないし、それに好き好んでくるようなタイプでもないから少し戸惑うかもと思っていたが、その心配はなさそうだ。
俺も同じ気持ちだ、今回は派手に暴れてもいい。
こいつらをボコボコにしていいって、イベントが、いや公式が言ってんだからな。
「誰だって? ──オーナー様だ」
サワキタの喉仏を掴んで足払い。
そしてひっくり返った彼の頭部をそのままテーブルに叩きつけてやった。
ナガセさんマジパ。
ナガセさんマジス。
ナガセさんマジヤ。
マジパ、マジス、マジヤがなんの略かわかった人には、このクソゲーがプレイできるVRギアのパッケージセットをプレゼントいたします。笑