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「……うっぷ、もうくえねぇよ」
ミツバシが食べ過ぎによる腹式呼吸に陥る頃、焼肉トウセンの一番でかい部屋。
いわゆる宴会部屋に、続々とプレイヤーが集まってきた。
一体誰が読んだのかわからないが、ブラウやエアリルのカップルに付随して彼らの持つクランが体育会系っぽいノリで焼肉に興じている。
「軟弱だな」
「……軟弱者」
「そりゃねぇだろ、ローレントお前が食い過ぎなんだ」
俺の隣でせっせと肉を焼いてくれるアルジャーノにそう言われて、ミツバシはガクッとうなだれた。
そして山盛りになったカルビを口いっぱいに頬張る俺を見て「おえっ」と口を抑えていた。
「あと、アルジャーノ」
「……なに? 亭主関白が好みなら、私は三歩下がってついていく」
ちょっと何言ってるかわかんないこの子。
やや喉に詰まらせかけたが、気を取り直す。
「肉はもっとしっかり焼いてくれ」
「……なるほど、しっかり好みに焼き上げてじっくり味わう。……そういうこと? ……待てばいいの?」
……焼き加減の話をしているんだよな?
やっぱり肉は、弱火でじっくり。
たまには強火で焦がしてワイルドでもいいけど、一度実家で豚肉焼いて煙めっちゃ出て火災報知器がなったことがある。
うむ、蓋は大事だ。
「口いっぱいに肉頬張ってるやつにじっくり味わう気なんてないだろうに、おえっ」
味わうのは質であって量は関係ない。
口に大量に頬張っていても、俺の下はちゃんと味を感じている。
質より量というが、質も量も取るぞ。
運動ではやりすぎ注意。
ボクサーの練習量は1日3時間以上は練習しすぎともいうが、限界点をそこで決めて成長を止めてるだけで、本人がまだまだいけるならそれでいいのだ。
と、いうよりも呆れ返るほどの反復練習をしない野郎は三流以下だな。
頂点まで駆け上がってきた連中は大体がこういう。
気づいたらここまで来ていた。
何もしてないではなく、時間を忘れるほどに熱中していた。
それだけ熱中できると、腕も自然に磨かれる。
うん、胃袋もでかくなる。
「ガツガツガツガツ」
「……おかわりはたくさんある」
「飯の時は二度と隣に座らないようにしなきゃだな……」
かと言って、ミツバシはブランのクラン、ウィルソードの何故か始まった宴会っぽいことから逃げて来たんだよな。
装備品の細やかな調整とかしてるから、手荒く使う彼らに色々と手直しの要望を受けているみたい。
俺から逃げたミツバシは速攻彼らに捕まっていた。
「おっと! 我らが整備師ミツバシ殿だ! 飲ませろ! 食わせろ!」
「た、助けてくれガストン!」
「観念するのである」
「ちくしょう! それに俺は整備師じゃなくて細工師!」
なんだかんだ、緊張していたミツバシの表情がほころんでよかった。
レイラがやられて結構不安そうな顔をしていたのだが、ウィルソードの連中がそれを忘れさせてるみたいだ。
「ボボボボボ──!!!!」
……流石にエールとかいうビールに近い飲料水の瓶の飲み口を三本口に突っ込まれるのは同情する。
そうだな、宴会芸だとしたこんなところか?
今、できるかわからんが。
「ほっ」
ピキッと音がして持っていた俺の炭酸水の瓶の飲み口がぽとりと落ちた。
手刀瓶切り。
空手家がパフォーマンスでよくやるアレだ。
「ちょっと、危ないわねローレント!」
「……危ないというより本当にできるのが驚きなのである」
要は力の入れどころだな。
力任せに破壊するやつがいるが、実際勢いをつけずとも体捌きでぶった斬れる。
背刀打ちでスパッと。
「……やってみたい」
「今度教えてやってもいいが、まずはモナカに柔道習ってこい」
そう言うとアルジャーノは「……ちぇ」っと相変わらずとこどなく間を必要以上に開けた言葉を返しながら口をすぼめていた。
ツクヨイ、アルジャーノ。
ともにチンチクリンなんだから、同じくらいチンチクリンのモナカに教わるのが一番いいだろう。
俺、武術漫画によくありがちな体格差を技術やトリッキーな動きでカバーしたりとか。
そんなハンデを背負ってるわけじゃないし。
普通に持って生まれたものでなんとかやってるしな。
まあ、言い換えれば魔法職と近接職に対してあんまり知識がなかったのがハンディキャップだな。
苦労するハメになったが、それがあるからこそ今がある。
そんな与太話をしていると、レイドイベントに向かっていた仲間達が続々と二階へ上がってくる音が響いた。
「ふぅ、やっと帰ってこれました。お姉さまは……大丈夫そうですね、安心しました」
「おい店主、特上カルビ10人前」
「ハッ! おめぇまだ食うのかよ! 船の上であんだけ食べでたろうが!」
「あん? 別腹に決まってんだろ」
「リアルで胃が四つあんじゃねぇか? まあいいや、酒か!? よっしゃ、飲むぜ! ガハハハッ!」
そしてドアを開けてツクヨイ、トンスキオーネ、ガツントが入ってくる。
十八豪はその中にはいなかった。
「あれ、十八豪は?」
「十八豪さんは途中でいなくなってましたね」
そう言いながらツクヨイはいそいそと出で立ちを直して俺の隣へ座ってアルジャーノからトングを奪った。
「……遅れて来た分際で亭主関白の風上にも置けないのに」
「残念でした、すでにハネムーンの約束は取り決め済みです! ぶらっくぷれいやぁはすでに交渉を終えて三千歩くらい先をいくんですぅ!」
「……………………」
間が重いぞアルジャーノ!
アルジャーノの黙ったままの空気が重い。
それに、ピシッと空気が張りつめるような音が聞こえて気がしないでもない。
「まあいいか」
飯が先だ。
「あんた、よく食べれるわね」
とっくに箸を置いて座布団を抱えて休んでいたレイラは、チンチクリンに挟まれる俺を見ると顔を顰めていた。
ちなみに焼肉トウセンは座敷だ。
畳ではない、どことなく市松模様っぽいデザインのフローリングに座布団が敷いてある。
「あれ? 三下さんは?」
「ああ、多分そろそろくるんじゃないですか?」
ツクヨイがそう言ったタイミングとドンピシャで、三下さんがドアから顔をのぞかせた。
そしてなんかバタバタもがく一人のプレイヤーを連れて。
「邪魔するぜェ。おら、テメェも早く入れや」
「イタタタ! ちょ、堪忍してや! こ、心の準備がぜんっぜんできてへんのやて!」
……カイトー。
色々とヘイトがたまる展開で申し訳ございません。
でもPKは決して許さずですよ。




