-362-
「先に戻る」
そう告げてテレポートを使い第一拠点まで戻ってきた。
一体何が起こっている。
テイムクリスタルからノーチェを出してすぐにレイラの屋敷に駆けつけたが……。
「壊されてる……?」
こんなことってあり得るのだろうか。
さすがに自治権奪われて建物も壊されてって、マジで一体どう言うことだ?
……プレイヤーキラー対策とプレイヤーキラーキラー対策を適当にして殺しのいたちごっこさせる運営にはあり得ることなのかもしれないな。
それに、あんまり運営からの情報開示とかないし、プレイヤーが見つけるか、知ってるNPCに尋ねることが攻略の糸口だったりする。
「グォン」
「ん? どうしたローヴォ?」
テクテクと歩いていくローヴォの後ろをついていくと、焼肉トウセンまで来た。
この建物はただの飲食店だから残っている。
更地まがいにさせられた施設はレイラのポーション工房だけだったってことだよな。
「……中か」
そういえば表向きは飲食店だが、実際は個室の怪しい話をする焼肉屋だったなココ。
一階にある大衆感満載の焼き鳥屋で上手く誤魔化されているが。
「あら、ローレント。早かったのね。いらっしゃい」
部屋に入るとケロっとした表情をするレイラがいた。
隣にはガストン、ブリアン、ミツバシがいる。
イシマルはログインしてないみたいだな。
「大丈夫か?」
「珍しいわね、心配してくれるなんて」
フレンドの心配くらいするだろうに。
それに生産職って基本的に感覚設定マックスまで引き上げてるのが多いから、文字通り死ぬ感覚っていうのがよくわかるだろう。
それを含めて、大丈夫かってこと。
「っていうか、なんでここなんだ?」
避難場所だったらホワイトリスト制にしてる俺の倉庫の二回部屋があるはずだが。
それを尋ねると、ミツバシがひたいを抑えながら返した。
「差し押さえだ、俺らの使ってた倉庫は全部」
「マジか」
管理権限が奪われたみたいなことを聞いたが一体どういうことなのだろうか。
聞いてみることに。
「そのまんまの意味よ。管理権限を持ったプレイヤー及びNPCをある条件の下で全員倒すとそっくりそのまま権限が譲渡されるってこと」
してやられたわね、という風にレイラはため息をついていた。
つまるところ、ある条件下とは、村長などの管理権限系のスキルを持ったプレイヤーが、管理権限を持ったプレイヤー全てを始末することでその管理権限はそっくりそのまま全て譲渡されるということ。
「村議会なんてものが発足できて、なおかつ権限の一部を彼らが保有できる仕様? まあ、ある意味こういう事態を防ぐためにセーフティみたいなものだったわけね」
レイラは語った。
権利を分散させておくと、誰かが街にいればプレイヤーキラーは発生しないことから、実質不可能な達成条件となる。
一人に管理させておいてそれをそっくりそのまま奪われてしまうことを防ぐために複数人のプレイヤーに一部権限を渡しておける仕様ができたのではないかと。
もっとも、それを知った時には全て始末させられて奪われた後だったんだが、この情報を知るのが遅かったってことだろうな。
「エドワルドさんは教えてくれなかったのか?」
彼女の師匠であり、第一の街テンバータウンの町長を務める。
俺の師匠であるスティーブンとも繋がりの深いNPCだ。
「教えてくれなかったわね、多分プレイヤーは誰も知らないんじゃないかしら? どこから話が広まるかもわからないし、迂闊に話して管理権限の譲渡を狙ってくるプレイヤーが出たら目も当てられないわね」
実際出てる……ってことは、なるほど感づいたぞ。
「敵対NPCの存在か?」
「うむ、おそらく裏ギルドと言われるプレイヤーキラー専門のギルドと盗賊ギルドが裏で糸を引いているのである」
ガストンが言うには色々と勢力がごちゃ混ぜになった状態を作り出されて、本来の目的はテンバータウンの横にあるこのプレイヤー拠点の管理を奪うことだったのだろうとのこと。
本当にごちゃごちゃしてたしな、レイドイベント。
途中でノークタウンからケンドリック勢が呼ばれ、参戦したと思いきやプレイヤーキラー従えて俺を殺しにかかるし。
かといって黒幕があいつかと思ったが、デリンジャーにあっさり殺されてその時間稼ぎをしている間に残りの村議会とレイラが殺され管理権限を奪われた。
だが、村議会をやったのはデリンジャーの下の盗賊ギルドの暗殺者プレイヤーなはずだ。
奴らが管理権限を持っていたとも思えないのだが、おそらく最終的権限を持っていたのはレイラだからそのあたりを上手く突かれたのだろう。
……かなり下調べをされてるな。
「ああ、そうだ」
「どうしたのローレント?」
レイラがプレイヤーキルされた事件で、デリンジャーがタイミングよく大仕事を任せたと言っていたカイトーについて、そこを確認しておかなければ。
「そもそもどうやってプレイヤーキルされたんだ?」
「ああ、騙されたのよ。クソッタレたNPCの振りをしてね」
随分と言葉が汚くなっているが、これが本来のレイラだ。姉御だ。
聞くところによると、カイトーはの変装スキルはNPCに紛れて、そしてプレイヤーからバレないレベルまでの発展を遂げていたと、そういう訳だった。
……恐ろしいな。
変装スキル上級とか?
以前会った時はプレイヤー然としていたが、まだ色々と隠し持っていたらしい。
思わず表情がほころんでしまった、素敵だ。
「何がおかしいのよ?」
「いや、なんでもない」
最近顔に思ってることが出やすい気がする。
トモガラやジジイ並みに俺の表情を読んでくるやつが多くなったな。
首を振って表情を戻すとミツバシがゾッとした顔つきで言った。
「おっそろしい……プレイヤーキラーがNPCに紛れることが可能ってことかよ……」
「ああでも、私は偽りのクエストを仕向けられて案内されただけで、カイトーとかいうローレントのお知り合いに直接殺された訳じゃないのよ?」
ガストンとともに頷いておく。
正直俺の記憶にあるカイトーに、レイラが倒されるとも思えない。
だって、ミツバシ考案の連射型クロスボウ持ってるからな。
ヴァンヘル○ングのアレみたいに。
毎秒2.5発くらいの速さで最大三十発打ち出す高性能だ。
一体どういう仕組みになっているのかわからないが、飛距離を犠牲にする分、至近距離の相手には二秒で五発ぶっ刺さる代物だ。
「この連射型クロスボウを護身用に持ってたのに……ああもう、一発くらいぶち当てておけばよかったわね」
「おわっ! こっちに向けるなよ! 安全装置切れてる! ダメージ無くても痛いんだから!」
「あら、ごめんなさい」
鑑定でも名前を読ませないように偽装したプレイヤーキラーは、レイラの話によればデリンジャーと同じように急に後ろに現れて心臓部分をひと突きされたそうだ。
「なら、──カイトーを探す」
色々と話すこともあるだろう。
レイラがやられた一因に、俺が上級に匹敵するほどの変装スキルを持つプレイヤーを野放しにしたからだ。
責任は、多少なりし俺にあると言っても過言ではない。
それに、仲間がやられてただ黙って過ごせるほどに。
俺の心は冷めきってないしな。
「ちょっと、顔」
「すまん」
「今は妙なこと考えるよりも、先にどうするべきか、みんなで話し合うことが先決でしょ? 怖い顔しないで」
少しの沈黙が流れる中、部屋に入ってきたのは東遷だった。
皿の上に大量に盛られた肉を持って。
「ハイハイ、とりあえず話は食ってからだ。お前らカリカリしすぎだ。腹が減って仕方ないってくらいな? とにかく食え、今回はツケにしておいてやるから」
「そりゃいいぜ」
「うむ、そうするのである」
「……そうね、とにかく食べて英気を養うのよ。ね、ローレント」
「そうするか」
ちなみに、俺はしこたま食うぞ。
魔法使いのくせしてな。
設計できるやつさえいれば、武器の製作は意外と自由がききます。
これも、プレイヤースキルですね。
なぜ設計できるのかが謎ですが、人には知られざる特技の一つや二つ、あるものです。
一応お手軽にスキルで作ることも可能。
スキルと、プレイヤースキルで短縮できるところを短縮しつつ、能力に欠かせない部分はしっかりと作り込む。
生産職は、そんなスタイルのプレイヤーが多いです。
ちなみに私の特技は、船を動かせることですかね。