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「何とか言ってみろ!」


「すいませんすいません!」


 謝る剣士プレイヤーが可哀想になって来た。

 俺もムキになる必要も無いし。

 ここはおまかせしますレイラさん。


「ちょっと何とかしてもらってもいいかしら?」


「ですよねー。おいマスティフ。本当にやめてくれ」


 名前の由来ってチベタンマスティフ?

 名前負けしてるんですが。


「お前ら生産職がな! 補給品独占してるから! 碌な装備も整わずにPKにやられんだよ!」


「彼も被害者であるか、可哀想である」


 いかん、悲痛な叫びにしか聞こえなくなってきた。

 同情してまうやろ~。

 ぷぷっ。


 おっと、顔に出る前に真顔にしておこう。

 とりあえず何と言うか、なんだなんだと騒ぎを聞きつけて集まって来た人達も。

 この男の叫びを聞いてるうちにしらけて散って行った。


 血の気が多そうな土建屋チームも最初は「争いか?」と肩を回しながら関わろうとしていたが、レイラのこれ以上話をややこしくすんなのひと睨みで退散して行った。


「よし、まずは生産拠点を作る!」


「「「「「おす!」」」」」


 それぞれが建設に向けて動き出していた。

 ツクヨイはクエストをこなすと言ってどこかへ言ってしまったし。

 この場に残っているのはレイラ、ガストン、トモガラ、俺くらいだ。


 逃げたら逃げたらなんか言われそうだし。

 大人しく落ち着くまで待っていよう。

 トモガラ?

 あいつは俺の後ろで爆笑してるよ。


「エリア解放にも名前乗ってるけどな! トモガラさんのお陰だろどうせ! お前なにもしてないんだろ! そうやってずっと漁父の利とか得てたんだろ! ああ!?」


「ぶはは!! そうだ、ローレントは知らなそうだから教えとくぞ」


「え、なに?」


「ああいうのを、暴言厨って言うんだ」


「へえ」


「対戦ゲームには良く居るよ」


 心しておくわ。

 剣士プレイヤーの男もまさかこんな男だとは思っていなかったみたいで。

 すでに諦めかけていた。

 他の二人のプレイヤーは後ろで何処吹く風。


「おい、君たちも何とか宥めてくれよ!」


「いやベッさん、元々野良パーティだから仕方ないって」


「そうそう、こういう事もあるよ。だからそいつもう抜かそうぜ」


「なっ!?」


 驚きの声を上げたのはマスティフと呼ばれる怒れる魔法使いプレイヤーである。

 随分ドライなのね、残りの二人。


「おい、それマジかよ。……おい」


「おっさん見苦しいよ?」


「そうそう、自分だけPKにやられて死に戻りしてデスペナ食らったからって怒り過ぎ」


「いや、君たちも流石に言い過ぎでは……?」


 ベッさんと呼ばれた剣士プレイヤーは人が良い感じがする。

 なんだかんだマスティフを擁護する立場に回っている。

 溜息が聞こえて来た。

 やっぱりレイラだ。

 トモガラは急展開に大いに爆笑していた。

 コイツはコイツで笑いの壷がわからん。


「ベッさんは優しいって。大体第二陣プレイヤーが攻略なんて出来る訳無いじゃん。まだレベル5だよ?」


「うんうん、ゲームなんだかゆっくり楽しもうよ」


「おい待てよ! 俺は魔法使いだぞ? お前ら弓使いとハンターだろ? だれかパーティの火力を担当するんだ! 言ってみろ!」


 いつしか、パーティ内での争いに発展していった。


「いやでも、ぶっちゃけおっさん魔法のタイミング下手糞だし」


「わかるわかる、ベッさんに何回魔法誤射してんの? フレンドリーファイヤあるんだからそこは気をつけないとダメだって言ってるのにね?」


「それね、ベッさん。沢山身に覚えあるでしょ?」


「あ、ああ……」


「その時さ、なんて言われてたか覚えてる?」


「まぁ覚えてるが、流石にこの場でそれをいうのも……」


「ダメダメ、そういうの確り言って行かないと。野良でもパーティなんだから」


「おっさん、なんて言ってたから自分で思い返してみなよ」


「むぐぐ」


「だいたいさ、さっきの交渉もしかたないからベッさんが行ってくれたんじゃん。あんなの無いよ流石に、拠点できるだけでもありがたいんだからさ?」


「それとこれとは話が違うんだ! 俺はローレント! てめぇがくだらない卑怯な真似してるからなんだよ! それが許せないだけだ!」


「それそれ、責任転嫁すごいよね」


「まいったな、どうしようもないよ」


 フードを被った二人は、お互いに顔を合わせると肩をすくめた。

 そしてマスティフの方は無視して、ベッさんに揃って顔を向けると言った。


「言いたい事わかると思うけど?」


「……流石に困る。今から探すのも厳しいしな」


「ねえねえ、ベッさん。僕たち別に魔法使い居なくても大丈夫だよ?」


「……でも流石に彼を放っておくのは」


「なら、僕たちが抜けちゃうけどいい?」


「…………」


 ベッさんと呼ばれる剣士の男は、改めてマスティフの方を向き直った。

 そして告げた。


「おい、言ってみろよ。いいのか!? しらねーぞ!」


「すまん、もうついていけない。本当にすまん」


「くっ!!」


 フードの二人がイエーイとハイタッチする中。

 マスティフは何故か俺に噛み付いて来た。


「納得いかねぇ! おい! 決闘モードで勝負しろ!」


「おい、お前は何言ってるんだ!」


「うるせー! もう関係無い奴は引っ込んでろ! 晒してやるよ! 無様に負けてる姿をな!」



[決闘申請が届きました。申請プレイヤー:マスティフ]

[受諾しますか? yes/no]



 え?

 なにこれ。


「ローレント、受けなくて良いわよ。くだらないわ」


「申し訳ない! 申し訳ない!」


「おい逃げるのか? 逃げても逃げたって晒してやるからな!」


 迷っていると、爆笑していたトモガラからメッセージが届いた。


『賭け有りにしてやってみて。あと勝ち条件もデスモードで頼む。なんか面白そうだから見てみたいわ。あと公式情報には決闘によって入る経験値はレベルに応じてそこそこ貰えるらしい』


 こいつが饒舌な時って、大抵ろくでもないことだったりする。

 でも案外ろくでもないことが楽しかったりするので。


「お受けします」


 ここは二つ返事でどや。

 細かいルールを決めて行こう。

 幸い、まさかこんなガチな返事が来るとは思っていなかったようで。

 狼狽えてるマスティフに有利な条件を出してみる。


「レベル差があるので、私は素手で、貴方は何でもありいいです」


「まあそうだろうな。卑怯者だと思ってたが、ちゃんと場をわきまえてるじゃねえか」


 レイラが額に手を当てながら。

 場を弁えてないのはあんたでしょ……。

 と呟いていた。


「あと、勝利条件はHPの全損。あと、賭けの申請も出来るみたいなのでやってみましょうよ?」


「わるくねぇ! お前は何をかけるんだ?」


 そう言われたので手持ちの武器をどんどんトモガラ達に持たせて行く。

 大剣にヌンチャクにレイピアに魔樫の六尺棒。


「みてみて、見事に前衛装備だよ!」


「魔法使いって書いてるのに不思議だね!」


 フードの二人もとっくに俺を鑑定している様だった。

 渡して行った武器を見ながらテンションを上げている。


「いいや、そんな装備とかちゃちなもんじゃねぇ! 全財産だ! 買ったら俺に全部寄越せ!」


「マスティフ! おい!」


「うるせえよもう部外者だろ引っ込んでろ!」


「なら、貴方も全財産って事でいいですか?」


 マスティフは二つ返事で承諾した。

 内心は、俺の装備が手に入ることを想像してハッピーなんだろうか?

 確かに黒鉄ってあんまり出回ってないし高価だよな。

 でも魔法職が持ってどうするって装備ばかりなんだけど。

 俺が言えるセリフじゃないが。


 [yes]を選択すると、ホームでの戦闘を許可しました。

 とインフォメーションが流れた。

 賭けの所に[All]と表示されている。

 全財産ってことかな?


「いくぞ!」


 そう言ってマスティフは詠唱を始めた。

 【エナジーボール】の詠唱だった。


「ブースト!」


 俺も詠唱をセットすると身を低くして接近する。

 接近戦で【エナジーボール】は流石にNGじゃないかな。

 魔法職だと思って悠長に構えていたのか。


「フィジカルベール! メディテーション・ナート! エンチャント・ナート!」


 当然ながら補助スキルの詠唱の方が早く終わる。

 そして容易に俺の接近を許すマスティフ。


「くっ、エナジーボール!」


 詠唱が終わり魔弾が飛んでくる。

 腕を交差させてガードする。

 衝撃が身体を突き抜けるが、俺も魔法職。

 魔法耐性は前衛以上にあるのはわかってると思うけどな。


「おげっ!」


 前蹴り。

 あれ、痛覚100%の人?

 意外と根性があると思った。

 が、外野から声が聞こえた。


「うわうわ! 痛そう!」

「大変だね、決闘モードって痛覚100%になるんでしょ?」


 なるほど。

 相手のHPは?

 一割減って所か。

 一方で、俺の微妙に減ってるくらいだった。


「こ、こうなったら火の魔法で!」


 それを言ったらダメでしょうニーキック。

 蹴りを貰って転んだマスティフの頭に。


「ゴバッ」


 頭部は急所。

 HPの減りを確認すると、半分を割ってた。

 ゲームにおける対人のデモンストレーションになってた。

 魔法職相手だったら、喉を潰すのってどうだろうか?


「カッペッ!?」


 馬乗りになった状態で喉元に抜き手。

 マスティフはボロぞうきんみたいになって首と腹をおさえて転がっている。

 ふと我に返って、周りを見てみた。


「「「「…………」」」」


「ぶっはははは!! は、腹が捩れる!!! くぷぷ、ぶはっ」


 一人を除いて。

 みんな引いてました。

 これ、もしかして不味かったかな?

 でも終わらせるのってHP全損のデスペナ方式でしょ?


「……エナジーボール」


 レベルを全く上げてない俺の【エナジーボール】が飛んで行って寝転がったマスティフの背中で弾けた。

 それと同時に、彼のHPは消滅して。



[決闘モード勝者:ローレント]

[賭け商品を受け取ってください]



 そんなインフォメーションが流れた。

 ……受け取りずれぇ。


「魔法使いの戦いじゃねぇええ!! ぶははははは!! 傑作だこれ!!」


 静まり返る中。

 トモガラの爆笑する声が響いて。

 レイラがぽつりと言った。


「こわ」


「いやその」


「まぁ、色々と意味不明なのはわかってたけど、容赦ないわね、……あんた」


 いたたまれなくなった俺は、纏まっておかれているマスティフの装備を指差して。

 ベッさんとやらに交渉する。


「すいません、お返しします」


「いや……、内容はどうであれ、戦いで勝利したのはローレントさんです。もう彼とは関係もありませんし、それはローレントさんの物です。ご自由に処分してください」


 と、言っても僅かなグロウ意外は、対して価値がない物だったりする。

 魔法用の杖も俺使わないし、悩んだ結果。


「レイラさん、これ全部ニシトモさんに……」


「あんた、鬼ね」


 レベルも上がらないし。

 対して面白くもなかったし。

 初めての決闘。

 散々な結果に終わってしまった。


「がう」


 救いは擦り寄ってくるローヴォだけ。

 駄犬って言い続けてごめんね。


 もうリアルは夜明け間近だし。

 今日は落ちよう。

 ログアウトだログアウト。

 やるべきことはちゃんと果たした。


 つーか、廃人ども。

 ……寝ろよ。


プレイヤーネーム:ローレント

職業:無属性魔法使いLv15

信用度:80

残存スキルポイント:0

生産スキルポイント:4


◇スキルツリー

【スラッシュ】※変化無し

【スティング】※変化無し

【ブースト(最適化・補正Lv2)】※変化無し

【息吹(最適化)】※変化無し

【エナジーボール】※変化無し

【フィジカルベール】※変化無し

【メディテーション・ナート】※変化無し

【エンチャント・ナート】※変化無し

【アポート】※変化無し

【投擲】※変化無し

【掴み】※変化無し

【調教】※変化無し

【鑑定】※変化無し


◇生産スキルツリー

【漁師】※変化無し

【採取】※変化無し

【工作】※変化無し

【解体】※変化無し


◇装備アイテム

武器

【大剣・羆刀】

【鋭い黒鉄のレイピア】

【魔樫の六尺棒】

【黒鉄の双手棍】

装備

【革レザーシャツ】

【革レザーパンツ】

【河津の漁師合羽】

【軽兎フロッギーローブ】

【軽兎フロッギーブーツ】

【黒帯(二段)】


◇称号

【とある魔法使いの弟子】

【道場二段】


◇ストレージ

[貸し倉庫]

セットアイテム↓

※残りスロット数:10


◇テイムモンスター

テイムネーム:ローヴォ

【グレイウルフ】灰色狼:Lv2

人なつこい犬種の狼。

魔物にしては珍しく、人と同じ物を食べ、同じ様な生活を営む。

群れというより社会に溶け込む能力を持っている。狩りが得意。

[噛みつき][引っ掻き][追跡]

[誘導][夜目][嗅覚][索敵]

[持久力][強襲]

※躾けるには【調教】スキルが必要。

ーーー





 土日は増量しますかも宣言。

 おはようございました。

 週末です、みなさまお仕事頑張ってください。

 私も頑張ります。


 そして、武器があろうが無かろうが。

 決闘という一対一で、魔法使いが持てるアドバンテージなんてない。

 相手はほぼ前衛の魔法職と来た。




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