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[レイドボス・マナズマの討伐によって東の湿地帯エリアが解放されました]
[湿地帯を超えた先のエリア【国境線】が出現します]
[解放エリアはプレイヤーの活躍度によって分配されます、この解放ポイントを使い、エリア内にホームモニュメントを使用して自治区を作ることが可能です]
[解放ポイントは譲渡、剥奪可能です]
レベルアップのインフォメーションに混ざって、そんな公式インフォが聞こえてきた。
なるほど、レイドクエストは参加したプレイヤー全てにエリアの自治権が認められると言うことか。
このことから簡単に考えられるのは……、
「解放ポイントを持ったプレイヤー同士の奪い合いが始まるな」
「それはおまえだけだバーカ!」
十八豪に頭を殴られてしまった。
いや断じて俺だけじゃないだろうに……。
「──奪い合いを考えてそうなのがそこに一人いるぞ」
「ぐはっ!」
かねがね気配を感じていたので、船室の入り口の方に隠れていた男に弾機銛を打ち込んで捕まえた。
戦いの混乱と、戦闘が終わって二つの船を並べての被害確認に乗じて盗賊ギルドのプレイヤーが数人入ってきていた。
奴らは色々偽装するからなこうしてレッドネームが混じっていても不思議じゃない。
まだ戦いはまだ終わってないということか。
カイトーのやつは基本的に殺しは趣味じゃないと言っていたが、暗躍する人種と言ったら十中八九そういう輩だと決まっていると、俺もリアルでは相当狙われてきた。
そのまま太ももに二発目をぶち込んでおいて、倒れたところで首根っこを掴みあげた。
「ぐっ、なぜわかった」
「視線とか気配かな」
首根っこを掴まれた盗賊プレイヤーは苦悶の表情だ。
彼の上に見えるレッドネームがプレイヤーを殺してきた証拠。
ってことはプレイヤーから殺されても仕方がないってことだな。
「さらば」
そのまま首を斬り落としにかかる。
結局のところ、ケンドリックもデリンジャーもよく分からない結果になった。
真意を探る前に船ごと藻屑にしてしまったからだ。
「待て」
「む?」
船前方の甲板あたりから投げナイフとともに声が掛かる。
手甲で撃ち払いつつ、声の正体を確認する。
「交渉しようじゃないか」
盗賊プレイヤーを引き連れたデリンジャーだった。
なぜかケンドリックの鎧の襟元をつかみ上げて引きずっている。
っていうか、挨拶代わりにナイフを人に投げるなと言ってやりたい。
「交渉?」
「そうだ。ギルドの連中を殺されるのは困る」
だから、そこのお馬鹿ボンと引き換えにってことなのだろうか?
……いらねぇ、処分していいから俺もこいつを処分させろよ。
「……依頼主じゃないのか?」
そもそもノークタウンから潜入させられていたセイスとシエテに雇われていた盗賊ギルドの腕利きという話だが、ケンドリックを交渉材料に盗賊ギルドのプレイヤーを引き渡せっておかしい話だよな。
「依頼主? ……ああ、確かにそうだが──」
蔑んだ視線ををケンドリックに送るデリンジャー。
「──まさかここまで使えないやつだとは思わなかったからな、もういらん」
「いたっ!」
好きにしろとばかりにケンドリックのケツを蹴って俺らの前に差し出した。
ケンドリックは事態がわからず謎めいたバカ顔でケツを抑えている。
「そら、とりあえず煮るなり焼くなり好きにしろ。なんなだら捕縛状態してやってもいい」
「こいつを交換条件に渡せだ? 反吐がでるな、とりあえずもう少し話をまとめてから出直してこいよ。てめぇ途中まで先頭に参加せずに裏でこそこそやってたみたいだけどな、んなやつの話なんか信じてられねぇのが世の常ってもんだぜ」
ケンドリック勢のセイスとシエテに雇われていたはずのデリンジャーが、依頼主のトップを売るような真似をしている、そんな状況にみんなが一様に固まる中、デブが前に出た。
コーサーファミリーのアンダーボス、トンスキオーネ。
っていうかコーサーが空気だ、コーサーどうした。
「ポンコツにまとめさせとけよ。そいつ自体には価値がねぇがそいつが持ってるもんには大いに価値がある。とりあえずノークタウンの市場を多少牛耳ってるみたいだが、そこを解放させるように話をまとめて出直してこい」
「な! そんなことするはずないじゃ──」
「黙ってろ」
突きつけられた銃口にハッと息を飲むケンドリック。
ちなみに顔面にもろに食らっても、ケンドリックは戦士職っぽいのですごく痛くて多少HPが減るくらいだと思うのだが、状況に飲まれてるんだな。
「た、頼むから銃口を押し付けないでくれ! ぼ、僕は銃口恐怖症なんだ!」
「黙ってろ! 黙ってたら銃口は向けねぇ」
一喝することでようやく両手で口をつぐんだケンドリックは、大きく動揺を顔に浮かべながらウンウンと顔を頷かせていた
「そうなの?」
すぐ隣に実妹っぽいのがいるので聞いてみると。
「……六歳の時、お兄様は色々とありましたですの……でもまさかあの年になってもトラウマとして抱えているとは思いませんでしたわ」
「そ、そうなのか……大変だな」
俺が初めて銃口を突きつけられたのは高校生の時だったかな。
恐怖心はなかったが、港の倉庫に監禁されてたトモガラを助けに行ったっけ。
六歳ともなれば大人が怖いだろうし、そりゃトラウマにもなるか。
「で、どうする?」
そんな回想に浸っている間もトンスキオーネが話を進める。
表情を変えないデリンジャーに対して銃口を突きつけながら。
「どうするもこうするも、それこそ俺の範疇じゃないと思うが?」
「じゃ、交渉決裂だな」
銃口は俺が抑えている盗賊ギルドのプレイヤーに向けられた。
交渉決裂大賛成。
なんだかきな臭い奴らは叩いておく必要がある、根元から。
カイトーも同じ賊ギルドにいるんだろうが、まあこの戦いに参戦しているわけじゃないから大丈夫だろう。
「じゃあ、やっちゃっていいのか」
「俺の銃の意味がねぇが、やっちまえ」
「よし、さらば名も知らない盗賊」
「──ひぃっ!?」
一思いに首をへし折ってやろうと鼻と目に指を突っ込む寸前でデリンジャーから声がかかった。
「待て」
トンスキオーネの表情がその声でニヤリと変わる。
リアル仕事に色々遅れが出ていたこともあり、執筆長期休暇とってました。
九月に入りましたしえっちらおっちら再開です。
お待たせして申し訳ありません。