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「グオオオオオオオオオオオ!!!!!」


 レイドボスが咆哮とともに無理やり怯みの異常状態を解除する。

 HPが一割切っているので、それが原因だと思う。

 あとひと押し、だが、そのひと押しが遠かったりするものだ。

 手負いの獣は手強い。


 殺すか、殺されるか。

 そんな世界では生命が本能的に死ぬことに抗おうとする。

 抵抗だ、潰されることに対する抵抗。


「ぐおっ! カウンターができねェ! タイミングは取れてやがんのに!」


 かろうじてブロッキングはできたようだが、一番面倒だと判断した三下さんにマナズマの攻撃が向く。

 纏っていた濁流が全身を覆ってすでに一つの竜巻のようになっている。

 さらにどういうことだろうか、船が勝手に動き出した。


「う、うわああああ!! 流されてる!!」


「な、なんで急に渦が!!」


「流れに負けるな! とにかくエンジン部分に魔石を大量に持ってこい!!」


 遠くの船からそんな声が聞こえる。

 残った船は二隻。

 渦に飲まれぬよう必死に抵抗する。


 ケンドリックの船は沈めたから先に中心に運ばれてた。

 プレイヤーキラーも同じように中心へ。


「くっそおおおおお!! な、なんだこれは!」


 あ、生きてた。

 てっきり崩壊に巻き込まれてある程度死んだと思っていた。


 鎧を着た騎士なんかは、水属性スキル持ちがいないから重みに負けて水面に浮上できずいの一番に死に戻りだ。

 いい気味だが、船の上から追撃を与えて倒すつもりだったから、マナズマは本当に余計なことをしてくれたもんだ。


「いい気味ですわねお兄様! そのまま渦に飲まれてノークタウンに帰りなさい! ホホホホ!」


「グヌァー! アンジェリック! 我が妹よ! この恨みは二度と忘れないぞー! そしてローレントめ! 貴様もいつかこの僕が直接手を下す──」


 あっ。

 飲まれてしまった。


「諸悪の根源は海の藻屑になっちまったなぁ! ガッハッハッハ!」


 ガツントはそういいながら大きく笑っていた。

 あんな兄貴でもゲームでそそのかされて破滅させられたってことで色々と積もっていた思いがあったのだろう。

 言葉の端からやや毒を感じた。


「ルビー、戻るぞ」


 本気を出したマナズマは渦の中央に飛び込んだ。


『ギャアアアア!!!』


 ケンドリック達を巻き込んで。


「おい、あと少しだが、これどうすんだ? さすがに漁師でも渦の中に潜れねェだろ」


 三下さんが船の手すりから水面を見下ろし、そう言っていた。

 現実にそれを度胸試しでやったりすると普通に死ぬからやめておいたほうがいいだろう。

 大橋がある海峡だと小さな船外機程度ならぐるんぐるん操作不能になるほどの渦ができる。


 怖いぞ、落とされた本当に怖いぞ。

 本当に、うん、マジで……うん……。


「胃がムカムカしてきた」


「ヘッ! 漁師が船酔いってか! 笑えるぜ!」


 いやそうじゃないんだが、とにかく今はレイドボスだ。

 渦に潜ったマナズマを、固唾を呑んで見守るプレイヤー達。


「ツクヨイ」


「ああ、やっぱり私ですか」


 なんだ?

 なんか不満があるようだが……。


「どうした?」


「どうしたもこうしたも私との約束ブッチしましたよね?」


「……そうだっけか?」


「ああ! やっぱり忘れてる! 戦闘とか興味ないこと以外は記憶回路どうなってやがるんです!?」


 そう言われても……なあ、確かなんでもいうこと聞いてあげるってやつか。

 でもまあ無理難題を押し付けられたら、そりゃそうなるだろうなあ。


「ローレントさんのプレイ時間を一日ください」


「え?」


「だーかーらー、一日くらい一緒にGSOプレイしてもいいでしょってことですよ!」


「ああ、うん、それくらいなら」


「「──なにぃ(ですわっ)!?」」


 ツクヨイに二つ返事で返すと、なぜか十八豪とアンジェリックの方から声が上がっていた。


「そういうものはしっかり周りの方々に許可を取って行ってるんですこと!? ツクヨイさん!」


「小娘がなかなかいいジャブをくれるじゃないの……許可は取れてんのかい?」


 誰の許可だ、誰の。


「へっへー! ぶらっくぷれいやぁが一番乗り! こちとら師匠の転移魔法陣で一足先に王都でランデブーかますんじゃーですよべらんめぇ!」


「「ぐぬぬ(ですわっ)!」」


「おいおいおいおい、てめェらレイドボス中になに乳繰り合ってんだって話だぜェおいィ! とにかく今はそんな場合じゃねーだろーがよォ! ほら、くるぞ──!!」


 渦の中心からマナズマが唸りを上げて飛び上がった。

 回転させるその姿はまさに昇り竜のようだ。

 更に言えば、俺らの目線も若干高くなっている……ん?


「うおおおお! 目線じゃなくて実際に上昇してんじゃねぇか!」


 ガツントが船の手すりにしがみつきながらそう叫んだ。


「みんな捕まれ!」


 マナズマを起点に巨大な水の渦が上空に向かって巻き起こる。

 レイドボス、HPが一割を下回ると周りの環境を変えるほどの力を使ってくるのか。

 手強い。


「──うわああああああああああ!!!」


「掴みのスキルレベル弱いじゃ耐えらんねェ! 身体をロープとかなんでもいいから固定しろ! クッ、助けられねェか!」


「任せろ」


 飛ばされたバンドーレファミリーの一人を漁網でキャッチする。

 手荒だが我慢してくれ。


「どうすんだ!?」


「落ち着け三下さん」


「落ち着けって言われてもよォ……チィッ、俺も切り札を……」


「待て、さすがに環境を変える規模の攻撃はカウンターできないだろう」


 そもそもこれが攻撃判定なのか、謎だし。

 この規模をカウンターできてしまったら、それこそ天変地異だよな。


「やってみなけりゃわかんねェ! ってかなんで落ち着いてんだよテメェ!」


「切り札があるからだ」


 そう、レイドボスに通用するかわからないが、レイドクラスのスキルだからきっと行けるだろう。

 全ての状態をリセットでき、そして相手に異常状態を付与するスキル。


「いけ、ツクヨイ」


「ひえええええ〜〜〜〜!!!」


 あかん、それどころじゃないっぽい?


「詠唱してる暇が……ッッ!!!」


「スクロールを使え!」


「ええ! あと一枚しかないのに……緊急回避用で逃げるときに使おうと思ってたのに……!」


 そんなくだらない理由で使おうと思っていたのか。

 緊急回避と逃走技術ならいくらでも教えてやるから早く使え。

 そう視線を送ってやるとツクヨイは観念したように【後転詠唱のスクロール】を使用した。


 ブラックダウン──湖いったいが暗転する。


 レイドボスの動きが止まり。

 纏っていた濁流も、そして凶悪な環境攻撃を担っていた巨大な渦も消えた。


「衝撃に備えろ!」


 そう叫び残して、俺はマナズマに飛んだ。

 今から一分間、ブラックダウンの効果で弱体が行われる。


 十分だ、残りは一割。

 そして弱体化。

 さらに俺の攻撃は防御無視。


 一分あればお釣りがくる。

 しかも水中じゃないしな。

 スキルを継ぎ足して、全力だ。


「エナジーブラスト、マナバースト」


 エナジーブラストの攻撃から間髪入れずに頭に六尺棒をぶつける。

 悪鬼ノ刀でもいいが、そう言えば単純ダメージってこの六尺棒だと限界点まで持ってこれる。

 あ、そう言えば新素材で六尺棒作るの忘れたなあ……まあいいか。


「スペル・インパクト」


 を、付与した攻撃を脳天に叩き落とす。


「グオオオオオオオオオオオ!!!!!!」


 抵抗する暇もない。

 レイドボスのHPはこれで一気に削れてゼロになった──。







レイドボス編、決着です。

あれ、毒瓶は? 盗賊達は? 結局誰がどうなったの?

それについてはまた後で語られます。


いつもウェブ版のGSOを読んでいただきましてありがとうございます!

ブクマ、評価も沢山いただけまして、感無量です。

感想、メッセージ読ませていただいてます。

すぐに返信できる分にはしたいんですが、なかなか時間が取れず、といった形になってしまっていて申し訳ないです。

返せるときと、誤字修正できる時が来ましたらやっておきます。


ウェブ版、書籍版、ともども。

応援してくださる皆様には感謝がつきません、今後ともよろしくお願いいたします!


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