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「お、おい──」
フードを被った男が、いつのまにかガツントの後ろから彼の心臓をひと突き。
気がつかなかった、どう言うことだ。
「くっ!」
マナズマより先にこの得体の知れない男だ。
ガツントを殺していると言うのにレッドネームではなく、かつ鑑定でステータスも読めない。
そしてすぐに背中に飛来物。
弓? お馬鹿ボンか?
いや、違う別のやつだ。
たった今、明確な殺気を感じた。
狙いは首筋。
寸分の違いもなく吸い込まれて行く。
即死は免れるだろうが、これだとクリティカルヒットだな。
「マナバースト」
弾く、そのまま攻撃力上昇とともに、悪鬼ノ刀をアポートで手に持ちガツントから男を引き剥がしにかかるのだが、男がにやけた。
「グッバイ魔王」
「あ?」
しまった、後ろからはマナズマは俺とガストンをまとめて薙ぎ払う。
全身に強い痛みを感じる。
ガツントは?
「ぐふっ、感覚きっとけばよかったぜ……」
しぶとく生きていた。
とにかく、上級ポーションをガツントに投げつけておく。
あとは虎の子の中級フェアリークリスタルの回復だ。
大ダメージゆえに一部動きに制限がついてしまうと思うが、気合いでなんとかしてくれ。
病は気からというし、ゲームだけどなんとかなるんじゃないか?
とにかく、気合いでなんとか……。
「お、俺よりてめぇのが……」
「喋るな」
「こ、このままだと叩きつけられるぜ……」
「大丈夫だ、問題ない」
湿地帯に生える木々の細枝を一身に受けへし折りながらも、まだぶっ飛んだ勢いは衰えない。
いつかは減速するだろうが、実際は太枝に叩きつけられて終わる。
漁網のストックはマナズマに使った分で終わりじゃない、まだ残っている。
ストレージからアポートすると大きく広げる、そして弾機銛で高い位置にある太めの樹に撃ちつける。
「うおおおお!」
「しっかり掴まってろ」
もともと巨大な水棲モンスター様に作られているので、大人二人分の重さが加わっても大丈夫だった。
そのまま受け止められ、次は大きく外にはじき出されるガツントの鎧を掴んで、揺れが収まってから地面に戻した。
「……助かったぜ、ありがとな」
「傷は?」
「ハイブーストとガードブーストのおかげで鎧耐久とクリティカルダメージに対する防御性が増してたからだいぶマシだぜ、このHPポーションもすげぇな、ペナルティがあるとはいえ、俺のHPがほぼ満タンに回復しやがった」
レイラ謹製の上級ポーションは耐久重視の戦士職であるガツントのHPをほぼ満タンに回復させるほどの効果を秘めていた。
やや大ダメージによるペナルティを受けてHP等が大きく減っているにしろ、現状戦士職のHPを全快させるポーションは存在しない。
レベルが低いと中級でも回復するだろうが、基本的にこのゲームはHP量というよりも、いかに相手の攻撃を受けるか躱すかして被ダメージを減らす技術が重要になって来る。
要するに防御スキル重視ということだ。
そういった耐久性を持たないとクリティカルダメージを与える急所攻撃であっけなく殺される結果になる。
もっとも過去に何度も言っているが、人間というはほぼ全ての動物が本能によって急所への攻撃を守るか避けるかナチュラルに行うことができる様になっているので、スキル外で意表をつくには技術がいる。
そうすると……ガツントの胸と俺の首筋に狙われた攻撃はスキルによるものだ。
わかっちゃいたが、レイドボスに被せて来るとは思わなかった。
いや、確かに一番の隙をつく形になるが……仮にも主戦力級である俺たちが戦線から離脱したらどうなる?
ケンドリックめ。
正直ただの馬鹿だから相手をする価値もないし、あの一件以来第一拠点に何かして来ることもなかったので完全に頭の中から消え去っていた。
そうだよ、俺と同じ様に意外と執念深いし嫉妬深い。
アンジェリックよりもその傾向が強い、そんな気がする。
「──ナメやがって」
自然とそんな言葉が出た。
「お、おい……?」
俺の様子を見ていたガツントが少し驚いている。
そうだ、驚いてろ。
俺、もともといい人じゃないっていうか、大事にするのは味方くらいだぞ。
人生は敵か味方か、それ以外。
「仕返しに行く」
色々とかき回して反応を見ようと思っていたが、こっそり動くのはやはり性に合わないな。
だがどうする?
プレイヤーキラーは明確な敵で殺してもゲーム内で罪に問われないが、ケンドリックはまだレッドネームではない。
殺した場合、俺がレッドネームになってしまうだろう。
……決闘だな。
とりあえずこっちから仕掛けてみるか。
その前にプレイヤーキラーをどうやって倒すかが問題だ。
「ど、どこ行くんだ? おい、待てって! 仕返しってなんだよ!」
「プレイヤーキラーとケンドリック達に制裁するってこと」
「はあ? まぁ、それには賛成だけどよ……ケンドリックはプレイヤーキラーじゃねぇからそんなリスク背負う必要ねぇだろ、考え直してプレイヤーキラーだけ倒して関わらない方がマシだ」
そういえば、こいつはノークタウンから名目上派遣されてきた戦闘屋って立ち位置だったよな。
「ガツントはケンドリックのところにいたんだろう? 弱点とか知らないのか?」
「皆目見当もつかねぇけど、だいたいプレイヤー間での噂になってる悪事はあいつが発信してるって思っていい。そんなやつだ。俺も正直寄りつきたくねぇよ、兄貴以上に逝かれたやつだし」
そんなガツントがノークタウンのケンドリックの拠点に出入りしていたのは、そこならソコソコの規模の情報が揃うだのなんだの実兄であるガンストから耳にしていたのと、単純に割とゲームを始めたばかりの初心者に優遇措置を取っていて、手っ取り早くレベルをあげるには最適だったからだという。
「まあ、ある程度レベル上がったらそれをネタにあれしろこれしろって押し付けて来るぜ。面倒だったからゴリ押しでてめぇのところに直通派遣されて来た。戦った後は、そのまま戻る気はなかったぜ、ガハハ!」
快活そうに笑うガツントは、よしと盾を担いて俺の元へ歩み寄る。
「本当に制裁できるんだろうなぁ?」
ニヤリと笑うガツント。
「できるできないじゃなくて、やるんだよ」
「よっしゃ乗った! あいつらに一泡吹かせてやるぜ!」
俺の返答を聞いて、満足そうにガツントは頷いた。
ほう、この男はなかなかアドリブに強いみたいだな。
ガツント、いいね。
「よしとりあえずこれで魚を釣れ、今すぐに」
「はあ? なんで釣りなんかしなきゃいけねぇんだよ」
「漁師を取ればアクアベールがなくても水中で動きやすくなる」
「……? 戦場は甲板だが……まあとりあえずわかったぜ」
朝更新が止まってすいませんでした。
実は土日の二日間で朝から御殿場まで泊まりの仕事で出てました。
ええ、日曜日の予約投稿を忘れていた次第であります。
発売記念で一日二回更新とか続けてるにも関わらずすいません。
とりあえず日付が変わる間際にもう一話あげたいと思いますねー。
ここまで頑張れるのも、感想、ブクマ、評価でここまで応援してくださったみなさまと、自書籍を買って読んでくださるみなさまのおかげです。
本当にありがとうございます、あとがきもほどほどにして更新しますねー。