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「ローレント様、ちょっとこちらへ」


「ん?」


 アンジェリックに手を引かれ、そのまま船内へ。


 後ろで十八豪が「あ、なに勝手に! ってこら待ちな!」と叫んでいたがアンジェリックは全く聞く耳を持たずにするするとケンドリックが乗って来た船の自分の部屋へ俺を連れ込んだ。


「これで、二人っきりですわね」


 そんなことを言いながら周りに目配せをすると、持っていたゴージャスな扇を口元に当ててひそひそ声で話す。


「戦いはお兄様にお任せして、このままお逃げくださいまし」


「ん? どういうことだ?」


「言葉のままの意味でございますわ」


 詳しく話を聞くと、どうにも盗賊ギルドとの繋がりがきな臭いらしく。

 ケンドリックは宿敵第一拠点の奴ら、それも俺に対しての深い恨みつらみを持っているとのこと。

 まだ根に持ってんのな……?


「きな臭いのは元からだろ」


「あら、それもそうですわね」


 自分の身内をそう評されているというのに、アンジェリックは飄々とした表情で腕を組む。

 腕の上に、巨乳が乗る。


「ですが、お逃げください。甲板には上がって来ていませんが、予備戦力のうちの何人かに、プレイヤーキラーが紛れ込んでいますから」


「……なに?」


「ローレント様、良くないことが起こるには想像に容易い状況が出揃っているわけでしてよ? 妾、それを伝えにわざわざこの場までやってきたのですから、おとなしく言うことを聞いてくださいまし」


「断る」


「まあ、聞き分けのない」


 ……お前は俺のなんだ?


 別になんでもいいが、ケンドリック陣営がこの場に来ているなら、まだ泳がして俺の毒をどこにやったか終わってから問い詰めるのもありだろう。


 それにプレイヤーキラーから逃げるように戦場を脱出するなんて、この俺がするわけない。

 面白い、三百六十度全てからかかって来たプレイヤーキラーなんぞ、蹴散らしてやろう。


「プレイヤーキラーは何人だ?」


「まさか……やる気ですこと?」


「そう」


 そのまさかです。


「はぁ……でもその回答は予想できていましたのことよ? まったく、血の気の多い殿方ですが、妾、そこに惹かれたものですから……」


 ため息の後、そう言いながらアンジェリックが俺の胸に体を預けてくる。


「束の間の逢瀬をば」


「おい」


 逢瀬とか、意味わからんので、退歩を用いで後ろに下がる。

 俺のほどの極みに至ると、まるで滑るようにして転身させ避けることが可能だ。


「きゃっ!」


「危ない」


 結果的に抱きしめる形になってしまったのだが、これは不可抗力だぞ。


「ローレン……」


 ──ドドドドッ!!!

 船が揺れた。


「どうしたんだ?」


 すぐにアンジェリックを立ち直らせ、彼女の個室を出る。

 その時、後ろをついてくるアンジェリックからこう言われた。


「決して、負けないでくださります? 妾が認めた殿方なのですから」


「──当たり前だ」


 負けるわけないだろうに。

 笑った口元を扇で隠すアンジェリックとともに外に出ると、なぜか壊滅的な被害を受けた大盾隊の姿があった。


「なにがあったんだ」


「おら、てめぇなに乳繰り合ってんだ! あのデカブツがまた動き変えやがった!」


 どういうことか、詳しくガツントに聞いてみると。

 大盾隊の準備が整い再びマナズマの攻撃をガードし、その間に攻撃する。

 という工程を行おうとしたらしい。

 だが、チャージを途中でやめたマナズマは口から瀑布のような勢いの水を吐き出し、長い体をしならせて大盾隊の横っ面をその尻尾でなぎ払った。


「……馬鹿正直に同じことを繰り返すから対策取られるんじゃ」


「くそっ! 行動パターンの解析はまだか! セイスは指揮で待機してシエテは下方序列の者たちと協力して情報を洗い出せ! 僕は間違っちゃいない、実際に運用はできていたぞ!」


 俺の一言が癪に障ったのかそう顔を赤くしながらケンドリックは地団駄を踏んでいた。

 戦いはなにが起こるかわからない、それを予期して動くのが先決だ。

 強烈なアドリブ力が試されるんだが、基本人間基礎能力を超えるアドリブは無理だ。


 そしてアドリブ力は膨大な経験値の積み重ねによって養われる。

 路上で鳴らしたストリートミュージシャンのパフォーマンスやセッションは個室にこもって練習する音大生にはとうてい真似できない。

 逆もしかし、まず逆の場合楽譜が読めない。

 基礎がないからな。


「次撃がくるぞ! ど、どうする! 盾隊は動けるか!?」


「無理だ! どうする!」


 結果的にケンドリックが連れて来た者たちはマナズマがその戦略に適応したことで使い物にならなくなった。

 攻略が早すぎる。

 正直言って、マナズマの方が頭がいいレベルだと思った。


「指揮官、交代だな」


「な、なんだこのデブ! 僕の兵隊だぞ!」


「ぷはぁー」


「うわっぷ! なにをする! 人に煙を吐きかけるなんて失礼だと思わないのか!? この船は全域禁煙だぞ!」


「あーはいはい」


 煙を吐いて耳を掻きながら、復活したトンスキオーネがシャツの襟を正しながら船を渡る。

 そして戦線の立て直しを図る。


「まだ村議会の方がマシだな」


「こ、このデブ! 僕になんてことを……ま、まあいいだろう、ならやってみろ。今回だけ貴様に僕の兵を貸してあげるから、この状況をなんとかしてみるといいさ、ま、僕に泣きつくのが関の山だろうけどね!」


 プリプリと怒りながらケンドリックは船内へと戻って言った。

 呆れた顔で奴を見ながら、トンスキオーネは指示を出していく。


「おら、撃ち殺されたくなかったら俺に従え、てめぇらのボスはこの俺様に指揮権を譲った。だから大人しく従えよ、生き残りたかったらな」


 その脅し文句はどうかと思うが、ケンドリックが彼に任せたところを見ていたケンドリック陣営は、渋々従い出す。

 壊滅した大盾隊も、予備の盾を出して再び陣列を取り魔法職隊を囲む。


「グオオオオオオオオオオ!!!」


 だがその間にもマナズマが襲いくる。

 盾が厄介だと理解して、邪魔をするつもりのようだ。


「誰でもいいからあいつなんとかできるやついるか?」


 まず、トンスキオーネはガツントに目を向けるが首を振って返されていた。


「あの規模をブロッキングする技術はねぇ。ってかできるわけねぇだろ」


 そうか? 三下さんならできると思うけどな。

 ガツントの意見を聞いて、トンスキオーネの目が俺を射抜く。


「最終兵器コンシリはできるだけ温存しておきたいが……やるしかねぇな。俺が戦役を立て直すまでなんとかできるか?」


「……信じていいのかそれ」


 トンスキオーネスペシャルが無理だっただけに、いささか同じ展開なのはちょっとどうかと思うのだが……いやほんとに展開同じだってこれ、大丈夫か?


「これだけの練度の兵がいれば大丈夫だろ」


 ……本当だろうなあ。

 さすがに天丼はなぁ……。


 そう思っていると船舶下部へ続く階段から、ざっくばらんな装備をつけたプレイヤー達が姿を表した。


「けっ、統率よか、個人プレイだぜ」


「えへへ、とりあえずあのデカブツ打ち抜いちゃえばいいの?」


「盾隊は脇が甘いんだよ、脇が」







めまぐるしく登場します。

書籍版でもこう言う馬鹿達がいっぱいいます。

というかケンドリック陣営は基本的にみんなばかぁ?です。


感想、ブクマ、評価いつもありがとうございます!

ウェブ版も書籍版も共々よろしくお願いします。



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