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おはようございます、とうとう今日が書籍版の発売日です。感無量。


「随分と人気者じゃないか、あんた」


「……まじか」


 大きな歓声を聞いて、十八豪がニヤついていた。

 大事な話の真っ最中だっていうのに、いったいなんなんだ。


「それでは、一言お願いいただけますか?」


「……いや」


 断ろうと思っていたのだが、集まる視線に抵抗不可だということを悟った。

 くそ、蔑まれる分にはこっちとしても平気で切り殺せるからいいんだが、こう羨望ちっくな視線に苛まれると、少々動きづらい部分がある。


「動画見てたー!」


「うおおお、俺実際初めて見たかも!」


「VR配信勢よりも動画の再生回数ダントツトップなんだよな! すげぇ!」


「KAKINCHU並みじゃん!」


 動画? VR配信? 再生回数?

 いったいなんの話だ?


 それに、カキンチュウってなんだよ。

 みんなが知らないワードを思い思いに口にしていて辛かった。


「ばっか比べ物になんねーよ!」


「ローレントさまー! 連絡先教えてください!」


「かっこいい!」


「あれでリアルはすっげー達人なんだろ? やっべーかっけー!」


「門下生になりたいんだけど」


 ……なんだこれは、なんだこの状況は。

 いったい、いったいどういうことなんだ。


 なんとなく虫酸が走って歩きづらい。

 一番端っこから様子を見ていたのだが、手招きするセイスによって前に行かざるを得なくなった。


「ささ、こちらへ」


 こちらへじゃないが。

 少しだけ繰り上がった壇上に乗ると、村議会が拍手する。


 さらにその拍手は参加プレイヤーに広まって行く。

 船をちらっと見ると、すでにバンドーレとトンスキオーネが乗り込んでいるようだった。


「ぷくくくっ……くかかかっ……」


「おい、てめぇのボスだろ? あんまり笑うなよ」


「いや、笑わない奴がおかしいだろ」


 顎の肉を震わせて笑っていやがる。

 くそったれ、トンスキオーネめ、一度しめておこう。


「……それでは、今回のレイドボスイベントに対して一言意気込みを」


「う、うむ……」


 どうしよう、こういうの苦手なんだよな。

 人前に立って何かを述べたことはない、いつだって述べる奴らに対して持論をぶつけてくる人生だった。

 そんな気がするからだ。

 人生を通した、チャレンジャーなのだよ。


「ほ、ほんじつはお日柄も、よ、よく──」


「──おらぁっ! ローレントてめぇにだけいいかっこさせねぇぞ!」


「む?」


 適当な口上を並べ立てようとしたその時、参加プレイヤーを挟んだ向こう側から声が上がった。

 いったい誰だろう?

 みんなの視線が注目する。


「へっ、ノークタウンのプレイヤーズギルドから、助っ人に来てやったぜ、ありがたく思えや!」


 大きな斧を背中に下げた大柄な男が、乱暴にプレイヤーたちをかき分けながら前へと突き進んでくる。

 当然押しのけられたプレイヤーは反発する。


「おい、いきなりなんだてめぇ!」


「そうだよ! せっかくローレントさんからありがたい言葉が聞けると思ったのに!」


「何このヒゲダルマ、くっさ! なんか汗臭いわよ!」


「うるせぇーーーーーー!!!!!!」


 男の大声。

 ピリピリとした衝撃が走り、やいのやいの言っていたプレイヤーのがやが消えた。

 スキルか?

 攻撃性はないが、少し面倒なスキルっぽいな。

 大男は壇上へ上がり俺の前へくる。

 横に広く思えたが身長は俺と変わらんな。


「へへっ、てめぇが今回のレイドベントで指揮をとるって?」


「……いや、違うけど」


 村議会を見る。


「指揮は私とテージシティから来て頂いたNPCが……」


 セイスがそういうが、ノークタウンから支援に来たというこの男は、地団駄を踏みながら再び叫んだ。


「うるせぇーーー!! どうだっていいんだよ!!」


 ええー、何が言いたいんだこの男。


「てめぇが立役者って持ち上げられてるのが気にくわねぇ、だから誰がレイドボスを倒すにふさわしいか勝負だ!」


 この男の思考回路が謎すぎた。

 俺も大概だと思うが、こんなに意味不明なことはしないぞ。


 だが、逆に考えて好都合。

 慣れない口上を言う必要もなく、体を張ってレイドボスに挑むのはどう言うことか。

 それをここに参加するプレイヤーに教えておくチャンスだ。


「あ、あの……あなたはいったい」


 制止しようとするセイスであるが、男はもはや聞いちゃいない。


「あん? ノークタウンのプレイヤーズギルドから戦闘支援しに来てやったガツント様だよ、覚えときな!」


「いや、聞いてないんですが……まあありがたいです。それで戦闘員はどれだけ連れて来ていただいでるんですか?」


「俺一人だ!」


「はあ……???」


 セイスも言葉の意味がよく理解できていなさそうだった。

 いつのまにかこの男の口車というか、テンションに引っ張られて、俺が戦う戦わないだの、そういう話が周りから上がり始めている。


「いいからやろうぜ、話はそれからだっ!」


 サムズアップするガツント。


「うおおおー! なんだかわかんねぇけど戦いが見れるのかー!」


「やれやれー!」


「そんな奴やっつけちゃえローレント様ー!」


 村議会は何としても出発前の騒ぎを収めておきたいはずだ。

 戦闘員はたった一人でもいないよりマシ。

 これで決闘したらどっちかが必ず消耗するからな。


「いやその」


 おろおろするセイス。

 だが後ろで腕を組んで見ていた空気の読めないシエテが言い放った。


「勝者が今回の栄誉を得る! よしやれ!」


「…………な、何を言っているのですかあなた」


「セイスさん、ここはノリに任せた方がいいですよ。士気が上がります」


「…………お前の予感は毎回外れてるだろうが……あとで説教だ」


「ええ!? 待ってくださいセイスさんなんでですか、ちょっと」


 シエテざまあ。

 とりあえず、戦いは避けれなさそうだから、ガツントの決闘申請に許可を出しておく。


 消耗を避けるならば、という案をセイスが命じてくるのだが。


「男と男の戦いにそんなもんねぇよ!」


 と、全賭けルールになった。







一日二更新頑張れてよかったです。

いつも月末とかちょこちょこおやすみもらってましたが、みなさんの応援のおかげでモチベーションを保つことができました。


感無量です。

本当にありがとうございました。


ちなみに私にお盆休みなんか存在しないので。

連休が存在する皆様はぜひウェブ版共々暇つぶし程度にお読みいただければと思っております。



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