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「どうだ? うめぇだろ? 革新的だろう? 南はいいだろ? そろそろ王都から離れてここいらで一世一代の賭け事をやってみるのはどうだ? なに、俺たちにはバカみたいに強いアホと、えげつない手腕の豪商がついてるんだ。お前も俺に寝返れ、──バンドーレ」


「いったいどういう風の吹きまわしだ。俺みたいな中小マフィア風情をこんな南の果ての地に呼び出しておいて……」


「ふん、果てでもなんでもいいが、居心地が良いか悪いかで語るんだな」


「悪くないな」


「だろ?」


「だが、俺には独裁女帝ファシミからの誘いがある。さすがに断れば潰されちまう」


「…………よし肉を食え。肉を」


「…………どういうつもりだ?」


「……ファシミストロの糞女がこっちに来る前に引っ越してくれば良い」


「本気でいってんのかトンスキオーネ」


「ああ、本気だとも。こっちにはアホ邪神と豪商がついてるから心配いらねぇ、むしろ正式に表立った商店だって事で裏から足を洗っちまうのも良いかもしれねぇぞ?」


「……中小通し仲良くやってきたつもりだが、本気でおまえがわかんねぇ」


「けっ、世界は広いってことだ。俺がペンファルシオに勝てたのはアホがバカやったからだな。とにかく俺の言葉を信じてついてこいってんだ」


「はっ、マフィアのおまえの言葉をか?」


「マフィアだからだろ」


「ちげぇねぇやっ!」


 焼肉トウセンで何やら聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 トンスキオーネ張り込みのために焼肉トウセンへと足を運んだわけだが、手間が省けた。

 それにしても、何を話してるんだか。


「俺たちにはアホでバカだが、とんでもなく戦闘に長けたボケがいるんだよ。よし、今日からバンドーレ、てめぇのファミリーはトンスキオーネファミリーのお囲い傭兵だ──ぶはぁっ!」


「な、誰だっ!?」


 最初からバカだのアホだの聞こえていたぞトンスキオーネ。

 これは少しばかり灸を据えてやる必要があるな、俺はドアを蹴破った。


 おい、その贅肉に。

 そのベルトをサンドイッチしてる贅肉を切り落としてやろうか!


「コ、コンシリエーレ!」


「その名前で呼ばれるのも久々だがなトンスキオーネ……立場の違いを今一度教えてやる」


「イダダダダダ!!!」


「……お、おい、もしかしてトンスキオーネ……てめぇの上役っておい……」


 確か、バンドーレと言ったか?

 俺がトンスキオーネの贅肉を掴み上げていると腰を抜かして顔を強張らせたバンドーレが震える声で叫んだ。


「──草原の黒い悪夢!」


 ……は?

 草原の黒い悪夢ってなんだよ。

 言ってみろよ。


「ひいっ! 刀を向けないでくれ!」


「……おい、なんでバンドーレがあんなに怯えてるんだ?」


 俺に転ばされ足蹴にされたトンスキオーネが首だけ起こして呆れた表情でバンドーレを見ている。

 ちなみに焼肉を乗せた白ご飯は死守している。

 こいつ、人をおちょくりやがってこの野郎。


「イダダダダッッ! イデァーーーーーッッ!」


「う、うわぁ! 肉が紫になっちまう!」


 涙目になっているからこの辺で許してやるか。

 それだけやってもご飯を落とさないとは、見上げた根性だな、トンスキオーネ。


「さて、バンドーレとか言ったな」


「は、はひ」


「草原の黒い悪魔とは?」


「あ、ああああの、その、うちのもんは昼間は魔物の間引きを生業としとりましてててて」


 ……ゆっくり喋れよ、聞き取れないってば。

 とりあえず一度空気を置こう。

 トンスキオーネに奇襲をかけたのが悪かったみたいだ。

 バンドーレはすっかり萎縮してしまって、ろくに喋れない。


「ワァウ」


「ああ、これか」


 敵対するNPCではないとは言え、バンドーレはマフィアだから俺の悪鬼ノ刀がすこぶる怖く見えるらしい。

 中立相手にも怖さを演出する悪鬼ノ刀。

 もしかして、俺のイメージの悪さってここから来ている?

 プレイヤーにも作用するみたいだから、使うのはここぞという時にしておきましょう。

 っていうか悪鬼ノ刀よ、おまえはいったいいつになれば次の進化を迎えるのだ。


 刀をしまうとバンドーレは落ち着きを取り戻した。

 そして改めて上座に腰を下ろした俺の方を気にしながら、何か言いたげな表情をしているのだが……。


「ばくばくばくばく」


 トンスキオーネ、本当に図太い神経してやがる。

 面の皮の厚さと脂肪が比例しているのか、それとも察する神経肉に押しつぶされて使い物にならないのか。

 どっちでもいいが、いい加減にしろ、俺は六尺棒に手を伸ばす。

 だがその前にトンスキオーネが肉を飲み込み話し始めた。


「そうカッカするなよコンシリ、バンドーレの奴が怖がってるだろうに」


「…………いや、そうじゃないんだが……そうでもあるんだが……」


 なんとも言い切れないと言った表情。

 てめぇが脇目も振らずにがっつり食ってるからだろうが、と言いたげな視線を送っているが、俺がいるから何も言えないんだろうな。

 すまんな、バンドーレくん。


 そういうトンスキオーネは自分がさっきまで焼肉丼を貪っていたことなんか棚に上げて、つねられた腹をさすりながら話を続ける。


「まあ、肌で感じたと思うが、この逝かれた野郎がコーサーファミリーの戦う相談役だ」


 うむ、一代で大に届く寸前の中小マフィアを築き上げただけある。

 俺のお叱りのタイミングを見事にズラしやがった。

 トンスキオーネの紹介を受けたバンドーレは、俺がトンスキオーネの館をバキバキにした当時を振り返っているようだった。


「あのトンスキオーネを新米ファミアが接収した噂はかねがね聞いてるぜ……まさか、草原の黒い悪魔がその黒幕だったとは思わなかったが……ペンファルシオを潰したのにも納得がいく」


「だから、その草原の黒い悪魔とはなんだ?」


「ひいっ、睨まないでくれ」


「おーおー、少数精鋭の戦闘特化マフィアが情けねぇぜ」


「トンスキオーネ、てめぇいい加減にしないと叩き斬るぞ」






あと四日です。


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