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「つきましてはローレントさん、あなたは大きな倉庫をお持ちですし、今回のレイドボス討伐の支援もお願いしたいと村議会は考えているんですが……」
「それはできない」
待ち構えていた質問に即答すると、村議員の四名がざわついていた。
やっぱり当てにするつもりでいたのだろうか。
「ですが、これは第一拠点の繁栄のためでもありますし……」
「あの倉庫は他の生産職に貸しているだけで、俺個人の所有じゃないからな」
「そうですか……」
ひどく落胆している様子だ。
そのうち何名かが俺の方を向いて意見を述べる。
「ローレントさんの方からなんとか言付けできないでしょうか?」
「今回のレイドボス討伐に当たって村議会の方からも少しばかり予算を捻出しています」
「そうです、このままではろくな支援体制も取れずにレイドボス討伐に挑む形になってしまいますよ?」
それならば、支援体制をどう取るかという話をするべきではないのだろうか。
黙って聞いていれば、レイドボス討伐が東の湿地帯のエリア開放につながり、テンバータウンと近すぎる立地の第一拠点をそっちへ移すだの、第一拠点の村長集権体制をなんとかしなければ第一拠点は発展しないだの。
なんとなく自分たちの利権について話しているように思えた。
俺は政の詳しい話はわからないが、とにかく彼らはこの状況をよく思っておらずなんとか自分たちが自由に発言と活動ができる場所を求めているというところかな。
「今回の討伐、村長であるレイラの許可は得ているのか?」
「いいえ、レイラ殿は今ここの発展と新規プレイヤー支援でお忙しいと思いますので、外への拡張は私共村議会が請け負っている次第でございます」
許可を得ているとは一言も言わない。
うまい具合に濁しているのがわかる。
「各所から話は聞いている、それで単身ここに来ていることをわかってくれ」
そっくりそのまま匂わせておこう。
すると、ムッとした表情を作る一人の村議員プレイヤーが立ち上がった。
「村議会の権限を使えば、物資の接収が可能になります。それを承知での発言ですか? こちらは頭を下げて頼んでいるんですよ?」
……脅しだ!
「だったら用はない」
これまた用意していた言葉を紡ぐ。
ここに来る途中に予め考えておいてよかった。
俺はローヴォを撫でる手を止めると、立ち上がりそのまま部屋の扉に向かう。
止められなかったら普通に帰ろうっと。
「──お待ちください!」
よかった、呼び止められた。
振り返らずに立ち止まると、呼び止めた村議員が先ほど俺を脅そうとした議員を言い含めていた。
「この者は最近議員になったばかりのものでして、いやはや失礼しました。そうですね、物資の件を負担してくださいなんてことは言いませんので、是非との討伐に力をお貸しいただきたいのです」
「ならいいだろう」
振り返って再び来賓席に戻る。
言い含められた村議員から少し鋭い視線を頂いてしまったがなんのその。
というか俺相手にそういうことすると容易にバレるぞ。
悪態をつかなかったことだけは評価できるが……よし、こうなればとことんだな。
「直接の支援はできないが、消耗品や戦力の融通ならできる」
「なんと、本当ですか?」
「ただし、紹介するだけで交渉はそっちでやってくれると助かる」
「ええ、ええ、助かります」
村議員たちがペコペコと頭をさげる中、先ほど鋭い視線を送って来た村議員が再び口を開いた。
「商人の紹介……まさかニシトモさんではございませんよね?」
ニシトモという言葉を聞いて、村議会の連中の表情が固まった。
どうやら、すでにニシトモにやられ済みだったようだ。
二転三転する彼らの表情に少し笑ってしまいそうになる。
いったいニシトモは村議会の連中に何をしたんだろうか、気になるところであるが、先に彼の問いに仏頂面を保ちながら否定しておこう。
「単身でここへ来たと言った言葉の意味がわからないのか?」
「ぐっこの」
改めて直接的にバカにされて、鋭い目つきをしたこの村議員は立ち上がろうとする。
だが、それを先ほど止めた村議員の一人が再び止めた。
「少しは立場をわきまえましょうシエテさん」
「セイスさん……」
「座りなさい。あと一度しか言いません、座りなさい」
強く言葉を繰り返され、シエテと呼ばれる村議員は再び渋々座り込んだ。
なんとなく、力関係がわかって来たような、気がしないでもないぞ。
「村議会の一人ということで、あまり名前を公の場に出すことはないのですが、私のプレイヤーネームはセイスと申します。ローレントさんとは色々と身になる話ができそうなので、以後お見知り置きを」
そしてセイスという名の村議員は、口を噤んで目をつぶったシエテと呼ばれる男の紹介をした。
セイスがこのシエテを村議員に誘ったらしい。
「後輩ということでここは私が謝罪を申し上げますから、どうか失礼をお許しください」
頷いておく。
これ以上、事を荒げる必要もない。
ホッと胸をなでおろした表情を作るセイスは、手を叩きながら議会を取り仕切る。
「みなさん、とりあえず欠席の村議員とも話し合いを進めてからもう一度練り直しましょう。その間に私の方でローレントさんと諸々の話をつけておきますから」
空気が悪くなったこの状況をとりあえず終わらせるためなのだろうか。
それとも、一人だけ周りを出し抜こうと考えているのだろうか。
なんでもいいが、終わったあと自己紹介とともに自分を売り込みにくるやつ多すぎ。
そこまでロールプレイしなくてもいいと思うのだが、楽しんでいるっぽいので何も言わないでおく。
というかこういう手合いには何を言っても無駄だろう。
失脚させるのが一番精神的に堪えるだろうしな。
「では詳しい話は後ほど。だいたいこの時間はこの議会館におります故、またいらしてください」
「……わかった連れてくる」
「ふふふ、あなたもなかなか悪い人だ」
……ゾクゾクした。
このノリに付き合わされるのか、今後。
議員たちが全て退室し、片付けのためにメイド姿のNPCたちがわらわら入ってくる。
最後まで残ったのは俺とデリンジャーくらいだ。
「…………」
相変わらず喋らないデリンジャーはおもむろに立ち上がると、そのまま出口へ向かう。
「──どういう風の吹きまわしだ?」
「むっ?」
すれ違いざまに耳元にそんな言葉が届いた。
はっきりと届いたのだが、なぜかメイドたちは我関せずに動いている。
こっちに意識を向けようとしたものもいない。
いったいどういう事だ?
「待て──……」
振り返った時、デリンジャーの姿はなかった。
……意味深な言葉を残して言ったが、いったいどういう事だろうか。
うーむ、わからん。
とりあえず、焼肉トウセンにでも行くか。
書籍版があと五日で発売です。
ワクワクすっぞ! っぞ!