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どうやらその他の生産組のメンツにはすでに断られたそうだ。
そりゃ、俺と付き合いが長ければ、興味あることにしか関わらないってのがみんなよくわかっているようだ。
別に興味があるなしというよりもだな、俺としてはそういうわけではない。
これでもみんなに合わせたりなあ……。
素材の提供したりなあ……。
「強制力があるのか?」
「ないから頼ってんだろうな。まあ仕切るだけ仕切って何もしない奴らだから、その程度の評判でしかない」
村議会なるものは、一部の生産職や戦闘系プレイヤーからずいぶんと嫌われているようだ。
レイドボス急襲イベントの際、仕切りに参加できなかったのが村議会の連中としては面白くない展開だったらしい。
さらにマルタは続ける。
「レイドボスの時、実は掲示板で煽ってたって噂だぜ」
「とんでもないな」
聞けば聞くほどきな臭い連中だ。
最初はレイラのただのファンだと思っていたのだが、権力に溺れたか。
溺れるほどの権力もないだろうに。
実際村議会なるものはあるが、自治権の大部分は管理者レイラにある。
なんだかレイラが面倒なことに巻き込まれそうな予感がする。
早めに別の街に行くのもありだが、今まで世話になってきた分はその時返そうと思った。
「そうだ、生け簀や船の事でそいつらが何か言って来なかったか?」
「うーん」
マルタは斜め上を見上げてひとしきり考えると、「そう言えば」と教えてくれた。
「ローレントやニシトモのことで取り次げないかっていうのも言ってたな。まあ親方が蹴散らしてくれたおかげでそこんところ俺には無害だ。どっちにしろ責任者不在ですって言い逃れるよ」
……そのための利権集中か。
あくまで雇われにこだわるとは、さすがだな。
オーナーが落ち着けたこなさないといけないんだぞ?
まあそんな押し付けはしないけどな。
とりあえず基本的にノークタウンへの船を動かす親方、新徳丸が喝を入れてくれていたみたいだ。
顔も強面だし、イシマルとはまた違った海賊みたいな髭面だから効果てきめんだったらしい。
「さて、腹ごなしも済んだし、とりあえず魚取り行くわ」
それだけ言ってマルタは船に乗り込んで川を上流へと進んで行った。
色々と情報が聞けてよかった。
一応村議会も無理やり動くことはしてないってことなのかな?
俺に連絡は一切入ってこないみたいだし。
だが、第一拠点に俺がいないことをいいことに。
倉庫からアイテムを奪うのはどうだろうか、お灸を据えなきゃいけない。
村議会が犯人である可能性は大いにある。
というか第一生産組じゃなかったらそいつらしかないというのはレイラたちの見解。
あとは証拠を収めるだけなんだが……。
いったいどうしたらいいのやら。
証拠はないぞ、どこかで毒が出てくればいいのだが……。
「そうか、レイドボスか」
まだ舗装されていない拠点上流の川辺で釣りをしながら考えていると、一つ思いついたことがあった。
あの毒はかなり強力なものだ、それを知っていて盗んだのなら、きっとレイドボスに使うはず。
第一拠点の古参である第一陣プレイヤー達から嫌われてるっぽい村議会はハイレベルな戦闘プレイヤーと高い腕を持った生産職の支援が受けれないはず。
正規の値段で買い占めもできないだろうし、大量注文をあらかじめしておくという手もあるが、第一拠点の商店全てを取り仕切る豪商ニシトモだ。
奴は対等な取引を求めるだろうが、信用ならない手合いには一切容赦しない。
トンスキオーネと組んで意気揚々と高値をふっかけそうだ。
俺ならどうする?
そうだな戦力補填としてテージシティからマフィアを私設騎士団と称して呼びつけて、一生借金地獄プレイにしてやる。これは引退せざるを得なくなる展開かもな。
世の中で敵に回しちゃいけないのは圧倒的資本なのでした。
さて、冗談もさて置いてだな。
そこまでするほど奴らも暇ではないだろう。
村議会も、できないことはぐぬぬっと唇を噛み締めて見ているだけだろうし。
嫌がらせはしそうなものだが。
そんな中彗星の如く俺がレイドボス討伐に協力すると言ってみたらどうなるだろうか。
食いつくだろうか?
村議会とは仲良くしていきたい、そういう体裁にしておこう。
毒を持っているならば使わず証拠として確保もできるだろうしな。
「行くぞローヴォ、駆けろノーチェ」
ならばさっさと向かうだけだ、行動を起こそう。
レイドボスに興味がないと言えば嘘になる。
財産は全てニシトモ管理にしているし、俺の手元にあるお金は実のところそこまでない。
だから村議会もそれをあてにはできんだろうし、倉庫の品物は生産組が一部使用して預けているという体裁にしよう。
そうしたら村議会が本当にお金を持っていないのか、はたまた実は隠し持っているのかも見えて来るな。
「あ、ローレントさんこんなところに! なんでメッセージに反応すらしてくれないんですか! 約束してましたよね! 私のいうことなんでも一つ聞いてくれるって!」
「すまんツクヨイ用事ができた!」
「ちょっと! この馬鹿兄弟子! 待ちやがれくださいってんだぁっ!」
ふははは、今の俺は一迅の黒い風だ。
って、迷惑かな、街道で。
あ、すいません、調子乗ってました。
っていうか村議会の方々がいらっしゃる場所ってどこですか?
あ、この先まっすぐ?
はい、どうも有難うございます。
初期からずっと放置されていた東の川の先がついに登場。
一年の時を経て、東の川の先がついに登場。
……長い間放置してすいませんでした。
でも回り道してしばらくたってからっていう形にしたかったので、ある意味プロット(?)通り。