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「すごいな」


 マルタの手漕ぎボートに乗せられて生け簀へとたどり着いた。

 大まかな作りは俺が作った頃と変わっていない。

 だが、そこそこガタがきているようであちこちにつぎはぎの板材が使われたいた。


「えらく使い込んだな」


「まあ、一般解放してるから消耗も早い……それにバカなプレイヤーはどこにだっているしな……」


 マルタがそう呟いた側から、生け簀の上で騒いでいたプレイヤーが中に落ちた。

 なるほど、そりゃボロボロになるはずだ。


「おいおい、大丈夫か?」


 自分が所有する生け簀で溺れ死なれたら困るんだが。

 また根も葉もない噂が立ちかねない。


「まあ見てな」


 マルタはそれだけ言うと溺れるプレイヤーを黙って見ていた。

 助けるシステムが構築されているとか?


「うぎゃあ!? あ、足に何かが食いついて──わぷっ──ッッ!?」


 俺の予想に反して、生け簀の上に引っ張り上げてもらおうとしていたプレイヤーが水中に引き摺り込まれた。

 そして激しい水音が立つ。

 もがいているのだろうか……いや、違う。


「キバウオ?」


「あたり! あとフィッシャーガーにピラルークもいるぞ?」


 まじかよ……。

 生け簀に落ちたプレイヤーに群がっていた魚は大量のキバウオを筆頭にフィッシャーガーとピラルーク。

 この生け簀、危険すぎないか?


「ってか、グレイリングとか生かしてたろ? どこやったの?」


「もう少し上流に独立した生け簀を構えてるからそっちに移した。ここは人が多すぎて適わんからな」


 なるほど、観光プレイヤーのお仕置きメインでこの生け簀を構えていると言うことだった。

 フィッシャーガーとキバウオ、そしてピラルークが果たして共存できるのかがやや心配なところではあるのだが、餌を定期的にやっていれば問題ないらしい。


 それでもモンスターだからプレイヤーや人は自動的に襲う、そんなシステムだった。

 ……えげつねぇ。


「集めるの苦労したんだぜ?」


 そりゃそうだろうな、フィッシャーガーにピラルーク、キバウオ。

 危険な河原のモンスターパークじゃないか。


 待てよ、これ、逆にもっとイメージ悪くならないか?

 やってくれたなマルタよ。


 まあ……放置してた俺が悪いんだけどな。

 結果的にマルタが新しい生け簀を作ってそっちでなんとかやってるならばいいや。

 材料費などは俺持ちだがな。

 別に生産が追いついてから食料で対価を払ってくれてもいいのに。


 ……なぜ、第一生産組の職人どもは重要な権利を俺に預けるんだ。

 それが長年の疑問。

 今ならレイラの気持ちがわかるかもしれんな。


「どれ」


「お、おい! さすがに俺でも迂闊に入らないんだぞ!」


 慌てるマルタを尻目に俺はプレイヤーが溺れていた場所へ向かうと、凶悪な魚が群がる水中へ腕を突っ込んだ。

 手甲をしているとはいえ、キバウオにでも噛み付かれたら指がちぎれかねないだろうか?

 否、レベル的に大丈夫だろう。

 さらにフィッシャーガー、ピラルークの力すら、地道に鍛え上げた俺の前では無意味よ。


「見つけた」


 水面に顔を出したのは、キバウオに群がられた戦士プレイヤー。

 狂乱に顔を染めて踠いている。


「こら、暴れるな」


「うぎゅぅ……ぐげごごご……」


「いやいや絞めんな絞めんな、おまえがとどめさしてどうすんだよ」


「すまん」


 即死ではなくまだギリギリHPが踏みとどまってそうだったので助けた。

 目の前で死なれても寝目覚めが悪いからな。

 向こうから何かされた訳でもないし、基本的に優しいところをアピールしておく。


「ひぃっ!? ポセイドンッ!?」


「──は?」


「ご、ごめんなひゃあああ!?!?」


 酷く慄いた戦士プレイヤーはそのまま不安定な生け簀の踏み板の上をバタバタと後ずさりして再び足を滑らせて生け簀に落ちた。


「──あああああああもがもがもごもごッッ!!!」


「………………」


 ……もう俺は誰も助けん。

 哀愁が漂っていたのだろうか、マルタが俺の背中をポンと叩いた。


「……ぷっ……ど、どんまいっ……くっ……」


「マナバースト」


 ドバッと生け簀の魚が舞い上がった。

 大量だ。

 そのままエナジーブラストで焼き魚にしてやる。

 こんな危険な生け簀はない方がいい。


「──あああ!! せっかく集めた俺の怪魚コレクションがあああ!?!?」


 頭を抱えるマルタだった。




「そうだ、ローレント」


「なんだ?」


 改めて串に刺して焼いた魚にかぶりつきながら、マルタが対岸を眺めながら言った。


「川の向こうの湿地帯って行ったか?」


「そういえばそんなのもあったな」


 だいぶ昔のことだ。

 クラリアスを倒すことではるか対岸に見えるマングローブの森へと入ることが許される。

 たしか許されてから放置していた気がする。

 初見で来るなと矢を射てくるやつらだぞ、勝手に滅びればいいと思っていたのだ。


 もっとも俺がやらなくても誰かがやってくれるだろうと思っていたんだがな。

 それがいったいどうしたって言うんだろうか。


「レイドボスの可能性があるらしいぜ」


「そうなのか」


「なんか興味なさげだな」


「宿敵はエンゴウだからな」


「ええ……」


 怪獣大戦争を思い返すたびに、つくづく縁があると思う。

 巨大な灼熱を纏う猿。

 モノブロとの一件でも、なんだかんだ獣化で引き当てるほど、俺はやつを渇望しているのかもしれんな。

 そういえば、モノブロいつのまにか消えてたな。

 騒ぎに便乗して。


「村議会とかいうの? それがレイドボス討伐のために人手を集めてるんだが、なんかおまえと繋がれないのかって俺に村議会が押し寄せてきてうるせぇのよ」


 まーた村議会か。

 なんでまたマルタに?



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