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「そういえば石材持ってった時、確かに変な空間見つけたな」
石でグリーンラビットを彫ったイシマルが、それを持ってカウンターまでやってくる。
なかなか精巧に作られているがでかい。
漬物石に使えそうだな。
「ちょっと、カウンターに置かないでよ」
カウンターの上に両手持ちの石像を置いたイシマルに苦言をているレイラ。
だがイシマルがガハハ笑いを浮かべながら傷一つついてないカウンターを撫でながら言った。
「いいだろ、俺が磨いたんだから」
そう、ここのバーカウンターはイシマル謹製。
重厚な輝きを持った石が使われている。
大理石かな?
俺、石は詳しくないからわからない。
「可愛いので漬物石としていただいてもいいですか?」
「おう、いいぜ。使ってやってくれ」
「漬物は是非とも食べて見たい」
「サイゼ家秘伝の味をとくとご覧入れましょう! ね、サイゼちゃーん!」
「はいなんでしょう〜?」
バーテンであるミアンの呼びかけに応じておくから姿を現した。
パーテーションで仕切られていて、ちゃんとキッチンも標準装備されているようだ。
「イシマルさんから漬物石もらっちゃった!」
「おおっ! ブリアンさんから頂いた新鮮な野菜をつけちゃいましょう!」
備え付けの冷蔵庫から野菜をいくつか持って来て木桶に準備を始めるサイゼは、バーテンダーではなくいつものエプロン姿だった。
「んだぁ、もっと必要だっぺかぁ~?」
「とりあえず桶に入る分で十分ですよ〜、いつも大量に頂いてますし〜」
ブリアンからそんな言葉が届く。
サイゼミアンは常にブリアンの農場から供給を大量に受けているので、今更酢漬けように新しく野菜が必要になることもないようだ。
向こうは、楽しそうに女子トークで盛り上がってる。
ブリアン、最近リアルで別れたんだってよ。
「あ、皆さんおつまみどうぞ」
「おう、そう言えば腹減ってたんだった! なんかくれ!」
「はいはーい!」
イシマルの注文を受けてパタパタと厨房へ下がっていくサイゼ。
そしてミアンはイシマルが好みだと言うキツ目のお酒を提供する。
実質はお酒のような気分になれるポーション。
「くぁー! これが効くんだぜ!」
「そうなのか」
なんだか懐かしい光景。
俺の知らぬうちに、いろんなものが増えているようだった。
冷蔵庫とかあったか?
どう言う原理になっているのだろうか。
グラスもなんか一から作ってそう。
っていうか、この建物自体全てが一からの手作りだよな……?
「本当に、自重しない生産職プレイヤー達だ」
そう言いながら次は牛乳となんか甘ったるいコーヒーを混ぜたような飲み物を飲んだ。
これは少し気に入った。
甘いものは嫌いじゃない。
「自重? おまえの口からその言葉が出るとは思わなかったぜ」
イシマルの隣にミツバシが座った。
そしてカウンターの上に精巧に作られた狼の置物があった。
この姿は、小さい頃のローヴォだ。
懐かしい。
手乗りサイズで毛の質感まで表現された彫刻。
さすがは細工師。
この部屋の調度品、全てをデザインしているミツバシはまた一つ抜きん出たものを持っている。
戦闘はからっきしで、レイドボスの時は前線との連絡役にこき使われてやつれてたけど、こうして何かを作らせるとかなりの実力を発揮する。
俺の弾機銛とかもこいつが開発してくれたものだしな。
最初の頃は生け簀用の網も一緒に編んでいたが、もっぱらマルタあたりが管理しているだろう。
「どう考えても自重してない」
カウンターの上に置かれたミニチュアローヴォから視線をシャンデリアに向けながら言う。
「自信作だ!」
「まあ細かいことに関しちゃ負けちまうけど、物理的に言えば俺のが強いだろ!」
「はぁっ!? 作るのが勝負でそこから作品ぶつけ合ってどうすんだよ!」
「うふふ、機能美的に言ったらイシマルさんに軍配が上がりますが……可愛いですねローヴォちゃんの置物も……ね? サイゼちゃん?」
「はいはーい……ってきゃああ〜! これ私がもらいます! もらうんです!」
サイゼジャッジで行くと、ミニチュアローヴォがえらくお気に召していたらしい。
「ずりぃ」
「作戦勝ちだな!」
イシマルの漬物石がローヴォを象っていたら、機能を持っている分勝利となっていただろう。
いやでもミニチュアローヴォも捨て難い。
寝ていたローヴォを起こしたサイゼは、そのミニチュアと見せながら一緒に厨房に入って行った。
……相変わらず厨房はローヴォフリー。
まあ、毛の心配はないだろう、ローヴォもその辺わかっているだろうし。
「厨房に犬って大丈夫か? 俺の飯」
「まあ今に始まったことでもないしいいんじゃね?」
「そうだな! 別にいいか! ガハハハ!」
そう言いながらイシマルはミアンに出されたミックスナッツを一気に口に流し込んだ。
おしゃれ重視でグラスに入れてあるが、そうやって飲むもんじゃないから。
「……ねぇ、そろそろ話を続けてもいいかしら?」
一連のやりとりが済むまで待っていたレイラが少しイライラした口調でそう言う。
心臓が掴まれたような感覚がした。
怒らせると怖いタイプだから、言うことを聞いて静かにしていよう。
そしてようやく話が進むのである。
相変わらずガヤガヤうるさい第一生産組でした。