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8月に入りました。


 さて連続ログイン時間がえらいことになりかねないのでその日は取り敢えずログアウト。

 ログインして目覚めたのは知らないベッドでした。


 知らないベッド?

 いや、いつもスティーブンに間借りしてる部屋で寝てるからわからなかっただけで、ここは俺がストレージの倉庫として扱っている場所の二階部分だ。


 倉庫のでかい扉のすぐ横に、人が出入りするようの扉があり、入ってすぐ右の壁を沿って階段と二階部屋への通路が存在する。

 簡素な木造建築倉庫でいいと言っていたのだが、知らずのうちにアップグレードされた建物は半分を石材仕様にされていて、二階に暖炉やビリヤード台そしてダーツ、さらに豪華なソファと大きな本棚、簡単なバーまである始末。


 せめて自室だけでも質素にしてくれと、頼んでいるんだが……。

 立派なツノが生えた変な魔物の頭蓋骨や革の敷物。

 ふかふかのソファに、ガラステーブルの上にはなぜか毎回水差しとお菓子がある。

 いったい誰が取り替えてるんだろうな。


 もともと借りていたスティーブンの部屋は倉庫として使われていたのを部屋に改造されたもの。

 その程度で十分なんだがな……。

 ベッドはキングサイズ、寝っ転がってゴロゴロが可能。

 そしてログイン、ログアウトも可能。

 だがログイン、ログアウトにこんなでかいベッドである必要がない。


「あら、起きてきたの」


 自室から出て声をかけてきたのは、カウンター席に座ったレイラ。

 起きてきた、とはベッドでログイン・ログアウトするゲームではおなじみの言葉。


「……なんでいるんだ」


 なんか物音がすると思ったら、第一生産組のメンバーがエントランスでくつろいでいた。

 もはやエントランスなのかホールなのかわからんが、自室があくまでメインだと俺は思っているので、自室の前にあるこのホールは断固としてエントランスである。

 ひとんちの玄関で遊んでんじゃねえ帰れ!


 さてさて、どうにも懐かしい顔ぶれが立ち並んでいる。

 レイラをはじめとしてミツバシ、イシマル、ガストン。

 さらにニシトモ、サイゼ、ミアン、セレク、ブリアン、ツクヨイ。


「なんだ、いったいどうしたんだ?」


「今月少しおめでたいことがあったから、こうして集まったのよ」


「おめでたいこと?」


「いや、やっぱりなんでもない。こっちのことだから」


 レイラは一つ咳払いをするとバーカウンターでカクテルシェーカーを振るう、バーテンダー姿のミアンに追加のカクテルを頼んだ。


「……バーテン?」


「ふふふ、どうですかローレントさん。似合いますか?」


「すごく似合ってるし、様になってる」


 バーテンダーの格好でカクテルシェーカーを振るう姿はやけに決まっているし、やけに手馴れている感がするのだが、ひょっとして現職さんかな?


「ふふふ、私はサイゼと同じで調理系の学校ですよ。でもバーテンダーはバイトでやっています」


 バイトでもカクテル作れるんならすごいと思う。

 俺はお酒にあまり詳しくないからな。


「ミックスナッツ食べる? 意外と美味しいのよこれ」


 ぽりぽりとミックスナッツを頬張るレイラに頷いて、俺も一つもらうことにした。

 確か、こういう店って後会計じゃなくてその場で払うんだっけ?


「ああ、大丈夫よ。ここの維持費は第一生産組のみんなでもち回ってるから、好きな時にタダで利用できるようにニシトモが手配してくれるわよ」


「……使ってるの見たことないが」


「むしろあんたがこの倉庫の二階に来てないだけよ」


 それもそうかと納得しておく。

 どうやら俺がいない時にみんなでよく使っているらしい。


 最初はイシマル、ミツバシ、ニシトモの三名がネタで始めた改築に、懐かしき土建屋チームが手伝ってくれるようになって、隠れ家的にゆったり遊べるところを作ろうぜというコンセプトのもと作ったら、思いの外居心地が良くいつのまにかみんなが集まるようになったんだとか。


 サイゼミアンは忙しいしかなり人目がつく。

 隠れ家的コンセプトの焼肉トウセンは、なぜかNPCの要人が使う銘店に。

 これはトンスキオーネの仕業だな、今度話しを聞きに一度テージに向かってやるか。

 いやむしろトウセンで張り込んだらひょっこり現れるんじゃないか?


「そしたらいつのまにか少人数用の会員サロンみたいになっちゃったのよねぇ」


 サイゼもミアンも、店はいいのだろうか。

 営業系のプレイヤーはNPCや他の信頼できるプレイヤーにお金を払って店を任せることができる。

 ついにここまできたか、グローイング・スキル・オンライン。


「あちこち狩りしに外へ出ている俺が、まるで別のゲームをしているみたいだな」


 出された甘い飲み物をぐっとのみそう独り言ちると、ビリヤードを楽しんでいたガストンが隣に座った。


「ローレントは存在が別ゲーなのである」


「はははっちがいねぇや!」


 後ろでミツバシと玉打ち勝負を続けるイシマルが豪快に笑いながらガストンに同意していた。

 存在が別げーって……俺の生まれを否定するのか、ちくしょう。

 俺だって一喜一憂するよ。

 わりかしすぐイライラするし、喜ぶし。

 顔に出ないだけで。


「なんだかんだ随分久しぶりな気もするが、変わってないなローレント」


 ミツバシがそう言う。

 うむ、おまえも変わりなくヤツれてるな、いつもご苦労さん。


「長らく狩りに偏っていたとはいえ、アイテム類はニシトモを通してミツバシ達に供給してたし、ストレージ関係のつながりもあったから久しいとは思わんがなぁ……」


「違うだろ、一緒に過ごしたり、物作ったりだろう……ああもう、遠くに行っちまいやがって!」


「なんだミツバシ? 寂しいのか?」


「そんなんじゃねぇよ! 喧嘩売ってんのか石工屋!」


「ああん? やんのか? 腕っぷしで勝てるとでも思ってんのか!」


 当然ながらミツバシがイシマルに腕っぷしで勝てることはない。

 だからそれをどっちもわかっているので、勝負の行方は石材をいかに機能的に加工できるかになった。

 彫り物ができるミツバシでもかなり戦える勝負である。


「……酔っ払ってんのか?」


「さあ? でもツクヨイがローレントをここに連れて帰って来たって聞いてなんだかんだみんな集まってくれてるのよ」


「そうだったのか、ありがたい話だ」


「えっへん、ぶらっくぷれいやぁの功績です! ローレントさんは私が担当しますねミアンさん」


「え? ああ、はい」


 ややダボついたバーテンダーの制服を身につけたツクヨイがいつのまにかカウンターの中に入って来ていた。

 キャストが持ち回るとか、どこの店だよ。


「あの、似合ってます?」


「少しダボついてるよな」


 どうかと聞かれたので、正直にそう言ってやるとガックリ肩を落としたツクヨイは「セレクさーん! 今すぐ丈を直してください!」とブリアンと談笑するセレクの元へ走って行った。


「な、なんだ……?」


「はぁ……つくづく変わってないわねあんたも」


「うふふ、そうですね。でも安心しました」


 さもどうしようもない風に首を振るレイラとそれを見ながらニコニコするミアン。

 なんだよ、言いたいことがあるなら言えよ。

 俺はグラスに入れられたミックスナッツから、カシューナッツみたいな形の物を選ぶと口に放り込んだ。


「ああ、ローレントそう言えば」


「なんだ?」


「倉庫によくわからない空間があるらしいんだけど、あんたなんかした?」


「いや、何もしてないけど……」


「うーん……」


 俺の反応を見たレイラは顎に手を当てて考え出す。


「もしかしたら、何かのアイテムが盗難された可能性があるわね……」


「ええ?」


 盗難?

 そんなことが可能なのか?








月末月初は忙しくて更新休んでるイメージなんですが、馬車馬の如く書いてます。

これも、みなさんに読んでいただきたい一心で、やらせていただいでます。


あ、誤字報告ありがとうございます。

体力が保ち次第直させていただきますねorz


と、言うわけで久々の第一生産組でした。

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