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 心眼、物事の真実をはっきり見抜くことができるような心の働き。

 ……ではなくて。


 俺が目を閉じたのは視界の情報を断ち、周りの気の掌握に大きくリソースを割くためだ。

 相手の隙をつくのではなく、普通の速さで死角を捉えてくるハモン相手に一撃当てるのは至難の技である。

 なので心を落ち着かせ、そして針穴に糸を通すような感覚で動きを予測する。


 静の極みは一つ、いかなる状況にも波打たない水であるということ。

 気配を感じ、そして動きの流れを予想し、身を任せる。


「──その資格はない!」


 前か?

 後ろか?

 前だな!


「──なっ!?」


 後ろからものすごい殺気を感じるが、ハモンの性格ならば前に来るはずだ。

 大きく踏み込んだ踏み足の圧音が弱い。

 と、いうことは跳躍からの真正面狙い。


 カッと目を見開く──。


 タイミングを合わせるように腰を落として踏み込み。

 無双の構えから中段捻り貫手を穿つ。


「む?」


 インパクトの瞬間、貫手がぬるりと滑る感覚がした。

 粘性の皮膜によって衝撃をずらされたような感覚。


「さすがに今のはひやっとしたぜ」


 俺の貫手は確かにハモンを貫いているのに。

 彼の身体を突き抜けていた。

 手応えがないはずだ、俺が貫いた箇所が空気みたいになっていた。


「──は?」


 仰天だよな、文字どおり風穴なんだが、思ってたのと違う。


「合格だ。レベル70すら達成していないのに。この俺様に魔闘の次のスキルを使わせるとはな──いてぇっ!」


 腹に風穴を開けてそういうハモンの頭を、テレポートで現れたスティーブンが杖でパカンと殴っていた。


「たわけ、そりゃその次のスキルじゃろうが」


「いててて」


 頭を押さえるハモン。

 スティーブンが俺にこのスキルの説明をしてくれる。


「頂は同じじゃ、魔を身体に纏うことができる魔闘家の真髄は魔素との一体化じゃ……名は魔核という。魔闘の次のスキル、魔装の上位じゃ」


「へいへい白状するよ。ローレントの相手をするときに使ってたのは魔闘じゃなくて魔装だ」


 なんだ、先ほどのスピードは、風属性魔闘による攻撃速度の上昇によってもたらされたものではないのか。


「あり得ない移動速度を持って、風に紛れて相手の隙をつくなんて魔闘にはできない。せいぜい魔法スキルの速度が倍増し、裂系の属性と身体能力補正がつくだけだ」


 なるほど、ずるいな。

 いや、ずるいぞ。

 こっちは必死こいて戦っていたというのに。

 まーた俺のことを試していたのか。


「ローレントさん、大丈夫ですか!」


 ハモンが魔装を使ってから、スティーブンによって遠くに避難させられていたツクヨイたちが駆けつけて来る。


「大丈夫だ」


「そんなことよりハモンさん、貫手で貫かれてませんでしたか?」


 苦笑いを浮かべながらハモンの腹を凝視するモナカ。

 ハモンは少し恥ずかしそうな顔をしながらも彼女たちに種明かしする。


「ひえええ〜!? か、身体に穴が空いてます!」


「一定時間だけだけどな」


 火属性ならば火に、そして水属性ならば水に。

 それぞれの属性に別れた効果を持っているとのこと。

 本気を出せば俺の貫手を風魔法によってズタズタに引き裂く事もできたそうだ。

 おっかねぇな、そしてずるい。


「魔闘じゃなかったのか」


「根に持つなって! すまんかった。だからこそ、こっそり魔装状態から魔核まで使わせたおまえには、資格があるとして、俺から道場六段と魔装スキルをプレゼントだ」


 ほらよっ、とハモンから投げ渡されたのは黒帯六段。

 五段以降ずいぶんと懐かしい代物だな。




[称号“道場六段”を獲得しました]

[道場六段スキルが使用可能になります]

[称号“魔闘家”によって闘志が魔装へと変わります]




 そんなインフォメーションメッセージとともに、魔闘が魔装に変わる……。

 ことはなかった。




[スキル取得に必要なレベルが足りません]




「……は?」


「あ、言い忘れてたけど、六段からはレベル70を超えて三次転職してないと扱えないからな?」


「……先に言えよ」


「美男子さん、殺気が漏れてますよ。ツクヨイちゃんが怖がって私にしがみついてますので、なんとかしてください」


 知らん、ヤンヤンでも呼び出してしがみついてればいいだろうに。

 肩透かしを食らった気分だ。

 上げて落とされた。

 ぬか喜びを強制させてくるとは、こいつ俺に恨みでもあるのか?


「よし、スキルなし決闘を要求する」


「待たんか」


 バキッと音がして俺の頭にスティーブンの杖が振り下ろされた。

 転移魔法によるノーモーションの振り下ろしは、俺の未取によく似ているな。

 曲がった首をポキッと戻すと、スティーブンの方を向く。


「痛いじゃないですか」


「うーん、もっと痛がるとおもっとったんじゃがのう」


 これしきの痛みでいちいち騒ぐ必要もない。


「次はわしの番じゃ」


「え?」


 スティーブンの言葉に、俺ではなくツクヨイが反応した。

 どうやらやっと帰れると思っていたらしいが、師弟クエストはここからが本番だ。


 ツクヨイも空間系のスキルを教えてもらうようだし。

 俺にもそろそろテレポートについて教えてもらう番が来たのだ。


 さてラスボス、スティーブンをどうやって倒す?

 うーむ、空中転移に気をつければ耄碌じじいくらいわけでもないが……。


「先手必──」


「わしに限っては無駄なことじゃな、ほらテレポート」


 やっぱりこうなるのね。

 ……超高所に、連れて行かれました。

 紐なしバンジーです。

 パラシュートなし、スカイダイビング。








「な、なんで私まで一緒なんですかああああああああああああああああ」







残念だなローレント。

そのスキル、レベル70からなんだ。





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