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おはようございます!今日もお仕事頑張ってください!
「うむ、こちらの手違いで少々厄介な魔物が出現しとるみたいじゃったが、間に合ったかの?」
片手にパイプを持ち、ハモンを後ろに連れたスティーブンが、雪原の雪をザクザクと踏みしめながら歩み寄ってくる。
すいません師匠、完全に間に合ってませんでした。
言うのも憚られるな。
そう思っていたら、トモガラに耳を掴みあげられていたモノブロが声を荒げる。
「や、約束が違うぞ無属性魔法使い!」
「ほ?」
「ほ? ──じゃないがっ!」
おそらく口八丁で言うことを聞かせていたのだろう。
耄碌じじいのふりをしながら、スティーブンはすっとぼけていた。
うむ、無属性魔法使いとはやはり師匠のことだったようだ。
「ちなみに言っとくが全く間に合ってねぇよ」
怒りの矛先を失ったトモガラはそれをスティーブンに向ける。
モノブロ相手にしていてもつまらないと思ったのだろう。
後ろにいるハモンにも一度道場の壁にぶち込まれたことがあるし、こいつがその恨みを忘れることはないと言える。
やられたらきっちり耳を揃えてやり返す。
それが我が流派。
トモガラもちゃっかりその部分は叩き込まれている。
相手にしてやられたことは忘れないように教育を受けているのだよ。
負けた記憶はそのまま対処法として身体に刻まれるしな。
「威勢がいいのう、この洞窟でそこそこ罰を受けたはずじゃがな?」
「道場を壊しちまった件は悪りぃけどよ、受けた罰が多過ぎんだよ。あぶれた分はそっくりそのままてめぇらに突き返してやるから覚悟しとけよ」
額に青筋を浮かべながらフルドライブ、フルポテンシャル、フルストリング、闘志と身体強化スキルを重ねていくトモガラ。
じりっ、と後ろに立っていたハモンが構えをとった。
「良い」
片手に携えていたパイプをかざして、ハモンを制止させたスティーブン。
自ら相手するつもりのようだな。
「トモガラ、よしとけ」
「ああん? うるせぇな、指図すんな」
言っても聞かないよな。
今の俺らがトモガラの気持ちも汲み取れるのだが、スティーブンに勝てる見込みは万に一つもないぞ。
「ふむ、血の気がいいのは結構じゃがな」
「ならてめぇの血で我慢してやんよ!」
スティーブンの売り言葉を高値で買ったトモガラは、雪を目隠しに大きくぶちまけながら突っ込んだ。
蹴り上げた大量の雪なんか関係ない。
それごとスティーブンをぶん殴りにかかっている。
「──師匠NPCにあまり楯突かんことじゃな」
シュン。
白い物質が目の前から消えた。
それに紛れていたトモガラも当然。
「はわわ、し、師匠!」
トモガラがどうなったかよく知るツクヨイは青い顔をしながらスティーブンの顔に目を向ける。
「うむ、ツクヨイよ。よく生き延びた」
「は、はひ」
今回あまりいいところがなかったのを自覚しているのか、怒られると思いビビっていたツクヨイは、思いの外優しい笑顔で言葉をかけられ、腰を抜かして座り込んでいた。
「大丈夫ですか?」
そんなツクヨイをモナカが心配している。
「師匠、生き延びたと言うよりも大活躍でした」
「ほう?」
戦いの役目をわきまえると言う点で、まあ成長してないとも言えないだろう。
なんだかんだピンチの時にあまり慌てなくなっていたしな。
そう言うことなのでしっかり報告しておく。
「錬金スキルと闇魔法を組み合わせて俺を助けてくれましたし」
「なるほど、よし、お主にも闇属性空間魔法スキルを伝授する」
「え!?」
え!?
ツクヨイが驚いた表情を作る。
そして俺も心の中で地味に驚いていた。
闇属性の空間魔法スキルなんてあるの?
「ありがとうございます師匠おおお!!」
「ほっほ、よいよい」
ぐむむむ、なんと言うことだ。
報告しなければよかった。
それも女々しいか。
素直におめでとうと、心の中で思っておきましょう。
「なんだか爺と孫みたいですね」
「こう見るとただの耄碌じじいだな」
モナカとハモンがその様子に表情を和らげている。
そしてようやくトモガラが空から落ちてきた。
「────ぉぉぉぉぉぁぁぁぁあああああああ!!!!」
ギリギリのところで空を跳んでいたルビーがトモガラを咥える。
そして落下のダメージをある程度弱くしたところでポイと雪の中に捨てて俺の隣にのそのそ歩いてきて顔を擦り付ける。
今までいったい何をしていたのかわからんが、だいたいこのルビーは自由なやつなので好きなようにしておく。
「ヴォフ」
「ピィイ」
契約モンスター勢は互いにコミュニケーションをとりながら雪の上で寄り添って固まって目を閉じた。
あ、このタイミングで寝るんだ。
「頭は冷えたか?」
「……糞食らえ」
「うーむ、手に負えんやつじゃなあ。やはりローレントの幼馴染というやつじゃのう。よし、平時の態度が悪い奴は失敗判定じゃ、先に街に戻るがいい」
「あ、おいッ──」
雪に埋もれていたトモガラはそのまま消されてしまった。
相変わらず礼儀がない奴には容赦ないな。
だが確かに、師となる人物や目上の人物には基本的に礼節を持って接するのが大事だ。
もちろん俺だって欠かさないぞ。
最初だってみんなに礼節持って接してたさ。
「街とはテンバータウンですか?」
「ほっほ、第一拠点じゃな。ちなみに川に飛ばした。雪でもたらんかったみたいじゃし、テンバー東の川で頭を今一度冷やすがいいんじゃ」
しれっとそういうお仕置きを仕掛けてくるあたり恐ろしい。
「さて、次にそこの娘さんじゃが」
「ピッ? ダンディなお爺様、ご慈悲を」
手を合わせて祈るような仕草をするモナカに、スティーウブンは言う。
「もとより道場を壊したのは馬鹿二人じゃからな。わしの預かりでもないから特に何もない。強いていうならよくぞ生き延びたといっておこう」
「わあ! ダンディ様さすが! でも私も一応手合わせをしてみたいのですが」
「……主もローレントと同じタイプじゃったなあ」
達人の本質はだいたい一緒だからな。
否定はしない。
「道義の嬢ちゃんの噂はかねがねステファンから聞いてるからな! よかったら俺が相手してもいいぜ!」
「まあっ!」
「待て、その前に」
一度ハモンとモナカの手合わせの流れを止めたスティーブンが、モノブロに目を向けながら俺に尋ねた。
「ローレントからも話を聞いておこう。さっきからモノブロが偉くお主におびえとるが、いったい何があったんじゃ?」
感想返信時間が空いた時にぐわーっとやります。
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楽しみです。
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