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真の敵出てくるかと思いきや回
地面が割れて、そこから巨大な手が出てきた。
「ひ、ひえ──」
泣きっ面に悪魔の手。
モノブロの身体を掴んだ巨大な手は、そのまま彼を引きずり込もうとする。
「──くそがっ!」
そうは行くかと、モノブロも表情を一変させて抵抗する。
掴まれないように身体を巨大化させて一気に逃げ切ろうとするが、押し込まれた。
俺にやられたダメージが残っているのだろうか。
歯を食いしばって必死の表情を作り抵抗をするモノブロだが、真なるボスの圧倒的力の前にはくっするしかなさそうだった。
「そら」
俺は跳躍し、巨大な悪魔の中指に飛び膝蹴りを入れる。
骨が折れる音の後、地割れの底から絶叫が聞こえる。
指を折られるのは地味に痛いよな。
悪魔にも痛覚があって、俺は一安心だ。
そのまま親指を悪鬼ノ刀で切り落としにかかったわけだが、獣化すると武器が持てなくなるようだ。
獣に武器は必要ない、己の身体のみで戦えってことだろうな。
意外なバッド要素が発覚した。
俺にはあまり関係ないが……。
「そら」
「ぐはっ」
故に親指の付け根を切り落とすことができなかったので、爪を剥がして無理やり親指の力を削ぐことにした。
地面に倒れたモノブロがあばらを抑えながらむせている。
ほっといても再生するが、痛みはどうしようもないのだろう。
悪魔のくせに、それくらい我慢せんか。
「な、なぜ助けた」
「べつに」
これといって理由はないが、スティーブンが雇ったであろう人物を見殺しにしたら後が怖い。
昔はどうしようもなかった、空中転移。
今では対処法はあるにはあるが、あまりどやされたくないものだ。
っていうか弟子の責任は師匠が取るのが当たりまえだろ。
破壊してしまった第一拠点の請求書、スティーブン宛にしたらダメだろうか。
いや、さすがに大気圏外に飛ばされたらやばい。
しばらく大人しくしておこう。
【契約魔法】Lv5
・空き契約数0
・[ローヴォ:バッドラックウルフ]
・[ノーチェ:ナイトメア]
・[ルビー:クリムゾンコニー]
・[コーサー:ボス]
・[トンスキオーネ:アンダーボス]
一応契約魔法で契約できるか確認するが、敵対NPCを強制契約してしまうと空きが心配になるな。
契約魔法のレベルアップと空き契約数上昇は、契約対象のクラスチェンジによって生じる。
できるけど、NPCの契約は少し予定外らしく、俺は絶賛修行中のコーサーからの経験値蓄積などが期待できると思っていたんだが、どうやら非対応ということで。
運営との間で決着がいつのまにかついていた。
というか勝手に向こうからメッセージが来た。
で、あるならば。
経験値だけ勝手に吸われている状況。
契約を打ち切ることも可能なのだが、コーサーはともかく、トンスキオーネがいうことを効くかどうかが問題になるな。
あいつの贅肉は一筋縄ではいかないだろうし、契約外して俺の目の届かない位置にいると何をしでかすかたまったもんじゃない。
それでもニシトモ並みに有能なタイプなので、できるだけ重要ポジションにいさせてなおかつ縛っておきたいので、現状どうにもできないのだ。
まあ、裏切られたら地の果てまで追い詰めてボコボコにしてやるがな。
「無駄だ」
「む?」
「契約魔法持ちのようだが、悪魔と契約するにはそれなりの代償を払わなければならない。普通の人間には無理だ」
「……代償?」
そもそも契約空き数自体がないのだが、とりあえず聞いておく。
「悪魔と契約するには魂……HPとMPの50%を献上し、さらにプレイヤー及びNPCキラーでなければならないからだ」
思わず顔をしかめてしまいそうな条件だ。
HPとMPを50%も持っていかれるが、それに有り余る効果を得るのだろう。
さらに、前提条件として悪魔よりも強くなければならない。
乗っ取られた悪魔憑きのバッドステータスは、プレイヤーの自由を奪い破滅させるとのことだった。
「具体的には?」
「俺はむやみな殺生はせんが、近縁上位のディアブロはすでに何人かの身体を乗っ取りプレイヤー及びNPCキルを行うことでプレイヤーを破滅に追い込んでいるぞ」
恐ろしい。
悪魔憑きのバッドステータスには大いに気をつけないと行きませんな。
「それよりも……やばいぞ」
モノブロはようやく身体を再生させ立ち上がり、絶叫と地響きが収まってすっかり静かになった地面の割れ目に目を向ける。
「デス……クリムゾヌス……まさか、はるか昔に死肉を好んでいた悪魔がこんなところにいたとは」
「デスクリムゾヌス?」
言いにくい名前だな、いったいなんなんだ?
「永遠の時を生きる屍肉喰らいの悪魔だ」
屍肉喰らいの一角巨獣っていう高位のゾンビモンスターがいたらしい。
そいつが悪魔化したのがデスクリムゾヌス。
よくわからんが……石板パズルの一角悪魔はこいつのことだったのか。
誰かにこの洞窟に閉じ込めたのだろうか。
「あれ? 角は?」
神妙な顔をするモノブロに目を向けると、そういえばいつのまにか角が無くなっていた。
いつ頃からだろうか?
本気を出すとかいって人間大になってからだな。
「無属性魔法使いの奴にこれをつけろと言われていたからな」
……アタッチメントタイプだった。
おまえの角、セパレートかよ。
「くるぞっ!? くそ、太刀打ちできねぇ! せめて弱点の火属性さえ使えれば!」
「なんでだ?」
「ゾンビには炎が良く効くからだ! 奴は我と違って腐肉喰らいに憑依した存在、いかに悪魔化で肉体を強化していようとも、燃やされてしまえば地上に存在できなくなる!」
「なるほど」
苦い表情をして後ずさるモノブロ。
ズンズンズンズンとしたから迫ってくるような音が聴こえてくる。
開いた洞窟の裂け目を登って来ているらしい。
「おい! モノブロ! 妖精化を解きやがれ! 俺が蹴散らしてやんよ!」
「そうですね、そろそろ出番みたいですしおすし」
「くっだらねぇギャグ言ってんじゃねぇぞババア!」
「ああ! トモガラちゃんダメですよ! 汚い言葉!」
「はい、ごめんなさい……ってしのごの言ってる場合か!」
「確かにそうですね。あーあ、せっかく明るい家庭ごっこ面白かったのにぃ……」
「てめぇ……」
あいつ……。
俺とトモガラは揃って戦慄していた。
デスクリムゾヌスより、そこにいる猫化したぶらっくぷれいやぁの方が恐ろしい。
「無駄だ! おまえらが揃ったところで太刀打ちできん! ははは! 一緒に死ぬのだ! 仲良死こよ死だ! はははははは! ついでに獣化も妖精化も解かんからみんな逃げれんぞ! 我だけ死ぬのは嫌だからな!」
気でも触れてしまったのだろうか。
悪魔のくせにつくづくメンタルが弱い奴だな。
一人で死にたくないと獣化も妖精化も残してくれよったので、今のうちにレイド級の獣化を楽しんでおくか。
火属性弱点と聞いて、一つ思いついたことがありました。
「よし、とりあえず離れてろ」
「──ぶばっ!?」
尻尾でモノブロを叩いて洞窟の隅に追いやると、俺は一旦後方に飛び。
──ドスッドスッドスッドスッ。
四肢を洞窟の地面に突き刺した。
しっかりと身体を固定して、アレを行う。
「おまえらも、離れてろ」
レイドボス、エンゴウ討伐編を見ればローレントが何をするかわかると思います。
8/10まで頑張れ私。
そろそろ雪山罰編もおしまいです。