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更新頑張ります(げっそり)
超速度からの突き込みを肘と膝で挟み受け。
初手で踏み込み中段貫手とは、この悪魔は接近戦が得意なようだ。
「おわっ!」
「あれま」
レイド級の獣化と本気を出した悪魔のぶつかり合いはかなりの衝撃を生み、妖精化して小さくなったトモガラとモナカは吹き飛ばされる。
「しっかり捕まっててください!」
そこへ猫化したツクヨイがトモガラとモナカを両手に抱きかかえると、器用に身体をひねって着地する。
その様子にモナカがニコニコ笑顔で手を叩いていた。
「その着地、百点です」
「にゃ! うれしいです! なんだか身体の動かし方わかったかも?」
「……獣化補正だろうけどな」
うむ、まさに猫のようなしなやかな動き。
本能に刻み込まれている獣の動きには学ぶことが多いぞ。
そしてそれを一つの学問として形態化された武術はもっとすごい。
「よそ見をしている場合じゃないぞ」
両掌による顔面への躊躇ない攻撃。
俺もよく使う手だ。
狙いは目と鼻、そしてその奥にある脳髄。
だが、掌底ではなくあくまで貫手にこだわったのが悪いな。
「甘い」
初手の貫手を挟み受けで崩しにきている時点で、貫手は通用しないことに気づけ。
腕でのガードは間に合わないが、対策は十分。
背中に待機させて置いた尻尾で打ち払ってもいいが、ここはあえて意表を突きに行く。
「──なっ!?」
額受け。
鋭い爪相手ならば使えないが、モノブロは今、拳を握りやすくそして急所をつきやすくするために普通の指をしている。
それならば十分、俺の石頭が勝つ。
相手は目と鼻を狙っているので、こちらがちょいと狙いを外してやればいいのだ。
さらに──。
「ぐうっ!?」
うめき声と同時に大きく飛び退くモノブロ。
「猿拳かよ、えげつなっ」
その後、呆れたようなトモガラの声が聞こえてきた。
「え? えんけん? なんですかそれ?」
「猿みたいな拳法のことだよ」
「ああ、なるほど、いまローレントさんレイド級のゴリラに獣化してましたしね」
俺の姿を見て猿拳に対してそう言うことですかと一人で納得するツクヨイ。
いや、そうじゃないんだな。
勘違いするツクヨイにトモガラがため息をつきながら教えてやる。
「そうじゃねーよ。ローレントを見てみろ」
促されて俺を見たツクヨイが悲鳴をあげていた。
「ひぇ!? 指食ってる!?」
「あれが、猿拳だ」
いや、一部語弊があるな。
指を食うのが猿拳ではなく、猿のようにくるって戦うことが猿拳だ。
ん?
俺も説明していて少しよくわからなくなってきたぞ。
「な、なんてことを……」
手を抑えて俺を睨むモノブロに、口から噛みちぎった指を吐き出すと言ってやる。
「目と鼻を狙ってきただろ? おあいこだ」
さて、俺はしゃがむとそのまま四足歩行になり大きく跳躍した。
レイドクラスの獣化は、ただの身体強化ではないらしい。
もともと魔法職の俺がこんなにハチャメチャに地を駆けれるなんて。
これはリアルか?
リアルの身体がレイドクラスだった。
さて、尻尾を巻きつけて洞窟の天井の岩にぶら下がり、モノブロを見る。
「くおおおおおお!!!」
力を溜めて指を生やしているところだった。
やっぱり再生能力は備わっているのか。
厄介だな。
「はぁはぁはぁ……くそ! 野蛮な猿め、八つ裂きにして──」
「キェェッ!!」
猿声とともに、天井を蹴って急降下。
そして身体を回転させ遠心力をつけて猿臂うち。
洞窟の地面が大きく凹み、モノブロの苦しいうめき声が聞こえてくる。
地面ごと叩き潰しても五体満足とか、悪魔どんだけ丈夫なんだ。
いや、地面が脆いのか。
さらに俺は猿のような金切り声をあげながらマウントを取り腕を乱雑に叩きつけて行く。
モノブロの顔面を掴み地面に連打。
肩、腕、足、腰、全ての骨をへし折っていく。
髪も毟れ、歯も砕け、爪も剥がされ、モノブロの身体はどんどんボロボロになっていった。
怒り狂った猿は時折とんでもない猟奇的な殺人を果たす。
というか、猿に殺された人間の有様はとんでもない。
舌を抜かれ、目を潰され、鼻を千切られ、骨という骨は全て叩き折られ。
股間の玉は全てぶち抜かれる。
そんな殺され方だ。
猿のように俊敏で軽快な動きの拳法ではなく。
本来は相手を残忍に殺しつくす狂気に満ちた拳法だ。
「ひ、ひえええ……」
「あ、股間食いちぎってんな、よくやるぜ」
残念ながら悪魔にひっこぬける玉はなかった。
繁殖する生き物じゃないからだな。
「う……ぐ……」
それでもまだ生きている。
とんでもない生物だ。悪魔。
魔人とはどう違うのだろうか?
「ふう、この拳法はなんか精神的に悪いな。気分が高揚してしまう」
色々と囚われてしまうのは良くない兆候だ。
ほどほどにしておかなければ。
腹も拳法も八分目とな。
「くそ……この洞窟から外の世界に連れて行ってやるって乗せられてわざわざハッタリ効かせてやったのに……なんだよちくしょう……どうなってんだよ、こいつらおかしいよ……」
いつのまに再生したモノブロはシクシク泣き始めた。
「その洞窟から外に出してやるって言ったのは誰だ?」
「無属性魔法使いだよ! いうこと聞いて悪魔界から出てこなきゃよかった……シクシク」
「ん?」
モノブロの言葉、少し引っかかるところがあった。
「おまえ、ここのボスじゃないのか?」
「ちげぇよ! もう暴露してやる! 我は雇われボスだ! まんまと餌につられて呼ばれたただの契約悪魔なの!」
ツクヨイもモノブロの言葉に違和感を覚えたようで、会話に混ざる。
「え? それだとモノブロさんを似せて作ったパズルをわざわざ用意したんですか?」
そうだとしたら、どれだけ入念に準備してるんだスティーブン。
「そんな面倒なことするはずないだろ! もともとあったやつだよ!」
え、じゃあおまえ誰だよ?
ボスじゃないの?
「しらねーしらねー! 我は雇われボスだから! ただの餌につられた魚ですぅー! うわぁあああん!」
駄々をこねる子供のようにゴロゴロ転がって泣きわめくモノブロ。
だが、その転がった後の地面に急に亀裂が入り出した。
そして再び洞窟は大きく揺れる。
何かが来る。
何かが下からくる!
「下からくるぞ! 気をつけろ!」
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読者の皆様のために、馬車馬の如く書くのが私の通例となっておりますので、ぜひ頑張らせてください。
tera