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確かにツクヨイが言っていたように、あの石板パズルに出てきた一角の悪魔がボスで間違いなさそうだった。
だが思ったよりも禍々しさがなかった。
なんか、確かに強そうだけど、凶悪さがないと言うか。
とにかく、モナカ。
何やってんだ。
「このままここでマッサージの妖精として一生を終えるのですね」
「それがおまえらの罰だろう。大人しく定めに従って、どうぞ」
「この! ここのツボが効くんでしょう! まったく!」
「ああ〜そこそこ! そこがきくんじゃぁ〜!」
腰骨の隙間の筋肉に裸足を突っ込んでグリグリするさらにちんちくりんになったモナカ。
一角の悪魔はすごく気持ちよさそうにしていた。
【モノブロ】???
どこかの洞窟に潜む悪魔。
不思議な力を持つ。
レベルが見えないが、名前だけはわかった。
モノブロという名前らしい。
「なにやってるんでしょうか?」
「知らねぇ」
一部始終を見ていたツクヨイとトモガラが力が抜けた声でそう呟いていた。
マッサージの強制労働だな、見たまんまだと。
ちんちくりんにされた状況で巨体にマッサージはかなりの全身運動。
体力も少なくなっているし、モナカは無理やり身体強化で身体を強化するタイプでもない。
繊細な動きによる身体さばきで敵を投げるタイプなのでかなり大変そうだった。
「こうなったら接骨院に通い詰めて学ばせていただいた技術を惜しみなく使いますよ」
「おほ〜、いいねぇ〜、もう俺専属のマッサージ師にならない?」
「いえ、私は柔道家ですからさすがにそれはちょっと」
「YOU! なっちゃいなYO──ん?」
くだらんやりとりを見せられて、ローヴォが目をつぶって俺の足元で丸くなった時、──目があった。
悪魔の真っ赤な目が俺を見ていた。
暗視持ってるからわかる、悪魔、すっごく微妙な表情してる。
暗闇でなにしとんだと言ってやりたい。
「ああ、そろそろいいか?」
「………………」
そう尋ねると、悪魔は無言で起き上がった。
「あ、ちょっといきなり動かれますと……──ぴっ!?」
立ち上がり、ちんちくりんになったモナカを片手でひょいと摘み上げるとおもむろに中腰になる。
そして……。
「ぐははははは! よくきたな試練を受けし者たちよ! この通りおまえらの仲間は人質にしているぞ! ぐははははははーーーーー!!!!!」
洞窟に轟くような大きな声でそんなことを言い放っていた。
あまりの音量に、近くにいたモナカは「ぴっ」と小鳥みたいな悲鳴をあげて耳を塞いでいた。
そして反響する邪悪な声が消えた後、ツクヨイがポツリと呟く。
「……人質?」
その言葉にトモガラも加わる。
「ぜってーちげぇ」
俺も賛同しておこう。
「だよな」
人質にマッサージさせて、そして朗らかに会話しているだろうか。
否、そんなわけがない。
昔訪れた海外の紛争地域では、女は犯され、男は殺され。
子供は爆発物を持たされ敵陣に帰されていた。
もっと殺伐としているはずだ。
「……」
「ぴっ? どうしました?」
再び黙ったモノブロは、一度モナカに目を向けると、結んだ髪の毛と足を掴んで引っ張り上げながら再び叫んだ。
「ぐははははは! よくきたな試練を受けし者たちよ! この通り、おまえらの仲間は俺に痛い思いをさせられているぞ! これこそ人質だろうが! ぐはははははははははーーーーーーー!!!!!!」
やり直しやがった。
ちんちくりんのモナカが引き裂けんばかりの勢いで持ち上げられている。
だがそこまで痛くしてないようで、当の本人はまったく空気を読まずにケロッとしていた。
それがさらに俺たちのため息を増やしている。
「ぐははは! どうだ! 怖いだろう! ぐはははー!」
その様子にトモガラが俺を向いて言った。
「……おい、本当の人質を見せてやれ」
「ん? いいけどだれで?」
「俺の隣にいるアホで」
「そうだな」
ツクヨイには悪いがあまりにもお粗末な人質だからな。
とりあえず本当の人質と言うものを教えてやって、もう一度やり直させるか。
「ぐはははは! ──ん? 何をしている?」
「すまんなツクヨイ」
「へ?」
少しばっかり人質のデモンストレーションに付き合ってくれよ。
俺はツクヨイに一言謝るとすぐに後ろをとってころりと一回転して恥ずかし固めにした。
「わっ!? きゃあああああああ!!!」
「どうせインナーだからいいだろ、平気だ平気だ」
「ト、トモガラちゃん! またおいたして!! ってローレントさん! な、何やってるんですかぁ!」
「いや、あの悪魔の人質の取り方があまりにもお粗末だったから?」
「ど、どういうことーーーー!?」
そしてトモガラがポケットからナイフを出して悪魔に言う。
「へっ! これが本当の人質だぜ? いいのか? 大事なところにナイフで切れ目入れっぞ!?」
「バカーーーーーー!!!!」
そんな様子を見ていたモナカが呟く。
「人質って……悪魔さん関係なくないですか……?」
だが悪魔はモナカを手放して俺たちに懇願する。
「お、おまえら悪魔か!? よくも小さな女の子にそんなことできるな!? 悪魔か!? この悪魔め! や、やめろおおおーーーー!!!」
「ふん、わかったか? よし、やめてやれ」
「これで次もバッチリ人質できるな」
「……人質できるなって、どういうことでしょう? 私またこのくだりやらされるんですか?」
「みんな大っ嫌い!!!! 知らない!!!!」