-296-
「中学くらいの時、重心を養う勉強だって10階建てのビルから叩き落とされた時、最後だけ足滑らせて頭打ってたよな、その時からなんか常識かけ始めてたぜ?」
「は?」
このちんちくりんのトモガラは、なぜそんなことを知っているのだろうか。
本物なのか?
姿を擬態させる魔物かと思っていたが、まさか本物なのか?
「足滑らせて頭打ったレベルじゃ無い、割れてたんだよ実際」
「だろうな、俺が血の処理やらされたもん、グロ耐性ついたぜおい」
そうだったのか……。
俺はよく覚えていないが、祖父にほら特訓じゃ、今のお前ならいけると言われてビルから突き落とされた。
なんとか壁を走ったり、窓のヘリを飛んだりしながら自分を制御して着地を目指していたのだが……。
最後に着地してギリギリいっぱい衝撃を打ち消すための足場に、誰かが噛んだ後のガムを履いた。
それでずれて転んで頭から落ちて死ぬかと思ったんだ。
「まあ俺が邪魔したからだったんだけどな、今のうち謝っとくぜ、ごめんな!」
こ、この……!
その上で頭打ったから忘れっぽいと物申すか、このちんちくりんめ。
「あ? 見下してんなよ?」
こ、こいつ!!!
「か、かわいい!」
「おわっ!」
へへんと腕を組んで俺の前に現れたこの二歳児みたいなナニカに、ツクヨイが黄色い声をあげながら飛びついて抱きしめいてた。
むぎゅむぎゅともみくちゃにされている何か。
まあ、俺の痛いエピソードを知っているから、こいつがトモガラなんだろうな。
装備もミニマム化しているが、雪山に来た当初とそっくりそのままだし。
「よしよーし!」
「うるせー! おちょくってんのか!」
「……ぷっ」
「わらってんじゃねぇー!」
どれだけ怒鳴ろうが、今のトモガラはただのクソガキだ。
全然怖く無い。
「いったいどうしたんですか! なんでこんな可愛い姿に!」
「そうだよ、ぷっ、いったいどうしたっていうんだ、ぷぷぷ」
俺も皮肉を込めて笑っておこう。
いつも散々笑われてるお返しだな。
「……ローレントさん、笑い方めっちゃ下手くそですね」
「ブハハハハッ! 言われてんじゃねーか!」
ツクヨイ、いったいどっちの味方なんだろうか?
どうやら、水中に落ちてすぐ、穴の中に引っ張られてしまったらしい。
スキルをフル使用で抵抗しても、絡め取られた何かの力は一向に弱まらない。
暗闇の水中で、もみくちゃにされて、そして酸素が切れて窒息ペナルティ。
意識を失ったトモガラはそのまま水中で魔物に喰われるか、じわじわHPが減っていくかしか無いのだが、なぜか小さくなって生かされていた。
目覚めて、すぐ近くに【罰】と書かれた看板が存在していたことから、すぐにこれがペナルティだってことに気づく。
「くそったれがああ!!!!」
律儀に証明するために持って来ていた看板を俺らの前でバキバキにしていくトモガラ。
小さくなってもスキルの効果自体は変わらないらしいが、元の重さ、力自体は身長180センチを超えていたフルサイズバージョンよりも大きく弱体化。
数値的に表すとスキルを使ってもマックス時の30%ほどに落ちぶれているらしかった。
「看板バキバキにするのにスキルフルで使わなきゃなんねぇってマジかよ!」
小さくなってもその性格は健在らしいな。
どうせなら年相応に戻してしまえばよかったのに。
「妖精化……ですか?」
「ああ、どうやったのかわかんねぇが、身体を強制的に小さくされる」
そしてHPは十分の一になり、代わりにMPが十倍になるらしい。
「おれは近接職だ! それに魔法スキルもってねぇよ!」
確かに、トモガラとは相性が最強に悪い見たいだが、例えば魔法職が妖精化状態になったとする。
MP十倍ってとんでもないような気がして来た。
しかもそれだけじゃ無いだろう。
あいにく魔法スキルを持っていないトモガラだから試せないが、さらなる効果がありそうだった。
「可愛いので是非覚えたいんですが……ダメなんですかねえ?」
「しらねぇ! 錬金術師ならなんとかしてくれっ!」
「そうは言われましても……」
「くそがーーー!!」
「あ! そんな汚い言葉使っちゃいけませんよー! よしよーし!」
「うぐああああああ!」
よし、いいぞツクヨイ。
そのまま天然の精神攻撃を与え続けろ。
トモガラのプライドに触ってあいつは心身ともにボロボロになるはずだ。
おそらくこの罰はスティーブンとハモンの仕業だろう。
近接職に魔法特化になりそうな妖精化を施すなんて、とんでもない罰を思いつく。
だがそれ以上に、子供扱いされる方がトモガラにはダメージがでかそうだった。
「あ、確かアイテムボックスに錬金スキルの練習でつくったブリキの車……じゃないブーブーがありますからねー? いいですかー? これであそびましょうねー?」
「………………ちーん………………」
「あれ? ちょっとローレントさん! トモガラちゃんがぐったりしてます!」
「……折れたか」
心が。
「ポーションポーション! ど、どうやって飲ませましょう? あ、そうだ! ローレントさんガラスケース持ってます? 今からそれを錬金スキルで哺乳瓶に加工して──」
あーだこーだいいながらせっせと準備するツクヨイ。
「妙に手際がいいな」
「……まあ、離れた兄弟がいましたし、そういう学校行ってますからね。ってローレントさんたちだけですよ! 普通ブラックプレイヤァは自分の出自を明かさないんですから!」
なるほど、そういう感じね?
てっきり引きこもりやってるタイプかと思ってた。
何気にいっつもゲームにいるし。
トモガラ、罰によってミニマム化。




