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「む、ムカデです! い、嫌!」


「……そうやって騒ぐから寄って来ると思うんだけどな」


「はむっ!」


 洞窟の天井をわさわさと歩くケイブセンチピード・ジュニア達を前にして、再びビビり始めたツクヨイは、俺の一言を聞いて慌てて口を塞いでいた。


 こう言う場合は慌てず騒がず平常心を保つべきだ。

 余計なミスが致命傷となり得ない。

 センチピードにどのような毒性があるのかはわからんが、きっとこのゲームのことだ。

 噛まれたら激痛だろう。

 ……巨体故に致死量を流し込まれることも考慮しておくこくか。


「いつでも迎撃できる態勢は取っておいた方がいい」


「は、はひっ」


 そう、いつまでも俺の腕にしがみついていては意味がない。

 離れて怯えているくらいなら護りようはあるが、敵に利が出てしまう行為をされてしまうと厄介だ。

 自分のことは能動的な無能は本当に厄介だな。


 軍人には四つのタイプがあるとよく言うが、それは本当に当てはまっていると思う。

 別に余計なことをしてもやるべきことをこなしていればそれで良いのだが、こなさずこなしたと嘘をつくものがいたりするのは少しいただけない。


 嘘も方便だが、その嘘は貫き通してこそ価値があるとは思わないか?

 自分に嘘をつく、そんな強い暗示効果を負の方向で考えているからクズになる。

 正に生きろ、偽善でも正しい方向で考えていけば自ずとそっちに回っていく。


 まあ、口先だけで努力をしてないと現実に突きつけられる時が来るが、それは淘汰だ。

 負け犬を受け入れると一生負けっぱなし。

 それで静かに生きれば良いのに、遠吠えだけはいっちょまえにでかい。

 そして遠吠え文化ができて、傷の舐め合いしてるから手に負えないんだ。


「でも、む、無理ですってあんな数」


 厳しくツクヨイにそう言ってやると、不安そうな顔で首を降っていた。


「俺にはそうは思えんがな」


「ええ……」


 生産職をやってるならば、それを攻撃に活かせば良い。

 昔から、こいつは小遣い稼ぎとしか考えてない節がある。


「別に全てにおいて完璧にやれとは言わんが、どうにかこの場を凌ぐくらいは自分の全てを出し切ってやってみたらどうだ」


「いや、その……」


「そこで諦める奴は好かん、いや嫌いだ」


「え………………」


 ピタッと立ち止まって不安そうな表情を作り、唇を噛み締めるツクヨイ。

 正直うっとおしかったしな、ここいらで厳しく接するのも兄弟子としての役目だろう。


「どうでも良いやつにはここまで言わんが、あえておまえだから言っている」


 兄弟子としてな。


「……じゃあ、どうすればいいですかっ!」


「知らん、自分で考えろ」


「……ふぐ、えっぐ……ひぅ……」


 泣き出したか。

 まあ、それもさもありなん。

 どうしようもない状況とか泣きたくなる気持ちもわかるが、泣いたところで構ってくれるやつがここにはいないぞ。

 心配そうな表情をするローヴォには俺が目を光らせているしな。


「甘やかしすぎたな、とりあえず後は一人でなんとかしろ」


 スティーブンも可愛がりすぎたんだよ。

 俺がマフィアや魔人相手に大立ち回りしている間に、師弟クエストだのなんだの言って魔法の修行に連れ回していたらしいが、帰ってきたら特大魔法覚えてただけって、なめてんのか。


 俺には色々とペナルティ与えるくせして、ツクヨイの中途半端な痛い部分は全く治っていない。

 これは甘やかし以外の何事でもない。

 今回の懲罰クエストではツクヨイのでもでもだってなところが大きく見えたな。


「フレンドは削除だな。俺は先に進む。餓死でもすれば街に戻るから、そこでぼーっとしておけ」


 日和った奴が嫌いなのは事実だ。

 第一生産組や、俺とつながりがあるプレイヤー達は、どんなバカなことでも真剣にやる。

 悲劇のヒロインはいらんし、俺が好きなのは強い女。


「……単純攻撃力は闇魔法は大して強くないです、守ってもらって相手に異常状態を与えて、そして倒してもらうのが仕事です……一人でなんとかしろって、どうにもならないのは当たり前じゃないですか……」


 後方でツクヨイがそう呟いていた。


「そうだな」


 そこでどう戦うかだ。

 だったら自分の持ち場で少しは貢献しろってこと。


「……わかりました」


 そう言って唇を噛んだツクヨイがキッと俺を睨んだ。

 そうそうその目。

 行動をするなら先に心を動かせ。

 さすれば自然に目に光が灯り、身体を動かす原動力になる。


 そしてツクヨイは頭からMP回復ポーションを被り詠唱を開始した。

 それはあの長ったらしくMPを大量に使用する闇属性魔法スキル──ブラックダウン。


「……虫は敵対すると寄ってくるぞ」


 あまり刺激せずに進んでいたが、そのと真ん中でツクヨイが魔法の詠唱に入ったため、異変を察知した周囲のケイブセンチピード・ジュニア達がうごめきだした。


 詠唱時間三分、まさか、守れというのか?


「言ったよな、俺は自分でなんとかしろと」


「わかってます」


 次に、ツクヨイの周りをフェアリークリスタルから出現した妖精が飛び回る。

 詠唱中は多重詠唱系のスキルがなければ他の魔法スキルを使用することができないのだが、アイテムは使用できるからだな。


 いったい何をするのだろうか。

 ちょくちょく俺にも寄ってくるムカデをかわしながら、ツクヨイを見る。


「錬金術はお金がかかるんです、でも嫌われるくらいなら……出し惜しみはしたくないです。ぶらっくぷれいやぁの意地、見せてやります!」


 大量のムカデに群がられる直前、彼女はスクロールを使用した。


「──後転詠唱のスクロール」


 その言葉の後、詠唱三分を待たずしてツクヨイのスキル、ブラックダウンが発動した。

 ツクヨイに群がっていたムカデ達が、一瞬にして瓦解して、ターゲットを見失って周囲をうろうろしている。

 すごい光景の最中、ツクヨイは俺に向かって言った。


「これでいいですか? 一方的に倒せる土壌は私が先に作りましたよ?」


 ……すごいな。

 詠唱三分後、再使用待機時間が一時間くらいあるブラックダウンを一瞬で発動できるとは、思わず身震いしてしまった。


「上等だ。やればできるじゃないか」


 さすが俺の妹弟子。







容赦ないローレント。






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