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「この木の印は俺の……、ここだ」
遠くからでも滝の音が聞こえてくる。
ゴブリンの集落は山の崖下、滝壺の裏の洞窟に作られている様だった。
食い散らかした骨類がまとめておいてある所を眺めると。
どう見ても人の身につけていた布の切れっ端とか。
そういう感じの人に近い骨とかが交じっていた。
人間も食べるんだな。
見張りのゴブリンは水辺の近くで休んでいる。
その他には棒切れを打ち合って遊ぶゴブリンも居る。
[シークレットエリア”滝壺裏の集落”です。制限時間は1時間になります]
[入場しますか? yes/no]
なんだこのインフォメーション?
トモガラに聞いてみると、
「いや知らん。俺も遠目からゴブリンを追いかけて見つけたから。こんな近くまで来てないし入ろうとは思わなかった」
インフォメーションメッセージを読む限り。
ここは隠されたエリアだということがわかる。
「要するに、一時間以内にゴブリンを殲滅しろってこと?」
トモガラに聞いてみる。
「いや、多分一時間永遠に洞窟からゴブリンが湧き続けるんじゃね?」
タイムアタックというよりボーナス狩場に近かった。
丁度良い。
まとめてレベルアップとクラスチェンジまで持って行ってやるよ!
パーティリーダーである俺がイエスを選択すると。
押し出されるように滝壺の集落へ。
「ギギ!? ギギーー!!」
俺達に気付いた見張りのゴブリンが声を上げた。
そしてゾロゾロと洞窟からゴブリンが出てくる。
あれ、鎧身につけてるし、剣とか弓とか持ってるんですけど。
「どうやらうかうかしてるとこっちが狩られそうだ」
トモガラの言う通り。
鑑定だ鑑定!
【ゴブリン】Lv9
子供程の体躯の小鬼の魔物。
森に住み、社会を築く。
【ゴブリンファイター】Lv1
戦いに長けたゴブリン。
斧やこん棒を扱う。
【ゴブリンフェンサー】Lv2
剣技に長けたゴブリン。
希少種。
【ゴブリンハンター】Lv1
弓を扱い狩りに長けたゴブリン。
【ゴブリンマジシャン】Lv2
魔法を扱うことの出来るゴブリン。
希少種。
レベル、高くないですか?
ってかもしかしてクラスチェンジ組じゃないかこれ?
想定以上にヤバイ連中の出現に意表をつかれた。
「日和るな馬鹿! 一番使える得物を持て!」
トモガラの一言で気を取り戻す。
流石現役さんは何時何時も戦う準備ができている。
一番使える得物となると……?
ヌンチャクと六尺棒しか無いよなぁ。
レイピアからヌンチャクに持ち替える。
ヌンチャクはズボンに挟んでおいて、飛んでくる弓矢を六尺棒で弾いた。
詠唱セットはオッケー。
「ブースト!」
身体能力上昇そして弓を構えるゴブリンに銛を取り出して投げる。
もう一本を出す時間はないので再利用。
「アポート! そらっ!」
「便利だな!」
トモガラは最小限の動きで前線に出る。
避けきれずに、矢が身につけているチョッキに刺さっても気にせずにだ。
そして【マッシブ】と【ハイブースト】と【木の呼吸】を使用した膂力でゴブリンの武器ごと鉞でぶっ飛ばし始める。
「メディテーション・ナート! エンチャント・ナート!」
詠唱が完了し俺にも補助魔法がかかる。
奥から火の玉が飛んでくるが、魔樫の六尺棒で蹴散らした。
そして銛をもう一投。
頭部ではなく肩口に刺さる。
魔法はしばらく来ないだろう、次の相手をする。
「うらうら押し込め押し込め」
ガンガン詰めて行くトモガラのサポートをしながら、時間を確認する。
十五分程経過しているようだった。
残りは四十五分、洞窟が広くなければ一時間以内に殲滅できるんじゃ無いだろうか。
大量の死体を踏みながら洞窟を目指す。
解体してる暇はねぇ!
【ゴブリンヒーラー】Lv3
回復魔法を持ったゴブリン。
薬草の知識もある。
希少種。
奥で中途半端に生き残ったゴブリンの治療をしているゴブリンを発見した。
流石にアレを放置するのは分が悪い。
ローヴォはトモガラに着かせてしぶといゴブリンに止めを刺す係。
銛を投げる。
ゴブリンファイターに身を呈して止められる。
数が多いと流石に狙えないか。
そうこうしてるうちに回復したゴブリンが戦線復帰。
「おい! あいつ何とかしろよ!」
洞窟で壁役になっていたトモガラが痺れを切らして叫ぶ。
「こう阻まれるんじゃあたらん!」
見てみるとヒーラーは一人だけのようだ。
あの一体だけを倒せれば状況はトモガラが頑張ってくれるハズ。
それをゴブリンも理解しているのか、必死で守りに入る。
ヌンチャク投げるか?
いや、洞窟内での取り回しは六尺棒よりヌンチャクが良い。
すると壁を走る灰色の影。
ローヴォが洞窟の壁を、天井を駆け抜けて行く。
ゴブリンヒーラーの首元に食らい付いて、激しく揺さぶり始めた。
首の骨が折れたようだ。
ぐったりするゴブリンヒーラー。
流石ローヴォ。
だが、敵陣のど真ん中で孤立してしまった。
「くっそ! のけ!」
必死に抵抗しているが、ローヴォの脚に矢が刺さる。
どいつだ!?
今矢を放った奴は!?
いた。
怒りの投銛はこめかみへ。
悲痛な鳴き声が聞こえる。
テイムモンスターが死んだらどうなる?
わからん。
召喚とは違うから、俺と同じようにホームに戻って来るのか?
死に戻りはするのか?
わからん!!!!!!!
「おおおお! どけええええ!!」
「お、久々にキレやがったな! 押し返すぞ! 時間は後十五分だ!」
左腕に六尺棒を挟み操り牽制しながら、右手のヌンチャクを使い仕留めて行く。
ゴブリンは人型、頭を陥没させれば一撃である。
……ダメだな。
洞窟内は組み合わせが悪過ぎる。
大きく武器を振り回して距離を取ると、六尺棒とレイピアを交換した。
狙うのは目、眉間、こめかみ、全て頭部だ。
洞窟の泥も蹴っ飛ばして目つぶしに使う。
「ローヴォ!!!」
HPは?
まだ三割残っている。
かなり持ちこたえているようだ。
「そら、取り戻せ!」
ゴルフスイングの様な一撃で、壁をバウンドしながらゴブリンが跳ねて行った。
アレは死ねるな。
辛うじて活きてても全身粉砕骨折だろう。
「アウゥ」
ゴブリンの攻撃を搔い潜ると、健気に前足を出して助けを求めるローヴォを抱きかかえる。
昔に比べて少し大きくなったよな。
「一度引くぞ! 後ろからポップし始めてる!」
「りょ!」
数は少ないが、洞窟の入り口からもゴブリンが押し寄せている。
ポップしたゴブリンは普通のゴブリンだったので助かった。
でも時間が経てば希少種とかクラスチェンジ組がわきそうなので引き返す。
少し深入りし過ぎた。
ポーションはある。
無理矢理にでもローヴォの脚から矢を引き抜く。
悲鳴を上げたが気にしない。
いやあぶねぇ!
HPギリギリだった、気をつけないと。
ポーションを掛けるとやく一割程回復した様だった。
[一定討伐数を越えました、エリアボスが出現します]
インフォメーションメッセージが流れる。
残り時間は十分。
洞窟の奥からは、成人男性程の大きさを持ったゴブリンがバトルメイスを持って登場。
ヒーラー、マジシャン、フェンサーを一体ずつ連れている。
わらわら湧いていた雑魚ゴブリンはいつのまにか居なくなっていた。
【ホブゴブリン】Lv8
希少種の中から更にクラスチェンジしたゴブリン。
恵まれた身体と統括する能力を持つ。
二段階のクラスチェンジを経たゴブリンだった。
ぞくりと背筋を撫でる様な悪寒が伝わってくる。
お供ゴブリンのレベルは、今までより高いレベル8で統一されている。
トモガラは?
同じように身体を低く構えて両手に大剣を抱えていた。
本気か。
「マッシブ! ハイブースト! 木の呼吸!」
「ブースト! メディテーション・ナート! エンチャント・ナート!」
得物は?
魔樫の六尺棒とレイピアで!
まずは回復役を狙う。
フェンサーが前に出て邪魔し、マジシャンが後ろで詠唱を唱えている。
ゴブリンの肩口から覗くマジシャンに銛を投げる。
手に持っていた杖で弾かれるが、それは織り込み済み。
フェンサーの突き攻撃を身体を仰け反らせて躱す。
身体を軸に六尺棒を回転させるトリッキーな攻撃。
フェンサーの横顔を殴打する。
魔法の火の玉と礫が飛んで来た。
炎はギリギリで躱す、だが読まれている様に石が肩に当たった。
痛てーなちくしょう。
レベルが高い分フェンサーも頑丈のよう。
頭を振ると再びこっちに向かって来た。
相手の身体に淡い光のエフェクトが。
HPが徐々に回復して行っているようだ。
トモガラはどうなっている?
明らかに劣勢に追い込まれている。
というか、大剣二つを相手にバトルメイス一本でやり合うゴブリンってどうなの。
メイスで受け弾きながら、得物を持って無い手は大剣の腹を上手く捉えて防いでいる。
上手い。
戦ってみたい限りだ。
だが希少種三体相手に苦戦するようじゃ、全然ダメだな。
トモガラも歯痒い表情をしてるし早めに片付けないと。
「アポート!」
マジシャンにもう一投。
詠唱キャンセルは忘れない。
回復役には活躍させない。
狙うは急所、一撃でフェンサーは倒す。
「ゴギャッ!」
ゴブリンフェンサーが叫んだ。
袈裟型に斬りつける、大振りの剣戟。
スキルを使用したんだろうか?
だが、良かったこれで勝てる。
早く力強い一撃だが、ただそれだけだ。
獣でも迂闊に攻めないぞ。
合わせる様に小手打ち。
剣を落とさなかったことは褒めてやる。
スキルを使う時は大きい隙を狙った方が良い。
「スティング!」
突き系スキルは強い。
身体ごとスライドする様に、鋭い早さで抉り込む。
フェンサーの兜の隙間から見える弱点。
眼球からレイピアがスッと相手の脳を貫く。
息絶えたゴブリンフェンサーを蹴りとばす。
盾を失って、マジシャンもヒーラーも戦いている。
倒れたゴブリンを踏み蹴って加速。
狙いはヒーラー。
マジシャンは?
詠唱を始めているが、先にヒーラーからだ。
「スティング!」
更に加速する。
レイピアじゃ距離が足りない。
六尺棒だ。
狼狽えるヒーラーの喉元をひとつき。
声にならない悲鳴を上げて倒れるヒーラー。
これでしばらく立ち上がれない。
「ギアッ!」
また火の玉か。
放物線を描いて飛んで来るのは知っている。
咄嗟に手を前に出した。
魔法職だからある程度レジストしてくれたらいいや。
一応補助スキルの詠唱をセットしておく。
HPは?
俺の分は三割減っている状況。
相手はミリも減ってない。
魔法のダメージ量エグいな。
手の表面だけでもこんなにか。
だが魔法使い一人で何が出来る。
既に六尺棒の間合いだ。
「ブースト! メディテーション・ナート! エンチャント・ナート!」
相手の身につけているのは鎧じゃなくてローブだ。
革製でもない、装飾された布地っぽい。
レイピアを倒れて呻くヒーラーに投げつけると。
そのままマジシャンに接近して顔を一閃。
はは、エクソシストみたいになっちまった。
そのままゴブリンマジシャンは悲鳴も無く倒れる。
「おい! 終わったんなら力かせ!」
声がかかる。
トモガラの大剣の一本が大きく欠けていた。
刃もぼろぼろになってしまっている。
トモガラのHPは残り半分を割っていた。
前衛職なのに。
対するホブゴブリンは?
……二割程度か。
既に事切れてたヒーラーからレイピアを抜くと。
武器を入れ替える、レイピアとヌンチャクで。
ボロボロの大剣を見ると、打ち合うのは黒鉄武器じゃないとダメだ。
だが、鋭いレイピアでは太刀打ちできないと予想。
「ポーション!」
「サンキュ!」
トモガラのHPが少しずつ回復して行く。
その間、一人でホブゴブリンの相手をするんだが……。
どうする?
初手は貰う!
ヌンチャクを背中から回し、遠心力を込めて振り回す。
ホブゴブリンは?
前蹴りだ。
片腕で抱え込む、軸足をそのまま刈りに行く。
容赦なくメイスを振って来た。
多少転がされても当たれば勝てると思っているのか。
ヌンチャクを折り畳むと、メイスを受ける。
HPが二割切った。
やべぇ。
「加勢するぞ!」
ある程度HPマージンの取れたトモガラが戦線復帰する。
だが、押し込む様にホブゴブリンのメイスは振り抜かれる。
バトルメイスに付けられたトゲが、顔面に。
[制限時間が終了致しました、強制退場になります]
フッ。
と集落の入り口へ。
戻される感覚がする。
助かったのか……?
「お、レベル上がってるぜ、あれだけ狩りゃどっかで上がる事もあるか。あと、剥ぎ取り報酬じゃなくて、クリア報酬みたいになってるのか」
トモガラが座りながら呟いていた。
インフォメーションログを確認する。
[制限時間が終了しました、強制退場になります]
[シークレットエリア”滝壺裏の集落”のプレイヤースコアはB+ランクです]
[報酬をお受け取りください]
[プレイヤーのレベルが上がりました]
[テイムモンスター:ローヴォのレベルが上がりました]
[テイムモンスター:ローヴォがクラスチェンジレベルに到達しました。クラスチェンジ先を指定してください]
[未読のメッセージが届いています]
気になることが多過ぎて目移りしてしまう。
トモガラが言った。
「これ、もう一回入れないのか?」
「流石にそれは」
すっかり魔物の気配が無くなったシークレットエリア。
トモガラが侵入を試みるが。
[再入場まで残り23時間55分]
インフォメーションメッセージが表示され入れなかった。
これからどうするかという話になったが、ローヴォが大分消耗していたし、トモガラがそろそろ落ちる時間帯が近付いてきていたので、それに合わせて町へ戻ることに。
丸太はもちろん回収しました。
うーん、すごく微妙な結果になってしまった。
色々と益はあったが、なんとなく不完全燃焼。
勝負に勝った負けたの次元じゃなくて。
運良く生き残れたとか。
もどかしい気持ちで一杯だった。
ーーー
プレイヤーネーム:ローレント
職業:無属性魔法使いLv14
信用度:70
残存スキルポイント:2
生産スキルポイント:3
◇スキルツリー
【スラッシュ】※変化無し
【スティング】※変化無し
【ブースト(最適化・黒帯)】※変化無し
【エナジーボール】※変化無し
【メディテーション・ナート】※変化無し
【エンチャント・ナート】※変化無し
【アポート】※変化無し
【投擲】※変化無し
【掴み】※変化無し
【調教】※変化無し
【鑑定】※変化無し
◇生産スキルツリー
【漁師】※変化無し
【採取】※変化無し
【工作】※変化無し
【解体】※変化無し
◇装備アイテム
武器
【大剣・羆刀】
【鋭い黒鉄のレイピア】
【魔樫の六尺棒】
【黒鉄の双手棍】
装備
【革レザーシャツ】
【革レザーパンツ】
【河津の漁師合羽】
【軽兎フロッギーローブ】
【黒帯】
称号
【とある魔法使いの弟子】
◇テイムモンスター
テイムネーム:ローヴォ
【リトルグレイウルフ】灰色狼(幼体):Lv10
人なつこい犬種の狼の子供。
魔物にしては珍しく、人と同じ物を食べ、同じ様な生活を営む。
群れというより社会に溶け込む能力を持っている。狩りが得意。
[噛みつき]
[引っ掻き]
[追跡]
[誘導]
[夜目]
[嗅覚]
[索敵]
※躾けるには【調教】スキルが必要。
ーーー
本日は朝夕の二回更新でした。
更新分は28、29話です。
次回はいよいよアポートマックスとローヴォが……!
お読み頂きありがとうございました!




