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【遊撃雪猿の皮】素材
コマンドサスカッチの皮。分厚く、完全防寒。
白銀の毛並みは汚れていなければ雪の中に擬態できる。
【遊撃雪猿の尻尾】素材
コマンドサスカッチの尻尾。太く強靭。
氷属性を司る器官。これにて雪を操作する。
尻尾が氷属性を持っていた。
なかなかレアな素材が解体収集できたと思うのだが、これは一つしかない。
倒した張本人はトモガラなので専有権はこいつに発生する。
俺とモナカ、そしてツクヨイは皮をそれぞれ配分されることに。
「この大きさだと生産解体しなくて普通ドロップでそこそこの量が取得できるから楽だよな」
尻尾を首に巻きつけながらトモガラはそんなことを言っていた。
別に生産解体してる間待ってもいいのだが、ツクヨイの強い主張とトモガラが面倒臭がったので普通の解体スキルを使うこととなった。
またぎになったトモガラはこれでモンスターの素材を余すことなく利用できるのだ。
実入りはいいけど、相応に面倒くさいのがネック。
「できれば人数分の尻尾は揃えておきたいなあ」
それに、服に使うのも量的に足りない。
「服装備の中に突っ込むだけでも多少は違いますね、これ。解体スキルのドロップなのでドロドロしたのもついてないので、これがいいです。でも狩るのはおまかせします」
「……まあいいけど、なんでそこまで他力本願なんだ?」
ツクヨイの言葉にトモガラは苦笑いしながらそう言い返す。
「無理やり連れてこられた私の身にもなってみろってんです。ああもう、言葉遣いが定まらないです。ぶらっくぷれいやぁは雪山苦手です」
……よくわからんが、ツクヨイも順調に狂ってきているようだった。
雪山って寒さと雪景色で途方も無い白く冷えた空間だから、なんか精神的に参ってくるよね。
人間社会になれたアンテナが強制的に自然に戻されているのだ。
それでこそ修行とも言える。
無事に帰ってこいよツクヨイ。
これを経験したお前は、帰ってきたらこのレベルの出来事に対して動じなくなる。
「うむ、よしよし」
「何がよしよしですかぁっ! よしよしなら頭を優しく撫でろってんでい!」
「江戸っ子ですか……?」
コマンドサスカッチを撃破した後、俺たちは看板があった場所へ戻ろうとしたのだが……。
「そりゃそうだわな」
トモガラのつぶやきの通りだ、看板なんぞイエティと雪の混合物によって埋もれてしまって見えない。
トトトッとモナカが足回りの軽さを生かして積もった雪山を登り上からあたりを見て回るが、対して一望できる景色に変化はない。
「仕方ないなあ、ローヴォ」
「うぉん」
ローヴォに行って看板を探してもらう。
すんすんと鼻を鳴らしながら、ローヴォは雪道を進んでいく。
ルビーもヤンヤンも、道中雪遊びをするもんだから、テイムモンスター勢はなんとも気楽なもんだ。
できるならノーチェも出しておきたいが、踏み固められていない雪道は慣れてない馬にとって少々酷だろう。
ムースあたりならば関係しにザックザックと雪を蹴り進んでいけるだろうがなあ。
鹿なんか……いた。
目の前に、鹿でした。
【ムーーーース】Lv2
ムーーースのクラスチェンジ。クラス4。
さらに大きな体格と角を持ち、雪山地帯広域を駆け回る。
縄張りへの侵入者には容赦しない。雪山の番人。
「で、でかいな」
コマンドサスカッチの時もそうだったが、ローヴォの先導のもと進んだ先に同じくらい大きなヘラジカが立っていた。
立派な角の大きさを考慮すれば……コマンドサスカッチよりも大きい体高をお持ちではないか。
「そうだな」
トモガラのつぶやきに同意しておく。
すると、ローヴォがそのヘラジカに顔を向けながらくぐもった声をあげた。
「ぐふっ」
「……まじで?」
俺らの会話に周りが反応する。
「あん? なんだよ、おめぇらだけ通じる会話すんじゃねぇよ」
「どうしたんでしょう。狼さんが鼻で何やら合図してましたね?」
「ローレントさん、なんとなくその反応で察することはできるんですが、あんまり信じたくないのでそのまま真実は言わないで心に留めておいてもらえますです?」
「こいつから看板につけてあった匂いがするってよ」
「言わないでっていったのに、次の相手はこの巨大なヘラジカだなんて……ああもう、なんなんですかもう、また怪獣大バトル、妖怪大戦争なんですか?」
失礼だな。
確かにトモガラのスキル構成は怪物、モノノ怪の類に該当するほどとんでもない代物になっている。
だが俺は違うぞ、むしろ持ち前の体術だけで頑張ってやってきた。
さすがにコマンドサスカッチ相手に力比べなんてできない。
か弱き、人間なのだ。魔法職は。
「はいはいどの口どの口、どうせ感想スレでも言われてますよどの口どの口」
そう言って口を曲げるツクヨイ。
いかんな、過酷な雪山の環境によって精神がやさぐれ出している。
「では、お次は私がお相手しましょうか」
そんなことを考えていると、笑顔を絶やさないモナカがすとすとと雪の上を歩いて前に出た。
巨大なヘラジカを前にしてモナカは右掌を俺らに向けてまるで一人でやるからくるなという合図をすると、ヘラジカはそのまま威嚇するように首を下げ、角を向けて後ろ足で地面を擦る。
「まあまあ、気合十分ですね☆」
クスクスと笑うモナカは、自然体のままゆっくりとヘラジカに近づいていく。
「……え、威嚇したまま接近を許してますよ?」
「相手が動物でも関係なく、攻め入る隙を与えてないだけだな」
そう短くツクヨイの疑問に答えておく。
目と目が合えば、自ずと相手の様子を伺ってしまう。
どこから攻めようか、それは動物の世界でも一緒だ。
むしろ、人間よりも相手の急所を攻め込むことに対して余念が無い。
本能で狙いに行く分、むやみやたらに攻めることがない。
無駄がない、理想形。
故に、モナカはそこを逆手に取り、一切の隙を排除して容易に近づいて行く。
無拍子歩行おそるべし。
敵前で散歩してんじゃねぇよ。って言ってやりたいね。
「鹿さん、こないんですか?」
「ゴッフゴッフ──ッッ!!」
モナカの言葉にハッと気づいたヘラジカは首を大きく下げ、角を雪に突っ込むと、そのまま首をもたげ、角で雪をすくい上げてモナカの視界を奪いにかかった。
このゲームのモンスターって平気で戦略を立ててくる。
ゴリラも、虫も、なんだかんだ狩っているとその強さを増して行くことがちょくちょくあるのだが、全くもって今時のAIとやらはすごいよな。
うむ、ヘラジカそのまま間髪入れず攻め込むつもりのようだ。
巻き上げた雪がとんでもない量すぎてモナカの戦う様子が見えないのだが、大きく雪を蹴り上げて踏み込んだ音がしていた。
そして雪のブラインドが晴れて行くと──。
「初手で目隠しはなかなか考えました。80点です☆」
雪の上に立つモナカと、逆さまになって雪の中に埋もれる巨大なヘラジカが一体。
トモガラが確認に向かうと、ツノが地面に突き刺さり、そのまま自重で首の骨が折れていた。
「さすがだ」
「ふふ、一人一人実力を見せる回ですから。見せ場はしっかりやりませんとね☆」
「そ、そうか……」
いったいなんのことを話しとるのかわからんが、順当に行くとツクヨイが個人で戦う場面が出てくるってことか?
……大丈夫か?
まあ、大丈夫か。
「そんなことより、誰も突っ込まないんですか? このモンスターの名前が手抜きだってことに……」
さて、順当にこの罰を受けるメンバーの頭いかれっぷりが書かれつつあります。
次は中二病回です。
あとがき小話(読み飛ばしておっけー)
一年ぶりくらいでタイトルを変更させていただきました。
書籍版に合わせてあります。
と、いっても、GSOってのが頭についただけですけどもね。
その辺りの刊行情報と、新しいキャラクターラフは活動報告にてご報告とさせていただいてます。




