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「結局何すれば良いんですか……」
腹ごなしも終わり、とりあえず持ってる予備のローブを数着多めに着込んだツクヨイがそう呟いた。
よかったな、いつのまにかゲームシステムが変わって装備制限が自由になってて。
それがなかったら今頃凍死してただろうな。
防寒系のスキルがあれば良いのだけど、あったらとっくに身についてるか。
取り急ぎ、重ね着やら木の皮を服の中に詰めたりしながら寒さをしのぐのだ。
モナカは大人しく熊の毛皮を羽織っている。
「何をするかといえば、特にクエスト内容に関しての指定はなかったような」
「……ハモンさんってスティーブンさんより破天荒です……」
そう答えるとげんなりとした顔で不満をぼやくツクヨイだった。
ハモンという名前だけある。破門なのか、波紋なのか。
俺はイップマンを推したいけどなあ。
初邂逅のとき、ツクヨイも確か俺とハモンの戦いを見ていた。
その時はどうだったっけ。
いきなり殴りかかられたような、ないような。
「ともかく、生き残れと言われてませんでした? っていうかあの雪山でも半袖の美男子様は開始宣言の時そう叫んでどこかへと消えましたよ?」
半袖の美男子とは、ハモンのこと。
……美男子の基準がわからん。
が、モナカは渋いおっさんでも、三十路手前の俺みたいなやつでもオッケーってことらしい。
トモガラはどうなのだろうか?
一応聞いてみるか。
「この金髪ドレッドヤンキーは美男子ではないのか?」
「うーん、あんまりピンと来ませんねえ」
「ああん? どたまかち割るぞこのアマ」
どうやら金髪ドレッドヘアのヤンキー野郎はお気に召さないらしい。
「野性味の渋さも良いですが、スマートさとそして戦う時の目が素敵な方でないといけませんね」
「……うーん、野性味? スマート?」
ツクヨイの訝しむ視線が痛かった。
スマートに敵を倒してると俺の中では完結している。
今までも、そしてこれからも俺の流儀でスマートに。
さて、生き残れといった師匠陣営が、このままぬるい状況で雪山クエストを収めるわけがない。
一応ログイン・ログアウトポイントである山小屋の確保はされているが、今のゲームの仕様上、いったいこの山小屋もいつまで持つことやらな。
いきなり仕様不可になったら困る。
だから俺は入念に冬ごもりの準備を行なっていたわけだ。
クマの肉でも鹿の肉でもたべれるもんは全て食べれるように加工しとかないとな。
「ちょ、ちょっと待ってくださいぃぃ!」
小屋を出て全員であたりを散策していると、ツクヨイが後ろからそう叫んでいた。
ツクヨイのパンダ型テイムモンスターのヤンヤンが、呆れた表情をしながら後ろから彼女のケツを押す。
「もたもたしてる暇はねぇんだ。早くしろよ」
容赦のないトモガラの一言に、やっと追いついたツクヨイが息を切らしながら言い返した。
「はぁ、はぁ……歩くの早いです。ぶらっくぷれいやぁは雪に弱いんですぅ!」
「そうか? 雪山っつったらだいたいこんなもんだろう?」
そういうトモガラは阿仁マタギ仕様のケタビを履いていた。
雪に足を取られても有り余る身体能力によって蹴散らせるとのこと。
「何事も重心が大事ですよ。下手に歩くとかえって足を取られてしまいますからね」
そういうモナカも靴の上からトモガラが乱雑に作ったケタビを履いているのだが、元々の体重がかるいことと、自分の重心を分散させてあることが技術的に可能なため、雪に足を取られないで歩ける。
「おれはカンジキ作ったしな」
急ごしらえだが、なかなかうまい具合に作用しているカンジキ。
まあ、その気になれば重心を分散させて水を混ぜた片栗粉の上を走る感覚タッタッタと軽快に雪の上を走れるのだが、それはそれで面倒だ。
モナカみたいに体重軽くないしな。
「……ってか雪山は慣れてるってのが一番だな」
トモガラの一言に俺とモナカは納得するように頷いた。
修行といえば、山奥。
さらに険しい修行は自然の猛威にさらされる状況で生き残ること。
「生きることへの執着が、戦闘におけるひとつの重要な要素となる」
戦闘技術というよりも、単純に生物として強くなるためのものか。
賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶというが、歴史を追ってもその感覚は掴めない。
書物を読んでも体感できないものごとは多い。
古い本を読んでその時代のことを追体験するというが。
追体験する自分らの感覚はまさに現代。
あいえいち式のオール電化に住む奴が、昔の火起こしについて書かれていても分かるはずがない。
とことん便利になった世の中では色々な感覚が薄れてしまっている。
それを取り戻すのが大自然だ。
「……いや、一緒にしないで欲しいです。ぶらっくぷれいやぁ、錬金術師。最新のサイエンスにいきてるんです」
「そうか」
熱く語ったところで、やっぱり女には響かないものよ。
とりあえずカンジキはツクヨイに渡して、俺もトモガラに混じって積もった雪にズボズボ足を突っ込みながら進んで行く。
すると、立て札が見えて来た。
[こっから先に行けっ! 今日中にあの山小屋は使えなくなるからな! そしてログアウトした場合は、スティーブンが強制的に街へ戻してクエストは失敗だ! なお、このクエストをクリアしたものには俺からとんでもねぇプレゼントあげるわ]
「……もう嫌です」
その看板を見ていたツクヨイが、ため息をつきながらそう呟いて看板蹴り倒した。
おまえも大概破天荒に育ったと思うがなと、思った矢先のことだった。
──ピンッ。
蹴られた看板が倒れた拍子に何かのピンが抜けたような音がした。
「へっ?」
目が点になるツクヨイ。
それに反して、こういうことに対して色々覚えがある俺、トモガラ、モナカの三人は顔を大きくしかめていた。
罠だ、何かの罠。
「地鳴りの音が響いてますねえ」
「山の地鳴りなんかひとつしかねぇ!」
「雪崩か!」
モナカ、トモガラ、俺が揃って音のする方向、山頂の方を見上げると。
──ドドドドドドドドドドド!!!
違う、雪ではない!
ゴリラだ!
イエティだ!
白い毛むくじゃらの霊長類の集団が、一挙にこぞって押し寄せて来ていた。
「ぎゃあああああああああああああ!?!?!?!?」
ツクヨイが仰天し飛び上がる。
更新遅れました。
雪山回も、やっぱりゴリラかよ!
あとがき小話(飛ばしてええよぉ……)
活動報告にてキャラクターラフの立ち絵を公開しています。
こんな形でちょくちょくやらさしてもろてますんで。
是非ともよろしゅうおんなまし〜や〜。




