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「なーにやってんだ? とりあえず食料だぜ。あと寒いなら上着を着るんだな」
トモガラが戻ってきて、子飼いのモンスター達とおしくらまんじゅうをしている俺たちにそう言った。
「いきなり飛ばされたんですから持ってきてるわけないじゃないですか! っくしゅん!」
「一応闘志のスキルで寒さはなんとかできますよ〜」
声を荒げるツクヨイは鼻水を垂らしてくしゃみをする。
ゲームの中でもちゃんと風邪をひくのか。
確認するとしかと風邪のバッドステータスが付与されていた。
モナカはニコニコとした笑顔で身体から薄金色のオーラを発する。
「……ずっとMP消費することになるからオススメできねぇけどな」
「それもそうです。戦士職はMPが少ないらしいですからね。私も魔法使いにすればよかったかもしれません……ね? 美男子様」
そういいながら、俺のローブの中に入って来るなモナカ。
その様子を見ていたツクヨイも便乗し、なぜかローヴォとルビーも混ざる。
「もふもふ」
「おめぇも落ち着いてんじゃねぇよ」
もふもふの感触を堪能していると、トモガラに斧をナチュラルに振り下ろされた。
慌てて真剣白刃取り。
「なにをする」
「早い所このクソ寒い雪山終わらせるぜ。近場を見回ってきたが白樺ばっかりだ、まるで北海道を思い出すぜ」
「ああ、あったな。確かヒグマに出会って殺されかけた」
俺はヒグマを倒し、トモガラは逃げた。
未だに根に持っている思い出の一つだ。
「……まだ根に持ってんのかよ。ほら俺は受験だったしな?」
「家でゲームしてただろうが」
チンケな小競り合いが生まれる前に、ツクヨイがトモガラの格好に疑問を持ち訪ねた。
「トモガラさん、その羽織ってるのって何ですか?」
「ん? ああ、これか?」
白樺の木皮を服の中にワッシャワッシャ詰め込んで暖を取っていたのは覚えているが、確かにトモガラの格好が行きと帰りに比べると大きく変わっている。
っていうか、なぜに赤い熊の毛皮を身にまとってんだこいつ。
「木こりの派生生産スキル。マタギで狩って来た。ってか寒すぎて適当に切れるものを探したら、近場に手頃な熊がいたからな──うん、ああいう系のでっかい赤毛の熊だった」
「はわわわわわっ!?」
荒い鼻息を立てながらのそのそとトモガラの後ろから出現した巨大なヒグマに、ツクヨイが飛び上がって驚いた。
「……トモガラ、何した?」
「あん? ヒグマが出る雪山で手っ取り早く食料を見つける方法っつったら一つだろうが」
そういうと、トモガラはアイテムボックスからどさどさと食料アイテム化された鹿の肉を落とした。
「はぁ……やってくれたな」
「アイテム化すれば大丈夫だとは思ってたんだが、見事に俺にターゲッティングしてるぜ?」
自然の摂理にプラスしてシステム的は補正が入っているってところか。
ヒグマは食いかけの獲物を一度土に埋める習性がある。
足跡を辿ればその肉を奪い取ることも可能なのだが、絶対にしてはいけない。
なぜなら、ヒグマが一度手に入れた獲物にものすごい執着心を持つからだ。
その習性が仇となって、襲われた人間、集落はたくさんある。
執着心に狂ったヒグマは凶暴化する。
スターブグリズリーもその一種だったな。
トモガラはアイテム化すれば奪っても関係ないとあたりをつけたが、それはこの世界の運営様が許さないらしい。
トモガラのアイテムボックスか、はたまた彼の匂いをたどってか、巨大なヒグマはこの場所に姿を現したのだ。
「どうすんだ?」
「まあ、ここがリアルの世界だったら少し命の危険が伴うかもしれねぇけどよ……ゲームだぜ?」
そう言ってトモガラは斧を構えた。
「グルァアアアア!」
そして襲いかかって来るヒグマの顔面に向かって大きく振り下ろした。
「レベルって概念がある分、種の垣根なんか一瞬で超越できるんだぞ? ヒグマ程度にビビってたらとてもじゃないが、魔人なんて相手にできねぇよ」
小銃程度なら貫通させないほどの強度を持つヒグマの頭を、いとも容易く叩き割ったトモガラは、そのまま手斧をもう片方の手に握ると、スパッ──と首を刎ね落とした。
「びゃっ! す、すぷらったぁは苦手なんです!」
「まあ、見事な切り口。熊を叩き潰してしまえるなんて、髪型もそうですが随分と目つきの悪い金太郎ですね」
ヤンキー太郎だな。
力太郎でもある。
今回は膂力をあげるスキルを全く使用してなかったトモガラ。
それで突進して来たヒグマに真っ向から当り散らせるとは、マタギ、木こり、そして戦士職。
……方向性は一貫しているが、それにしてもやりすぎな感じは否めない。
「ま、トリッキーな職業もいいけどよ。男は力で勝負っしょ」
そう言いながらヒグマの皮を無理やり引き剥がしていくトモガラ。
哀れ、名も知らぬ熊のモンスターよ。
我らの糧となる。
今日は熊鍋。
熊鍋だ!
「ほれ、上着にしろモナカ。お前ら二人はとりあえずローブ身にまとってっから他の毛皮が準備できたら見繕ってやるよ」
「……あの、皮下脂肪のどろどろがすごいんですが……これを着ろと?」
さすがのモナカもこれには苦笑いといったところ。
「凍死するよかいいだろうが、それに一回着れば関係ない」
「住めば都みたいに言われましてもね、ひええ」
まあ、これだけ外気温が寒いと来てる中から腐ってウジまみれになることはなさそうだ。
皮下脂肪も血が通わなくなれば勝手に乾燥してボロボロになっていく。
そうなると毛皮の耐久度に問題がでてくるのだが、ずっと着るわけでもないから度外視しているのだろう。
「そういう問題じゃないんですがね。致し方ないでしょう」
「え、モナカさん着るんですか?」
「半分こします?」
「わ、私はローブがあるからいいです! ぶらっくぷれいやぁは寒さに強いので! ああもう、なんでこんなことになるんですかぁっ! セレクさんのありがたみがすごい! すごい!」
雪山に、ツクヨイの叫び声が響いていた。
唐突に始まる雪山クエスト。
そして、あの日の記憶が今蘇る。
追伸
活動報告でさらによろしいご報告ができるかもでーす。らふ




