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どこぞの雪山は猛烈な吹雪とともに容赦なく俺らの体力を、生命を奪いにかかる。
もっとも、減るのは生命ではなくHPなのだがな。
「もふもふ」
ガチガチと震える周りをよそに、俺はローヴォとルビーの毛皮に囲まれ暖をとる。
「うーん羨ましい限りですね♡」
「モナカさんもヤンヤンの側にどうですか?」
「あら、ツクヨイさんいいんですか?♡」
「こう言う時は持ちつ持たれつってやつですよ。ぶらっくぷれいやぁは悪を挫く。そして正義を貫くのです」
「まあ♡ 良き考えですね。独り占めする誰かさんと比べて♡」
ヒヨコのような口を作ってこちらを向くモナカはツクヨイのテイムモンスター、ヤンヤンの毛皮に埋もれていた。
一緒に来ていたトモガラ、モナカはテイムモンスターを持ってない勢なので、雪山の寒さが堪えるらしい。
「ならば、焚き火を起こせばいい」
「サバイバル経験はないですから♡ 私、柔道一筋ですしね♡」
そこでツクヨイが一つ銀世界となった周りを見渡しながら言う。
「そういえば、トモガラさんはいずこへ?」
「あれでも樵。そしてマタギの端くれみたいなもんだから食料確保じゃないか?」
樹の皮を大量に服の中に詰めて、防寒の足しにしていたし。
おそらく奴はこのあたりの散策に赴いているのだろう。
それだけ山を歩くのは慣れている証拠だしな。
俺も雪山は特別慣れてないわけじゃ無いのだが、ここでこの二人を置いていくと二度と相見えることがなさそうだったのでお守りである。
「ってかローレントさん……久しぶりに一緒に師弟クエスト出来るって思ったのに……何なんですかこれ。なんで雪山連れてこられて、いきなりサバイバルしなきゃならないんですか?」
「そう言われてもな」
「ゲレンデで二人きりならまだしも、なんでモナカさんとトモガラさんまで一緒なんです? これは師弟クエストのはずじゃ無いんですか? もう納得いきませんよ? ぶらっくぷれいやぁ、デビル化一歩手前ですよ?」
「お、おう」
この状況を説明するにはすこし時間を遡らなければならないのだが、面倒なので割愛。
ハモンの預かりとなった俺は、そのままスティーブンの転移魔法で南の霊峰を超えた裏っかわの雪山地帯へと連れてこられた。
前みたいなすごく魔素の濃い森ではなく、俺らのレベルに合わせて今回は雪山でのサバイバルクエストという体裁だった。
──生き残り、腕を磨き、そして成長を証明してみせろ。
それがハモンの課したクエスト。
道場六段スキル【闘志】の魔法使いバージョン【魔戒】を覚えるための試練だ。
魔闘家の称号を持つ俺じゃ無いとこのクエストは受けれないのだが、スティーブンから個別で闇属性魔法スキルの修行をつけてもらっていたツクヨイもその闇属性魔法スキルの特性から接近戦を使えるようにしておかなければならないとのことで、便乗して無理やり連れてこられていた。
さらに、トモガラ、モナカも同じように道場をボロボロにした罰としてツクヨイのサポートに回らせられて、四人揃ってポンっとここへ転移させられてしまったのだ。
「ハモンさんはいずこへ行かれたんでしょうか?」
銀世界を見渡しながらモナカがニコニコとした表情でそう尋ねる。
それについては何も聞かされていないと言うか、おそらく何かとんでもないものが待ち構えているだろうけども。
ハモンとスティーブンのことだ、それを言ってしまっては面白く無いというわけでわざと黙っていることが容易に想像できる。
「ふええ、さすがに接近戦を勉強するのはいいですけども……いきなり実践はちょっと……」
「確かに、でもツクヨイさんの稽古は私にお任せください♡」
尻込みするツクヨイをモナカがニコニコ笑顔でなだめていた。
お互い黒髪おかっぱだが、女子力にこうも差が出ているとはな、驚きだ。
モナカは柔道着におかっぱの斜め右上を縛ったYAWARAちゃんヘアー。
ツクヨイは相変わらずブラウスとプリーツスカートを愛用して、ファッションもぶらっくぷれいやぁ流儀だとかなんとか気合を入れている。
「あ、ローレントさんも柔道をやっていたんですよね?」
「そうだが?」
「教えてもらいたいなあ」
こちらをチラ見しながら変なことを言うな。
思わずモナカが苦笑いしていた。
「一応言っておくが──」
ちょうどいいところへ、雪山のモンスターであるバトルイエティが姿を現した。
【バトルイエティ】Lv14
雪山に住むバトルゴリラの別種。
さらに毛深く、大きく脂肪を溜め速さは劣るが防御に長ける。
ファイトモンキー系はおらず、バトルゴリラの雪山版であるバトルイエティがいるのだ。
ならばバトルイエティの上位は、コンバット系なのだろうか?
「ゴゴゴアアア!!」
どちらにせよ、霊長類マップに慣れ親しんだ俺には都合がよろしい!
牙をむき出しにして飛び込んで来るイエティの腕を掴み上げた。
こちとらレベルはもうすぐ60だ。
膂力で劣っていた時ならまだしも、こんな雑魚に手こずっていられんのよ。
「稽古は実践派だ」
左腕は雪山の山小屋でログインし直した時点ですっかり元に戻っている。
バトルイエティの右腕を引き、首を肘で狩るように取る。
そして肘をかけながら後ろを取り、このまま行けば締めて、肘打ちで倒し、──天神真楊流柔術、極意上段天狗勝へと連絡するのだが……。
「二メートル以上の巨体を持つイエティさんを持ち上げますか」
「ええ、私と同じような魔法使いじゃないんですかローレントさん!?」
ツクヨイの驚きもわかるが、重たいものを持って毎日動けば体が慣れて筋肉が育つ。
裏ステータスというものによって魔法使いでも修行ができる世界となっているのだこのゲームは。
さて、俺はそのままイエティの股下に手を突っ込むと股間の毛むくじゃらを握り潰しながら抱え上げ。
「ごぎゃっ」
適当な岩に後頭部を叩きつけた。
「ライオンの子を谷底へ叩き落とすのが俺の流儀だぞ? それでもいいか?」
そういえばツクヨイはコーサーを鍛えている時のことを知らないのか。
だったらやむを得ないな。
「そこまでして柔術を教わるならば、まずは己の重心を知るべきだ」
よし、雪崩を起こして巻き込まれよう。
雪の重さを受け流し、そして塊の上に乗ることができればそれはもはや重心を心得たと言っても過言ではない。
むしろ雪崩の重量を完全に制御し得たと言ってもいい。
完璧だ。
できなかったら死ぬけど、できるか死ぬかだったら人間できる方を選ぶ。
それが自然の摂理。
「よし、スティーブンは魔法だけだから、俺がおまえに……む?」
ツクヨイはモナカの後ろで震えていた。
「モナカさんに習いたいです! ぶらっくぷれいやぁ、モナカさんに習いたいです!」
「まあ♡ 私はしっかり稽古というものを重んじますからねぇ♡」
なんだ、せっかく闇属性の魔法スキルを使って自分の領域を確保しながらその制空権内に入ってきた敵を確実に打ち取る本物のぶらっくぷれいやぁを作るいい機会だったのにな。
残念だ。
黒魔闘、と名付けたかった。
みんなお待ちかねのツクヨイちゃんが再登場です。
ぶらっくぷれいやぁにかかれば、天罰クエストなんかこわくない!
そんな、ツクヨイちゃんが馬鹿どもに巻き込まれる話だと思っていればいいです。
あとがき小話(読み飛ばしてオッケー)
実は書籍化が決まっていまして、度々更新がストップしていたのはそれに追われていたからでした!(爆)
それに伴って、なにやらキャンペーンが行われているみたいなので、活動報告の方を是非ともチェックしてやってください。
みなさん、ついに。
生産組、ローレント、その他キャラクターたちが絵になりますよー。
その情報はいつか公開。




