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アルジャーノの言葉と共に、激震が走った。
空気を読んだ十六夜が慌ててアルジャーノの口を押さえるが……、
「ああ? 俺に決まってんだろ」
「まあまあ、大口叩くのがお上手なようで♡」
──時すでに遅し、かな。
ピリピリとした雰囲気の二人に、俺も言っておこう。
「片腕ないのはハンデだな」
「ああん?」
「まあまあ♡」
しかも、トモガラはすでに俺に負けているはずだが?
現実での実践勝負は俺の全戦全勝。
ゲームでの対戦は俺が負け越していたが、この間完膚なきまでに叩きのめしたはずだ。
「うん、トモガラにはすでに勝ってるし、あとは……」
「あらまあ、私も勝負事には一切手は抜きませんからね♡」
モナカの方を向いてそう言い合っていると、トモガラが肩を掴んできた。
目が血走り、顔じゅうに血管が浮き出てピクピクしている。器用だな。
「おいこら、何勝手に決めてんだよ」
グググと肩を掴む手に力がこもっていく。
「オ、オーラが見えます……言ってはいけないことを言ってしまったばっかりに……お、おおう……なんでしょうこの雰囲気……」
「……わくわくする」
「この魔法使いの嬢ちゃんも、つくづく肝が座ってるな」
あっけらかんと体育座りして俺らを見るアルジャーノに、師範代がげっそりした顔でそう呟いた。
「ちょっと待て! そこのヤンキーは僕と試合をするのが先だろ!」
「邪魔だ!」
「────にぼしッッ!!」
俺らの間に今入ると命の保証はないのだが、安易に踏み込んできたマルスはそのまま裏拳でぶっとばされた。
そして道場の壁を破って突き刺さった。
「あんな性格じゃなかったと思うんだけどなぁ……☆」
その様子に師範代は額に手を当ててため息をついていた。
「では決闘ルールを決めよう♡」
「賛成だぜ♡」
「私はなんでもいいですけど、従いましょう♡」
ふふ、みんな戦いを前にしていい表情だな。
強いものと戦えるのがさぞかし嬉しいんだろう。
「はわわ!? ちょっとアルジャーノさんどうしてくれるんですか!? 三人ともすっごく不気味なにやけヅラして固まってますけど!!」
「……なんかすごい」
「なんかすごいじゃないですって! と、止めないと!」
「……貴方の闇も薄くなってるしいいんじゃ無いの?」
「はえーーー!?」
外野が騒がしいが、とりあえず三すくみで決闘という形になった。
ここは道場だ、まどろっこしい決闘の承諾なんて必要ない。
モナカと俺はすでに道着。
トモガラは汗臭い道着なんか着る価値ないと吐き捨てて、そのまま戦いが始まる。
「よし、お前達はとりあえず避難を手伝ってくれ」
「師範代さん!? マルスさんを抱えて一体どこへ!?」
「俺には三人を止めることはできない。とにかく門下生全てを避難させるんだ。早くしないと手遅れになるぞ!」
「……私はここで見てる」
「アルジャーノさん!? もう! 小さい子の避難を手伝ってくれません──とっ!?」
トモガラの飛び蹴りを避けると、ちょうど十六夜の眼前に突き刺さっていた。
周りに人がいるというのに、全くもって配慮しないトモガラには、お仕置きが必要かもな。
「ほら、危ないぞ」
「は、はひ……な、なんなんですかこの状況」
腰を抜かす十六夜の手を掴んでアルジャーノの元に投げる。
そして板壁をぶち抜いていた足を抜いたトモガラが、再び蹴り込んでくる。
「おらおら! 休んでる暇はねぇぞ!」
右手で足袖を掴んで地面に叩きつけてやろうとしたらモナカが俺の間合いにいた。
そのままトモガラを投げる俺を背負い投げするモナカ。
俺はそのまま流れに身を任せて飛び、空中で回転、そして無様に倒れたトモガラの上に着地。
「ふむ」
「ぐはっ! くっそ、二重にダメージが入っちまったぜ──って降りやがれこの野郎!」
「あらあら美男子さんは古流技法の空転受身がお上手ですね♡」
モナカもトモガラの上にいつのまにか乗り上げていて俺を背負う体制になっていた。
常に無拍子使ってくるとか厄介だな。
リズムを読ませてくれないとなると、相手の動きの先を読む未取がやりづらい。
「てめぇらああああああ!」
「あらまあ♡」
ナイスだトモガラ。
力任せに立ち上がったトモガラによって、モナカの投げの体制が崩れた。
「へぶっ!」
そのままトモガラの顔面を踏みつけ飛び上がる。
空中で体を捻らせそのまま天井に着地。
「まあ、にゅーとんさんを無視するのはよくありませんよ?♡」
「天翔飛び虎鋏」
「ぴっ!? 肘と膝で頭を挟み打ちだなんて、全く危ない技を使いますね……♡」
もともと空手の受け技だな。
防御しながら相手の技を肘と膝で挟み受けすることで痛めつけることが可能。
急所に当てることでさらに効果は増す。
壁を使った三角飛びの場合三角飛びって具合になるが、今回天井を使っているので天翔飛びだ。
膝も使うので猿臂打ちではない。
まあ、縦猿臂でも落とし猿臂でも天井蹴って打つから必殺になるけど……、
「手足を同時に動かしてないと取られかねないしな」
「まあ、別に手足がなくとも投げれますよ♡」
まさにポンッという擬音が当てはまるだろう。
そんな調子で軽々と、──トモガラが投げられて来た。
「柔道禁断の技、──遠距離攻撃です♡」
「おいこらてめぇモナカアアアアアア!!!!! くそが!! だが、ちょうどいいぜ! ローレント死ねえええええ!!!!!」
空中で体を翻し、そのまま俺に飛び膝蹴りを浴びせかけて来たトモガラの後ろ袖を掴んで、そして全身を使って宙にあるトモガラの身体を回す。
太陰太極図を描くようにして威力を押し殺し、トモガラの飛び出した膝を蹴り身体を丸めさせると、自分の身体を這わすようにして──、
「そっくりそのままお返ししよう」
投げ返した。
人間砲弾である。
「ぴっ!? 太極拳にはそんな技法もあるのですね!?」
「てめぇらゴルァァァアアアアアアアア!!!!!」
モナカはひらりと身を躱し、トモガラは道場の壁に突き刺さった。
「あらまあ、でもこれで……二人っきりですね♡」
武器・トモガラ。
ローレントの動きは少林サ○カーの太極拳を使う女性の動きを想像していただければ、なんとか察しはつくんじゃ無いかと思います。
マルス「こんな武術があるか!! 僕は信じないぞ!!」
師範代「……道場が…………ああ」




