表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
268/626

-268-


「……正々堂々とした試合がしたかったのに……俺は耳を千切られて……しかもあいつは女の子とキャッキャウフフだと……? 僕の鍛錬の日々は……くそっ、ちくしょう……」


「あー……マルス?」


 あまりの様子に師範代が声をかけるが、マルスは道場の床を大きく叩いていた。


「良きライバルだと思ってたのに! 何故こうも差が!!!」


 ……え、ライバルではないだろう。

 それはおまえが勝手に思ってただけで、俺は一つもおまえがライバルだなんて思ったことはないのだがな。

 技もお粗末、体捌きもお粗末。


 マルスは型の修行だけして来たのか?

 それではただの演舞と変わらんし、そこらへんのスポーツ同じレベルだ。


「差も何も、目線が違うぞ」


 そう師範代がマルスに告げる。

 冷たい言い方だが、ここで甘やかしてもどうにもならない。


「仕掛け際の動きから、すでに勝敗は決まっていた。……まあこいつが何者かを俺が言わんかったのは俺の失態だが……まさか耳を千切りにかかるとはな」


「少々野蛮ですが、戦闘で何かを失うのはよくあることです♡」


 まあこの腕を切り落としたのも、言わば覚悟の上だったしな。

 むしろ、そういう覚悟がないと相手の気迫に呑まれてしまう。

 命の削り合いというものは、得てしてそういう相手の存在を消し合うことを言う。


「負けたら死だぞ」


「ただの試合だ!」


「──甘い!!!」


 思わず怒鳴ってしまった。

 モナカ、十六夜、アルジャーノが目を丸くしている。


「いや、すまんな」


「いやいいんだ、いずれにせよ俺が教えようとしていたことだしな」


 謝罪をすると、師範代がフォローしてくれた。

 これはそのまま言葉を続けろということだろうか。


「中途半端にするくらいなら、むしろやめた方がいい。それこそ、そこいらで身体を動かす門下生に混じって日々の健康とためにやるといい」


 だが、と一度言葉を置いて一歩前に出る。

 耳を押さえて蹲るマルスに言ってやる。


「試合だなんだと何かと理由をつけて逃げるなら、──俺はお前と二度と試合はしない」


「……ッ!」


 ──自己鍛錬をひたすら続けた者と、己の命をかけて修羅場をくぐり抜け生き残って来た者。


 ──どちらも一つの真髄に至るための十分な要素を身につけることが可能だが、天と地ほどの差が存在する。


 ──人を殺す覚悟があるかないか、そして自分の身を犠牲にする覚悟があるかないか。


「もっとも、ただの人殺しにならないように同時に心を鍛えなければならないのだがな」


 それを告げると、マルスはうなだれた。

 そして力なく呟く。


「……それが僕を君の差なのか……?」


「いや単純に持ってる者全てが違うな。ローレントとモナカさんは武と言われるものの頂点にたっている人種だ。まあローレントはなぜか魔法職をしとるからその隙を十分つくことが可能だが、レベルをあげてそのつけ入る隙も遂には消えてしまったんだぞ」


「……師範代、いったい何を言ってるんですか?」


「動画を見れば早いだろ、とりあえずいつだかの大会に時に撮られたやつだ」


 師範代はポンポンと仮想ウィンドウを開き操作すると、動画を浮かび上がらせてみせていた。

 俺と一閃天の戦いだな。

 真の真髄を用いて、あいつをボコボコにしているところだった。


「……こ、これがなにか」


「普通に歩いてるだけなのに、闘技大会を決勝に勝ち上がってくるほどの選手が為す術無しにやられてるだろ? ちなみにこの大会でローレントは優勝して次の大会でチャンピオンとして出禁になった」


 ……おい、出禁ちゃうわ。

 出場資格がないだけで、代わりに優勝者と戦う権利をもらっただけだ。

 そして師範代が俺の目の前に構えると、マルスに向かっていう。


「おまえも体感しただろう、相手の無意識をつく技を」


「は、はい」


「よし、ローレント。やってみろその、なんとかかんとかって技」


「……はあ」


 やれと言われてもなあ、そう考えていると師範代が急に攻勢に打って出た。

 トッと片足でステップを踏みながらの前蹴りの構え。

 うむ、良い隙のつき方だが。


「──!?」


 師範代が攻めてくる眼前にすでに俺の人差し指があった。

 慌てて仰け反りバク転しなんとか持ちこたえる師範代。


「なんとかではない、未取みどりという技術だ」


 モナカの無拍子とはまた質の違う、相手に拍子、すなわち戦いの呼吸を読ませないのではなく、はなっから狂わせにいく技、そして間の真髄として畏怖された絶技。


「み、未取……あんなにそんなに早くないのに……」


 別に早くもできるけど、現段階でやる必要性のある相手がいないだけ。


「なぜ教えてくれなかったんだ! ならもっともっと鍛錬を積んで来たのに!」


「鍛錬を積んで来たところでどうにかなるものでもないのだがな……」


「……ローレント! 君は一体どうやってそれを身につけた!?」


 俺の場合、幼少期から死の危険を孕むようなことばっかりだったからな。

 トモガラがよく知ってる。


「トモガラに聞け」


「なに!? ……まさか、そこの男がローレントの師匠!?」


 相変わらず強さに貪欲なのか、それともただ生真面目なバカなのかわからんやつだった。

 師範代も本当に話がわかってるのわかってないのか判断つかないようで顔を手で押さえていた。


「んなわけねぇだろ……ってか面倒な奴を俺に振るなよ!」


「誰が面倒だ! よし、君も僕と一度手合わせをお願いできないか! そういえばノークタウンの師範代が君とよく似た特徴の男が散々迷惑かけたと言っていたが……まさか君か?」


「ん? ああ俺だわ」


 あっけらかんと頷いたトモガラにマルスが派手にすっ転んだ。


「……一体何をしたんだ?」


「ん? ああ、ほらケンドリック達がのさばってる時よ。道場にまでつら出すから一人一人道場の試合ルールで壁に打ち込んでいった」


「それはもうすごい景色でしょうね♡」


 腕力で今のトモガラに勝てるプレイヤーなんかいるのか?

 スキル構成はひたすら身体強化。

 それで弱体化されたレイドボスのエンゴウ相手に一人で食らいつく耐久性。


 うん、並みの相手には負けない。

 ってかよく勝ったな、俺。


「……ねえ」


 そこでアルジャーノが呟いた。


「……トモガラ、モナカ、ローレント……誰が強いの?」







技名は未取になりました。

色々ご意見ありがとうございます!!!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ