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「破邪のナイフを……ローレントさん!? こ、これは!?」
「……いけない」
「………………」
ニシトモ、アルジャーノ、十六夜が慌てて戻ってきた。
片腕を失い、さらに腹に風穴が空いた俺を見て言葉を失っている。
「速射!! 速射!! 速射!! ──よくも!! この魔人風情が!!」
いつもはスキルを使わない十六夜が、焦ったようにスキルを使用し魔人に矢を放っていた。
ノータイムで射撃できる速射の三連撃。
魔人は俺を投げ捨てると、大きくバックステップを踏んで躱していた。
「……回復する」
「ローレントさん! 大丈夫ですか!?」
アルジャーノがあらゆる回復スキルを用いるが、魔人の瘴気による毒は打ち消せなかった。
ならば、とニシトモが破邪のナイフを俺に持たせることによって、なんとか毒の進行は止まる。
【破邪のミスリルナイフ】製作者:???
魔力を宿す銀鉱石。ミスリルで作られたナイフ。
持っているだけで全ての異常状態を無効化する。
オルトウィルが家宝としていた破邪のミスリルナイフ。
俺の魔銀の首環は、バッドトーキシックを打ち消す際、大きく耐久力を減らしたのだが、この破邪のナイフは特に対価を払うことがなさそうだった。
まず、耐久値が付いてないわけだし。
魔銀の首環のように装備アイテムじゃなく、他の能力が付いていないからなのだろうか。
「クケケケッ! 女だからっつって俺様は容赦しねぇよ!」
「よくも!!」
十六夜、キレてるのか?
声を荒げ、弓を射ちながら接近すると、腰に差していた短刀を抜いて飛びかかった。
「無駄だ、クケケケ!」
「あうっ!?」
魔人は攻撃を受けることも避けることもせず、そのまま胸にナイフを受けた。
いかん、バッドトーキシックがくる。
俺に持たされた破邪のナイフを投げた。
「グガアアアアアアア!!!!!!」
最悪十六夜に突き刺すつもりだったんだが、狙いが外れて魔人に突き刺さった。
そして、絶叫とともに魔人のHPが表示された。
「──え?」
「どういうことでしょうか?」
ニシトモが首を捻るが、俺にもわからん。
魔人の手から逃れた十六夜がすぐさま俺の元へかけてくる。
「ローレントさん!!」
「うわっ、抱きしめるな」
「もう、死んじゃったかと思いました!!」
……デスペナ食らっても生き返るんだがな?
まあ、腹に穴が開く感覚がわかったので良しとしよう。
今後の参考にする。
さて、HPは半分から先に回復しなくなっていた。
色々身体に傷が入ったからだろう。
「グォン」
「ブルルル」
ローヴォとノーチェがそれぞれ俺に近づいてくる。
うーん、これはちょっと怒ってますか?
ローヴォさん、ノーチェさん?
「「がぶがぶ」」
「おい、噛むな。ただでさえHP少なくなってんだから」
頭をかじってくる二匹をなだめて、改めて魔人に向き直る。
「ちくしょう! 瘴気が纏えねぇ……どうなってんだこりゃ?」
悪態をついた魔人は胸に刺さったナイフを抜くと投げ捨てた。
そして、固まっている俺たちの方を向いて言った。
「主力級はボロボロ、あとは女子供と優男だけか? クケケケケ! 状況は何も変わってねぇな!」
「……こ、子供、心外」
アルジャーノが地味にショックを受けている横で、俺は立ち上がってアポートで引き寄せた悪鬼ノ刀を構えた。
そんな俺の様子に、魔人は呆れた声をあげる。
「今さらなにができるってんだよ?」
「HPが見えたならあとは殺すだけだ」
「はあ、笑っちまうぐらい前向きなご意見だこと。だが今からいたぶって懺悔するてめぇの顔が見てぇから受けてやるよ? クケケケケケケケッ!!」
凶悪な笑い声、もう何度聞いただろうか。
「ナート・エクステンション」「ナート・イクイップメント」「マジックブースト」
そして駆け出して空蹴。
後ろをとって魔人の背中を袈裟斬りにする。
「見えてんだようぜぇ!!!!!」
「残像だ」
「あん?」
本当の位置どりは魔人の左。
「マジックエッジ、マナバースト」
「うおおお!!!」
剣の斬撃と魔法の斬撃を浴びたのち大きく吹き飛ぶ魔人。
ローヴォの特殊能力で100%の確率だ。
「エナジーブラスト」
そして吹き飛んで体勢を崩したところへ、エナジーブラスト。
倒れている時に、ボーナスパラメーターを詠唱に全て降ったおかげで、間髪入れずの攻撃となってくれた。
残存SP:6(36→6)
ボーナスパラメーター▽
効果値:30
消費値:10
速度値:0
詠唱値:50(20→50)
熟練値:30
見識値:30
少しもったいない気もするが、他のスキルの詠唱も短くなるからこれで良し。
「しゅ、瞬間移動かめは○はだ……ローレントやべぇ」
「う、後ろをとったかと思いきや、左にいたぞ。そんでビーム撃ちやがった」
「ぽーひー!」
……外野のおかげでいまいち締まらんが、いいや。
そして再び空蹴を使って肉薄して、魔人を蹴り飛ばすと足に絡みついた。
魔人に関節技は効くのか?
ちなみに反則技の足緘み。
「ぐぉおおあああああ!!!」
効きました。
ってか、さっきと比べて少し弱体化している気がしないでもない。
エナジーブラストで火傷をおってプスプスと煙を上げているし、HPを少し削れて体力の回復も遅めだ。
なにか、トリガーがあったんだろうな。
「てめぇ! ふざけやがって!」
暴れる魔人の拳を受けて弾き飛ばされる。
左腕がないと、ややバランスが取りづらいが古流技法の空転受け身を取る。
「クケッ、いくらそのナイフでダメージが通ると言っても、てめぇと俺様とじゃ格がちげぇんだよ!!!」
一応集中すればHPも回復するみたいだな。
ただしいろんなものを一気に使うことはできなくなっている模様。
……。
ノーヒントすぎてまじで終わってる。
初期の頃もそうだが、いきなり展開のイベントが多すぎるな。
「もう一回俺様の本気みせてやらああああああああ!!!! クケケケケケケ!!!!!!」
魔人が唐突に叫び出した。
が、
「──ぐげっ!?」
突如飛来した投斧を背中に二つ受けて転ぶ。
「おいおいおいおい、何ちんたらやってんだ? また舐めプでもしたんだろ♡ ──ローレント!!」
お待たせしました。
ほんとうに、お待たせしました!!!!!!!!




