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 こんなに悔しい思いをしたのは久方ぶりだ。

 ん?

 プレイヤーキラー?


 ありゃ恨みだ。

 悔しい気持ちじゃない。


 気がついたらスティーブンの家のベッドだった。

 ローヴォが心配そうに鳴きながら、鼻先をこすりつけてくる。

 装備は?

 よかった、何も失ってない。


 と思ったら、グロウが半分減ってた。

 元々どれくらい持ってたかわからないが……。

 物を買う行為ってのが飯か、ポーション類か。

 あと武器の修理くらい。


 ほとんどブツブツ交換だったので、賞金のグロウは貯まりに貯まっていた様な気がする。

 そう思うとすごく残念な気持ちになる。



プレイヤーネーム:ローレント

職業:無属性魔法使いLv13

信用度:70

残存スキルポイント:0

生産スキルポイント:3

※デスペナルティ中



 まだ朝方だってのに。

 ステータス表示が無いから動き辛くなるってのが無いのはありがたい。

 だが、デスペナの項目をみてみると。


 経験値半減、ドロップ率半減。

 と記載されていた。

 地味に痛い。


「お? なんじゃ? 出とったんじゃなかったのか?」


「死に戻りました」


 スティーブンがドアを開けて入ってくる。

 素直に言うしか無いよね、ここでプライド持った所で意味無い。


「……愚かな事を仕出かしたのか? 町の周辺でお主が負けるモンスターなど?」


「まぁ愚かですね。力量が足りませんでした」


「して、相手は?」


「バトルゴリラです。南の森から山に入って遭遇しました」


「なんと」


 スティーブンの眉が訝しげに上がって、そして納得と言う風にうんうんと唸りだした。

 そして指がパチンと鳴る。


「テンバーの南の樹海から広がる山は深い、これを見ろ」


 どこからとも無く現れたのは古紙の地図。

 中心にはオルクカント王国王都と書かれて、スティーブンの指に沿うように視線を動かして行くと。

 遥か南にノークタウン、そしてその南にテンバータウンと書かれていた。


 今更ながら、第一の町と呼んでいた場所がテンバータウンだって始めている。

 そして第二の町がノークタウン。

 さて、諸々情報が読み取れるが先に南の樹海を見ることにした。


「この町の川も、全て森から流れて来ておる、大きな泉は遥か先じゃが、その更に先に行くと木が一本も生えとらん険しい崖が広がっておる」


「この間の場所ってもしかして?」


「それはもっともっと遥かに先じゃ、方角も逆じゃしな」


 そうですか。

 スティーブンが言うには、バトルゴリラはその崖と森の境目に生息していたらしい。

 元々森と町の境目に魔物なんていなかった。

 それにゴブリンも、オークも奥地に住む魔物だったんだと。


「たまーに、猿をいたぶってボスの逆鱗に振れる奴が居るが、それもごく稀じゃ。この辺りでファイトモンキーの群れを形成しとるバトルゴリラなんぞ居らん」


「だがいました。負けました、悔しいです」


「そうじゃ……、もしかしたら森で何か起こってるのかもしれんな。町の者にも気をつけるように言っておかねば、わしは今日は出る。厨房以外じゃったら好きに使っていいぞい」


 スティーブンはそう言いながら足早に部屋を後にした。

 この森の異変を知らせに町長の所にでも言ったのだろうか。

 さて、古地図は?

 いつのまにか消えてました。


 画像保存しておけば良かったと後悔。

 でもまぁある程度は覚えている。


 サイゼがオンラインになっているし、少し早いが昼飯でも食べて。

 昼の活動にいそしもう。


「あ、こんにちは! ローレントさん」


「どーも」


「なんか機嫌悪そうね?」


 公園にはちらほら人を見かける。

 お昼くらいになるとどんどん増えて行くのだろうか?


 サイゼの挨拶に返事をすると。

 当たり前のように座って寛いでいるレイラからぼやかれた。

 見ればテーブルに小道具を広げてポーションを作成しているようだ。

 丁度良いや、ある分だけでも渡そう。


「レイラさん、薬草の買い取りお願いできますか?」


「いいわよ〜。朝から狩りしていたのね?」


「はい、南の森の奥に言ってました。死に戻ったんですが」


「さらっと爆弾発言したわね……」


「えええ、ローレントさんが死に戻るなんて」


 二人揃って唖然としているが、実際初期もプレイヤーキラーに殺されてるし。

 ぶっちゃけ黙ってたけどグリーンラビットにすら死にかけてたくらいだ。


「レベル幾つだっけ?」


「まだ13です」


「ほぼほぼ攻略組のレベルよね。第二の町から先に進めず、レベルの上がりもかなり遅くなって来て、頭打ちされて来てるみたいだし? まぁ、詳しく話を聞かせて頂戴?」


 第二の町、ノークタウンだよな。

 誰も知らないんじゃないかと思う程。

 誰も正式名称を出さないので笑える。


 搔い摘んで説明する前に、戦利品をテーブルに載せて行く。

 脳みそはスティーブンの家からパクって来た瓶に入れてある。


「南の森を進むと、先は大きな山になっていてゴブリンや猿が住んでいます」


「うわきも! 髑髏とか、……脳みそ!?」


「ローヴォちゃんこっちですよ〜お肉ですよ〜」


 駄犬と戯れるサイゼは放っておいて。


「もし山にアタックする時があれば気をつけてください。猿が叫ぶとボスが出ます」


 それがバトルゴリラです。

 強敵です。


 いつか仕返しする。

 そう、改めて心に誓った。


「なんかざっくりした説明だけど、何となくわかったわ」


「それなんですが、元々もっと山奥の境界線に生息していたらしいです。師匠のスティーブンからも窺いましたが、森の様子がおかしいと」


「……きな臭いわね。これもエリアクエスト解放に繋がる情報なのかしら」


 頭を悩ませるレイラ。

 ノーヒント状態で進めなきゃいけないのもどうかと思う。

 でもそれが醍醐味だと思えば、それもそれで楽しみがある。


 運営の罠だな。

 まんまと引っ掛かってる。


「ってか貴方、川はどうしたの? せっかくエリアクエスト解放されたのよ?」


 プレイヤー勢の第一拠点の目処がたっただけでも十分じゃないか。

 俺の目標は大きく切り替わった。

 バトルゴリラに最チャレンジする。

 もうそれしか見えない。


「ポーションの買い込みもしたいんですが、薬草の持ち込み分で差し引いてもらえますか?」


「……川はもう良いのね。わかったわ、了解」


「あとこの辺の買い取りもお願いできますか?」


「一応預かっとくわ。で、このグロいのはどうするの?」


 今回はブツブツ交換ではなく直接の買い取りをお願いしてみた。

 手持ちのグロウが死に戻りで大きく減ってしまったから嬉しい限り。

 聞く所によると、レイラからニシトモ経由で素材は露店に流れているらしい。

 グロいのとは瓶詰めされた猿の脳ミソのこと。


「正直、錬金術スキルもってないので」


「まぁスキル伸ばさないと良い物は作れないからねぇ」


 これ以上スキルを取得しても器用貧乏になりかねない。

 ずっと使っていればスキルレベルが上がるとかなら良いんだけど。

 ああ、生産スキルはそれでレベルが上がって行くのか。


「まあ、ある程度レベルアップのスキルポイントも振らないと追いつかないから……、一杯取得するのは生産メインでする人しかちょっとね……、ちなみに私は中級薬師、村長スキルは村の活性化で勝手に伸びて行くんだってさ?」


「錬金術なら私にお任せアレ!」


「「「え?」」」


 振り返ると全身真っ黒のローブを身に着け杖を持った少女が立っていた。


「まだサービス開始第二陣営一番槍、……じゃなかった杖! 拙者の名前はツクヨイと申す、魔法使いでありながら怪しげな錬金術も使うぶらっくぷれいやあ!」


「「「は?」」」


 ローブを翻させながら、彼女は自分の顔を手で覆う。

 いわゆる、中二病ポーズ?


 そんなことはどうでもいいか、錬金術は何故かレイラの生産チームの誰一人として持っていなかった。

 レイラは薬師と錬金術師でもある町長エドワルドを師事しているのに。

 薬師一本で行くのとこと。


「まあ、キャラ濃いけどちょうど良かったじゃないローレント」


「それはもう」


 グッドタイミングだ。

 とりあえず持っていた練金素材を並べて行く。

 戦闘猿の脳と小鬼の髑髏、あと夜狸の瞳。

 持ってるのはこの辺かな、テーブルに並べて行く。


「私、絶対練金しないことにします。心に誓います」


「確かにグロいラインナップだけど……、魚捌くときだってあるでしょサイゼ?」


「それとこれとは別なんです!」


 ナイトラクーンは結構乱獲した覚えがあるので、テーブルに広げた目玉がビー玉みたいになってる。

 ある意味、異様な光景だった。


「おおう……、これはへゔぃ〜です」


 あれ、この小さい錬金術師も引いてるんだけど。

 そして出した俺が悪いみたいな視線と空気を感じる。


 え?

 俺が悪いの?


「……えっと」


「ん?」


「そのすいません、ホントはまだゲーム始めたばっかりでエナジーボールしか持って無いです……、あとレベルは1なんで」


 正直に言おう。

 何しに来た。


「貴方……、何しに来たの?」


 正直に言った!

 流石レイラ!

 そこに痺れる憧れる。


 黒いローブって初心者魔法使い用の装備としてあったっけな。

 って昔を思い返してみる。

 どう考えてもその服装は玄人プレイヤーっぽい。

 刺繍の入ったブラウスに、赤と黒のプリーツスカート。

 そして極めつけは”GSO”と刺繍された黒いローブ。


「いいなぁ、第二陣から確かキャラメイクの時、初期装備が選べてカラーリングできる機能が追加されたんですよね?」


「ねぇ、ベータもそうだけど、サービス開始時はみんな同じ服で楽しみ甲斐が無かったわよねぇ……、セレクもまだ染め物とかには手を出してないみたいだし?」


 そんなの知らない。

 開始早々初心者ローブ売っぱらってた俺は知らないのである。

 というか服装気にするなら、鉢巻き巻いて袖巻くって屋台で肉焼いてんじゃねーよ。


「本題ズレてるぞ」


 思わず素が出てしまう。

 俺としては錬金術を持って無くても、これから覚えてくれるんであればぜひとも関わりを持っておきたい。

 だが、グロ系ドロップラインナップを目の当たりにしたツクヨイとやらは、後ずさりしている。


「いやその、こんなにグロいって知りませんでした」


「丁度良いじゃない? 今錬金術プレイヤーなんて一次産業並みに人手不足なんだから、先取りしておくと後々楽になるわよ?」


「すいません許してください」


「減るもんじゃないわよ。むしろ私の方でそう言う素材の買い付けもやっておくわよ? 至れり尽くせりね」


「ごごごごめんなさいいいいい!!」


 人一倍苦労の多いレイラの歯に衣着せぬ問答。

 なんだろう、やっぱりストレス溜まってるんじゃなかろうか。

 そっとお悔やみ申し上げるけど……、俺に出来ることなんか無い。


「貴方が一番問題が多いわよ! もっと一般的なプレイスタイルでやんなさいよ!」


「ええ」


「あ、リアルでローレントさん困ってる顔です。レイラ姐さま〜、血圧上がっちゃうんでほどほどに」


「なによ! みんなして手のひら返すように第一拠点に集まって来て! ウチらが募集してるのは村を作る為の人手なのよ! 手頃な依頼なんかあるか! 第一の町頼れ! あとエリアクエスト行きたいから船寄越せって! 何様のつもりよ! マジでもうクソ馬鹿ケンドリックぎったんぎったんにしてやるんだから!」


 ……何と言うか。

 村長はやっかみ事が多いみたいで、大変そうだな。

 しばらく彼女に近付かないようにしておこう。


「あああちょっと! ツクヨイちゃんの服揺さぶらないでください! ほ、ほら! もう首がガックンガックンしてVR酔いした見たいな顔になってますうううう!!」


 昼間の公園はどんどん騒がしくなって行く。

 というか大体一部の区画が騒がしい。

 そんな第一の町の公園を、騒ぎに便乗してそっと抜け出す。

 面倒くさいことになる前にな。



ーーー

プレイヤーネーム:ローレント

職業:無属性魔法使いLv13

信用度:70

残存スキルポイント:0

生産スキルポイント:3


◇スキルツリー

【スラッシュ】

【スティング】

【ブースト(最適化・黒帯)】

【エナジーボール】

【メディテーション・ナート】

【エンチャント・ナート】

【アポート】

【投擲】

【掴み】

【調教】

【鑑定】


◇生産スキルツリー

【漁師】

【採取】

【工作】

【解体】


◇装備アイテム

武器

【大剣・羆刀】

【鋭い黒鉄のレイピア】※修理中

【魔樫の六尺棒】

【黒鉄の双手棍】

装備

【革レザーシャツ】

【革レザーパンツ】

【河津の漁師合羽】

【軽兎フロッギーローブ】

【黒帯】

称号

【とある魔法使いの弟子】


◇テイムモンスター

テイムネーム:ローヴォ

【リトルグレイウルフ】灰色狼(幼体):Lv8

人なつこい犬種の狼の子供。

魔物にしては珍しく、人と同じ物を食べ、同じ様な生活を営む。

群れというより社会に溶け込む能力を持っている。狩りが得意。

[噛みつき]

[引っ掻き]

[追跡]

[誘導]

[夜目]

[嗅覚]

※躾けるには【調教】スキルが必要。

ーーー



本日更新一回目となります。

次は17時予定。


お読み頂きありがとうございました!

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