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「なるほど、魔人はいくつもの悪称号を持っているんですね? だから、セバスチャンさんはローレントさんを魔人と勘違いしたということですか?」
「……そうなります。悪称号はどっちにしろ悪しき者の証です。信頼は得られませんぞ」
魔人と同列に語られても困るなあ。
なんか俺は武術界隈で間の神と言われていたくらいだから。
俺の方が格上だろ。
「ですが、別に悪しきことはしていませんよね?」
「そうだな」
復讐者の称号はローヴォがプレイヤーキラーに殺された仕返しの時に手に入って。
毒殺者の称号はプレイヤーキラーを神経毒で殺した時に手に入った。
外道はたまたまバッドパンダの子供を倒した時にゲットして。
蹂躙者は格闘技大会の予選でガンストの集めたサクラを三十人くらい返り討ちにした時、手に入ったっけ。
「うん、悪いこと全然してないな」
「……なんとも言い切れませんが、それが本当だということをニシトモ様に免じて信用しておきます」
イラッ。いちいちムカつくな。
だいたいいつだかマフィア相手に迂闊なことはやめとけとか、目立つことするなって言ってなかったか?
前当主の復讐で何かしらやりかねないから注告してただろ。
もっともマフィア狩りの邪魔になるから言っただけなんだけどな。
見事にこっちを巻き込みやがって。
「なんでもいいが、俺はもう二度とお前らに関わらない」
「私としては悪称号持ちと交わす言葉はこれ以上何も持ち合わせていませんな」
「あの、ちょっと」
ニシトモが場を収めようとするが、もう無理だ。
久しぶりにここまでムカついたぞ。
俺このジジイ嫌い。
「マフィアからも手を引いておくといいでしょう。マフィアはいずれ浄化される。それが民意につきまして」
「……すでに街を喰い荒らされてる領主とその執事が何を言ってるんだ?」
「ロ、ローレントさんも落ち着いてください」
落ち着けるかよ。
オルトウィルはニシトモやトンスキオーネの説明で、どうあがいてもマフィアはいなくならないことを理解している。
それに引き換えこの頑固ジジイは本当に質が悪いな。
「都市をより良くするのは領主と領主に準ずる者の命題になりますゆえ、本来であればニシトモ様もローレント様とご縁を切って真っ当に商売をなさるなら私は公認してもいいと思っております。商人として、相応の実力も持っている訳ですございますから」
「なら、どこかでぶつかることになるな。その時はよろしく」
そう言ってこの場を去ろうとするとニシトモが慌てて俺の腕を掴んできた。
「待ってください!」
「知らん、レッドネームになっても関係ない。敵ならば倒すそれだけだ」
「落ち着いてくださいローレントさん。セバスチャンさんも、レジテーラ家の執事として、その対応は一体どういうことでしょうか? 狩りにも命を救われたのではないですか?」
命を救われたという言葉に対して、まるで本意ではないと苦虫を噛み潰したような表情をするセバスチャンと、なんと言ったらいいかわからず口をつぐむオルトウィルに向かって、ニシトモは言葉を続ける。
「予々各所から色々な情報を得ていましたが、今回のペンファルシオに関しては、オルトウィル様方レジテーラ家が招いた騒動。私たちは助けを求められたから依頼を受け、急遽でしたがなんとか同志を集い戦いを挑みました。ですが、ローレントさんがいなければ敵の分散も敵に雇われていたプレイヤーキラーを倒すこともできませんでしたし、依頼主のレジテーラ家からは、なんの支援もない状況で私財を投じた訳ですよ?」
「ぐっ」
商人であるニシトモがいうと、すごく重く聞こえた。
要するに急な依頼だったが、ただで依頼を受けたわけではない。
それを後からいちゃもんつけられても、筋が通ってないのはどっちだということだな。
「捨て置け。俺は別に気にしないから、ニシトモは魔銀と公認をもらえれば販路を伸ばせるだろうに」
「いいえ、ローレントさん。私は商人です。より価値が大きなものを好みます。この場合、どちらにつくかといえば間違いなく貴方側です。私にとって貴方は大きな価値を持っている。まあこの場で商人という立場を捨てますよ、貴方は数少ない私の友人ですから」
ニシトモがこっち側に着くと宣言すると、今度はオルトウィルが慌て始めた。
「ちょ、皆さん落ち着いてください! セバスチャン! おまえ、謝らないか!」
「いいえ、オルト様。レジテーラ家の品位に関わります。それに、ニシトモ様も悪称号持ち側に着くということは、この度の依頼、助けていただきましたが魔銀と公認の件はなかったことにさせていただきたく存じます」
セバスチャンは俺たちが魔銀を欲しがっていると思って上から目線でそんなことをのたまった。
いいのかニシトモ。
最悪俺は足切りすればいいから、テージシティで魔銀と公認選んだ方が良くない?
俺は二度とテージシティの面側に関わらないけど。
「ふむ、いいでしょう。その代わり」
とニシトモは言葉を付け加える。
「オルトウィル様を安全な場所で護衛させていただいた費用。この度の救出作戦にかかった費用。その他諸々の諸経費共々、全て含めてご請求させていただきます」
「いいでしょう、いかほどでしょうか?」
売り言葉に買い言葉。
そしてニシトモの案に乗ったセバスチャンが彼が即席で作り上げた精算書を目に通した途端驚愕の声を上げていた。
「ば、馬鹿な! これほどかかっているとは思えない!」
「今回の依頼の分は商人である私が費用計算して後で皆さんに配分する予定でしたので、一グロウたりとも数字に間違いはございませんよ。なにぶん、騎兵隊とクランの精鋭の方々に手伝っていただきましたから」
ああ、ブラウのクランとアンジェリックのクランはそこそこの大所帯で来てくれたから。
彼ら一人一人に配分する費用も考えると、ニシトモはかなりの規模でお金を使っていたみたいだ。
このクエストは高評価で終えたいと言っていたから、余裕を持った予算を立てるのは普通か。
……それを考えると、俺の悪称号のおかげで迷惑をかけてしまったな。
少し申し訳なくなったので、いい素材とかもっとたくさん彼に持って行ってやろうと思った。
「それにこの費用には私とローレントさんの分は含まれていません。あくまで、依頼達成のために私たちが捻出した必要経費ですから」
「なんですと……?」
腕をプルプルと震わせ、眉をひそめてニシトモを睨むセバスチャン。
ニシトモのターンはまだしばらく続きそうだ。
敵に回すと本当に恐ろしい男である。
ローレント、罵倒される。




