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「……何をするのですか」


「こっちのセリフだ」


 仕込み杖がセバスチャンの心臓を貫く間際。

 誰もがハッと息を飲んだ時、俺は急いでセバスチャンの仕込み杖を掴んだ。

 刃を握りしめた手のひらが思いっきり斬れて血が出る。

 あーもう、痛いなちくしょう。


「手を離しなさい」


「無理だ」


 散々俺のヘイトスピーチをしやがって、これで死なれたら誰が悪者だ?

 もちろん俺だよな。


「悪称号持ちは災いを呼ぶ、消す事も叶わないならば私の執事スキルで命を持って制約を課す。それが、レジテーラ家に必要だとみなしただけのこと」


「死なせるわけないだろが」


 そんな勝手な理由でなんてことしてくれてるんだ。

 訳を話してどうにもならなかったら誰もいない場所でこっそり死ねよ。

 止めないから。


「セ、セバス!! なんてことを!!」


「ローレントさん! 血が!」


 オルトウィルがセバスチャンに駆け寄り。

 十六夜が顔を青くしながら俺の元へかけてくる。


「大丈夫だ」


 レイラの中級ポーションでもかけておけば傷口は心配ない。

 うん、心配ないから。

 いちいち自分の持っていたハンカチをビリビリって破いて俺の手に巻きつけなくていいから。


「うふふ、なんか仲のいいカップーー」


「……ヒールボール」


 十六夜が何やら言いかけたところで、無言でやって来たアルジャーノがハンカチをほどき回復魔法スキルを使ってくれていた。

 いや、それももう中級ポーションぶっかけたからいらないってば。


「うふふふ、宣戦布告でしょうか?」


「……笑止、戦いにすらなっていない。回復は私の本懐。貴方は弓でも射ていればいい」


「うふふふふふふふ!」


「…………」


 うわっ、もう面倒な空間が広がってるじゃん。

 本当に変な騒動起こすなよセバスチャン。

 俺はセバスチャンに責任転嫁した。


「はなしてくださいオルト様。私には、私にはどうしても……」


 セバスが俺を睨みながらそう呟いた時、パンッと乾いた音が響いた。

 見開かれ驚愕に染まるセバスの目。


「いい加減にしてくれッ!」


 オルトウィルが目に涙を浮かべながらセバスの頬を引っ叩いていた。


「オルトウィル……様……」


「私がどれだけセバスの事を心配したと思っているんだ。父上も母上も亡くなってしまった今、私に残されている家族がセバスお前だけだという事を忘れないでくれ! これ以上私を心配させないでくれッ!」


「し、しかし……私はレジテーラ家に代々務める執事の家系……オルト様の名を守るためならどんな自己犠牲も……」


「セバス、私は幼少期からおまえに面倒を見てもらって来た。母上は既に居らず父上の不器用で厳しい教育の中、セバスだけはずっとそばにいてくれたじゃないか」


 やっべ、傷開いたかも。

 どんだけ力一杯自分を刺そうとしていたんだセバスチャンめ。

 さて、この空気どうする?


「オルト様……」


「父上は厳しかった。でも私にレジテーラ家の格というものをいつでも背中で見せてくれていた。尊敬できる父上だった。でもセバス、おまえも同時に私の中では家族と同じ、大切な存在なんだ」


「オルト様……」


「確かに、父上が急逝して、早い代変わりになって頼りないところ見せたけど。セバスだけが気を張って家のために家のためにと身を犠牲にするのはもう耐えられないんだ。もう少し私を信頼して、任せてくれ」


「そ、そんなことは……オルト様……」


 長い、長いよ。

 床に俺の血、溜まってるから。

 HPどんどん減ってるから。


 でもこの状況でポーション使ったら俺空気読めないみたいな感じになって、また悪者扱いされちゃわない?

 おいおいおいおい、こんなことなら十六夜とアルジャーノにしっかり回復してもらっとけばよかった。

 だ、誰か俺の負傷に気づけ。


「レジテーラ家当主の私が命ずる……もう二度と、身を削る様な真似はするなと」


「ありがたきお言葉ですオルトウィル様……」


「……そろそろよろしいですか?」


 十分にお涙頂戴シーンを噛み締めたところでニシトモが口を開いた。


「あ、ニシトモさん! す、すいませんお恥ずかしいところを見せてしまいまして」


 何ちょっと頬赤く染めてんだよ。

 そんなもん家に帰っていくらでもやっていいから早く終わらせとけよ。


「いえいえ、とりあえずローレントさんがそろそろ危なそうなので……ね?」


「!? す、すいません! セバスチャンが飛んだ粗相を!」


「私は未だに警戒をしていますぞ。ここはニシトモ様との繋がりということに免じておきますゆえ」


「……もうなんでもいいわ、とりあえず怪我の治療だけさせてくれ」


 中級ポーションを再び使った後、アルジャーノと十六夜の手当てをフルサポートで受けてことなきを得た。

 出血ペナルティって地味に痛みが持続するんだよなあ……うん。


「私の目から見て、ローレントさんを見たセバスチャンさんの動揺っぷりは異様でした。いったいどうされたんですか? 彼とは長い付き合いですが、悪いことは一つもしていませんよ?」


「……過去に一度。ローレント様と同じ様な雰囲気を身にまとった男と出会ったことがあります」


「へえ」


 俺と同じ雰囲気という言葉に興味が湧いた。

 セバスはポツリポツリと話し出す。


「私は昔からなんとなく悪称号を感じ取る能力を持っているんですが……その男はマフィアよりもずば抜けて異様な雰囲気を持っていたのです……」


「ローレントさんって悪称号幾つ持ってるんですか? ってか悪称号を持ってることに少し驚きなんですが……」


 ニシトモがそう尋ねてくるので答えておく。

 というか、慣れだ普通だと人のことを散々言っておきながら悪称号の一つくらい持っててもいいだろうが、四つくらいあるけど。


「復讐者、毒殺者、外道、蹂躙者……マフィアの相談役って悪称号かな?」


「いえ、確かマフィアの相談役がコンシリエーレと呼ばれているだけで、確か普通に商会の相談役にはコンサルタントという呼び名の相談役称号がありましたね」


「じゃ、四つだ」


「……四つはさすがに多いですよ……セバスチャンさんが勘違いしてしまうのも無理ないですね」


 でも悪事は一切してないもん。

 プレイヤーキラーぶっ殺したり、イベントにかこつけて遊び倒しただけだもん。

 そしてセバスチャンが震えながら語る。


「……私が戦慄した男は少なくともそれ以上持っていたということになります。マフィアのボスよりも圧倒的な存在感……そうです、魔人と呼ばれる人類の敵です」


『魔人?』


 プレイヤー勢全員の言葉が重なった。





ついに、魔人というワードを出すことができました。

ようやくですよーーー。

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