-249-
ミヤモトの制空圏が収縮して行く。
俺と同じ様に薄皮一枚へと至り。
そして限りなく脱力した自然体から、新たに浮き出るものがあった。
制空圏の次。
大気を伝って全体に張り巡らされた己の気。
「見える、これが手前の間の真髄……制空圏よりも、もっと巨大な……」
とうとうその頂きまで来たか。
一閃天も久利林もトモガラも、まだこの頂きには登れていない。
己の攻撃、防御が及ぶ範囲である制空圏のその先。
それは動物の根本的なもの、存在感。
そもそもの景色が違うのだ。
「気の掌握と言う」
「これが……手前の見ていた景色なのか……」
全ての動物には意識がある。
気の向かう方向だ。
呼吸も視線も、筋一つ一つの動きも、全てにおいて動かすための意識が存在する。
それを観ることのできる達人は、俺の師匠である祖父達くらい。
もうすでにこの世にはいないと思っていた。
俺一人を除いてな。
「それで見えた感想は?」
「……勝てる気がしねぇ」
「そうか」
それはそれで寂しいものがあった。
この虚無感は久しぶりの感覚だ。
つまらん思い出を蘇らせてくれるものだよ、まったく。
「ざっと感じただけで五十メートル。これが本気を出した手前の領域ってやつか」
「正確には百メートルと少し」
手に取るようにどこに誰がいるのかがわかる範囲だな。
目の前に集中するなら次どう動いで何をするのかだって判断できる様になる。
闘技大会にて一閃天相手に見せた奥義がこれだ。
「化け物だな、一体どうやってそこまで……俺だって手前に負けた七年間、悟りを開くんじゃねぇかってくらいやって来たんだけどよ」
「一つ教えを授けるとするならば。ミヤモト、お前のそれは三つあるうちの二つ目にすぎない」
気の掌握と言う奥義には段階がある。
まずは気の解放。
これはある程度武道を嗜んだ物にはすぐ現れる。
身に纏う雰囲気が違って見える、と言う奴だ。
そして次、気の把握。
ミヤモトの行った無構とは、まさに完全なる脱力における気の把握。
自然体となり、解放した気とまさに一体化する事で、初めて相手の気が見える様になる。
最後に、気の掌握。
「ーーッ、にじみ出ていた巨大な気が消えただと?」
「発していないだけだ」
野生動物は、自分に向けられている視線や意識に敏感である。
人間もまた然り、そこを鍛えた者は殺気と呼ばれる攻撃的意識に反応することができる様になる。
その殺気、意識を完全に断つ。
脱力の先にあるものだ。
よく似た技として。
幼少の頃より洗脳、訓練されて来た殺し屋は人を殺すという行為に殺意を持たない。
どうやったら相手が死ぬかを突き詰めた結果、それが混濁してわかりづらくなるのだ。
うん、チベットの密教ではそれで苦労した。
適当な動きに人を死に至らしめる攻撃が織り交ぜられていて常に気を貼って周りは全て敵だと思う事でなんとか生き延びた。
話が逸れたが、気の把握が可能になったミヤモトくんに一つ技を授けようと思う。
俺は悪鬼ノ刀を仕舞うと、ゆっくりとした動きで無双構えに移り、気を解放した。
無構の先にある、掌握の奥義。
それがーー。
「無刀。無構の先にある真髄だ」
「……か、刀が見える……」
ミヤモトの達人ランクが一つ繰り上がったからこそ。
俺の両手に鋭い刃先を持った二本の刀が見えているのだろう。
これで相手を斬ることはできないし、気の把握ができていない者にはなんら効果はない。
だが相手が一人の達人となれば話は別だ。
意識を斬ると言った芸当が可能になる。
そしてさらに……。
「うごぁっ!?」
「な、ミヤモトの兄貴が勝手に倒れたぞ!?」
「ローレントは何もしてないのに、スリップか!?」
「ち、ちげぇよ……」
倒れ込んだミヤモトは悪態をつきながら素早く立ち上がる。
「あそこで倒れないと殺されると思わされた……くそっどうしても回避できねぇ」
その通り。
殺気を消すことも可能だが、気あたりに思いっきり殺気を乗せることも可能となる。
それを感じ取ったミヤモトは受け身もろくに取れずに転ぶ羽目になったのだ。
「そろそろ終わりだな。悠長に喋っている暇はもうない」
ミヤモトの劣勢を悟ったマフィア達が一気に援護するために駆け出している。
どうやら俺を追って時計塔に向かっていたアンダーボスがようやく戻って来た様だ。
行ったり来たりと苦労をかける。
ミヤモトがボスを殺した結果、指揮権は完全にアンダーボスに移ったのだろうか。
「勝ち誇った様な顔をしやがって……まだ終わってないんだわ!」
無構を解いて切り込んでくるミヤモト。
身体が硬くなっていて、せっかく覚えた気の把握も使えてない。
ある意味お前にとって俺は死地となり得たはずだ。
逆境こそ。
そういう局面こそ脱力し、冷静に対処する方法を考えなければ成長はない。
死地を乗り越えるたびに、人は強くなる。
遺伝子レベルでな。
「くそがあああああ!!」
今回は腕は斬り落とさないでおく。
新しい地で再び境地にたどり着いたその執念ならば、次こそ同じ頂に登ってこれるのかもな。
すっかり硬くなった動きの二刀を手甲で弾き、接近する。
そしてアポートによって悪鬼ノ刀を手元に引き寄せるとそのまま居合抜きして喉元を切り裂いた。
「……ぢぐじょう」
「いつでも挑戦しろ」
プレイヤーキラーは死に戻りの際、全てのアイテムを撒き散らすのだが、ミヤモトは刀と脇差しの二本しか残さなかった。
それほどまでに剣に生きていたと言うことだったのだろう。
せめて、刀だけは返してやるか。
不思議と嫌な感じはしなかったプレイヤーキラーだった。
「あ、兄貴が……」
「や、やべぇよおい……」
「なあ」
「は、はひぃっ!?」
「お、お願いだから殺さないでっ!」
「この刀と脇差しはお前らの兄貴に渡してやってくれ」
「へ?」
「お、おう……いいのか?」
唖然とした表情をするプレイヤーキラー。
「さっさと行かないと同じ目にあうぞ」
「ひえええええ!!」
「くっ!! こ、こんな依頼受けるんじゃなかったあああ!!」
名前も覚える価値のないプレイヤーキラー二人は、ミヤモトの刀を抱えると尻尾を巻いて逃げて行った。
裏ギルドには昔の知り合いがわんさか集まって来ていると聞くが……。
正直誰だ誰だか覚えてなかったりする。
まあ、戦えばその内思い出すか?
「ちょっとローレント!!! なんでプレイヤーキラー逃してんの!?!?」
「エアリル落ち着いて! なんか一番強そうなのは倒してたみたいだしさあ? ねえ?」
「だた突っ立って喋ってただけじゃないのよ!」
「うおお、ちょ、こっちに風魔法飛ばさないでくれ」
「うるさい! あんたが遊んでる間! こっちは大変だったんだからね!!」
「……罪滅ぼしとは言っちゃなんだが、あとは休んでくれていい」
「え?」
「ん?」
「おいおいコンシリ、そりゃどう言うこった?」
トンスキオーネ達も駆け寄ってくる。
そしてアンダーボスが指揮したマフィア達が再び指揮を取り戻し陣形を組んで囲おうとしている。
さて、少し遊びすぎたお詫びに。
もうひと暴れしちゃおうかな!!!!!
闘技大会でローレントが使っていた技は、達人の中でもさらに高みに存在する技でした。
応用によって相手の意識をそらす残像みたいな事は可能ですが、素人相手には効果ないです。
あくまで達人用の達人技と言う事で。
まあ、こいつスキルで残像とか使えるんですけどね。
結局ミヤモトさんはかませ犬として消え去りました。
今後の活躍に期待ですが、少し寂しさを感じつつも多少満足したローレントでした。




