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「む?」


 刀を抜いたミヤモトからバックステップで距離を取る。


「勘は衰えてねぇみたいだな」


「なんのことだ」


「まあ、そっちが覚えてねぇなら別にいいわ」


 キュッと両こぶしを握り締めると、ミヤモトは大股で踏み込みながら刀を振り下ろした。

 手甲を使った回し受けで捌く。

 ギャリギャリと音を立てて火花が上がる。

 ピラルークの鱗生の手甲を見ると、少し削れていた。

 今まで全く消耗の気配がなかった手甲なのだが、ここへ来て彼の一撃で少しダメージをもらってしまった様だ。


「俺の刀も質は良いが、その手甲もなかなかの業物なのか?」


 いや、なんというか。

 第一陣、第二陣、第三陣と続くプレイヤーの規模でいうと、軽く二世代程前の骨董品。

 いわば、ツクヨイ達がログインを始めた頃に作った一品なのだが。

 みんなが相変わらず川のモンスターに着手せずに船に乗ってノークへ行き、そして対岸のマングローブの森へ行き。

 みたいなことをやってるから、持ってる人は少ないだけだ。


「そうだが」


 とりあえず敵を謀るのも兵法のうちということで。

 ついて良い嘘はついておくタイプなのだ、俺ってば。


「手前も刀を抜け、刀を使っている情報はすでに手の内にあるってわけだ」


 俺は何も返事してないのに、ミヤモトは言葉を続ける。


「それとも、俺程度ならば刀なんぞ必要ない。そう受け取れってんなら……舐められたもんだぜ」


「は? ーーおっと」


「チッ」


 再び切り込んで来たミヤモトの間合いから離れる。

 別に刀で相手をしても良いけど、さっきから勝手に話を進めすぎ。

 なんなんだこいつは。


「さっきから話が読めん」


「ああ? これを見ても思い出さねえか?」


 ミヤモトは腰に差していた脇差しを抜き。

 そして上下太刀の構えと至る。


 ん?

 ミヤモト、二刀流。

 思い出した。


「失伝技法のミヤモトちゃんか」


「約七年の月日を経て、再び手前と合間見えるこの時をおれぁ楽しみにしていたんだぜ」


 失伝技法の宮本。

 刀と脇差しでの二刀流を主に扱う若き達人と呼ばれる人物だった。

 同時に宮本武蔵の失われた奥義を再び世に生み出さんとした傑物。


「手前に呼び捨てにされる筋合いはねぇが、とにかく今の俺は血湧き肉躍る気分だぜ」


「こんなゲームの中まで何事だ」


「ああん? すっかり隠居しちまった手前がこんなところにいやがるってんだ。決闘がご法度になった息苦しい世の中で、殺しても死なねえそんな楽しい死合いができちまうゲームなんだ。プレイするしかねぇだろ?」


 カカカと顔を歪ませるミヤモトはさらに言葉を続ける。


「手前と因縁がある連中は意気揚々として敵対勢力についた。この意味、わかるか?」


「……面倒なのが増えたってことか」


 正直、頭を抱えたくなる様な事実だな。


「弱体化してるのは俺も手前も同じこと。カカカカッ、また切磋琢磨してお互い殺しあうしかねぇってことだろ」


 俺の噂を聞いて。

 リアルで因縁のあった武術界隈のいわゆる達人勢が、こぞってゲームに参加して来ているらしい。


「……そうだ、腕は大丈夫か?」


「逆鱗に触れるのが本当に上手い奴だわな。こうして振るえてるってことは大丈夫に決まってんだろ!」


 俺もミヤモトも生きて来たのは互いの命を削り合う舞台。

 敗者であるミヤモトは、現実では刀を持つことは不可能だったはず。

 利き腕である右腕を俺が斬り落としたからだ。


「俺の負け分を今返してもらうぜえ。手前の右腕を斬り落としてな」


「くっ」


 上下太刀の構えから切り込んでくるミヤモトの剣戟を悪鬼ノ刀と手甲を使いなんとか受け流して行く。

 すでに対人用の邪気が発動しているはず。

 その証拠に、ミヤモトの後ろに控えていたプレイヤーキラーは腰を抜かして俺たちの戦いを見つめている。

 なるほど、それすらねじ伏せるミヤモトの気概という訳か。


 ……つくづく厄介だな。

 だが、上等だ。


 後ろに飛びのいて俺も構えを取る。

 武器ありでも素手でもやる事は変わらん。

 全神経を研ぎ澄ませて行く。

 相手の動き全体を見る観の目へ。

 そして次の動きを予測し、相手の陣を見る。


「精神統一と瞑想修行に費やした七年は馬鹿にできねぇぜ」


 再び上下太刀の構えをとったミヤモト。

 すると見えて来た。

 刀を持ったミヤモトの制空圏。


「でかいな」


 かつて俺に敗れたミヤモトの執念が垣間見えた。

 俺もカイトーも、プレイヤーキラーの二人もすっぽりと入るほどのミヤモトの巨大な制空圏。

 対する俺はマフィア相手に武器を振り回していた時と打って変わって、己の身体スレスレまで制空圏を絞っていた。


「……チッ、間の真髄か。俺の間合いにすっぽりハマってやがるのに、何故こうも隙がなくなっちまうのか……本当に化け物だぜ」


 俺はにじり寄る様に慎重に彼の制空圏の中を進んで行く。

 先、先の先、後の先。

 どれを選んでも先々の先にて俺がお前の首を取る。


「見くびるなや」


 ミヤモトは俺にそう告げると、上下太刀の構えを解いた。

 そして自然体で近づく俺と同じ様に二本の刀を持った両腕をだらんと下げた。


「手前に敗れ、敗北を知ったおれぁ一つ成長できた。そこだけは感謝しといてやるよ」


「……なるほど」


 どうやらミヤモトは、俺に敗れてからの七年の歳月を経て。

 二刀流における至高の技を一つ蘇らせてしまったらしい。


 失伝技法のミヤモト。

 ついにはその名の通り、はるか昔の剣豪宮本武蔵の奥義を一つ、体現しせしめた。

 俺と同じ間の真髄の一つ。


 ーー無構。






ローレントと同じ領域に立つ。

因縁の達人ミヤモト。


果たして、彼らの戦いはどうなるのか。





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