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その前に、狩りに夢中になりすぎてクリムゾンコニーを忘れていた。
俺はあいつを狩りに来たのだ。
時間はまだまだ沢山ある。
探せ、ローヴォの嗅覚を信じる。
「ウォン!」
体良く発見できるわけと思っていたが、いた。
以前の行動エリアだと、クリムゾンコニーは一つ手前のマップだったな。
馬肉と糸のドロップに目を奪われてその一つ先のマップに来ていたわけだ。
いよいよ俺は記憶障害なのだろうか。
頭は散々打ち付けて来たし、さもありなんといったところ。
【クリムゾンコニー】Lv5
テージシティ周辺の草原の覇者。クラス4。
レッドラビットのクラスチェンジ。
うーん、記憶障害じゃなければレベルはもっと低かったはず。
何もしていない間に勝手にレベルアップしたのか?
それとも違う個体なのだろうか?
相変わらずマスドッグの集団が群がって吠えているが気にしていない様子だ。
ウサギといえばどちらかといえば狩られる側。
少しの段差を転落しただけで骨折してしまう脆い生き物だが、こいつは違う。
マップ間を自由に跳ね回る強靭な足腰がある。
大きく発達した大腿筋。
あれで蹴られたらひとたまりもない。
「バゥッ!?」
最初にちょっかいをかけたマスドッグの一体がぶっ飛ばされてやられた。
全身の骨が全て砕かれたのだろうか……。
さて悠長に分析している暇はない。
早めに対峙しなければ再びマップの外へ移動されては厄介だ。
「マジックブースト」「ナート・エクステンション」「ナート・イクイップメント」
魔闘と共に、あるだけの補助魔法スキルをかけていく。
そしてノーチェを疾走させながら馬上でエナジーブラストの詠唱に入る。
「エナジーブラスト」
周りにいるマスドッグを巻き込みながら、エナジーブラストが届く。
赤い目が光り、こちらを振り向いた。
クリムゾンコニーは大きく跳躍し攻撃を躱す。
「ちっ」
思わず舌打ちしてしまった。
今の攻撃は失敗した。
周りにいたマスドッグ達のターゲットが俺に移ったのである。
「マナバースト」
できればノーチェの残像とローヴォの悪運の瞳は見せたくない。
群がって来たマスドッグ達をマナバーストにて蹴散らす。
もともとエナジーブラストでダメージを負っていたマスドッグ。
ノーチェの踏みつけと、ローヴォの攻撃によってほぼほぼ壊滅的にできた。
問題はクリムゾンコニー相手に後手に回ってしまったことだろう。
兎の弱点はいったいどこだ?
骨格が弱い以外あまり気にしたことがない。
ならオーソドックスに目とか頭を中心に狙っていけばいい。
「ぐっ!?」
衝撃波の様なものが右耳あたりを横切った。
耳を通して頭にキーンというダメージが入る。
一体なんだ?
視界に捉えていたクリムゾンコニーの姿が消えて、後ろに大きな穴が空いている。
跳躍して飛び蹴りでもしたのだろうか。
「グォン!!」
ノーチェの左を並走していたローヴォから警戒の意思が伝わって来る。
ノーチェの残像によってなんとか躱せたらしい。
……どうやら余計な思考は命取りのようだ。
悪鬼ノ刀をいつでも抜ける様に意識しておいて、六尺棒を取る。
「ギィィ!!」
後方を取られたら厄介だ、ノーチェを大きく旋回させ横か正面で受けなければ。
クリムゾンコニーの狙いは俺単身の様だ。
出なければ普通は馬を狙うのが先決だしな。
幻影馬はヘイトが溜まりにくい、そんなところだろう。
よし持てる力を全て出し切っていこう。
まずはクリムゾンコニーの一撃を受ける。
「ギッ!!」
「グォン!!!」
溜めからの跳躍。
そして見えた、やはり強烈な飛び蹴りだった。
ローヴォが吠えと同時に跳ねてクリムゾンコニーの腕に食らいつく。
足に食らいついたら首がへし折られかねないから、いい判断だ。
「はっ!」
そして俺はどうする?
気合い一閃、短く強く息を吐いてタイミングを合わせる。
両手に六尺棒を構え、棒の中央で足を受ける。
大きな衝撃だ。
そしてノーチェも流石にたたらを踏むが耐え切った。
力の逃し先は上。
六尺棒本来の使い方は払い打ち付けるというよりも、しならせ相手を翻弄する。
簡単に殺せてしまっては、六尺棒術で有名な神武不殺の極意が守れないからだな。
補助魔法漬けになった魔樫の六尺棒は現状もっとも高性能な武器となる。
粘り強く、折れない。
大きくしなり、そして受けきり、受け流し、隙を作る。
「ギィィ!」
仕留めきれなかったのを悔しがる様な声がクリムゾンコニーから聞こえる。
悔しがるより後悔が先だ。
全てがお前のターンではない。
六尺棒から手を離し、その構えのまま悪鬼ノ刀をアポートする。
変則居合抜きの様な要領で、受け流されて頭上にいるクリムゾンコニーを切る。
アポートを使った居合抜きは、千差万別といってもいい。
いちいち居合抜きの構えになる必要もないので、いかようにも意表をつきやすい。
問題は威力だが、スキルに頼れば問題無し。
「マジックエッジ!」
さらにスペル・インパクトも無詠唱で上乗せだ。
マナバーストにより魔闘と補助スキルの重ねがけよりも、さらに限定で攻撃力が伸びている。
相手は悪運の瞳でバッドステータスが入りやすくなっているはずだ。
残念ながら、人型ではないために悪鬼ノ刀の邪気が効かないが、もう知ったことか。
俺の攻撃は、クリムゾンコニーの要である発達した大腿筋を捉えようとしていた。
瞬きしたら、武器が六尺棒から刀に変わっていた!?!?
って感じのやつです。
そしてもふもふで巨大な赤い目の兎。
一番最初に出てきたグリーンラビットからクラスチェンジできます。
テイムすることで、もしかしたらクリムゾンコニーになるかも?
ただし、色々と条件はございますがね!
緑から真紅に至るには、そこはかとない努力がいるものです。




