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「前線戻れコールがウザくてな、メッセージ機能はきってんだよ」


「それ、どうやるんだ?」


「アンタはだめ! 一応連絡はつくようにしておいて!」


 レイラが喚く。

 そんなに怒る必要も無いと思うが?

 周りの視線が痛い。


「一次産業組は宝よ! 地味だけど! 生産に回ってくれた皆加工職なんだから! もうウチでギルドでも作って囲い込もうかしら、……色々メッセージがうるさいのよぉ〜」


 そう言いながら机に突っ伏したレイラに。

 ブリアンがそっとブランケットみたいな布を背中に掛けてあげている。

 でも流石に地味は失礼なんじゃないですかね。


「トモガラは結局樵夫やるのか?」


「おう、マッシブとかも役に立ってるぜ」


 大剣片手で振り回してた奴が何を言ってるんだ。

 意外なことに樵夫が性に合ってそうだった。

 というかタンクトップ姿から見える腕の筋肉。

 すっかり仕上がっているという感じ。


「ローレント、トモガラ、ブリアン。とりあえず私が個人依頼を出してる三人には——」


「ちょっといいか? お前ら生産職だろう? 今すぐ第二の町にきてもらいたい」


 レイラの言葉を遮った奴がいた。

 公園の入り口から、全身に金属製の鎧を身につけた物々しい雰囲気の奴らがゾロゾロと入ってくる。

 トモガラが頭を抱えているということは……?


「良くやったトモガラ。これで第二の町に生産拠点を作ってそこから攻略が始められる」


 声の主は、金髪に甘いマスクをお持ちの好青年。

 俺とトモガラよりも少しだけ背が高いということは、百八十二センチはありそうだ。

 だが、軽そうだな。

 第一印象はそんな感じ。


「なんでそうなる」


 トモガラが低い声でそう言いながら丸太を放り投げる。

 公園に重たい音が響き渡った。

 何人かの女性プレイヤーが身体を強ばらせているのがわかる。

 そんなことをまったく気にすること無い男は、


「はは! 君も理解しているだろう? 攻略にはエリアボスクラスのモンスターを倒すよりも重要なことが隠されているのさ!」


 そう、両手を広げて叫んでいた。

 白昼往来で何を言っているのだろうか、この男。

 男の後続が拍手している、やめろそれ。

 当然、ほかの皆は唖然としている。

 そんな中でレイラからメッセージが来ていた。


『ウザいのが来たわ。こいつが第二の町でプレイヤーバッシングの原因にもなった男よ』


『プレイヤーキラーですか?』


『だったらまだ可愛げがありそうね! NPCを人とも思わない様な態度で攻略組だから、魔物の討伐をしてやってるからとかそんな理由で相手取ってた野郎なわけ! もう戻ってくるって事は——』


 そこから先を読む前にトモガラが口を開く。


「なんだ? お前らもどうせ、自活できずに出戻って来た口だろ? ……それで攻略組最前線気取るなんて底が知れてるぞ」


 なるほど、トモガラが付き合っていた最前線の攻略グループなのだろうか。

 だとしても、険悪なのはどういうことだ?


「ああ、そりゃこのゲームの腐れシステムのせいでね? でもそれが僕をやる気にさせる、十分な要素でしかないよ。面白い、鍵が必要なら集めるまでさ?」


「どーぞご勝手に。だいたい、元々あのエリアボスにすら苦戦してた野郎達が良く言うぜ。なら俺の下で樵夫やってみっか? 剣を振る練習になるかもしれないぞ?」


「ふん、僕は誰の下にもつかないし、面倒くさい生産職に着くつもりも無い」


 ……生産職を欲しがってる奴が、思いっきり否定している。

 これは、絶対協力してくれなくなると思うんだけどな。

 唖然とした空気が、その発言を皮切りに不穏な空気に変わって行く。


『失礼しちゃうわね!!!!』


『それ、……本人に言ってくださいよ』


『何言ってるの! 絡まれたら面倒じゃないの!』


 レイラの姐さんが怒り狂っている。

 でもメッセージで俺に怒りをぶつけるのは辞めて頂きたい。


「まぁなんだ、僕のグループにだって腕のいい鍛治師や装備職人は居るよ。ホラ見てみな? ウチに入れば最前線の頑丈な鉄製装備だってすぐに作れるようになる」


 声と共に整列した鉄鎧の男達。

 それを目にしたプレイヤー陣は、


「すげぇ……第一の町ってだいたい革装備ばっかりだよな?」


「まぁ素材が限られてるしな?」


「これが最前線攻略組……」


「俺、入れてもらえないかな?」


「戻って来てる今のうちってこと?」


 各々感嘆の声を上げていた。


「はっはっは! ウチでは飛び切り腕のいいメンバーで優しく指導してるよ! 何せ僕が作ったグループだからね! 現時点最前線でキャンプを作ってそこで攻略に当たる予定さ! そして攻略した先でも同じように拠点を作り上げてどんどん開拓して行くよ! 今なら特別キャンペーンで募集してるから、詳しくは掲示板の”ケンドリックの攻略最前線組”スレを確認してね! アハッハッハッハ!!」


 男はゾロゾロと仲間を引き連れて公園から出て行った。

 公園の空いているスペースには”ケンドリックの募集受付予定地”と書かれた看板が立ててあった。

 なんだ看板って!


「露店風呂敷と肩を並べる便利アイテムよ……。チュートリアル2で貰えるわ」


「私も屋台で使ってますよ! お品書きとか取り扱ってる商品とかを記入する物なんですが……」


「あんな使い方してる奴初めて見た」


 レイラは頭を抱えてテーブルに突っ伏したままだった。

 大きな溜息が聞こえて来て、サイゼも呆れている。

 そして発端のトモガラは、看板を見て爆笑していた。


「あれ! ほんっと自己主張強い奴だな! ロールプレイの域越えてるっつの! ぐぷぷぷ」


 いや、生産職やってる時点で、俺らロールプレイ勢だから。

 俺は道具類はアイテムボックスにいれてるけど、お前、誰がどう見でも樵夫だから。

 ほぼNPCだから。




 俺達は一度騒がしくなった公園を切り上げると、鍛冶屋へ向かった。

 安定のガストンがいる小部屋。

 揃いも揃った俺らを見て、全てを察したようにガストンは部屋に招き入れた。

 工房から親方の怒声が響いている。


「おいこら! まだ打ち方の続きあんだろ!」


「親方、黒鉄持って来てくれた人である」


「ごゆっくり〜」


 それで良いのか親方。

 何も問題ないなら良いが。

 部屋に居るのはレイラ、サイゼ、ミアン、セレク、イシマルにニシトモとブリアン。

 そして俺とトモガラ。

 復興組として活動している面子が多い。


「ミツバシは残業終わったら来てくれるってよ」


「そう、助かるわね」


 イシマルが一度ログアウトすると戻って来てそう言った。

 シュガーホットミルクを飲みながら心の平穏を取り戻したレイラ。


「いつかは来ると思ってたわよ! でも先に言ってよね!」


「わりーわりー」


 トモガラに詰め寄っていたのだが躱されていた。

 そりゃそうだ、この男が反省するわけない。

 ないったらない。


「たぶんあいつは気付いてないと思うんだけど。次のエリアの解放条件って町外の開拓だと思うのよ。不自然に閉鎖されて、北以外にボスなんて見当たらないじゃない? もしかしたら居るかもしれないけど……」


「ま、良くあるゲームだな」


「開拓系のゲームってそういうのありますよね」


 レイラに続き、トモガラ、サイゼが口を開く。

 すまん、話について行けない。


「ただ魔物を倒すだけじゃ……」


「甘いのよローレント!」


 びしっと指を指される。


「第一と第二は元々繋がりがあった! だから道が出来てたでしょ?」


「……なるほど、第二の町には道が、ない?」


「いやあったぞ」


 謎が解けた顔をしたセレクにトモガラが冷静につっこんだ。

 そりゃ真っ先に次の町に向かった張本人だしな。

 トモガラが言うには、最初は検問から先へ行けていたらしい。

 ちょこちょこ先へ向かって狩りを進めていたのだが、いきなり検問が厳しくなって行くことが出来なくなったんだと。


「元々第一もエリアボスのスターブグリズリーが足止めしていたのである」


「流石ガストン、さすがね」


「ということは、元々交流していた町同士なら道が敷かれいる。交流が無くなったのは羆が道を封鎖するようになったから。この辺りはRPG的な要素を無理矢理組み込んで来てる感じね」


 レイラの推測は続いて行く。


「第二の町なんか自分らで首を閉めた様なものよ? エリアボスなんて無いし、元々次の道が敷かれていた所を物資が無くなったことでNPCからバッシングを受けて封鎖。絶望ね、詰んでるわ」


「ど、どうするんですか?」


「サイゼちゃん……私達が復興してる場所はどこだと思う?」


「ボロボロになった船着き場……ああ!」


 だいたい読めて来た。

 東西南北、全ての地域に何かしらが原因で先に進めなくなった場所が存在する。

 船着き場なんか、朝聞いた話だと元々使ってたらしいし。

 師匠であるスティーブンも言っていた、もう少し回りに気をかけろと。


 西の草原も不自然に畑が遠いし、元々農家がすむ地域があったのかな。

 東は漁師。

 南の森は、……流石に樵夫の線は薄いだろうが。

 鬱蒼とした森に不自然に魔物注意の看板が立っていたことを思い出した。


「朝から聞きました、元々漁師はいたそうですがフィッシャーガーの影響でもうずっと漁に出れていないって」


「南の森はゴブリンとオークあたりが集落作ってそうだぜ?」


 俺とトモガラの話を聞いて。

 レイラはスティーブンの様に指を鳴らした。


「ビンゴね」


 その理論で行くと、きっと西の草原にも何かあるはず。

 グリーンラビットとナイトラクーンしか見たこと無いですが……。

 そしてそこから導きだされる言葉、一次産業。

 流石に誰かしら居ると思うんだけど?


「残念なことにね、プレイヤー勢で技能持ってるのがここの三人だけなのよ、あとミツバシもちゃっかり漁師もってたわね? でもあいつはあんまり詳しくないからいいわ」


 特に漁師なんかNPCすらいない。

 海の魔物は危険だ。

 陸地に生きる俺達には酷というもんだ。


「東西南北の内、三つが出そろってるのだとしたらやってみる価値はあるでしょう?」


「うーん」


「お、おではいいだよ!」


 ブリアンは二つ返事だが、トモガラは別に木を切りまくりたいからって分けじゃなかった。

 ただ興味本位で樵夫になってみただけ。

 対する俺も……本格的漁師プレイをするのかと言われれば。

 ファンタジーの世界で、ゲームの世界でまでって感覚はある。


「個人依頼」


 そうでした。

 事前に結んでしまった契約がある。

 トモガラも例外無く木材需要で駆り出されていたらしく。

 俺達二人は敢え無く生産活動を強いられることになるのであった。


「ともかく、まずは食料自給と川辺の整理ね! トモガラ君? 建築には木が大量に居るのよ」


「へいへい」


 それからは、ミツバシも交えて復興組をどうしていこうか話し合いが始まる。

 もろもろの対応だったり、必要な物は多そうだが。

 ここに集まっているプレイヤー勢は、もう皆良い社会人。

 大人なのである。

 その辺は円滑に勧められて行くのだった。


 と、言うことで今日の夜の狩りはなし。

 ローヴォは女性陣の膝の上で気持ち良さそうに眠っている。

 なんという駄犬。


ーーー

プレイヤーネーム:ローレント

職業:無属性魔法使いLv13

信用度:75

残存スキルポイント:0

生産スキルポイント:1


◇スキルツリー

【スラッシュ】

・威力Lv10/10

・消費Lv1/10

・熟練Lv1/10

・速度Lv1/10


【スティング】

・威力Lv1/10

・消費Lv1/10

・熟練Lv1/10

・速度Lv1/10


【ブースト(最適化・黒帯)】

・効果Lv3/10

・消費Lv3/5

・熟練Lv3/5


【エナジーボール】

・威力Lv1/5

・消費Lv1/5

・熟練Lv1/5

・速度Lv1/5


【メディテーション・ナート】

・向上Lv1/10

・熟練Lv1/15

・消費Lv1/10

・詠唱Lv1/5


【エンチャント・ナート】

・向上Lv1/10

・熟練Lv1/15

・消費Lv1/10

・詠唱Lv1/5


【アポート】

・精度Lv10/10

・距離Lv8/10

・重量Lv10/10

・詠唱Lv1/1


【投擲】

・精度Lv1/3

・距離Lv1/3


【掴み】

・威力Lv1/3

・持続Lv1/3


【調教】

・熟練Lv1/6


【鑑定】

・見識Lv1/6


◇生産スキルツリー

【漁師】

・操船Lv1/20

・熟練Lv3/20

・漁具Lv3/20

・水泳Lv1/1


【採取】

・熟練Lv1/3

・眼力Lv1/3


【工作】

・熟練Lv2/6


【解体】

・熟練Lv1/3

・速度Lv1/3


◇装備アイテム

武器

【大剣・羆刀】

【鋭い黒鉄のレイピア】

【魔樫の六尺棒】

装備

【革レザーシャツ】

【革レザーパンツ】

【河津の漁師合羽】

【軽兎フロッギーローブ】

【黒帯】

称号

【とある魔法使いの弟子】



◇テイムモンスター

テイムネーム:ローヴォ

【リトルグレイウルフ】灰色狼(幼体):Lv5

人なつこい犬種の狼の子供。

魔物にしては珍しく、人と同じ物を食べ、同じ様な生活を営む。

群れというより社会に溶け込む能力を持っている。狩りが得意。

[噛みつき]

[引っ掻き]

[追跡]

[誘導]

[夜目]

[嗅覚]

※躾けるには【調教】スキルが必要。

ーーー


感想返しはすぐにする様にしています。

応援のコメント頂けて本当に嬉しいです。

頑張ります。


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