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長時間ログインを終えて、しばしの仮眠を取った後のことだ。
ログイン先は、テージシティのいつもの宿屋だ。
先日は結局マフィア狩りきるまでずっと夜時間のログインをしていた。
必然的にノーチェが寂しがると思うんだ。
だけどもだけど、予定は詰まっている。
ニシトモに連絡すると、近々折り返すもしくは都合のいい日があればすぐに駆けつけるという話だった。
俺はいつでも都合いいから、あわてないようにだ。
というか、トンスキオーネ商会に出向けば全て息がかかっていると送ってみると。
『一応強制クエストで、失敗すると利益を突っぱねられる事態になっていたので助かります。目立つことこそ商人としての誉でしょうが、カルマを背負いすぎるとこういうことになるみたいです。もっとも、裏との関わりはいずれ持つつもりでした、ですが、優位交渉が難しいとなれば、私は貴方の傘下に多いに加わりますよ』
とのこと。
ニシトモもニシトモで大変だったらしい?
とりあえず傘下とかいいから。
専属契約みたいなもんでいいから。
ニシトモなら俺の素材諸々。
もはや財産と言ってしまってもいいそれを上手く管理してくれる。
なんかもう、めっちゃ人材揃ってない?
戦闘以外のことは任せっきりになる分、俺は戦闘頑張っちゃうよ。
よし、そうと決まればメッセージで諸々を伝えておこう。
テージシティに裏から根をはるんだ。
そして、みんながやってきた頃に、マフィアとして敵役になるのもいいかもしれない。
とは言え、師匠がいる手前、闇堕ちはしたくない。
レッドネームになればテレポートが遠のいてしまう気がする。
故にスティーブンにはバレてはいけない。
絶対にだ!
「こんなところにおったか」
「!?」
テレポートは、気配が読めない。
心臓止まるかと思った。
誰だ、スティーブンだ!
「お久しぶりです」
「うむ、ちっとばっかし所要ででとったが変わりはないかの?」
「ええ、まったく」
「時間はあるか?」
「午後からフレンドと山籠りです」
三下さんとキャンプするんだ。
諸々の準備は済ませてある、さすがにオムツはない。
世の中にはペットボトルを管通して標準装備してる人がいるみたいだが?
VRギアつけたままさ。
それは幾ら何でも無いって……。
っていうか男だったらそのままジョバっても気にするな。
戦いの最中、刺客はいつでも襲い来る。
話が逸れた。
三下さんは仕事が終わったらログインすると言っていたので、それまでの間なら空いているといえよう。
「うむ、ではいくぞ」
「どこへ?」
場面が切り替わった。
ローヴォは隣にいる。
っていうかノーチェ!
「心配するで無い、ちゃんと連れてきておるよ」
「はあ」
あたりを見渡すとだだっ広い草原地帯にいた。
草原地帯というより耕作地帯と言えばいいだろうか。
ブリアンが見たら大喜びしそうな光景だな。
「農耕都市アラドである」
「都市区分は?」
「何かに特化した都市は全てメトロポリス扱いになる」
おお、遠くに見える巨大風車のある都市。
あれはメトロポリス区分なわけか。
だとすると、テージシティよりも大きいんだろうな。
テンバーやノークに慣れきっていると、テージですら規模は大きい。
まあ街中にマフィアのシークレットマップを作るくらいだしな。
メトロポリスとなればかなり多いのだろう。
「して一つ、頼みがある」
「はあ」
スティーブンの話を聞きながら、農耕都市の門を潜った。
スティーブンの兄弟弟子に当たる人物が弟子同士の勝負をさせろとのたまったらしい。
テレポートを使える人物なのか?
だったら自分からテンバーに来いよと、そう思ったのだが……。
「弟子はそれぞれ四人、四大属性に光と闇の二極、そして上位属性と無属性のワシじゃ」
テレポートを使えるのは無属性魔法使いのスティーブンのみ。
そうして馳せ参じなければならなくなったというわけだ。
して、今回のお相手は?
「なんじゃ、ヤケにやる気じゃのう……四大属性のババアの弟子じゃよ」
「ババアって……」
アップデートの都合上、まだプレイヤーの弟子を取っていないようだ。
そんなメタ発言なんかいらないってのに……。
そして、俺はそのババアの弟子であるNPCと戦うようだ。
「やっと来たかいスティーブン、あたしを待たせるなんて偉くなったもんだね?」
「わざわざ出向いてやっとるのに、なんじゃその言い草」
じじいとばばあの口喧嘩が巻き起こっていた。
さて、老獪達の押し問答はことくらいにしといて。
向こうさんは俺の格好がどうやら気になるらしい。
ババアは鼻で笑い、そしてその後ろに控えていた女の魔法使い。
「無属性魔法を極めた人の弟子じゃないの? 何あんた、その格好、舐めてるわけ?」
「スティーブンも血迷った見たいだわね? ナハッハッハ!」
カチーン。
そういうクエストなのか?
それともそういう設定のNPCなのか?
「高飛車な性格は、弟子にも伝染しとるみたいじゃのう……」
スティーブンは呆れかえっていた。
「こりゃ戦う前から勝負はついとるみたいだわね!」
「ほう、どうしてそうわかる」
「魔法使いの勝負事は、魔法スキル以外の使用を禁止する、その錫杖みたいな武器は認めてやらんこともないが、あたしの弟子に勝てるとは思わんね」
「っていうか師匠! こんなインナーシャツ野郎に私が負けるはずありませんって!」
そういえば、戦闘服の上着はトンスキオーネに壊されてたよな。
あのバズーカ砲に。
ろくな装備を整える間も無く、スティーブンの呼び出しだったから、今の装備は上だけインナーにローブを羽織っている。
その格好は、とても魔法使いらしくないらしい。
「……師匠」
「なんじゃ」
「容赦しませんから、やばくなったら止めてください」
「……相手のレベルは69と、すでに三次転職に片足をかけておるようじゃがな? まあお主がそういうならそうなんじゃろうて、レベルで判断できん奴じゃしなお主」
そんな訳で、スティーブンのテレポートで戦える場所まで移動した。
農耕都市アラドにある、このババアの大豪邸だってさ。
ちなみに、容姿の方はババアって言われながらも、実際かなり若々しい方だ。
側から見たら三十代のくらいの女性に思える。
酒飲んでグダッてる十八豪の方がなんかババアっぽいところがあった気がする。
「武器を預けておきます」
「うむ。この刀、なかなか禍々しいがどこで手にいれたんじゃ?」
「行きずりで」
気ままに使ってたらそんな成長を遂げました。
なんて言える訳がないだろ!
「ふふふ、愛弟子祝いにもらったこの四属性対応の杖がいよいよ火を吹くわけね」
「あの耄碌の弟子なんだ、手加減抜きでぶっ飛ばして来なさいな」
「はいっ!」
スティーブンを横目で見やると、パイプをふかしていた。
まあ、口数が大きいよりもマシだろう。
ローヴォは目をギラギラとさせているあたり、この女にヘイトが溜まっているようだ。
ノーチェはブルルルと唸っていたが、外でおとなしくしている。
かわいそうだが、仕方ない措置なのよ。
そこそこ大きな馬だからね。
「何黙ってんのよ? 今からあんたはこの私に叩きのめされるんだけど? ……そうだ、賭けをしましょう? 万が一にもあんたが勝てる要素なんかないけど、勝ったらなんでもいうこと聞いてあげるわよ? ふふふ」
「はあ」
「負けたら下僕ね? ずっと言いなりよ。うふふふ」
「あたいの愛弟子はさすがだねぇ! よし、あたしも乗るよ! あのジジイは昔から無口でムカついてたんだ、弟子の勝負でどっちが上か改めて知らしめてやろうじゃないか。スティーブン、ようやくあんたがあたいの下僕になるんだよ? ナハッハッハ!!」
70万文字ようやく超えました。
201話と地味に200話も超えてついにここまで来たかって感じですね。
まあ、容易に展開が読めると思うんですが。
次、蹂躙回です。




