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「ここはどこじゃ、という顔をしとるな。わしの家じゃ」
「ええと」
「あの裏路地から図書館に繋がっとる、そこへ行く前に扉があるからそっから入れるわい」
正直言ってる意味が分からないが、裏路地から来れるということか、第一の町にあることだけは理解できた。
よかった、町の外れとかじゃなくて。
「弟子じゃしな、簡単な工房もあるから利用せい」
「ありがとうございます」
これは素直に嬉しい限りだ。
宿が取れずに公園の机でログアウトなんてしたくない。
これから第一の町に出戻ってくる人が多いと噂されている中だからなおさら。
レイラ達生産職のグループの中で、リバーフロッグの素材で雨も凌げるテントを作って、小さなキャンプ場でも作ろうかという話が上がっていた。
最悪それで川辺を拠点にしようかと思っていたが、まだシステム上フィールドのままらしく、PKされる危険性があって難航しているんだと。
プレイヤーキラーは全員処刑してしまえ。
時刻は?
正午を少し回った頃。
メッセージが入っていた。
ガストンとセレクから。
共に仕上がっていると、それだけ。
なら取りに行こうかな、道すがら呉服屋へ向かう。
何故かセレクは買いにくるNPCのお客さんの対応をしていた。
「いらっしゃいませー! ってアンタ遅いじゃない!」
「何やってるんですか」
「店番よ」
それはわかる。
なんだって店番なんかと思うが、プレイヤー勢の信用という意味で、こういう頼まれ事は出来るだけ受けておいた方が良いのだろう。
生産職も大変なもんだ。
「出来てるわよ、こっちへ来て」
店の奥に連れて行かれた。
店番は?
「いいのよ、もうお客さんいないし」
それでいいのか……。
そしてテーブルに並べられていく補修依頼をしていた装備たち。
革の上下装備は特にかわり無く。
変わっているとしたら、軽兎のローブくらいか。
【軽兎フロッギーローブ】製作者:セレク
裁縫スキル【兎止め】と【河津縫い】を使用した特殊ローブ。
裁縫スキル【本返し縫い】によって耐久性の向上もされている。
軽く、通気性抜群で、完全防水。
格上相手には身体能力の向上(微)。
・防御Lv1
・耐久Lv1
・完全防水
・耐久100/100
「リバーフロッグなんだけど、かなり便利よ。舌はゴムに近い素材で、皮は完全防水。そういう魔力の質を持っているみたいなの、そして低レベル帯の素材だから余り干渉し合わないし長所を食い合わない。見てアタシの完璧な仕事っぷり!」
返す言葉もありません。
素晴らしい装備ですが、通気性抜群で完全防水ってどうなってんの。
不思議ローブだが、少し手荒にあつかっても丈夫みたいだ。
袖の部分で使われているのは、もしかしてリバーフロッグの舌かな。
伸縮素材だから、使いどころは多いにありそうだ。
色んな部分で。
「ほんっと、これだけ良い物ができる素材なのに、なんで人気無いのかしら。カエル気持ち悪いからかしらね? じゃ、次のを見て頂戴!」
テーブルにドンと置かれたのは?
漁師カッパでした。
そして注文通り、長靴と一体型になっている。
【河津の漁師合羽】製作者:セレク
裁縫スキル【河津縫い】と【本返し縫い】が生きる丈夫な漁師装備。
衣類の上から装備できる。
完全防水だが少し蒸れる。
・完全防水
・耐久100/100
「なんか足りなかったから、私もカエル狩りしちゃったわよ。でもアンタには特別だからね!」
「どもです、足りない分はグロウ払いで?」
「いや、個人クエストととしてリバーフロッグの素材融通してちょうだい?」
なるほど、長期的に考えてそっちの方が益がありそうだ。
ビニールシートの代わりになる布地が作れるリバーフロッグの皮は、生産活動を行う上で覆いに役立つ。
簡易拠点が作れるからな。
二つ返事で依頼を受けておくことにしよう。
「口約束で十分よ、信用してるから!」
インフォメーションメッセージは流れなかった。
セレクのいい加減な性格が出ていそうだ。
まぁ裁縫の腕はいいので気にしないでおく。
アイテムボックスにしまうとそのまま鍛冶屋へ向かう。
フレンドリストのガストンはオンラインだ。
黒鉄をお披露目してみよう。
「これをどこで手に入れたであるか?」
「……すごく遠く?」
開口一番にこうだった。
実際、黒鉄装備が出回ってるんじゃなかったのか?
こんなに驚かれるなんて思いもしなかった。
「この量はインゴットがそこそこ作れるのである。攻略組が持っていた黒鉄は、第二の町の露天商で偶然見つけたものだとのことである」
日替わりで露天市の商品が変わる中。
偶然見つけた代物だったそうだ、それもそこそこ高価な物。
攻略組パーティ総出でお金を出し合って買ったものだったらしい。
PKに奪われるとか、ついてないな……。
「一応情報では数個ほど出回っているのだが、その数個だけである。PKに取られた物は一つだけで、それが廻り廻って当方へやって来たのである」
「持ってて良いんですか……?」
「PKに取られるのが甘いのである。取り返したもの勝ちなのであるから、儲けものなのである」
殺伐としているようだった。
そう言ってくれるならこのまま持ち続けよう。
で、どこで手に入れたかと言えば、マップにも乗ってない地域。
師匠のスティーブンに転移で連れて行った貰ったのでわからない。
「なら仕方ないであるな。イベントの様な物である」
「他言は無用で」
「わかっているのである」
また無駄な波紋が広がりかねないのは自明の理だ。
掲示板?
今後とも利用するつもりはありません。
見るとしたら復興掲示板の情報収集くらいだ。
第一の町に出戻りプレイヤーが増えて面倒くさくなる前に雲隠れしたい所だった。
「で、何を作るのであるか?」
「何が作れるんですか?」
質問に質問で返すのは悪いが。
何が作れるのかは知っておきたい。
「大剣の芯に使えんことも無いであるが、既に一つ仕上がっているのである」
台に乗せられたのは大きくゴツい大剣。
オーソドックスな片刃。
刃の部分は何の味気も無い無骨な人斬り包丁の様の思えた。
「……牛刀みたいですね」
「ふむ、言われてみれば。巨大な鉈とも言えるのである。振り下ろすならば切れ味よりも引き裂くことに集力した方がいいと考えたのである」
これはこれでカッコイイ。
刃の無骨なデザインが気に入ったのもあるが、スターブグリズリー、茶毛羆の頑丈な背骨がこの大剣の背からゴリゴリと向きでてるのも良い。
刃の厚みはかなりある。
薄い刀身ではなく、角張った太さを持つ大剣。
さっそく鑑定。
【グリズリーボーンブレード】製作者:ガストン
茶毛羆の背骨を刀身に利用したもの。
刃は鉄製で片方にしかついていない。
まっ二つに叩き割ることを意識して打たれている。
骨と刃以外の刀身部分は分厚く耐久性に富む。
・攻撃:30
・耐久Lv3
・耐久100/100
「名前は、勝手に呼べば良い。変更は別途料金が居るのである」
ガストンは商売上手だった。
流石にこの見た目でカタカナ表記はダサそうなので。
名前を彫って頂きました。
【大剣・羆刀】製作者:ガストン
茶毛羆の背骨を刀身に利用したもの。
刃は鉄製で片方にしかついていない。
まっ二つに叩き割ることを意識して打たれている。
骨と刃以外の刀身部分は分厚く耐久性に富む。
羆を解体する時に使われたという馬鹿でかい包丁。
・攻撃:30
・耐久Lv3
・耐久100/100
剣のカテゴライズは必ず表記しなければいけないルールっぽい。
まぁ良いでしょう。
何故か羆を解体する包丁とか説明が増えてます。
物騒だな。
さて、黒鉄の使い道はどうしようか。
武器を増やすということで、一つ剣を作る手もあるが。
何と無しにパクって来た六尺棒。
剣術よりもやっぱりこっち系が使いやすいのを再確認した。
黒鉄で作るとしたら、殴打武器だとどうしようか。
「双節棍をお願いできますか?」
「ヌンチャクであるか? 一応作れないことも無いが……」
黒鉄オンリーのヌンチャクとか、どれだけの破壊力を持つのか。
頑丈な鎖もつくってもらって。
何かあった際の暗器として身体のどこかに付けとくのも可能か?
武器スロットは相変わらず二つ。
増やす方法はあるのだろうか。
アイテムボックスに入れておきましょう。
「清算は余った黒鉄と相殺したいのである」
「それでお願いします」
懐が寒いかと言われれば、そんなことは無い。
俺が持っているよりもガストンが持っていた方が有効的だろう。
装備、武器の製作についてもかなり良くしてくれているしね。
ちなみに六尺棒は?
【魔樫の六尺棒】製作者:???
魔樫で作られたただの六尺棒。
魔力を込めると粘りと強度が増す。
・攻撃???
・耐久Lv???
・耐久???/???
理解不能武器でした。
魔樫ってなんすか、確かに樫は丈夫な素材だけども。
魔力を込めると粘りと強度が増す。
魔力を込めると良いのだろうか?
どっちにしろ、魔物相手に六尺棒を使用するのは無いだろう。
人と違って獣の耐久力はとんでもない。
急所と言う物がわかりかねる時点でだな。
棍で熊が倒せるか?
六尺棒でもヌンチャクでも難しいだろう。
だが、刃は全てに通ずる。
でも不思議なことに、同じように技を持つ人同士ならば。
結果は変わってくる。
まぁ趣味武器ってことで。
六尺棒も返せって言われるまで持っとこう。
ガストンの間借りしている鍛冶屋から出ると、かなりの人通りになっていた。
第二の町から戻って来たプレイヤーで溢れ出して来たのだろうか。
プレイ人数は増えるのに、世界は広がらない。
「第二の町の検問だっけ? 越えられる手立てはあるのか?」
「まだ見つかってないらしい。ったく、誰のせいだよ……」
公園に居ると愚痴が聞こえて来た。
共に長剣を腰に下げた革鎧に鉄製のワンポイントを付けたニュータイプだ。
第二の町の出戻り組みたいだが、こっちに無い物も露店に出回り始めていそう。
いくら武器、装備が出回っていても、消耗品が無いと冒険は息が続かなくなる。
こうなってくると必然的に南の森の群生地帯は禿げ上がりそうだ。
今まで北の森が主流だった物が南に移り変わる。
進展もありそうだし、オーク肉が大きく流通されると良いでしょう。
オンラインを確認するとサイゼがインしている。
いつも通り公園の屋台へ出向いてみると、そこそこの人数が既に居た。
「あ、ローレントさん。こんにちはです!」
「いいにおいですね」
鉄板の上で焼いてるのは?
ジューシーな香り引き立つお肉。
ってかこの店肉しか焼いてない気がする。
「兎肉腐らせちゃうんですぅ〜!」
「……冷凍庫が欲しいわね」
その隣でレイラがコーヒーを飲みながらぼやいていた。
最近ぼやいてばっかりだけど、大丈夫なのか。
見ない顔ぶれも居る。
「手っ取り早く紹介しちゃうわね」
「え、はぁ」
返事をする間もない。
「前にもあったな、改めてイシマルだ」
いつだかのバーベキューの時に即行石組み上げて竃作ってた人だ。
長い髪を編み、前から髭のように垂らすスタイル。
ガストン並みのマッシブさ。
攻略組より恵体な人が多いよ生産職。
「私は初めまして、商人のニシトモです。ご贔屓に」
一般的な町人の服に身を包んでいるのは商人のニシトモ。
現在例の道具屋で商いを修めているんだとか。
名前からして、スーパーの店長代理でもやってそうな表情をしているが。
確り護身用の剣を装備している所を見ると、この人も戦うんだな。
「私はサイゼの友達のミアンです。最近始めました! 同じく料理人です!」
「はい! 二人でいつか店を出そうって!」
半袖を捲って、汗だくで肉を焼き続けるサイゼ。
もっとこう、お洒落な感じを想像したいが、……現時点では無理だ。
鉢巻きが似合いそうな彼女とは打って変わって。
ミアンは小洒落た恰好をして、席について料理が運ばれて来るのを待つプレイヤーに愛想笑いしていた。
「ミアンちゃん! 豚ステーキ!」
「俺はラビットソテー!」
「今日は普通に鶏肉が食べたいからチキンかな! 少し値が張っても出すよ!」
「はーい! 豚ステいち! ラビソとグリチキも一丁でーす!」
「はいよ! ってかそろそろ代わっ——ああ焦げちゃう!」
屋台が繁盛していて何より。
この混み様なら、自分で食事は準備した方が良いかもしれない。
川にでて魚でも食べようかな。
冒険者は、どこの世界でも肉をガッツリみたいです。
「はぁ……」
「どうしたんですか」
「ちょっと、ブリアン。いつまで影に居るの?」
レイラの溜息と視線が向く方向は、屋台の影。
巨大な人がそこに隠れていた。
いや、隠れきれてないから!
巨体の四分の三見えてるから!
気付かなかった俺もまだまだ甘いのか。
「お、おだ、一次産業仲間ですだ?」
「はい?」
「農業……、やっとる……、ものだすぅっ!」
「あ、ローレントです」
「ブブブリアンでです!」
会話にならなかった。
身体を震わせる巨体。
えっと……、武者震いですか?
思わず半身になってしまった。
臨戦態勢です。
「えと、生産スキルは、……漁師です」
「んだ!」
太い左腕が飛んでくる。
右腰に帯剣しているレイピアに右手を伸ばし。
左手はいつでも大剣を【アポート】出来るようにしておく。
「何やってんのよ?」
「いえ」
普通に握手されました。
レイラが呆れた視線を向けて、
ブリアンは握った腕をブンブンを振ってくる。
肩が外れるかと思った。
「魚の内臓どが! いっぺぇくれれば! ありがたいだす!」
普通に握撃されるって思うだろ。
俺に非は無いはず。
でも慣れたら良い人っぽかったので、ご贔屓にしておく。
「物事の基盤は一次産業職なんだけど、これでピースが揃ったわね」
不敵にレイラが微笑んでいる。
えっと、農業、林業、漁業でしたっけ?
ブリアン、俺、後一人って誰だろう。
後ろから声がかかる。
「よ、元気?」
「トモガラァ」
後ろには丸太を背負ったトモガラが居た。
腰には手斧、背中には鉞を身につけている。
ガチで林業やってたんですか、メッセージの返信が無いと思えば。
ーーー
プレイヤーネーム:ローレント
職業:無属性魔法使いLv13
信用度:75
残存スキルポイント:0
生産スキルポイント:1
◇スキルツリー
【スラッシュ】
・威力Lv10/10
・消費Lv1/10
・熟練Lv1/10
・速度Lv1/10
【スティング】
・威力Lv1/10
・消費Lv1/10
・熟練Lv1/10
・速度Lv1/10
【ブースト(最適化・黒帯)】
・効果Lv3/10
・消費Lv3/5
・熟練Lv3/5
【エナジーボール】
・威力Lv1/5
・消費Lv1/5
・熟練Lv1/5
・速度Lv1/5
【メディテーション・ナート】
・向上Lv1/10
・熟練Lv1/15
・消費Lv1/10
・詠唱Lv1/5
【エンチャント・ナート】
・向上Lv1/10
・熟練Lv1/15
・消費Lv1/10
・詠唱Lv1/5
【アポート】
・精度Lv10/10
・距離Lv8/10
・重量Lv10/10
・詠唱Lv1/1
【投擲】
・精度Lv1/3
・距離Lv1/3
【掴み】
・威力Lv1/3
・持続Lv1/3
【調教】
・熟練Lv1/6
【鑑定】
・見識Lv1/6
◇生産スキルツリー
【漁師】
・操船Lv1/20
・熟練Lv3/20
・漁具Lv3/20
・水泳Lv1/1
【採取】
・熟練Lv1/3
・眼力Lv1/3
【工作】
・熟練Lv2/6
【解体】
・熟練Lv1/3
・速度Lv1/3
◇装備アイテム
武器
【大剣・羆刀】
【鋭い黒鉄のレイピア】
【魔樫の六尺棒】
装備
【革レザーシャツ】
【革レザーパンツ】
【河津の漁師合羽】
【軽兎フロッギーローブ】
【黒帯】
称号
【とある魔法使いの弟子】
◇テイムモンスター
テイムネーム:ローヴォ
【リトルグレイウルフ】灰色狼(幼体):Lv5
人なつこい犬種の狼の子供。
魔物にしては珍しく、人と同じ物を食べ、同じ様な生活を営む。
群れというより社会に溶け込む能力を持っている。狩りが得意。
[噛みつき]
[引っ掻き]
[追跡]
[誘導]
[夜目]
[嗅覚]
※躾けるには【調教】スキルが必要。
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