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レイドボス、エンゴウの激昂状態は、第三の防壁へ辿り着く頃には治まっていた。
ちなみに、炎剛と書くらしい。
読んで字の如く、恐ろしい手合いだと思う。
「アンタ達はよくやったわ。休んでて頂戴」
いつだかのエリック神父が、駆けつけてくれた。
健闘を讃えて身体のペナルティを治してもらう。
そしてレイラからは上級ポーションを渡された。
「おお、ついに上級ポーション」
「まあね、事態が事態だけに町長が教えてくれたのよ」
レイラの調薬レベルは一体いくつなんだろう。
たぶん、かなりのスキルレベルを保有してるんじゃないだろうか。
大剣、大盾にちょいちょい振りつつ鍛冶屋を伸ばし続けているガストンよりも、彼女は戦闘技術は弓スキルだけ一振って後は薬師のスキルに全振りだという。
上級ポーションは俺のHPを全回復させてくれた。
三下さんのHPも八割回復しているって事は、相当だな。
「もちろん、お代はレイド報酬から天引きされるわよ?」
「げえ! 誰も回復してくれって頼んでねェ!」
「でも飲んじゃったじゃない」
ニコニコするレイラの背後に般若が見えた。
たまらず口をつぐんだ三下さんだった。
後陣に下がってもやっかみは付き物なんだろうな。
「装備の点検をするである」
遅れて様子を見に来たガストン。
一応現状最新の素材を作ってもらったばっかりだから大丈夫かと思いきや。
軍服装備に意外とガタが来ていた。
一回燃えたしな。
三下さんもそれは同じみたい。
「壊れにくい盾が欲しい」
「いくつである?」
「持てるだけだ、後はおいローレント。その服は持ち込み素材か?」
「そう。コンバットエイプ素材」
「チッ、レイドボス戦のアイテムは全部町に回収されてるんだろ?」
一応ちょくちょく素材集めを行おうとしていたが、なんと強制執行でドロップアイテムを町に接収されてしまった。
レイド報酬と貢献度に応じて支払われるらしい。
掲示板も荒れているようだ。
ゾンビプレイヤーの貢献度はほとんどゼロに近い。
故に基本報酬しか支払われないようだ。
「ローレント、装備の補修に来たわよ」
セレクが駆け足で来場。
いつだかコンバットエイプの素材に補修スキルを使用し耐久度の回復を行う。
「足りる?」
「大丈夫よ、これでも服飾プレイヤーの中でも指折りだと自負してるから」
「お、素材あるなら俺もその服欲しい。いくらだ?」
「レベルを揃えるなら素材費含めて六十万って所かしら?」
「たっけ! おい待て、ローレントそんなもんつけてんのか」
「まあ、値段は聞いた事無かった」
「私は専属だから、特別価格なの」
え、そうだったの?
腕はいいからご贔屓させてもらってるけどさ!
新しい事実に驚愕している。
コンバットエイプの素材は現状ノークタウンの新素材より貴重なんだって。
「……これが終わったら持ち込むかァ、どこにいんだコンバットエイプってよォ」
「南の森を越えて山を登った先の先に岩山地帯がある、そこ」
「遠く無いか? まあ、移動が面倒だが行ってみっかなァ」
「一緒に行くか?」
スティーブンの家に入れるのか心配な所だが、内弟子の許可があれば何だか行けそうな気がする。
正直岩山ってソロだとエイプ達が面倒なんだよな。
一回だけツクヨイ連れて行って囮にして狩ってみたらすごく怒られた。
それから誘っても王都に一度一緒に行けば許すってスタンスだから放置してる。
「お、約束だな? 破んじゃねェぞ?」
「まあ、ローレントに限って急用でログインできない事は無いわよね」
それは一体どういう意味なんだろうな。
俺にはわかりませんよ。
さて、装備の点検が粗方終了して、戦線復帰する時が来た。
流石に二人でレイドボスを相手取るのは厳しい。
だが皆で一斉にかかればどうなんだ?
予備戦力として後陣に残る手勢はかなり居る。
第一の防壁、第二の防壁と健闘を続けた物達は一度休憩し、久利林、十八豪、一閃天、スペシャルプレイヤーに名を連ねていた彼等がまだ残っているのだ。
炎剛もたまった物じゃないだろう。
ついでに怒らせて噛み付かれたトモガラも復帰する。
スペシャルチームの完成だ。
「行くぞ!」
「おう、まだ決着ついてねェしな」
俺も三下さんもウキウキ状態で戦場へ向かって行く。
「……よくやるわね」
「我々も配置に向かおう、これからきっと面白い事が起こりそうな予感がするのである」
後ろでそんな声が聞こえていた。
復帰した戦場はやはり見栄えもこれまでとは違った形だ。
いつの間に作ったんだと言わんばかりの立派な防壁が出来ている。
城塞かよとつっこみたい。
聞く所によると、ホームモニュメントの補助機能として魔石とグロウを湯水の如く投入する事で建築系のスキル効率がぐっと上昇するらしい。
元々、ホームモニュメントヴィレッジ版では土建屋チームが測量と場所決めを各々担当してやってくれていた。
かなり時間と手間がかかっていた様なのだが……。
それはさておいて。
炎剛率いるモンスター軍団は、防壁の一キロほど手前て隊列を立て直している様だった。
数はかなり減らしているが、それでも待機するプレイヤー達と同じ規模になっている。
勝てるのか……?
そんな印象が頭を過る。
思ったよりもガチガチの戦争イベントっぽくて、俺……。
俺……とんでもなくウキウキして来た。
今ならゾンビプレイヤー達に感謝しよう。
難しくしてくれてありがとう。
「ゴギャアアアアアアアア!!!!」
「来たか!? 軍勢の行進が始まるぞ!!」
各々が動き出したモンスター達に反応する。
そんな最中、レイラの声が響いた。
「弓隊準備!」
「バリスタ、カタパルト、共に準備完了です!」
「近づく前に減らすわよ! 放て!」
おおおおおお!
これは熱い展開だ。
行進する魔物達にバリスタによる鉄製の弓矢が放たれて行く。
そしてカタパルトで岩がぶん投げられる。
捨て兵に近いゴブリンとオーク達が蹴散らされた。
「手押し戦車ゴー!!!!!!」
「うおおおおおおおおお!!!!!」