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おはようございます。お仕事、頑張ってください。
「お、おい。ローレントさんが登ってるぞ?!」
「あんなの有りかよ!? おかしいだろ!?」
「っていうか、登る度に腕毛毟られてない? うわぁ……」
「腕毛どころか、皮と肉ごと引き千切ってるぞ……うげぇ」
「うわぁっ!? 変な赤いのこっち飛んできたぁっ!?」
お前ら、言い過ぎだろう。
巨大な猿公の腕をどうやって登るかって言ったら?
そりゃ毛を毟るか、抜き手で肉に指突っ込んでクライミングするに決まってるだろ。
いや、ね?
ダメージ稼ぎたかったからさ。
今の俺は人間爪切りってことで。ナハハ。
「ゴギャアアアアアア!!! ァアアッ!?」
痛がってる。
腕を刺した蚊を叩く様に、即行で手が飛んできた。
「ほっ!」
倒立して交わす。
「なんでほぼ九十度で逆立ちできるんだ!?」
「今度は反対の腕に飛び乗ったぞ!?」
「うわァ……活路は開いてやるって言ったけど、そこまでしろとは言ってねェよォ~」
右腕から、叩き込んできた左腕へ映る。
こっちの方が走りやすそうだったから。
すぐさま振り払おうと腕を大きく動かすエンゴウに合わせて。
弾機銛を取り出すと奴の右肩に撃ち込んだ。
「ゴギャァッ!!!! ゴアァッ!!!!」
捕まえようと飛んでくる両手を弾機銛を手繰って交わして行く。
右肩を飛び越えすれ違う時を狙って、その横っ面にスペル・インパクトを乗せた六尺棒の一撃を叩き込んだ。
「ゴアッ!?」
思ったより良い音で、かなり良い一撃が入ったと思う。
その証拠に、エンゴウの巨体が二~三歩程後ろに蹌踉めいた。
「オラァッ、今の内に雑魚狩れや!」
「は!? そうだった、唖然としてる場合じゃない!」
すぐさまブラウが立て直す。
俺の着地は?
そのまま地面で三回転してギリギリいっぱい。
何処にも損傷は無い見事な受け身である。
弾機銛はバキバキに壊されてしまった。
まあ予備はアポートでストレージから幾つか取り出せるが。
空の魔物の相手が終わった魔法隊から攻撃支援が入る。
弓隊は?
戦場にまばらに人が居て、面での攻撃は厳しいみたいだが。
その分スキルを使った狙い当てにて細かな手助けをしてくれている。
「押し切れえええ!!」
「第二の防壁で片付くか!?」
動きを止めたエンゴウを不信に思いながらも、三下さん達の元へ戻って行く。
「とんでもないですね、相変わらず」
「何が?」
「いえ、アルジャーノがローレントさんを気に入るはずですよ、もう」
「だから何が?」
ブラウがぽかんとしたままそんな事を言っていた。
アルジャーノとか今関係無いだろうに。
さて、エンゴウの挙動は?
顔を抑えたまま、燃え盛っているね。
うん、燃え盛っている。
「なァ、ヤバイだろ、アレ」
ドバァッ!!!!
三下さんが呟いた瞬間、極太の火炎放射が発射された。
「うおおおおおおおお!!!!」
「やべぇ、やべぇ!!!」
「被害は!?」
「プレイヤー側の被害はわかりません! でも、防壁が!!」
目視で確認すると、石で作られた防壁が消し飛んでいた。
盾隊はどうなっている?
「お、おい、火炎放射はガードで何とかなるんじゃないのかよ!?」
「また敵味方諸共吹っ飛んでる!!」
「防壁に待機していた弓隊にも被害があったと連絡が来ました!」
各々が慌てて連絡を取り合う。
エンゴウの身体には太陽の様に炎が纏わり付いて、赤茶色だっだ体毛も真っ赤に燃え盛っていた。
そして、ギロリとこちらを睨みつけた後、動き出した。
「来たぞ!」
「わかってるぜェ!」
これは怒り状態なのか?
先ほどまでの恍けた動きに比べて、圧倒的に上昇している様に思える。
あの図体で雄叫びを上げながら動くゴリラ……。
「リアルキングコングかよっ!」
確かに。
三下さんの突っ込みに少し笑ってしまった。
でもこのゴリラ野郎は、敵味方問わず容赦なく黒焦げにしてくるんだがな。
三下さんが小盾で攻撃を弾いていた。
「火傷だ火傷! やってらんねぇ! 帰るぞ!」
「待て、まだ全部見てない」
「はあ? どうしようもないっつーの! テメェの急所攻撃でもHP一割減ってないだろ!」
「殿任されただろ、精々こなせよ?」
「……上等だよ、かかって来いオラ糞ゴリラァッ!!!」
なんともまあ扱いやすい事か。
三下さんは良い人だから、被害が大きくなる前に撤退を考えていたのだろう。
だが本懐はそこではない。
できるだけエンゴウの攻撃パターンを明らかにさせなくてはいけない。
まだ怒り状態になって全身が炎を纏っただけだ。
他にも隠された要素は沢山あるはず。
「犠牲は少ない方が良い」
「ァあん? んなこと知ってんだよ」
行動観測は十六夜が事細かにやってるだろう。
なんかそうやって人を観察するの得意そうで、好きそうだし。
「それじゃ、行くぞ」
俺と三下さんは一斉に走る。
二手にわかれないのは、共に攻撃と防御に特化した動きをするためだ。
近付くと繰り出されるのは、燃える巨大な掌。
特大モンスターが掴み掛かってくるが、俺は避けて三下さんは弾いていた。
「よく避けやがるなァッ!」
「そっちもなあ」
近づけは近付く程、熱い。
水属性魔法による支援が飛んでくるが、初期のウォーターボール程度じゃ蒸発させられる。
次段階スキルのウォーターシュートも蒸発して行く。
「あの二人を支援して!」
「アクアベール!!」
水属性を付与する守りの被膜が俺達を覆う。
火傷による恒常的なダメージが消えた。
これにより凶悪な笑顔を作った三下さんが前に出る。
「オラァ! 火傷さへ無ければ怖くねェんだよ!」
弾け飛んだ小盾をすぐに付け替えて再び前進する。
流石ブロッキングスキル。
装備の耐久を考えなければレイドボスクラスのモンスター相手でも容赦なく弾く。
……これは、ぶっちゃけ取得を考慮しなければならないな、本格的に。
兼ねて、巨大なモンスター相手の戦闘は骨が折れていた。
コンバットエイプ程度であれば、ワンマンでも余裕で勝利できる。
耐久力、体力、攻撃力、特殊効果、全てが化物クラスのまさに怪物。
どうやって対処するべきか非情に悩む所だが、弾けばそれだけで大きな隙を作れる。
アポートにて銛を次々出して飛ばして行く。
武器は鬼魔の長剣に持ち替えた。
魔樫の六尺棒でも、十分に渡り合えるかと思ったが……。
なんとなく、この長剣がレイドボスの血を欲している気がした。
まさに魔剣だ。
近付けば近付く程、俺の心も踊って行く。
「指一本貰う」
「……ォェェ。トーナメントで眼球に指突っ込まれたのを思い出したぜ。相変わらず攻撃方法がえげつないな」
別に隙を付いて足からせめても良いだろうけど。
あの極太具合では切断は無理だろう。
この長剣が欲しているのはそんなちんけな攻撃ではなく、もっと心にぐっとくる物なのだ。
マジッククロウを使いつつ、地味にダメージを重ねて行く。
両手合わせて計三本。
エンゴウから指を奪うと、動きが変わった。
後方宙返りで後ろに一度退いたようだ。
「ゴギャアアアアア!!!!」
そして再び咆哮一閃して、炎を纏っていた姿に変化が見られる。
背中から肩口、鬣に掛けて、大きく炎が燃え上がり、そして角を象った。
毎度の事誤字脱字申し訳ありませんでした。
ブックマーク、評価、お気に入り、ありがとうございます。
先月初めに、かなり大きなミスをしてしまったのですが。
昨日もかなり大きなミスをしてしまって、今日は朝から謝罪に行ってきます。
謝るという時はですね。
言葉で、身体で、寸程の期間も空けずにスパット謝る事にしています。
ことばで、たいどで、すぐに。ですね。
ああ、こわい。




