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さて夜は何をする。
夜釣りだ。
東のフィールドは生産プレイヤーの人達が道を敷いている。
プレイヤーとNPCの確執が広まる前に、プレイヤーの補給拠点を一つ設けて置きたい。
そんな所だろう。
いずれにせよ、東のフィールドのモンスターの討伐は余り進んでいない。
バーベキュー大会が突発で行われたと言っても、知名度はまだまだ。
夜ともなれば、更に人は居なくなってしまう。
道からそれてみようか、夜のモンスターは?
【スニークキャット】Lv3
黒い体毛が夜に紛れる。
他の獲物を横取りするか。
夜は穴に潜むリバーフロッグを取って食べる。
少し大きめの黒猫だった。
ふむ、敵ではない。
この町の周囲は余裕になって来たな。
平地と草原はクリアした様なもんで、後は川の探索と南の森を踏破することを目標にしよう。
猫はローヴォが追い立てて倒してしまっていた。
最早猟犬と化した。
桟橋の進み具合はどうなんだろうと思っていたが、うーんやはりフィッシャーガーがネックの様で、余り進んでいない様だった。
昨日の今日で建造物が建てられるはずも無いか。
暇な時は漁師の真似事でもして、生産ポイントをせっせと貯めよう。
駄犬は?
猫と蛙を狩らせてます。
さっそく餌にヒットした。
【レッドリング】20cm
鮮やかな赤い模様がきれいな魚。
小さく生食には向かない。焼くと美味しい。
……ユーコン川を思い出した。
色は違えど、シルエットはそっくりだ。
だとしたら肉餌じゃなくて、疑似餌の方が効率良さそうだよな。
ルアーフィッシング。
【ブルーリング】20cm
鮮やかな青い模様がきれいな魚。
小さく生食には向かない。焼くと美味しい。
記憶にあるユーコンの魚よりもやや小さめと言った所。
ガストンの所で借りて来たバケツに水を入れて生かしておく。
このまま夜釣りを続けるなら、隣で焚き火でもして魚焼いた方が良いかな。
それはもう少し釣ってから考えよう。
次の引きはなかなかに強めである。
【グレーリング】40cm
鮮やかな灰色模様が綺麗な魚。
さっぱりとしていて僅かにハーブの香りがする。
焼いても美味しい。
思いっきりグレイリングだと思われるが、システム的には違うみたいだった。
それからしばらく釣をしていたが、赤と青は10cm〜20cmの物しか釣れず。
グレーリングは30cm〜50cmほどの大きさだった。
深さが無いから横に強い引き、続々するが川沿いに並走すれば楽に釣れる。
やっぱり釣なら海に出たいな。
カヤックでも良いが、流石にフィッシャーガーに一撃で壊されそうだ。
ローヴォがリバーフロッグをくわえて来た。
後ろからスニークキャットが着いて来てるのがわかる。
おいおい、俺をMPKする気なのだろうか。
冗談だ。
俺の傍にリバーフロッグを置くと、駄犬は振り返ってスニークキャットに飛びかかって行った。
気が抜けた瞬間、凄く強い引きが来た。
これはフィッシャーガーの可能性大だ。
想定してたけどこの竿はフィッシャーガー向けじゃない、立ち上がると引きに会わせて走る。
「ブースト!」
カンテラの光が照らす水面に影が見えた。
フィッシャーガーでした。
相変わらずデカい。
引きは桟橋の方へ、柱に引っ掛かると流石にプッツリ行くな。
銛を投げよう、こういう時の為だ。
上手く刺さって水面に血が流れて行く。
銛を抜こうと暴れたようで、水飛沫が上がり引きが強くなった。
それも一瞬のことで、すぐに引きが弱くなる。
銛にロープでも結んでおけば良かったな、アポートで引き寄せてもう一投。
引きは大分弱くなった。
フィジカル弱過ぎ。
長い魚鉤が届く範囲まで近づけたらこっちの物だ。
狙ってエラに突き立てると、もうすっかり大人しくなってしまった。
巨体を岸に引き上げる。
【フィッシャーガー(素材)】90cm
水を飲みに来た動物を襲う淡水のハンター。魚類。
びっしりと硬い鱗をとるにはそれなりの技術がいる。
品質は捌いてみないとわからない。
※時間経過で品質が落ちる。
既に素材扱いだった。
この間のよりも一回り小さいが、それでも巨大魚には変わりない。
良く糸が切れずにすんだ。
この鋭い歯を見る限り仕掛け網だって食い破られることがままだろう。
今日はこの辺りで切り上げよう。
釣った魚を絞め殺して行く。
鉤で脊椎切断するだけだから流れ作業だ。
「すっかり漁師よね」
「わぁ! お魚さんが一杯です」
「どもっす」
サイゼの屋台で話し込んでいたレイラ達。
今日は珍しくセレクも居た。
「ねぇアンタ、ちょっとその装備もうボロボロじゃないの?」
「補修お願いできますか? 素材はスターブグリズリーを倒したので、そちらを使ってください」
「持ち込みね? 代金はグロウ払いにする? それとも素材で?」
「素材でお願いします」
革装備を渡し、前の初心者用装備に戻る。
そこで一つ、セレクに注文してみることにした。
前々から考えてたのだが、漁師カッパとか普通の合羽があれば雨の人か海での活動もしやすいと思う。
川を攻めるなら漁師カッパは必要だろ。
「えっと……、作ったこと無いからわからないけど、素材はどうするの?」
「リバーフロッグの皮を使えば何とかなるかと」
「これ、普通テントの素材にできないかなって思ってたのよね。漁師ガッパなんて盲点だわ」
「靴と一体型で腰まで水につかっても大丈夫にしてください」
「仕方ないわねぇ!」
更に注文。
長靴も一体型にしてもらうと、一つを装備するだけで川と海の浅瀬での活動が容易になる。
誰も東のモンスターを狩らないのはこの面倒臭さがあるのかもしれない。
「よくやるわね」
レイラがホットミルクを飲みながらため息をついていた。
「こっちはポーション関係のメッセージが絶え間ないし、次の町から出戻って来たプレイヤーの依頼で生産職がてんてこ舞いだってのに……」
「そう言えば、噴水のポータルも許可無しに使えなくなってしまったんですって」
「そんなにですか」
最初にトモガラが第二の町に移動した噴水のポータルのことだ。
第二の町まで行って、ポータル登録を住ませてから戻ってくる手もあったが、行かなくて良かったな。
NPCにまで目立つ様なことは避けたい所。
「夜釣りでわかったでしょ? 資材置くだけ置いて、全く進んでないのよ……」
「一応道っぽいのは出来てましたけど」
「そりゃバーベキューで人通りが増えたから勝手に出来たのよ」
「そっすか」
「自己中ばっか!」
すごいご立腹の様だった。
とりあえずフィッシャーガーを献上する。
お刺身が食べたい所だが、醤油が無いからグレイリングも焼きだな。
「食べますか?」
「食べるッ」
「なら素材買い取っちゃいます。流石にこの大きさは捌いたこと無いですけど」
「あ、包丁借りて良いですか?」
フィッシャーガーの素材を切り分けて行こう。
公園のテーブルにドカ乗せして、身を開いて行く。
流石に頭を落とすのはこの小さい包丁じゃ厳しいが、身を削ぐくらいなら頭を落とさなくても用意に出来る。
サイゼの包丁は切れ味抜群だった。
柄の部分にガストンと焼き印が成されているので納得。
「こ、今度教えてもらってもいいですか!?」
「今少しだけ説明しておきます、特殊な魚じゃなかったら構造同じ様な物なんで」
【解体】スキルで素体を見ると、部位が表示される。
それにそって切り分けて行けば簡単だが、実際は細かい部分で違いがある。
「こう大きいのは、胸びれから刃を入れます」
「ほうほう」
「くさいから早めに終わらしてよね……」
日に日に増して行くレイラのぼやきは放っておいて。
1.胸びれから腹びれに向かって包丁を入れる。
2.エラと平行になるように背に向かって包丁を入れる。
3.腹と背を中骨にそって包丁を入れ切り離す。
4.サイゼさんの場合、魚の中央、中骨の上から身に切れ目を入れて身を上下にわけると良い。
[2]の行程の前に尾びれに切り込みを入れておくと身がすぐに切り離せていい。
マグロみたいに丸まるとしていて肉厚だと[4]の肯定を入れて五枚に。
でもぶっちゃけ長いだけで、肉厚かと聞かれれば、たいしてそうでも無いフィッシャーガーは、三枚でも十分そうだった。
鱗は?
おろしてから引く。
フィッシャーガーの鱗は硬い。
ピラルクの皮を剥がすみたいにすれば良いよ。
ナイフじゃなくて包丁があるので実践してやる。
「内臓はどうします?」
「畑の肥料にでも使えると思うんですが……」
「くさ! あれよね。農家の人に聞いてみるわよ、だから早く閉まって頂戴」
そういえば農家プレイヤーは居るのだろうか。
今の所知り合いの生産プレイヤーに農家は居ない。
新規参入プレイヤーに期待と行こう。
「おおお、ありがとうございます。次は一人でやってみせます!」
「出来るだけおろしてもってきますよ、水辺でおろせる環境が出来たらですが」
「そうね生産域を広げないとね……」
「炊き出しとかやってみますか?」
「意味無いと思うわよ」
そもそも現実でも働いてて、ゲームの世界でまで働くのはどうかと思う。
第一の町に戻って来た人は、南の森にも手を出し始めてるとか。
尻肉の他にもハラミだったり肩ロースとか出回ってるのはそのせいだったのか。
樵夫宣言していたトモガラにメッセージを送ってみてるのだが、未だ返事は無い。
あいつのことだから飄々とモンスターを蹴散らして樵夫修行してるのが容易に想像できる。
角材の二〜三本は欲しい所である。
「復興掲示板組からの依頼ね。ローレント、川辺の魔物の駆逐をお願いできないかしら? コイツに太刀打ちできるのってミツバシか貴方くらいなのよね〜」
兜とカマに分けたフィッシャーガーをコンコンと叩きながらレイラは言った。
[依頼が発生しました。-鰐牙魚の駆除(討伐数未指定)-]
[承諾しますか? yes/no]
討伐数未指定って、レイラの言葉がアバウトだからだろうな。
完了条件はレイラ次第になるんだが、生産組が無事に川辺の村でも町でも組み上げる土壌さえ出来れば良さそうな感じだ。
ここは快く受けておこう。
「なんなのかしらこれ」
「わかりませんが、契約の意味も含めて受けておきます」
「そう、ありがとう」
そういうわけで明日の予定も決まる。
このまま第一の町にプレイヤーが増えて行くと一体どうなるんだろう。
宿屋とか足りなくなるのかな。
町中でのPKは無いから風呂敷引いて寝てるプレイヤーも居る。
何と言うかそんなことすると景観を損なってさらにNPCから文句を言われる可能性も。
「一時的にプレイヤーオンリーで集まれる区内を作りましょう、公式サイトは見た?」
「いいえ」
見るわけが無い。
見てたら【スラッシュ】なんて覚えてない。
「それもそうね。グローイングスキルって名を冠してるし、生産スキルもポイントは別だからやれってことよね。あくまで自分らの食い扶持は自分らで確保しなきゃって」
「ゲームとしてはどうなんですかそれ」
「サイゼ、プレイヤー同士の交流が推奨されてるゲームでNPC利用なんて、どこのソロプレイヤーよ」
……俺だ。
二人の視線が刺さる。
ちゃんと生産もこなしてるし、君らとも交流してるだろう。
そんなことは置いといて。
「町のポーション総数とか決まってるんですね。一人のNPCから買える量が決まってるゲームなんかもありますけど、街全体の規模で流通するポーションの量とか、食材とか決まってるんですかね」
「ええ、その辺りがキーポイントだとは思うわ。……このままだと、町が疲弊して、とんでもない事態になるんじゃないかしら」
日中問わず活動を続けるプレイヤー。
NPCはどうだ?
だいたい夜は寝ているようだ。
それもそうか。
町の依頼なんか誰もせずに、掲示板の攻略にそってレベル上げと北の森の踏破。
南と東は都合が悪いから放ったらかし。
うーん、俺も先に進みたかったけどな、しばらく滞在して人の活動域を広げないとダメなのか。
「復興掲示板で情報開示はやってるわよ、後は細々した所は集まってミーティングする予定よ」
「私は町で働くNPCに仕出しでもして少しでも評価を上げれるようにしたいと思います!」
「特にローレント!」
レイラは俺の襟を持ってぐいっと引っ張った。
「水産業とかあったらすごく助かると思うの、……ね? わかるでしょ?」
「ええまぁ」
最近すごくおっかないです。
川の対岸とかも気になるし、南の森よりも先に、川のモンスターを間引きする方向で進めて行こう。
そう心掛けた。
ーーー
プレイヤーネーム:ローレント
職業:魔法使い見習いLv12
信用度:65
残存スキルポイント:0
生産スキルポイント:1
◇スキルツリー
【スラッシュ】
・威力Lv10/10
・消費Lv1/10
・熟練Lv1/10
・速度Lv1/10
【ブースト(最適化・黒帯)】
・効果Lv3/10
・消費Lv3/5
・熟練Lv3/5
【アポート】
・精度Lv9/10
・距離Lv2/10
・重量Lv10/10
・詠唱Lv1/1
【スティング】
・威力Lv1/10
・消費Lv1/10
・熟練Lv1/10
・速度Lv1/10
【投擲】
・精度Lv1/3
・距離Lv1/3
【掴み】
・威力Lv1/3
・持続Lv1/3
【調教】
・熟練Lv1/6
【鑑定】
・見識Lv1/6
◇生産スキルツリー
【漁師】
・操船Lv1/20
・熟練Lv3/20
・漁具Lv3/20
・水泳Lv1/1
【採取】
・熟練Lv1/3
・眼力Lv1/3
【工作】
・熟練Lv2/6
【解体】
・熟練Lv1/3
・速度Lv1/3
◇装備アイテム
武器
【凡庸の大剣】
【鋭い黒鉄のレイピア】
装備
【革レザーシャツ】※補修中
【革レザーパンツ】※補修中
【軽兎のローブ】※補修中
【初心者用のローブ】※代用中
【初心者用の服(全身)】※代用中
【黒帯】
◇テイムモンスター
テイムネーム:ローヴォ
【リトルグレイウルフ】灰色狼(幼体):Lv5
人なつこい犬種の狼の子供。
魔物にしては珍しく、人と同じ物を食べ、同じ様な生活を営む。
群れというより社会に溶け込む能力を持っている。狩りが得意。
[噛みつき]
[引っ掻き]
[追跡]
[誘導]
[夜目]
[嗅覚]
※躾けるには【調教】スキルが必要。
ーーー
次から一次転職とアポートを教えてくれた師匠との下りです。