-165-
仕事始めの方はおつかれさまです。
「戦況報告があります、レイドボスのありえない遅さはあいつのせいでした」
「どゆこと?」
ミツバシが森を指差す。
木々が折れて焼け付きて、プレイヤーの屍もあってより一層カオスになった空間。
っていうか誰かモンスターの死体を解体しろ。
積み重なってすごい状態になってるぞ。
「ゴアアアアアアアアアアアアア!!!」
「オラアアアアアアア!!!!」
轟音雄叫びの中にそいつらは姿を現した。
燃える様な真っ赤な毛。
十メートル以上はあるだろうその体躯。
【エンゴウ】Lv???
・???
・???
鑑定してみたが意味なかった。
ほぼほぼ見えない敵なのである。
「あの、燃えながら腕にしがみついてる人って?」
「あ、ああ……、まじかよ」
トモガラだった。
鉞持ったトモガラが、エンゴウの腕にしがみついて噛み付いていた。
野生児の如く。
「と、とりあえずレイドボスきた! レイドボスきたーーー!!!」
ミツバシが叫ぶ。
そしてコンバットエイプ達も雄叫びを上げて、全軍突撃と言う具合に第一層の防壁を突破した。
え?
ゾンビ兵団?
エンゴウの口から吐き出された炎と、その後ろから現れたコンバットエイプによって狩り尽くされた。
「新しいモンスターだ!」
鎖に繋がれたサイクロックスが居た。
そして、同じ様にゴブリン、オーク、コボルトの武装した集団も、同じ様に服従させられている様だった。
「おいおいおいおい、どういうレイドクエスト!?」
おののくミツバシ。
そこに、エンゴウの咆哮が聞こえる。
「おおおおお!! 身動きが!!」
「だ、誰か耳栓持って無いか!?」
「そんなもんで防げるわけねーだろ!!」
「おい! しがみついてた奴が投げ飛ばされたぞ!」
「こ、こっちくるあああああ!!!!」
人間が空から降ってくる。
猛スピードで突っ込んでくるトモガラを誰も受け止めることが出来なかった。
「死ぬかと思った、ぜ……」
「何してんだお前」
急いで落下地点へ向かうと、ボロボロになったトモガラが回復のフェアリークリスタルによって治療を受けている様だった。
HPはギリギリを保っているようだ。
身体中は焦げていて今も煙が出ている。
「立てますか!?」
「すまん、今は無理」
治療チームの女性プレイヤーが甲斐甲斐しくトモガラの介護に当たる。
一時期トッププレイヤーとして渡り歩いていたトモガラの人気は意外と高い。
わらわらと集まった治療チーム(女性オンリー)が彼を担架に乗せると、一足先に二層目の防壁に撤退しようとする。
「……うおー俺は彼女達に真実を教えてあげたい」
その様子を見て、 ミツバシは拳を握りしめてそう言っていた。
そんな事より戦況報告をしてもらわなければ。
「まて、トモガラ」
「ちょっと、このお方は重傷なんですよ! とんでもない数のバッドステータスを……ひっ、ローレントさん!?」
「……」
何故びびる。と問いつめたかった。
だがそうも言ってられないな。
「一人で立ち向かったのか?」
「ああ、コンバットエイプ狩ってたら、更にデカいのがきやがった。アレがレイドボスの炎剛ってやつだ。馬鹿でかい赤毛の猿で、迂闊に触ると火傷を追う」
そう言ってみせてくれた手は爛れていた。
そこまでリアルに火傷を再現する必要があるのかという声が周りから上がる。
そんな中、トモガラは無理矢理身体を起こすと言った。
「こいつの出現が遅れたのは、俺が一度怒らせたからだ。奴の状態は確認できているだけで二段階、今が通常段階だとすると、怒り状態で炎を纏って動きが素早くなる」
「良く殺されなかったもんだぜ」
ミツバシがそう言うと、トモガラはニヤリと顔を歪める。
「俺も天才だからな?」
「良いから寝てろ」
「ぶっ!」
トモガラのデコを掌打で叩いて再び担架に寝かせた。
「なんてことを!」
「第二層ではなく作戦本部に運んでほしい。こいつが命をとして得た情報を無駄にするな!」
「は、はい!!!」
「……し、しんでねぇよ、ってか殺す気かよ……」
トモガラは担架で運ばれて行った。
HPが残り一割を切って、丁度フェアリークリスタルも効果切れになっていた。
このままでは危ないからな、ケガ人はさっさと安全な所へ戻っておいてもらおう。
「いや、入り込んでるのは別に良いんだけどよ。メッセージ機能だってあるし、別に死んでも生き返るだろ、町で」
「ミツバシさん、ダメですよ水をさしちゃ。もう、雰囲気が打ち壊しですね、こうなったら運営に連絡して死んだら戻って来られないのと、一時的なメッセージ機能制限を付け加えてくれる様に陳状を出さなくてはいけませんねフフフフ」
「十六夜!? そう言うの絶対やめろよ!? 闘技大会でも思ってたけどあのGM達は絶対にそう言う規制とかすーぐ受け入れちゃう気がするんだからな!?」
次の防壁へと向かう。
相変わらず特攻するゾンビ兵もいるが、第二層目にはそこそこ訓練されたプレイヤーが終結していた。
近接、魔法、遠距離。
それぞれ職事に編成されたプレイヤーの様子は、なかなか荘厳だった。
「いや、ゾンビ兵団とかそう言う問題じゃなくて、敵の数が多すぎないか?」
戦況をレイラに報告しながらボソッと呟くのはイシマル。
彼は最終防壁から生産チームを引き連れて戻って来ていた。
請け負っているのは戦況に応じた防壁の補修と、塹壕に石を落とす為の仕掛けの作動。
「死に戻りすればするほど、増えて行くみたいなのよね……はぁ……」
「おいおいマジかよ」
溜息まじりのレイラが、イシマルの疑問に答えていた。
詳しい状況は定かでは無いが、最初の防壁にて、行っていた乱戦が第一ステージだと言うなれば。
この状況は第二ステージであると。
恐らく、戦地指定された区域に投入されたプレイヤーの数に比例して。
レイドボスが引き連れるモンスターの数が増して行くギミックであるという。
「初めてだし、情報開示も無いんだからわかる訳無いでしょ!?」
「ま、待て、逆ギレは良く無い」
たじろぐイシマル。
イライラの募るレイラを、サイゼとミアンがお茶でも飲んで後方に下がっていましょうと言いなだめながら連れて行った。
後ろからガストンが近付いてくる。
「こうなることは自明の理である」
「後手後手に回ってるな」
「っていうかトモガラが大戦犯だろ! おいローレント何とか言って来てやれよ!」
「……報いは受けたって事にしておいて」
トモガラは今バッドステータスからの回復を行っているみたいだ。
テンバーの教会に居るエリック神父から、NPCによる回復支援を頂くことが出来たと言う。
流石教会の威光。
時折響く炎剛の咆哮による硬直が無くなったのは意外と大きかった。
「トモガラ一人でかち合える手合いなら心配要らないさ」
「いや、HP一割も減ってなかったけどな」
「行動パターンがわかっただけでもまだマシだと思っといた方が良いかもな」
ミツバシの意見に賛成だ。
何にせよ戦わなければ町が破壊されかねない。
森を守ることには失敗したが、流石に町となれば他のプレイヤー達も確りやるようになるだろうよ。
ゲーム内情報が余り開示されていない状況で、レイドボスの強襲イベントがあった場合。
大体どういう状況になるのかなと想像しながら書いてます。
多分グダルだろうってことで、グダグダした内容が続きつつ、スペシャルプレイヤー達が活躍します。
多分。