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あけましておめでとうございます!
「やっと来たか!」
「おせーよ!」
ミツバシとイシマルがそろって最前線にて待機していた。
漁師であるマルタも、後ろでせっせと防壁造に精を出している。
「襲撃は明日だろ! 運搬に手間取ってたら間に合わねぇ!」
「よーし道具の修繕は任せろよ!」
戦闘に参加するプレイヤーの為に、彼等は三層に別れた防壁を作るのだと言う。
一層目は森の入り口からほど近い場所にある。
まず木造の櫓が建てられ、そこからは森の様子が一望できる。
弓を抱えたプレイヤーが森の様子を探っていた。
「トモガラ、十六夜を含む樵夫と猟師プレイヤーで内部の変化を見てもらってる」
森の同行に詳しいプレイヤーだからだろう。
樵夫プレイヤーは同時並行で木を切り倒し、一層目の防壁まで運んでくる。
位置的に近いから効率が良いんだな。
「どこにおけば良い?」
「指示を出して行くから、そこに頼む。まずは石材十だ!」
イシマルに指示を受けた通り、石材をブロックごとに配置して行く。
同時に積み上げも指示されている。
というか、等間隔に木の杭が建てられ、その隙間にどんどん石を積み上げて行く。
木の杭を外すと、石工が削った特性の石杭に変える。
「すげぇ、即行で壁が作られて行くぞ?」
「おらてめーら! 遠距離攻撃用の穴と足場を作りやがれ!」
「は、はい!」
「へっ、ローレント運搬用に考案された独自の建築だぜ!」
そう豪語するイシマル。
なるほど、積み上げられる石を事前に作っておいてる訳ね。
予めに作っておいた仮置きの杭にそって作って行く。
丈夫さと早さが兼ね備えられたいい方法だ。
……これ、他にも活かせるよな?
何だか素晴らしい発想である。
巨大な建造物とか、どうだろう?
俺自身より、フレンドの方が俺のスキルの使い方が上手だってどういう事だ。
俺にゲームの才能が無いと言う事か?
少し、ショックだった。
「お前ら確りやっとけよ!! よし次は二層目だ!」
イシマルと共に引き返す。
来る時も思ったが、二層目は落とし穴。
というか塹壕である。
長く深く掘られた塹壕は圧巻の見た目だった。
「どーやって掘った?」
「ろろろろーれんとさ!!!」
下から声が聞こえてくる。
ブリアンが居た。
巨大なシャベルを持って、せっせと土を掘っている。
「すごく巨大な堀だな」
「無事にボスを退げっだらーー! こごさ畑作っていいって町長さんがぁー!」
訛りに訛った声でしたからそう言われた。
補足する様にとなりに居るイシマルが呟く。
「ちなみに第一陣の城壁が丸っと残れば、そこを起点にテンバータウンを拡大するらしいぜ」
「え?」
「南の資源が豊富だっつって、領地を治める貴族さんから許可が出たんだってよ。開発予算もたんまりだっつー話だぜ」
「マジか」
生産フィーバーが来そうな予感である。
町の次は都市?
都市ができるなら、俺の拠点をここに一つ儲けて、コーサー達を移籍させたい所である。
南の霊峰には魔樫が眠る。
ぐふふ、宝の山だ。
ニシトモにも話そう、あいつなら上手くやってくれる筈だ。
「じゃあ水路も兼ねてっから石で舗装頼むぜ! 最悪上って来られそうになったら石崩して生き埋めにするからな」
良い様に使われるのである。
まあ、それは良いとして。
ぐるっと町の外周にそって水路を造るつもりか?
それは追々なんだろうけど、まさかそこに駆り出されたりしないよな?
「ここも防壁作るぞ! 杭の打ち方気をつけろよ! こっち側に倒れない様にな! 倒す時は堀だ!」
そしてそこも粗方終わって、町に一番近い三層目に取りかかった。
土建屋チームが景観を意識して着々と主要施設を組み立てている。
プレイヤーズベースや、作戦本部。
治療院だったり、配給所とか諸々の施設。
「ちなみにここは分厚く作る。テンバータウンの新開発都市になる予定だからだってよ。仮説系の建物を造ってしまったらそれを拠点にぐるっと一周町を拡大するんだと」
「いや、もういい」
なんつーか、思ったより楽しんでない生産組。
普通にレイドボスの後に備えて建築楽しんでるよねこれ。
やや辟易としながらも、とりあえず自分の仕事はこなしていった。
「半日にしては見事な出来映えだな」
「うむ」
腕を組んだイシマルとミツバシが、一層目に作られた防壁を見ながら頷いていた。
一層二層はプレイヤーの攻撃に趣を置いた物だった。
町の一部にすると言っているが、崩れても問題が無い造りになっているのだろう。
三層目は、土建屋チームが魔改造していた。
詳しくは語れないが、ガストン達鍛治師勢によるとんでもない武器による総攻撃。
生産職も、NPCも、みんな混ざった総攻撃というね。
やっぱりちらっと触れておくが、トモガラと十六夜に混じって森の様子を見に行こうと思った時。
わざわざ鎖の網作りに精を出された。
ストレージに貯められた鎖のひとパーツひとパーツを、アポートで転移させて繋ぎ合わせる作業。
集中力が切れそうになったが、途中でアスポートのレベル上げにいそしんだので良かった。
【アスポート】Lv20(16→20)
うむ、今回は不問とする。
そして時折怒号が響く。
森の一部が吹っ飛ぶ様な轟音。
「うは、見ろよあの山。煙り上がってね?」
「ってか俺はいつの間に森の奥に山が見える様になったのか知りたいけどな」
イシマルが櫓の上から見える霊峰を見て言った。
部屋にこもりがちのミツバシは、最初は見えなく無かったと一人ぼやいていた。
「ローレントさん、来てたんですね」
「うん」
櫓の下に、十六夜達が戻って来ていた。
森の様子を確認しに行ったグループだな。
猟師、樵夫のプレイヤーが大勢戻って来ているがその中にトモガラの姿は無かった。
「ああ、トモガラさんならレベル上げだって息巻いてましたよ?」
要するに、一人森に籠っていると言う事。
ああもう、無茶をするんだから。
とりあえず俺に負けたのが相当悔しかったんだろうか?
***とある樵夫の話***
木の呼吸とは、樵夫やマタギが木と一体化するスキルである。
集中力と共にクリティカル率が大幅に上がる。
(二~三体?)
「キャキャキャ!!!」
(いや、五体か)
レイドボスの強襲クエストによって、どうやら森の生態系は大幅に狂ってしまったようだ。
ここはまだ森の中では浅い場所。
ゴブリンやオークが出てくる初心者用の狩場なのだが、うるさい猿の声が響く。
「ゴアッ」
更に大きな足音が、バトルゴリラだな。
大きめの木の根もとにて、目を瞑って気配に神経を研ぎすませる。
瞼の裏の暗い場所には、何故だか自然と浮かんでくる。
ローレントに初めて負けたこの間の闘技大会の事だ。
完全に殺した気が揺らぐ様に思える。
これは嫉妬?
それとも別の何かか?
悔しさと共に、己の中に更なる渇望が蘇る。
何がゲームか、スキルか?
正直言ってあいつは無茶苦茶だ。
だが、その無茶苦茶をゴリ押しする。
そしてゲームに疎い奴がついにそのゲームに慣れ始めていた。
ゲーム以外での対戦成績?
そんなもの、全戦全敗に決まっている。
ある種、俺は奴から逃げて来たからな。
それはまあいい。
負けてから会場には入らなかった、プライドが許さなかったからだ。
とてもちんけな物だと思う。
公園の片隅から見ていた決勝戦。
アレはまさに妙手の域を越えた達人の技。
ゲームでそんなのありかよ?
俺が剛だとすれば、奴は柔。
力の強さもそうだが、柔軟な思考で取捨選択し。
意味不明なスキル構成で奴は己の武を体現していた。
魔法スキルでの近接戦闘という奴だな。
十八豪はそのなんちゃってフォロワーみたいなもんだ。
俺は、どうすれば良い。
頭の中にはそれが渦巻いている。
変幻自在の技は、奴のジジイ譲りだ。
我流を越えたもの。
ならば俺にも出来る筈。
甘っちょろい考えではないが、行き着く先は似た様なもんだ。
奴が戦いの中で成長して来た様に。
俺も所持するスキルを使って、戦いの中で掴んでやる。
痛覚設定は全てリアルに近いもの。
即ち100%にしてある。
それだけでも見ている視界が変わって行く。
木の呼吸で一体化した時に、周りの様子が手に取れる様に感じ取れるのだ。
「ゴアアアア!!!」
バトルゴリラの咆哮がした。
感づかれたか?
いや、目の前に居るんだな。
「ゴア!」
押しつぶそうとその豪腕を振るって来るバトルゴリラ。
スキル使用して行く。
「ハイブースト」「ストリング」「フルポテンシャル」
そしてゴリラの右手と俺の左腕がかち合った。
力比べは、俺の勝ちだ。
「グギョアアアア!!」
悲痛な叫び声を浮かべるバトルゴリラ。
「おらおらどうした!? もっと強い奴を呼べよ」
武器は使用しない。
奴でも無手で勝利を勝ち取った。
だったら俺もそうするだけだ。
「ヒイイイヒイイイ!!」
ファイトモンキーとバトルゴリラは後ろに下がる。
そして姿を現したのは【コンバットエイプ】と呼ばれるモンスター。
俺よりも遥かに大きな図体。
そして盛り上がった筋肉。
「ゴギャギャ」
「挑発してんのか? だったらやってやんよ!!!」
後ろに二~三体いやがるが、構わない。
全部叩き潰してやる。
ただでは戦わない。
それが生産職だ。
常にギブアンドテイク。
それが生産職だ。
時々ギブギブ。
そしたら後は、ていくていく。
ローレント「戦いに関してはテイクテイクテイクテイク!!!!! 貰ってなくてもくれる前にやれ!!!! やるのだよ!!!!!」
コーサー「ひいいいいいいい、めが、目が光ってます!!」
ローレント「オロロロロロロロ!!!!!」
ローヴォ「グルルルルルル!!!!」
こうやってマフィアのアジトは壊滅する。




