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事前に冒険者ギルドで北の森の情報は探っていた。
今一番プレイヤーが多く向かっている場所ならそれなりに情報はあるが、お目当ての竹林の情報は見当たらなかった。
冒険者ギルドというのは適当な依頼が貼られている場所だと思っておいた方が良い。
斡旋というよりも、町のご用聞きみたいな形だった。
農家手伝ってくれ、屋根の修理してくれ、ポーション足りないから薬師来てください。
などなど。
魔物の討伐にはあまり力をいれないようだった。
だから町の規模が小さくなるんじゃないだろうか。
壁の補修に人手を常に募集していたり。
生産職はこういった依頼で生産スキルを得て行くのか。
向かう先は南の森。
昼間に行っておけば良かったが、夜のモンスターを確認しときたい所でもある。
回復ポーションの原料である薬草の採取も念頭においておく。
流石に夜半に奥深くまで行くつもりも無いが、今夜と明日朝の探索で、南の森に竹林地帯が無かったらいよいよ第二の町に行くことにしよう。
そう考えていた。
今回は駄犬も居るし、夜の狩りはバッチリなのである。
道すがら出てくる敵は弱いナイトラクーンくらいしか居なかった。
そして暗闇となってしまった森へ向かう。
ファンタジーっぽくカンテラを腰に付けているので安心だ。
夜目が聞くようになる魔法とかあればいいんだけどな。
漁師も夜釣りするぞ。
せっかく生産技能あるんだからなんか上手いこと見えるようになれよ。
「ぐるるる」
駄犬の警戒する鳴き声が響き、さっそくモンスターとかち合う。
【ナイトウォーク】Lv5
森を彷徨う亡霊。
殺された魔物や人の怨念が形となっている。
勝てるのかこれ?
幽霊相手に物理って効くの?
効きました。
胸の当たりに魔石が浮いている。
そこに【スティング】を当てると霧散した。
北の森と違って、南は魔物らしい魔物が居て、魔石を落とすよな。
魔石(小)を回収するとメチメチと軋む音を立てながら何かが迫って来ていた。
木の魔物か。
【ナイトトレント】Lv7
森の管理人トレントが邪悪に身をやつした姿。
夜の森を蠢いて、動く根で絡めとり命を吸い取る。
そこそこ高めのレベルだった。
動きはかなり鈍い。
「アポート! スラッシュ!」
薪割りよろしく、大剣を頭上に転位して思いっきり振ってみた。
メキメキと音を立てて大剣が食込む。
「アポート! スラッシュ!」
振り上げる動作は俺には必要ない。
スキル名を唱えるともう一振りした。
結果的に、一度も攻撃させること無くナイトトレントはまっ二つになって消えて行った。
ドロップは?
【角材】
汎用な素材。
シケてるわまじで。
工作で使うから取っとくけど。
ナイトトレントを素材として確認するには、もしかして樵とか木材加工職を生産スキルツリーに入れないといけないのだろうか。
流石にそこまでする時間はない。
ドロップでもそれなりに資材はゲットできるみたいだし。
「他のモンスターはいないのか探して来てくれ」
「わんわん!」
駄犬が森の中を掛けて行き、吠える。
見つけたみたいだ。
【オーク】Lv9
森の深い場所で生態系を築く。
森の番人だと呼ばれる地域もある。
「ふが? ふごご!」
こっちを見た駄犬を鬱陶しそうに手で払っていたオークは、俺を見るとすぐに襲って来た。
なるほど、人は襲う訳ね。
レベルも良い感じに高いし、楽しめそうだ。
オークの獲物は槍。
リーチは広く先手は取りやすい、森の中での取り回しはどうかと思うが、強い武器だと思う。
駆け込んでくるオークの動きは森の地形に惑わされることは無い。
太った巨体の最高到達速度はかなりのパワーを持ってそうだ。
「ッ!」
先手は譲らないけど。
レイピアを投げつける。
当然の如く槍先で捌かれ弾かれるが、俺には関係無い。
「アポート!」
手元に戻したレイピアを構える。
槍を見て閃いた。
投げ槍とか工作してみるのはどうかな。
銛なら漁師スキルで補正効くだろうし。
突き出された槍を半身になって躱す。
そのまま覆い被さるようにのしかかってくるオークの腕を取り投げる。
当然受け身が取りやすいように投げるつもりはない。
顔面から落ちたオークは首の骨が折れて痙攣しだす。
ラッキーだが呆気なかった、やってしまった。
「たぶんまずいぞ」
「がぶがぶ!」
オークの頭に食らい付くローヴォに離れるように言うと、巨体は光の粒子になって消えて行った。
ドロップは槍と魔石と肉だった。
【オークの槍】
角材と石で作られた槍。
腕力がある程度無いと使い辛い。
【魔石(小)】
色々な素材として利用できる。
価値に比例して大きさと色艶が変わってくる。
【オーク肉・臀部】
肉質は割と柔らかい。
オークの尻肉とか食えるの。
少し衝撃的なドロップだったが、見る感じ豚肉の様な感じだった。
人型モンスターなので、割りかし抵抗あるかと思ったが、ドロップした肉はスーパーで売ってるのとたいして変わらなかったので良しとする。
解体できる生産プレイヤーっているのかな。
だったらどうなるの。
……想像はしないでおく。
「よし、もっとオークを見つけるんだ」
「わんわん!」
とにかく今日の獲物は決まった。
探索そっちのけでオークを狩ることにするよ。
出来れば一体ずつが望ましいのだが、駄犬は二体つれて来たのだった。
「ふごご!」
「ふごー!」
「きゃんきゃん!」
ガチで逃げてらっしゃる。
まだ幼体だから仕方ないな。
気をそらしているうちに狩りましょう。
二体いるから流石に武器は使う。
「ブースト」
森に入る時に掛けておいたブーストが切れかけていたので掛けなおす。
そうしないとまともに大剣扱えないし。
隠しステータスが少しでも育ってくれると嬉しいです。
「アポート! スラッシュ!」
木の陰に隠れて、駄犬が連れて来たオークの一帯を両断する。
上手い具合いに走り込んで来たオークの身体を上下まっ二つにすることが出来た。
成果は上々、次は残った一体をどうするかだ。
「止めは任せたぞ!」
「ワォン!」
意気込むように吠えるローヴォは、上半身だけで辛うじて息をしていたオークの後ろ首に牙を立てた。
えげつない、ライオンが水牛とか狩る時の奴だ。
腰に噛み付いて脊椎を潰して、動けなくなった下腹部から食い殺す野生。
じゃ、お揃いでそれ狙ってみよう。
「アポート! スラッシュ!」
槍を持ってつっこんでくる手合い。
大振りの大剣振り下ろしなんて当たるはずが無い。
オークは槍を引いて右に飛ぶ。
左手で飛んだ先に大剣を転位させる。
勢い待ったオークは剣の腹に思いっきりぶつかって怯む。
流石にこれだけで後ろに回り込むのは無理なので、足を掛けて転ばせる。
転ぶ瞬間槍が飛んで来て鼻先をかすめた。
それだけでHPが二割消えた。
オークは仰向けには倒れない、起き上がる動作の為にうつぶせに身体を翻すが……。
流石に敵に後頭部を向けちゃだめでしょ。
「スティング!」
狙いは?
腰だ。
脊椎を断裂させる。
思った通りうつ伏せで崩れ落ちた。
うめき声を上げるオークの首筋に手をかける。
筋肉の塊でかなり硬いが、何とか圧し折ることに成功。
楽しかったです、ありがとうございました。
光となって消えて行くオーク。
同時に、首に噛み付いていたローヴォの方のオークもやっと死んだみたいだった。
ドロップは槍一つと尻肉二つ。
魔石は無かった。
ローヴォのレベルが2上がっていた。
やるじゃん。
◇テイムモンスター
テイムネーム:ローヴォ
【リトルグレイウルフ】灰色狼(幼体):Lv4
人なつこい犬種の狼の子供。
魔物にしては珍しく、人と同じ物を食べ、同じ様な生活を営む。
群れというより社会に溶け込む能力を持っている。狩りが得意。
[噛みつき]
[引っ掻き]
[追跡]
[誘導]
[夜目]
[嗅覚]
※躾けるには【調教】スキルが必要。
これまでの行動がレベルアップと共に自分のスキルになってるみたいだった。
着々と成長している子犬だ。
ただのサンドイッチモンスターじゃない。
ついでにローヴォに警戒だけさせて薬草の採取にしけこむ。
手慣れた物だ。
しかし、南の森に居るプレイヤー本当に見かけない。
そんなに第二の町が良いのかな。
そして思い出す。
”次の町に行く前にまた来い”
完全に忘れていた。
というかPKに襲われたり、色々武器作ってもらったり、犬育てて釣したり。
エンジョイし過ぎてすっかり頭から抜け落ちてた。
いや第二の町に行く気はあったが、普通に竹をもとめて行くつもりだったしな。
道場に顔も出してないし、紹介状書いてもらったのにだ。
でも明日はこの森の続きして、……そうだ投げ銛とか作って。
色々手広くやってしまう癖を何とかしないとな。
そうと決まったら薬草をある程度採取したら、そのまま朝から北の森のエリアボスにアタックを掛けようと思う。
「帰るぞ! 案内よろしく」
「わんわん」
ローヴォが本当に役に立つ。
森で迷うことは無くなった。
ログインした。
じゃ、さっそく朝からインしてるレイラの元へ行く。
いなかったらサイゼでも良いが丁度インしていた。
「薬草? 買うわよ、最近値上がりしだしてるわね。お陰で稼がせてもらってるわ」
「オーク肉、……南の森の情報ってまだあまりでていませんね」
持ってきたオーク肉を見つめながらサイゼが呟いていた。
焼き加減はウェルダンで、流石に豚肉は火を通さないと。
味付けは塩こしょうで十分だ。
「朝からステーキって……」
「わんわん!」
そうぼやくレイラにローヴォが歯向かうように吠えていた。
駄犬も朝からガッツリ系に育っているのだ。
「そう言えば水運が整えば、第二の町で苦戦している攻略組にも支援できてかなり助かるって話しよ」
「まぁ掲示板でのやり取りですからね、信憑性は薄いですが」
「どういうことですか?」
「第二の町では一部のプレイヤー陣が色々買いあさったり、NPCの不利益になる様なことばっかりしてたのよ」
「攻略組でも色々居ますけど、自己利益しか考えない人達も一杯ですから」
「なるほど」
詰まる所、攻略組だからポーションとか食材とか。
町の鍛冶屋に色々とマナーが悪いことをやらかして、バッシングを受けているということか。
繋がりを大切にしない報いみたいなもんだな。
「正直都合良く利用されるのは良く思えないです」
「私もよ」
元々有志で集まって細々と復興作業していた生産プレイヤー達だ。
色々な目処が立ちそうだって脚光を浴びた途端もてはやし立てられるってどうなのってこと。
「掲示板も見たくなくなるわよね」
「ローレントさんの気持ちがわかりました!」
そう愚痴る二人。
だったら一杯人を呼ばなきゃ良かったと思う。
生産スキル取ればポイント的にも優遇されるのに、掲示板では余り言及されていない。
そんなに最前線が大事なのだろうか。
補給ラインが出来てないと用意に詰むぞ。
「おす」
後ろから声がかかる。
誰かと思えばトモガラだった。
「噂をすれば攻略組か」
「失礼な。まぁ居心地悪いわ、俺は攻略組だって息巻いてる連中が多過ぎる」
そう言いながらトモガラはサイゼの屋台の前に置かれているテーブルに座って、勝手に俺のステーキを食べ始めた。
「注文しろ」
「ケチだな。お姉さん、これと同じの下さい」
「すいません、この材料そこのお客さんの持ち込みによる物でして……」
「ええー」
残念がるトモガラ。
仕方が無いからもう一つ残っているオーク肉をわけてやることにする。
「サイゼさん、もう一つあるので焼いちゃってください」
「あ、いいんですか。なら少々お待ちください」
「トンテキが食えるなんてラッキー」
トモガラはフォークとナイフを両手にそれぞれもってうきうきしていた。
その様子を見たレイラが一言。
「……誰?」
「友人のトモガラって奴です」
「うす」
そう挨拶するトモガラに、何故かサイゼが反応した。
「ええ!? 豪腕のトモガラさんですか!?」
「ああ、真っ先に最初のエリアボス倒した人!」
遅れてレイラも反応。
一体どうなってる。
「そんなかっこ悪い名前で呼ばれてんの。どうせなら二大剣流とかがいいな」
「それもそこまで格好良くないけど」
サイゼが口を挟む。
攻略組の掲示板でも専用の物が立つ程の逝かれっぷりだったらしい。
「スキルスロット二つとも大剣にする人なんてまずトモガラさんだけですよ! それにそれに! その二つの大剣を軽々振り回すって、双剣持ちが突風の様な攻撃力だとすれば、トモガラさんはハリケーン並みです!」
いまいちわからん。
そしてサイゼは焼いてるステーキ放ったらかしでペンを持ってやってくる。
「サインください!」
そう、エプロンを前に差し出した。
“輩”と書かれた和風のエプロンが仕上がったのだが、これはトモガラのサインらしい。
なんで考えてあるんだよ。
「ステーキは?」
「あ、すいません! 今出します!」
出てきたステーキに舌鼓を打つトモガラを見ながら、レイラが呟いた。
「で、なんで貴方みたいな攻略組の最前線がわざわざ第一の町に戻って来たわけ?」
「んー、なんか第二の町がぶっちゃけプレイヤー増え過ぎてパンクしかけてんだよ。変な奴らも多くなって来たし、第三の町、……というか次に目指す場所もめどが立たないから戻って来た。こいつの様子も見るついでにな」
そう言って俺に目配せするトモガラ。
「攻略が難航してるのはやっぱり本当だったのね」
「難航というより目的が見えないくせに一杯増え過ぎ、自活できないプレイヤー多過ぎて消耗品はパンク、俺達プレイヤー間以外ではどこも何も売ってくれないと来た」
「うわぁ〜、最悪ね。こっちでもポーション類がカツカツなのに、向こうでは更に状況が悪いのね。でも、この町でも受け入れる余裕は無いわよ?」
「それだよな、生産職が少ないのが目立って来てる。囲い込みが起こるかもしれないから気をつけろ。実際に次の町に向かった生産職は色々嫌がらせとか受けて即行こっちに戻って来てるぜ」
サイゼとレイラはトモガラの言葉に少し身を震わせていた。
そんなに怖いことなのか?
「お前はまたわかってない風だよな」
「まあな」
頭を小突かれた。
一体なんだと言うんだ。
「ローレント、怒りの矛先が貴方にいく可能性もあるのよ? 掲示板で一番最初にやらかしたって思われてるんだから」
「そんなにですか?」
レイラの口ぶりに頭をひねっているとトモガラが言う。
「テイム系の情報だっけ? あれもぶっちゃけ少な過ぎるな。調教のスキルと調教師を尋ねても第二の町じゃもはや攻略組も検証組も相手にされない。詰んでるんだよ」
「でも自業自得だ」
「そうだが、怒りの矛先なんて簡単に他人に向くもんだ」
厄介な話しだった。
掲示板なんて今は復興板しか見ないからな。
「そうだ、黒帯とか、スキル最適化の情報は掲示板にながしてるか?」
「……俺が掲示板に書き込むとでも?」
そうだった、忘れていた。
こいつは情報収集はするけど、自分のことは一切書き込まない自己中だった。
「黒帯? スキル最適化?」
レイラが首を捻る。
まぁレイラなら良いだろうと黒帯の装備説明欄と【ブースト】のスキル欄を見せてあげた。
絶句していた。
「ねぇ、なんで黙ってるわけ?」
「みんな知ってると思って」
「ゲーム内で修行なんてするわけないでしょ。レベルが上がれば強くなるんだし」
そりゃそうだ。と、トモガラは爆笑していた。
でも話しくらい聞くだろう。
「セオリーが崩れます! 後、この町にまた人がなだれ込むんじゃないですか?」
「そうね、サイゼの言う通り。これはしばらく隠しておきましょう?」
しばらくは誰にも他言しないとのことで決定した。
ぶっちゃけ公園で話題にしてるあたり、その辺のセキュリティが穴だらけっぽいんだが。
へんな輩が来たらブロックすれば良いだけか。
「そういやトモガラ」
「なんだ?」
「生産職技能取った方が良いぞ」
「ああ、掲示板で埋もれてた奴か、面倒だったから後回しにして道場通ってたけど、そっちはどうなの?」
「生産ポイントとか別枠で貰える物で賄えるし、これを見ろ」
生産スキルツリーの【漁師】を見せる。
「おお、こういう風になるんだな! 生産職ってスキルツリー見せたがらないから」
「まぁ当たり前よね。技術漏洩になるし」
レイラがつっこんでいた。
「やること無いし、樵夫にでもなろうかな」
「なら南の森をお勧めする」
「ふむ、修行がてら切り開いて来てやるよ」
そう言ってトモガラは斧を作る為に鍛冶屋に向かって行った。
向こうはガストンの居る鍛冶屋の方向。
彼もお世話になっているんだろうか。
「嵐みたいな人でした。素敵ですぅ」
「ちょっとサイゼ〜、帰って来なさい〜?」
こっちもこっちでトリップしてる人が居た。
いやはや、トモガラにファンが居るなんて許せない。
「でも、人の生活圏ってすごいバランスで成り立ってるのね。生産プレイヤーが足りないだけで、攻略プレイヤーが多いだけですぐにパンクするんだもの、引退する人が一杯居そうだけど、新タイトルだしこれからって感じよね」
「なら攻略域を広げる為に頑張りましょう!」
お互いにガッツポーズを取るレイラとサイゼ。
微笑ましかった。
ーーー
※主人公のスキルツリーは成長無し。
◇テイムモンスター
テイムネーム:ローヴォ
【リトルグレイウルフ】灰色狼(幼体):Lv4
人なつこい犬種の狼の子供。
魔物にしては珍しく、人と同じ物を食べ、同じ様な生活を営む。
群れというより社会に溶け込む能力を持っている。狩りが得意。
[噛みつき]
[引っ掻き]
[追跡]
[誘導]
[夜目]
[嗅覚]
※躾けるには【調教】スキルが必要。